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SpotifyやiTunes Radioも採用する「Gracenote Rhythm」。“音楽の発見”で市場拡大へ
(2014/2/19 16:35)
グレースノート(Gracenote)は、既報の通り、ストリーミング音楽配信向け楽曲レコメンデーションのプラットフォーム「Gracenote Rhythm」の日本版を18日に発表。これを記念したイベントが同日に都内で開催され、具体的な技術内容の説明が行なわれた。また、ユニバーサル・ミュージックやSpotifyなど、音楽業界関係者を招いたパネルディスカッションも行なわれた。
ユーザーに合った曲をプレイリスト化。CDレンタル回数も「人気度」に反映
「Gracenote Rhythm」の概要を改めて説明すると、CDDBなどのデータベースを展開するグレースノートが手掛ける、新しい音楽レコメンデーションエンジン。インターネットラジオアプリ/配信サービスなどに活用でき、ユーザーのリスニング傾向や履歴を把握し、使えば使うほど好みを反映して各ユーザーに合った音楽を探せるという。
同社は、開発者や企業などに向けたGracenote Rhythm APIを用意。これを利用することで、音楽配信事業者が機能を強化できるだけでなく、カフェやスポーツ用品メーカーなど、これまで音楽配信と直接関係なかった企業も、「カフェで聴きたい音楽」や、「スノーボーダーが好きな曲」といった、それぞれの顧客に合ったインターネットラジオ/音楽配信などを展開できるという。
18日に行なわれたイベントでは、Gracenote Rhythmの特徴を説明。インターネットラジオサービスに活用した場合、特定のアーティスト/楽曲を“シード(種)”と指定することで、自動で「ステーション」(プレイリスト)を作成。ジャンル/ムード(エキサイティング、ゆったりなど)/年代の指定からでも作成できる。このステーションにある楽曲に「好き/嫌い」(Like/Dislike)をユーザーが指定することで、それを反映したリストに自動で修正される。
リストアップされる曲について、後から細かな調整をすることも可能。例えば曲の「人気度」や、「類似性」について、シードとなる曲からの“距離感”を細かく調整できる。これにより、マイナーな曲/メジャーな曲が聴きたい、または、似た曲/違った曲が聞きたいというニーズに対応できるという。
ここでCDDBを持つGracenoteが特徴的なのは、曲の「人気度」の指標として、CDの「ルックアップデータ」を活用できる点。一般的な指標となるCD売上だけでなく、CDをパソコンで取り込むなどしてCDDB情報がグレースノートから提供された回数も反映。これにより、従来はカバーできなかったCDレンタルの回数を加えたり、アイドルなど一人で複数枚購入されるCDの実際の利用数を割り出すなど、より現実に近い人気度が測れるという。
楽曲の分類の指標となる「ムード」と「テンポ」のデータは、音声分析と機械学習によって作成され、曲ごとの属性データを分類。機械学習アルゴリズムは2.5万曲以上の学習データを利用し、その学習データはGracenoteの「音楽エキスパートチーム」によって、人力で分類する。
このほか、音楽ストア向けの機能としては、楽曲をおすすめするレコメンデーションも可能。アーテイスト、曲、リスニング履歴を元に楽曲をユーザーにおすすめする。複数のシード(入力値)から曲を探すこともできる。
2014年第2四半期に提供予定の技術「ローカル・プレイリスト」も説明。これは、ポータブルプレーヤーなど、オフラインの音楽再生機を対象としたプレイリストで、アーティスト/曲を元に、類似したプレイリストを作成する「More Like This」機能や、リスニング履歴を元にしたプレイリストを作成できるというもの。
前述のGracenote Rhythm APIを使わず、メタデータと音楽属性データを単体で音楽配信事業者などに提供する「データ・エキスポート」も用意。各サービスが持つレコメンデーション技術と、Gracenoteのデータベースを併用できるというもので、既に海外サービスのSpotifyや、iTunes Radio、Beats Musicが採用している。
現在の機能では、エンドユーザーのリスニング履歴、「好き/嫌い」を押した曲などは自分のプレイリストに反映される仕組みだが、今後はこの情報をGracenoteのデータベースに集約し、曲のレコメンドやネットラジオのステーション作成に使用する機能も現在検討しているという。また、配信事業者などに向けたサービスとして、Gracenote Rhythmの属性データを活かした選曲によるプレイリスト作成といった機能も開発中としている。
米国の音楽配信トレンドと、“パーソナライゼーション”への取り組み
