プレイバック2025

45回転高音質LPも発売決定!録音にこだわりぬいた、情家みえ「ボヌール」by麻倉怜士

情家みえ/BONHEUR MQACD + UHQCD

今年の私関係の最大の話題は、うちのUAレコード合同会社が遂に、第3弾の新譜をリリースしたことだ。なにしろ、潮先生と私のみのレコード会社だから、徹底的に佳作。2018年に第1弾の「情家みえ・エトレーヌ」をリリースして以後、第2弾のスウィングピアノの小川理子「バルーション」だけだったのが、ようやく2025年1月のレコーディングから制作プロセスを経て、9月に発売に漕ぎ着けたのが、第3弾の情家みえ「BONHEUR(ボヌール)」(MQACD + UHQCD/UA-1008/4,400円)だ。

左から潮晴男氏、情家みえさん、私

私のレーベルは徹底的に音楽性と音質にこだわる。ジャズでの音楽性とは「グルーブ」だ。それを最大限、尊重するため、手直し編集なしの「ワンテイク録音」、イコライジング不使用、コンプレッション不使用……と、不自然はすべて排除し、スタジオの現場の合奏から得られる熱気をそのまま封印する。それもUHQCD、SACD、アナログLPとディスク文化にこだわり、さらにQobuzでのハイレゾダウンロード……と、ワンソース・マルチメディアで展開。

録音は、デジタルとアナログの併用。デジタルはPROTOOLSで192kHz/24bit録音。同時に、アナログでも録音した。往年の名レコーダー「STUDER A-800」にて、最速のテープスピード76センチ/秒、最大の記録面積2インチ幅のテープ、最多のトラック数---でテープ録音。それをSTUDER A-820の38センチ/秒・0.5インチテープにトラックダウンし、マスターテープとした。デジタル録音/変換のLPレコードが多い中で、録音/トラックダウン/マスタリングの完全アナログプロセスは、たいへん貴重だ。

レコーディング中の情家さん

まず、9月にデジタル由来のUHQCD「ボヌール」がデビュー。これはうちとして初めてのMQACDだった。その音質は、当の私がびっくりするほど、素晴らしい。ひじょうに明瞭で、鮮度が高く、ディテールまで実に鮮明だ。かつての「エトレーヌ」と演者もスタッフもほぼ同じなのに、音質は圧倒的に凄い。ピアノの運指の明確さ、ヴォーカル音像の明瞭さ、ボディ感、潤い感、情感……などの美点が横溢。音の良さは録音時の仕込みに加え、明らかにMQAも効いている。

ここまではデジタル録音/UHQCDの話だが、同時に録音したアナログバージョンが、何と45回転2枚組LPで、2026年2月に発売だ。通常の331/3回転でなく、なぜ45回転なのかの訳はふたつ。ひとつが収録時間と曲数の関係。先行発売のUHQCDは10曲収録されていた。ところが33回転だと、一曲あたりの演奏時間が長いことから、7曲しか入らない。それならば、全曲集録することの方がファンの期待にお応えできる。だから2枚組を選択した。

2026年2月に発売する45回転2枚組LP

もうひとつは当然ながら、45回転ならではの高音質だ。その魅力は、何と言っても線速度の速さ。回転数が速くなればなるほど、高域まで伸び、音の情報量が増える。線速度/秒は33回転の最外周で51.14cm、45回転では69.04cm、最内周で20.11cm、27.14cm----だ。かつてのアナログ全盛時代には45回転LPはさかんに製作されていたが、最近では稀だ。

その音質は凄い。45回転カッティングは日本コロムビア・南麻布スタジオで、名人の武沢茂氏の手で行なわれた。私はその作業に立ち会ったが、ラッカー盤の再生音は感動的だった。低域から高域までのレンジが、ここまでワイドになるかと驚いた。Fレンジ的にも、Dレンジ的にも、天井が限りなく高い。しかも密度感がたいへん濃密なのだ。情家のヴォーカルのボディに音楽愛がぎっしり詰まったような鳴り方だった。歌の張りにエネルギーが漲った。輪郭が確実に描かれ、芳しい香りのニュアンスが心に染みる。後藤浩二のフルコンサートスタインウエイの音がたいへんゴージャスだった。鮮烈なノリが深く印象に残る。

愛蔵家ナンバー付き、180グラム重量盤×2枚で、予価は1万円と2万円の間。Amazonで販売予定だ。ぜひ超絶の高音質を聴いていただきたい。

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表