ロンドン五輪のNHKスーパーハイビジョン上映を体験した

-“作りたて”の超高精細映像と22.2ch音声。技術展示も


NHK渋谷ふれあいホールで取材会が行なわれた

 ロンドンオリンピックが日本時間の28日に開幕した。これまでお伝えした通り、NHKはスーパーハイビジョン(SHV)映像と22.2chの音響で、ロンドンオリンピックのパブリックビューイングを開幕期間である約2週間に渡って実施。国内では東京・渋谷のNHK「ふれあいホール」と「スタジオパーク」、秋葉原の「ベルサール秋葉原」、福島の「NHK福島放送局」で行なう。入場、観覧は無料。

 初日の28日、NHKは渋谷のふれあいホールとベルサール秋葉原でプレス向けの取材会を開催。同日に行なわれた開会式の模様などが上映された。一般公開では、各会場で競技などの上映だけでなく、オリンピックに関連したイベントも実施。NHKスタジオパークでは子供も楽しめる体験コーナーなどを用意する。ベルサール秋葉原では、Eテレ「すイエんサー」の出演者によるスペシャルステージなども開催。


渋谷会場のふれあいホールベルサール秋葉原の会場

 今回のパブリックビューイングでは、開会式のほか、競泳、バスケットボール、陸上競技、自転車競技、シンクロ団体の上映を予定。7月28日は開会式の一部ハイライトを上映したほか、7月29日から8月12日まで、開会式や各競技を1時間単位で繰り返し上映する。30日には、会場からのライブストリーミング上映も実施予定となっている(競技は水泳の予選など)。なお、予約席の申し込み受付は既に終了しているが、観覧自体は予約なしで行なえる。上映種目などの詳細は、NHKの特設サイトで案内している。

【上映スケジュール】
7/29(日)
~31(火)
8/1(水)
~3 (金)
4(土)~
6(月)
7(火)~
8(水)
9(木)~
11(土)
12(日)
SHV紹介SHV紹介SHV紹介SHV紹介SHV紹介開会式
開会式開会式開会式開会式開会式シンクロ団体
競泳バスケット
ボール
陸上競技自転車競技自転車競技
バスケット
ボール
陸上競技陸上競技
競泳競泳競泳競泳

 

右が通常のハイビジョン映像、左がスーパーハイビジョン映像(いずれも拡大したもの)

 スーパーハイビジョンは、現在のハイビジョンに比べ16倍高精細(3,300万画素)とする映像で、NHKは“2次元テレビで究極”としている。これに22.2chのマルチチャンネル音声を組み合わせることで、臨場感のある上映が可能になる。家庭への導入については、2020年頃の試験放送開始を目指しているが、NHKによれば「2020年は先過ぎるとの声もあり、研究開発を加速している」とのこと。

 これまで、'05年の愛知万博(愛・地球博)や米国イベントのNAB、オランダのIBCなど、国内外で公開上映を行なってきたが、オリンピック映像のパブリックビューイングは今回が初めて。今回、海外でも英BBCが3カ所(ロンドン、グラスゴー、ブラッドフォード)で、米NBCがワシントンDC(招待者のみ)で上映を行なう。これまで、実験的に2会場で上映したことはあったが、ここまで多くの会場で上映することも初めてだという。


スーパーハイビジョンの特徴これまで開発されたSHV機材SHVの国際標準化に向けた取り組み

 配信用の映像はNHKとBBCが制作。ロンドンのオリンピック会場で、日本から輸送されたSHV中継車と、22.2ch音声用中継車を用いて4つの競技会場を移動しながら制作。映像は非圧縮光伝送、またはメモリーカードで製作拠点のBBCのTC0スタジオへ集められる。そこで編集が行なわれる。映像は符号化装置で圧縮後、IP信号に変換され、英国内をIP経由で各上映会場に配信。なお、上映会場のうち、ロンドンのIBC国際放送センターのみ非圧縮で伝送される。そのほか、国際IP回線経由で米国ワシントンに送られた後、日本へ伝送。東京に届いた信号は、NHK放送技術研究所から国内3会場(渋谷、秋葉原、福島)へと伝送される。

 各会場の上映設備は、渋谷のNHKふれあいホールが520型プロジェクタ、スタジオパークは360型(36面マルチ)液晶ディスプレイ、ベルサール秋葉原は300型プロジェクタと85型液晶、NHK福島のスタジオでは350型プロジェクタと85型の液晶を使用する。国内の上映は、時差の関係もあり、7月30日の競泳のみライブ中継となる。ライブ中継時は、会場からの遅延が10秒ほどだという。

 海外の会場は、ロンドンのIBC国際放送センターにおいて、世界から集まった放送関係者向けに、145型のPDPで上映。そのほかの会場ではプロジェクタを用いて300型(BBCのシアター)、250型(ブラッドフォード)、350型(グラスゴー)で上映される。ワシントンでは招待者向けに85型の液晶を使用する。

パブリックビューイング映像は、ロンドンで制作後、米国経由で日本に伝送される。その概要国内の会場映像制作の様子
ふれあいホールのプロジェクタ前後左右だけでなく、真上の天井にもスピーカーがいくつも備えられている


上映されたロンドン市内の映像

 13時からの上映に先立ち、記者向けの上映を渋谷のふれあいホールで観覧した。最初に映されたのは、今回のイベント向けに用意されたロンドン市内の映像。テムズ川やタワーブリッジの様子が上映された。建築物の細部の造りや、水面の細かい波紋まで、超大型画面ながら違和感なく再現されているのが分かる。分厚い雲の陰影やその隙間に見える青空など、色の描き分けも丁寧で、NHKが「SHVは単に解像度が高いだけではない」とするのもうなずける。

