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ソニー、ワイヤレス&モバイル対応した新HMD「HMZ-T3W」

Wireless HD搭載で約10万円。新LSI/光学系で画質向上

HMZ-T3W

 ソニーは、モバイル利用に対応した有機ELヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T3」シリーズを11月中旬に発売する。Wireless HDに対応したワイヤレスモデル「HMZ-T3W」と、有線接続の「HMZ-T3」の2モデルを用意し、価格はオープンプライス。店頭予想価格はHMZ-T3Wが10万円前後、HMZ-T3が8万円前後。

 2012年発売のHMZ-T2の後継モデルとなるヘッドマウントディスプレイ(HMD)で、0.7型/1,280×720ドット有機ELパネルを2枚採用。「750インチのスクリーンを20mの距離から視聴したような大画面が楽しめる」という基本性能を継承しながら、装着感の向上を図ったほか、専用LSIや新開発の光学系などで画質を向上した。

型番ワイヤレス
(Wireless HD)
イヤフォン店頭予想価格
HMZ-T3WMDR-XB90相当10万円前後
HMZ-T3-MDR-EX300相当8万円前後
HMD部とケーブル接続したバッテリーユニット、メインユニットから構成される

 もう一つの大きな変更点は、HMD部とメインユニットに加え、3時間動作可能なバッテリ内蔵のバッテリーユニットからなる3ユニット構成としたこと(HMDとレシーバーは有線接続)。レシーバーにはMHLやHDMIの入力を備えており、スマートフォンなどを直接接続する場合は、メインユニットを介さずに利用できる。

 さらに上位モデルのHMZ-T3Wでは、Wireless HDに対応し、メインユニットとHMDをワイヤレス接続可能することで家庭でケーブルの長さを気にせずに利用可能とした。また、HMD部のカラーが異なっており、HMZ-T3Wは高級感ある光沢仕上げに、HMZ-T3はマットなブラックになっている。

 なお、HMZ-T3をT3Wにアップグレードすることはできないので、Wireless HDが必要な場合は、あらかじめHMZ-T3Wを購入する必要がある。

HMZ-T3W、HMZ-T3
HMZ-T3WのHMD部
HMZ-T3のHMD部
HMZ-T3W
HMZ-T3
左からHMZ-T3W、HMZ-T3、'12年モデルHMZ-T2、'11年モデルHMZ-T1

モバイル対応を強化。HMZ-T3WはWireless HD対応

HMZ-T3

 HMZ-T3W/HMZ-T3は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)部とバッテリを備えたレシーバユニット、BDプレーヤーなどと接続するメインユニットから構成される。

 特徴はモバイル利用の強化。従来モデルでは、HMDとメインユニットをHDMI接続して利用する形となっていたが、新たにHMDと有線接続したバッテリーユニットを設け、バッテリーユニットにバッテリと映像処理エンジンを内蔵したことで、スマートフォンなどを直接HDMI/MHL接続できるようにした。

 これにより、据え置きのメインユニットを利用せずに、モバイル環境での利用が可能となった。例えば、タブレットに映画をダウンロードし、「HMDとバッテリーユニットを持って、出張先で映画を楽しむ」といったことが行なえる。

レシーバユニットとHMD部だけれ利用できる
iPhoneの出力をHDMI経由でレシーバユニットに入力
HMZ-T3WのHMD部

 HMDの装着性も向上。新ヘッドパッド形状により、圧力荷重を分散したほか、後ろ上部バンド位置のフレキシブル化や、フロントが重めの重量バランスを見直すことなどで、フィット感を高めた。また、新設計レンズによるスイートスポット拡大により、従来モデルより位置合わせを容易にした。本体重量も320gと従来モデルから10g軽量化している。さらに、ケーブルの柔化/細化や、ライトシールドの遮光性や取り外しを改善なども図っている。

 また、ワイヤレスモデルの「HMZ-T3W」では、60GHz帯を使った非圧縮映像伝送技術である「Wireless HD」に対応し、メインユニットに接続した映像をワイヤレスで伝送可能となった。これにより、メインユニットとバッテリーユニットの間をワイヤレス化できるため、家庭内などでより柔軟にHMDを活用できるとする。

 バッテリの連続利用時間は約7時間(HDMI)/約3時間(MHL)で、HMZ-T3のWireless HD利用時は約3時間。充電は付属のACアダプタを利用。充電時間は約5.5時間。HMDとレシーバユニットの間は1.2mのケーブルで接続している。

