キヤノン、スーパー35mmCMOSビデオカメラ「EOS C300」

-実売150万円。映像制作市場に本格参入。4Kモデルも


EOS C300

 キヤノンは、ハリウッドなどの映像制作市場に本格参入。スーパー35mmCMOSセンサーを搭載したデジタルシネマ対応カメラ「EOS C300」や「EFシネマレンズ」を2012年1月下旬より順次発売し、「CINEMA EOS SYSTEM」として展開する。

 デジタル一眼レフのEOSと同様のEFレンズが装着可能な「EOS C300」を2012年1月下旬に、PLマウントを採用した「EOS C300PL」を2012年3月下旬に発売予定で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は各150万円前後。

 動画撮影用の「EFシネマレンズ」も5種7モデルを'12年1月下旬より順次発売。「CN-E14.5-60㎜T2.6L S/SP」、「CN-E30-300mm 2.95-3.7L S/SP」などを順次発売する。価格は59~410万円。


【レンズ】

製品名マウント発売日価格
CN-E14.5-60mm T2.6L SEF'12年1月下旬390万円
CN-E14.5-60mm T2.6L SPPL
CN-E30-300mm T2.95-3.7 L SEF'12年3月下旬410万円
CN-E30-300mm T2.95-3.7 L SPPL
CN-E24mm T1.5 L FEF'12年7月下旬59万円
CN-E50mm T1.3 L F
CN-E85mm T1.3 L F'12年8月下旬

 また、4K動画記録対応のデジタル一眼レフカメラの開発も表明。価格や発売日、詳細な仕様などは未定だが、「来年発売予定(キヤノン イメージングコミュニケーション事業本部 枝窪弘雄 電子映像事業部長)」という。35mmフルサイズCMOSセンサーならでは超高画質をめざし、4K(24p Motion JPEG)記録に対応する。

EOS C300を披露するキヤノンマーケティングジャパン川崎 正己社長CINEMA EOS SYSTEM4Kカメラも開発中

■ EOS C300/C300PL

EOS C300

 レンズ交換式のフルHDビデオカメラ。EFマウント用のEOS C300と、PLマウント用のEOS C300 PLの2モデルをラインナップする。あわせてビデオ撮影用の「EFシネマレンズ」も7製品発売する。

 撮像素子は、スーパー35mm相当(24.6×13.8mm)の829万画素CMOSを搭載。1,920×1,080ドットのフルHD撮影が可能で水平走査線数は1,000本以上。通常の業務用ビデオカメラよりも1画素あたりの面積が大きいため、高感度、低ノイズ撮影が可能。また、CMOSの信号読み出し速度を高速化することで、動体歪み(ローリングシャッター歪み)を抑えている。映像処理エンジンは「DIGIC DV III」で、高精度なガンマ処理や滑らかな階調表現を実現したという。

スーパー35mm相当のSMOSを搭載EFマウント

 EFシネマレンズでは、レンズごとの周辺光量やカメラ側の絞り制御、レンズ名や絞り値、シャッター速度などのメタデータ記録など、キヤノン製レンズとの最適化を図った機能を搭載する(各機能の対応はレンズにより異なる)。なお、EOS C300などCINEMA EOS SYSTEMでは、AF対応のものはなく、マニュアルフォーカスでの利用を前提としている。

左側面グリップの取り外しや、モニターの位置調整なども可能
NDフィルターを内蔵

 記録フォーマットはMPEG-2 Long GOP(MPEG2 422@HL準拠)で、ファイルフォーマットはMXF。MXF対応の編集システムで取り込んで編集可能となる。4:2:2カラーサンプリングにより、クロマエッジのジャギーを抑制する。解像度は1,920×1,080/1,280×720ドット、ビットレートは最高50Mbps(CBR)で、フレームレートは59.41i、50.00i、29.97p、25.00p、24p、23.98p。

 35Mbps VBR(4:2:0)のMP@HLや、25Mbps CBT(4:2:0)のMP@H14にも対応。音声記録方式はリニアPCM。コントラストやシャープネスを抑えたフラットな画質とし、撮影後の編集や加工作業の自由度の高い映像を記録する「Canon Log ガンマ」を搭載。60倍速記録のファーストモーションや、1/2.5倍記録のスローモーション機能を装備する。また、3種類の濃度の内蔵NDフィルターを装備し、瞬時にフィルター切り替えが行なえる。207万画素の静止画撮影にも対応する。