 続いて、映像は同日朝に届いたばかりというオリンピックの開会式に。暗闇に近い会場にポツ、ポツと火が灯り、やがてそれが大きな聖火台へと形を変えていく様などが上映された。520型のスクリーンでは大勢の観客が単なる“点”ではなく“人の形”として認識され、より臨場感が高まる。もちろん、実際に会場へ行くことができれば興奮はケタ違いなのだろうが、次々に打ち上げられる花火をズームでとらえた迫力のシーンと、俯瞰でとらえた幻想的な画を交互に眺めていると、こうした上映イベントもオリンピックの一つの楽しみ方だと思える。

 映像だけでなく、音楽も臨場感を高めてくれる大事な要素。開会式で流れた荘厳な音楽と、次々に鳴る花火が22.2chで周りを包み込むように再現されると、会場の観衆の一員になった気分を味わえた。また、選手入場時の歓声も、ところどころから湧き上がり、それが集まって空気のうねりのようになっていく迫力が十分に伝わった。

撮影時は変わりやすい天候に悩まされていたとのことだが、複雑な雲の様子も映像でしっかり再現されていたオリンピック会場の模様。掲載している写真では伝えきれないため、可能であれば会場で実際に体験することをおすすめしたい


■ 秋葉原では「ハイブリッドキャスト」デモや関連イベントも

秋葉原会場のハイブリッドキャストデモコーナー

 秋葉原会場は、上映だけでなく、技術展示や関連イベントも見どころ。放送と通信を連携させる「ハイブリッドキャスト」の活用例として、手元のタブレットを使って競技をわかりやすく楽しんだり、応援が行なえるというデモを行なう。

 例えば、柔道では公式データと連動して、現在どちらの選手が優位かが一目でわかるバーを表示させることなどを想定。競泳では、自分が選んだ選手だけの名前やデータを表示するといった、これまでのデータ放送ではカバーしきれなかったカスタマイズ性を持たせられるのが特徴。トライアスロンでは、選手が泳ぐハイド・パークの池のコースや状態、各選手の記録などを映像に合わせて表示するといったことを予定。応援の一例としては、タブレット画面に表示されたNHKのキャラクター「ななみちゃん」をタップすると、オリンピックバージョンの応援音声が聴けるとのこと。

 取材時点の28日は競技の映像が届いていないため、会場実際に試すことはできなかったが、期間中は、会場から送られる映像を活かして、様々な取り組みを紹介していくという。28日夜に行なわれた柔道女子48kg級については翌29日に映像が届き、30日以降にはデモ用として使えるように準備を進めるという。


競技が行なわれる前なので、アーカイブ映像を使ったデモ。映像に選手名を重ねて表示するほか、タブレットには選手の位置が一覧できる図を表示テレビ番組のクイズにタブレットから応えて、家族で点数を競い合えるというデモ秋葉原会場の85型液晶ディスプレイによる上映

 その他にも、秋葉原という場所にちなんだステージイベントを開催している。8月4日(土)、11日(土)には、NHK Eテレで放送中の「すイエんサー」から、“すイエんサーガールズ”が登場(7月28日にも開催済み)。各日2回公演され、SHVの紹介や歌、ゲームなどを行なう。1回目の公演は12時30分~12時55分、2回目は14時30分~14時55分。

 アニメ「銀河へキックオフ」出演の声優らによるトークショーも秋葉原会場で8月12日に開催(7月29日にも開催済み)。12時30分~12時55分と、14時30分~14時55分の2回公演で、出演者は太田翔役の小林ゆう、高遠エリカ役の中津真莉子、降矢竜持役の立花慎之介。

秋葉原での300型プロジェクタによる一般上映の模様すイエんサーガールズによるステージイベントも行なわれている
アニメ「銀河へキックオフ」の声優によるサインや台本、絵コンテなどの資料も展示されていたタブレットでNHKオンデマンドを体験できるコーナーも


■ SHV実用化に向けた大きなチャンス

NHK技研の藤沢秀一所長

 NHK放送技術研究所の藤沢秀一所長は、「これまで、放送システムに導入されてきた新しい技術である衛星やハイビジョン、デジタル放送などは、オリンピックのような大型イベントで、実用化に向けた技術開発が進んだ。このスーパーハイビジョンにとってもロンドンオリンピックは重要なチャンス。スーパーハイビジョンのできるだけ早い実用化をめざし、取り組みを進めたい」とした。

 また、「時差の関係で生放送は難しいものの、前日とはいえ、その時その時に制作したスポーツコンテンツを提供するということは、これまで経験していない初めてのパブリックビューイングになる。将来の放送を目指す上で、重要なことだと考える」と述べた。


ふれあいホールには、これまでのオリンピック放送で使われた機材も展示。写真は、東京オリンピックで、オリンピック初のカラー放送を実現した2IO分離輝度カラーカメラオリンピック初のハイビジョン収録は'84年のロス大会。オリンピックで使われた機材などがパネルで説明されている各競技種目の見どころ紹介も
ふれあいホールで配られていたペーパークラフトのメガホン。振るとカタカタと鳴って応援できる選手への応援メッセージを書いてボードに貼ることができる。子供向けの塗り絵コーナーも


(2012年 7月 30日)

[AV Watch編集部 中林暁]