 HMD部の外形寸法は189×270×148mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約320g。バッテリーユニットの外形寸法は80×119×26mm(幅×奥行き×高さ)、重量は220g(HMZ-T3W)/160g(HMZ-T3)。

HMZ-T3Wの前面
ヘッドパッド部を大型化し、装着性を向上
HMZ-T3Wの側面
2つの後部ヘッドバンドで頭を固定
レシーバユニット
MHL、HDMI入力を装備

 もちろん、従来と同様のメインユニットとのHDMI接続に対応。メインユニットには3系統のHDMI映像入力を装備し、Blu-rayプレーヤー/レコーダやPlayStation 3(PS3)といったゲーム機など、複数のHDMI出力機器の映像に対応。本体のボタンで切り替えが行なえる。

メインユニット
3系統のHDMI入力を装備
前面にHDMIの出力はHMD接続用

専用LSIと新光学系で画質向上。フレーム遅延も抑制

 ディスプレイデバイスは、0.7型/1,280×720ドット有機ELパネルを2枚採用。3D映像表示にも対応。左右の目それぞれに別の映像を表示できるため、左右の映像が混ざり合って二重に見える「クロストーク」が原理的に発生せず、明るくクリアな3Dが楽しめる。

 有機ELデバイス自体には大きな変更はないが、新たにヘッドマウントディスプレイ専用のLSIを新開発して、HMZ-T3/T3Wに搭載。映像処理部には、同社のフラッグシップBDレコーダ「BDZ-EX3000」搭載のCREAS Proの回路やノウハウを継承した新エンハンスエンジンを採用し、画質調整の自由度を従来の27倍まで拡大。高域や中域を独立して制御し、コンテンツに含まれている情報量を引き出し、オリジナルに近い自然かつ精細感ある映像を再現するという。

新光学エンジンを採用
HMD専用のLSIを開発。CREAS Proのノウハウなどを集約

 新エンハンスエンジンでは、中域は過度な強調を抑制しながら、高域のシャープネスは細かいテクスチャや輪郭の精細感を向上。また、1チップ化されたことで、階調補正技術「SBMV」の効果をより発揮しやすくなったという。

 新エンジンを開発/導入することで、画質向上だけでなく、映像遅延の低遅延化や、低消費電力化も行なわれた。これによりレシーバ部にLSIを内蔵可能となり、バッテリ駆動やモバイル対応を実現できたとする。ゲームモードの映像遅延は最小で1フレーム(16.5ms)。

 また、広視野角レンズを新設計し、解像度の改善とともに従来比約20%の軽量化を実現。さらに、スイートスポットを拡大し、装着時のピントの合わせやすさやボケの解消につなげたとする。奥行き感と広がり感ある2D映像を実現する「スクリーンモード」も搭載している。

 ゲームプレイ時の暗部の視認性を高める「クリアブラック調整」機能も追加。ゲーム1からゲーム4までのモードで選択可能となっており、FPS(First Person shooter)ゲームなどで暗闇に隠れている敵の姿などを見つけやすくなる。90%/80%/70%のスクリーンサイズ調整にも対応する。

HMZ-T3WのイヤフォンはMDR-XB90相当

 音質面も強化し、新たにドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioなどのビットストリームデコードに対応。さらに、7.1ch Vritualphones Tecnologyを採用し、「自然でつながり感ある音場を実現する」という。サウンドモードはシネマ/スタンダード/ミュージック/カスタムの4種類。

 高域補間技術のハーモニックイコライザーは、ドルビーデジタルとAACに加え、新たにDTSやリニアPCMにも対応。また、サンプリングレートも従来48kHzまでだったものを、最高192kHzまで対応し、余韻ある音場再生を可能としたという。

 イヤフォンはHMZ-T3Wが「MDR-XB90EX(12,390円)」相当のものを、HMZ-T3が「MDR-EX300(6,175円)」相当のものが付属する。S/M/Lの3種類のイヤーピースも同梱する。

 また、メインユニットにもヘッドフォンジャックを装備。32bit DACと専用のヘッドフォンアンプを内蔵し、標準ステレオプラグのヘッドフォンを接続可能とした。なお、ヘッドマウントユニットから音声出力する場合は、24bit精度となる。