 記録メディアはCFでデュアルスロット構成。2枚のCFへの同時記録にも対応する。撮影した映像はGrassvalleyやAvidなどのシステムで編集可能という。


背面EFマウント4型モニターを装備

 小型なボディサイズも特徴。外形寸法は133×171(C300)/177(C300PL)×179cm(幅×奥行×高さ)、本体のみ重量は約1,430g(C300)/1,630g(C300PL)。グリップ、モニターユニット装着時は約2,520g(C300)/2,720g(C300PL)。

 地面近くや壁際などの大型シネマカメラで撮りづらいアングルでの撮影などに対応。ハンドルやグリップ、サムレスト、モニターユニットは撮影現場に合わせて装着方法を変更可能となっている。

コア部上部左側面
右側面背面底面

 また、別売の無線LANユニットを接続することで、EOS C300をサーバーとして動作させ、PCやタブレット、スマートフォンのWebブラウザから操作することも可能。画像のプレビュー(秒間1コマ)で画角を確認できるほか、撮影の開始/停止や、絞りの変更(レンズによる)、NDフィルタのON/OFFなどの操作がWebベースで可能となる。

タブレットからC300をコントロールスマホからも制御可能
C300の構成パーツ

 液晶モニターは4型123万画素で着脱式モニターユニットとなっている。ビューファインダは0.52型/155万5,000ドット。視度や角度調整が可能となっている。入力端子はGENLOCK、TIMECODE、マイク、リモート、XLR(2系統)。出力端子はHDMI、ヘッドフォン、HD/SD SDI、SYNC OUT、TIME CODE。電源はDC 7.4V(バッテリパックBP-955)とDC 8.4V(パワーアダプタCA-940)。消費電力はC300が約11.7W、C300 PLが未定。



■ EFシネマレンズ

 トップエンドズームレンズ4機種と、単焦点3機種の合計7機種をラインナップ。EFマウントのズームレンズはスーパー35mm相当のほかAPS-Cに対応。単焦点レンズはスーパー35mm/APS-Cのほか、35mmフルサイズやAPS-Hに対応できる。

CN-E14.5-60㎜ T2.6LCN-E30-300㎜ T2.95-3.7利用イメージ

 いずれも、4K(4,096×2,160ドット)に対応した高い光学性能を備え、11枚の絞り羽根により、絞り込んだ時でも開口形状が円形に近く、美しいボケ味を実現できるという。

 フルマニュアル操作のためのギア付きリングを備えたほか、ズームやフォーカスの回転角を大きく設定したことで、微妙な構図設定やピント合わせを容易に行なえるとする。

単焦点レンズ

 ズームレンズの「CN-E14.5-60㎜ T2.6L S/SP」と「CN-E30-300㎜ T2.95-3.7 L S/SP」は、映画撮影での使用範囲が高い焦点距離範囲をカバー。フォーカスリングの回転角を約300度と大きくとったことにより、微妙なピント合わせも容易に行なえるとする。ズームリングの回転角は160度。

 3本の単焦点レンズも300度のフォーカスリングを採用。フォーカスと絞りの指標をレンズ外装の傾斜面に表示することでカメラ後方からの視認性を向上している。映画製作現場で利用頻度の高い24mm、50mm、85mmを先行して市場に投入。今後も映像制作者にとって、使い勝手の良い焦点距離のラインナップを拡充するという。


CN-E24mm T1.5 L FCN-E50㎜ T1.3 L FCN-E85㎜ T1.3 L F

 なお、既存のEFレンズより高価となっている点については、「EFシネマレンズは、回転角を大きくするなど、メカニカルな機構を映像用にかなり変更している。このあたりにコストがかかっている」とした。

製品名CN-E14.5-60㎜ T2.6LCN-E30-300㎜ T2.95-3.7
マウント
(型番末尾)
EF
(S)
PL
(SP)
EF
(S)
PL
(SP)
焦点距離14.5-60mm30-300mm
ズーム比4.1倍10倍
絞り羽根数11枚
最至近撮影距離0.7m1.5m
前玉径直径136mm
外形寸法
(幅×高さ×全長)
136×163.1×326mm136×163.1×318mm144×167.1×350.1mm144×167.1×342.1mm
重量約4.5kg約5.8kg
製品名CN-E24mm T1.5 L FCN-E50mm T1.3 L FCN-E85mm T1.3 L F
マウントEF
焦点距離24mm50mm85mm
絞り羽根数11枚
最至近撮影距離0.3m0.45m0.95m
前玉径直径114mm
外形寸法
(幅×高さ×全長)
約118.4×118.4×101.5mm
重量約1.2kg約1.1kg約1.3kg

■ 4Kデジタル一眼レフカメラも'12年投入

開発中の4KカメラとCN-E24mm T1.5 L F

 2012年に発売予定のデジタル一眼レフで、動画対応を強化した点が特徴。「EOS-1D X」をベースモデルとして開発しており、35mmのフルサイズセンサーを搭載し、4Kでの映像記録が可能となる。

 記録フォーマットは、Motion JPEGで「次世代EOSムービーならではの超高画質と豊かな映像表現の実現を目指す」としている。なお、記録形式がMotion JPEGとなった理由は「EOS-1D Xのシステムを継承して開発した。そのため、Motion JPEGであれば4K撮影が実現でた」(同社)としている。


4K動画撮影対応のデジタル一眼レフカメラ

 また、「4Kでここまでコンパクトになると、新たな用途が生まれてくると考えている。一眼レフタイプのカメラでの動画も強化していく。カメラとしてのすみわけよりも、どのような技術を提供できるかという趣旨。(形はデジタル一眼レフだが)動画用カメラとして位置付けていく」とする。

 デジタルシネマ向けの4Kカメラなどを展開する「RED」との比較においては、「立場が違うかなと考えている。我々はレンズもCMOSも持っている。CMOSからの性能を引き出す、レンズの性能を引き出す点で優位性はあると思っている」とした。


■ 「ハリウッドに仲間入り」。'15年シェア40%を目指す

キヤノン御手洗会長

 EOS C300の発表会は、ハリウッドで3日に開催し、キヤノンの御手洗冨士夫 代表取締役会長兼CEOが登壇。4日の日本における会見も、御手洗会長会見の模様の録画映像からスタートした。

 御手洗会長は、「キヤノンのCEOとして、映画のハリウッドにいる理由としてはただ一つ。ハリウッドの皆さんの仲間になりたいと思ってきました。もちろん、いい材料もなく仲間に入れるとは思っていません。そこで、特別な製品を用意しました」と述べ、EOS C300を紹介。「映画を通じて、ストーリーを語るうえで必ず重要な製品になる。キヤノンは75年に及ぶカメラ開発、製造において、様々なノウハウや製造技術を学んできた。そのモノづくりの製品を推し進めて開発した」と説明。

 また、「映像業界の皆さんと、密にコミュニケーションしながら、新しい映像表現を目指したい。そのためにも、さらに素晴らしいレンズ、カメラの開発に協力して欲しい」とし言及。ハリウッドにプロフェッショナルテクノロジーサポートセンターを開設したこととともに、ハリウッド映画/映像産業と協力していくことを強調。CINEMA EOS SYSTEMへのサポートと利用を訴えた。

キヤノンマーケティングジャパン川崎社長

 キヤノンマーケティングジャパンの川崎 正己代表取締役社長は、2015年売上高8,500億円という中期計画を紹介するとともに、同計画で謳われた新規事業創出の具体例として「CINEMA EOS SYSTEM」を紹介。B to B分野での売上拡大を目指すとする。

 国内の映像制作市場では、メディアの多様化や高画質化が進む一方で、制作コストのダウンサイジングも求められている。デジタル化によるコスト削減が急務だが、こうした状況下ですでにCM撮影は8割がデジタル化されており、川崎社長も「まずはCMがメインターゲット」とする。また、映画も約半数がデジタル撮影となっており、編集はほぼデジタル化が完了していることから、今後のデジタル化が見込まれ、映画市場もターゲットとして積極的に展開するという。2015年度の目標は、デジタルシネマ市場でシェア40%、売上高100億円。

イメージコミュニケーション分野のB to Bを強化国内映像制作市場の現状CM制作分野を主要ターゲットに
業務映像領域を広くカバー'15年の売上高100億円を目指すキヤノンMJ川崎社長(左)とキヤノン イメージングコミュニケーション事業本部 枝窪 電子映像事業部長(右)

 EOS C300で撮影したムービーも公開。さらに、ハリウッド会場で登壇したマーティン・スコセッシ監督によるスピーチなども放映した。

 なお、4Kのコンシューマ向け展開については「現時点では、4Kの出力環境が整っていない。研究はしているが、コンシューマ向けはもう少し時間がかかると思う(キヤノン イメージングコミュニケーション事業本部 枝窪 電子映像事業部長)」とした。

C300で撮影した作品を披露マーティン・スコセッシ監督も祝辞

(2011年 11月 4日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]