 メインユニットの外形寸法は150×107×31mm(幅×奥行き×高さ)、重量は250g(HMZ-T3W)/220g(HMZ-T3)。消費電力は8W(HMZ-T3W)/4W(HMZ-T3)。

ミニレビュー。装着感が大幅に改善

HMZ-T3Wの装着例

 短時間だがHMD-T3Wを試用したので、ファーストインプレッションを付記する。

 PlayStation 3をメインユニットにつないで、Wireless HD経由でHMDで視聴したほか、「Apple Digital AVアダプタ」を使ってiPhone/iPadからHDMIでバッテリーユニットの直接入力してテストした。

 主に3つのユニットから構成されるHMD-T3Wだが、すぐに従来モデルからの違いがわかったのが装着感だ。HMZ-T1からT2に変わった時も、軽く、バランス良くなったと感じたが、T3ではさらに改善。これまでのような前がかりの荷重を感じなくなった。そのため重量はT2との比較で10gしか変わっていないが、かなり軽くなったように思えるのだ。また、ずっと装着していてもずり落ちてこないので、「ポジションを直す」作業も必要なくなった。

 もう一点重要なのが、利用前の調整が楽になったこと。頭部に固定した後、底面にあるスライドスイッチを操作して、レンズ間隔を調整し、フォーカスをあわせるという流れは同じなのだが、ほぼ一発できちっとスイートスポットに合う。そのため装着してから一分とかからず、映像を見ることができた。

 Wireless HD接続も簡単。メインユニットに入力した映像を、5mほど離れた自分のデスクのHMDにワイヤレスで伝送したが、全く問題なく視聴できた。接続距離は7mとなっているが、実際には10m程度離れても受信できた。ただし、柱の裏や壁の裏に来るとほとんど受信できない。基本的にはメインユニットを設置している部屋の中で、メインユニットの位置に縛られずに使う、という利用イメージといっていいだろう。

 バッテリーユニットとHMD部は有線ケーブル接続される。ちょっと困るのが、このバッテリーユニットの存在を忘れること。移動する際にHMDの位置をずらして立ち上がると、机の上からレシーバーを落としそうになる、ということが数回あった。この辺りは慣れが必要だろう。

 また、スマートフォンやタブレット映像の直接入力でも、全く問題なく映像を楽しめた。飛行機や新幹線、ホテルなどで、メインユニットの位置に縛られずにポータブルデバイスの映画を楽しむ、といった使い方が可能になるわけだ。ただ、モバイル対応といってもHMZ-T3シリーズは、視界を完全に塞いでしまうため、通勤電車などで使うのは難しい。

HMZ-T3の利用イメージ
HMZ-T3Wの利用イメージ

 画質については、ソニーヘッドマウントディスプレイの特徴である、圧倒的なコントラスト感は健在。BD「ダークナイト」を見てみると、夜闇の中のトレーラーアクションの激しい明滅とその後の漆黒の黒がきっちり体感できる。警察署内でジョーカーと対峙するシーンでは、唯一の光源であるスポットライトの強烈な明かりと、漆黒の黒がきっちりと描き分けられる。光源脇の暗部階調がなだらかに闇に溶けこむところも全く破綻がない。発色もビビットで、液晶テレビとは異なる鮮やかでインパクトある画調を体感できる。

 HMZ-T2と直接比較したわけではないが、ソニーHMD特有の鮮やかかつ高コントラストな映像体験はしっかり継承されている。また、ダークナイト チャプタ9でのビル群への飛行シーンをチェックしてみたが、フレーム補間エラーによるエラーも感じられなかった。

 音質もかなり良く、セリフの聞きやすさだけでなく、アクションシーンで、破片が散らばって広がっていく様がイヤフォンでしっかり確認できる。

 装着感、画質、音質も申し分なく、T2からの着実な進歩を感じさせる。強いて言えば、明るい環境で見る時に、本体の上からライトシールドの隙間を通って光が漏れて見にくいことが気になったぐらいだ。あとは価格が値上がり傾向にあることは指摘しておきたい。HMZ-T1の約6万円、HMZ-T2の約7万円から、HMZ-T3では8万円、Wireles HD対応のHMZ-T3Wになると約10万円となっている。もちろん、性能も満足度は大幅にアップしているのは間違いないのだが、導入のハードルは少し上がりつつあるといえる。

(臼田勤哉)