イベントに来場した米Gracenoteのタイ・ロバーツCTOは、米国での音楽市場に関するトレンドと、Gracenote Rhythmの特徴、同社が目指す音楽の“パーソナライズ化”などについて説明。
2013年のデータでは、米国の音楽ストリーミング配信は103%に成長した一方、ダウンロード型は前年の横ばいから、'13年は6%減少。2019年までの5年間で、ストリーミングは現在の約6倍まで成長すると予測している。
ストリーミング音楽の傾向については、無料で聴ける「広告収益型」の成長や、15以上という配信サービスが同じ楽曲カタログで同じ顧客を争奪していること、Webの情報を活用した音楽キュレーションの重要性が増している点などを指摘。「クリティカルマスに達した(一定の水準を超えた)音楽配信は、これから差別化が重要になる」と述べた。
今後米国で期待を寄せている分野の一つとして、「車で聴く音楽」を挙げ、インターネット接続や、アプリを使ったスマートフォンライクな操作などにより、成長の余地があると分析。また、「今聴きたい曲」を的確に予測するパーソナライゼーションの重要性を改めて強調。例えば、通勤中の車内、オフィス、帰宅中の車内、ジムでトレーニング中、就寝前といった異なるシチュエーションや、誰と一緒にいるかといった情報などを反映して、適切な音楽をレコメンドするといったことで、より完璧に近いパーソナライゼーションを実現できるとした。
ユニバーサル、ビルボード、Spotifyが「Music Discovery」を議論
イベント内で、音楽業界に関わるキーパーソンを迎えたパネルディスカッションも開催。「~Music Discovery から考える音楽マーケットとテクノロジーの未来~」と題し、スポティファイジャパンの野本晶氏、ユニバーサル・ミュージックの鈴木貴歩氏、ビルボード・ジャパンを担当する阪神コンテンツリンクの礒崎誠二氏、アーティスト・m-floの☆TAKU TAKAHASHIさんがパネリストとして登場した。モデレーターは、音楽プロデューサーの山口哲一氏が務めた。
ユニバーサル・ミュージックの鈴木貴歩氏は、日米のCD/配信マーケットの推移などを紹介。レーベルから見た、音楽配信におけるディスカバリー(新たな曲の発見/出会い)の重要性として、CDでは“旧譜”と呼ばれる名曲などを、配信によって改めて多くの人に知ってもらえるといった点を説明した。
欧米などで展開するサブスクリプション型音楽配信サービス「Spotify」の日本法人であるスポティファイジャパンの野本氏は、海外でSpotifyが人気の理由について「ラジオ的な要素、メディア的な要素が大きい。音楽をおすすめしてもらえる、まさに『ディスカバリー」が可能なプラットフォーム」である点を、サービスの特徴と合わせて説明した。
Spotifyは、広告付きの無料サービスと、有料サービスを用意しているが、現在2,400万のアクティブユーザーがおり、そのうち600万人が有料サービスに加入したという。無料から有料へのコンバージョン率は20%以上とし、最初は無料で楽しんでいたユーザーも、使っていくうちに離れられなくなり、高い割合で有料加入に結び付く点などが、音楽レーベルなどにも支持された理由と見られている。
Spotifyが導入された米国や欧州などの国と、日本市場の音楽売上を比較したデータも紹介。SNS連携などで「ディスカバリー」を重視したことなどで、導入国のストリーミング配信が延びているとの見方を示した。
なお、今回のイベントの大きな関心事の一つとして、「Spotifyの日本への展開時期」が明かされるとの期待もあったが、残念ながら今回は「まだ言えない状況だが、着々と準備が進んでいる」とのコメントに留まった。
ビルボード・ジャパンを展開する阪神コンテンツリンクの礒崎誠二氏からは、同社が取り組んでいる“新しいランキング”について説明。ラジオなどで放送される「エアプレイ」の回数や、CD売上だけでなく、'10年からはデジタル配信、'13年からは前述したGracenoteのルックアップデータ、Twitterなどの指標もランキングに取り入れてきた点を紹介した。
このデータの推移の例として、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」や、SPICY CHOCOLATE feat.HAN-KUN & TEEの「ずっと」の2曲について、ランキングの推移と、各項目の変動を紹介。“恋チュン”では、Twitterとダウンロードが同じパターンで推移したほか、「ずっと」は、CD発売から時間が経った後でも、Twitterで話題になるとその後を追ってアルバムが再び売れ出すといった例を紹介した。今後、ビルボード・ジャパンでは、YouTubeやレコチョクのデータをこれらに加えることも目標としているという。
m-floの☆TAKU TAKAHASHIさんは、自信でネットラジオ「block.fm」を立ち上げた理由について、「世界でダンスミュージックのムーブメントがあり、国内にも素晴らしいクリエイターがいるのに、ラジオなどで紹介されない。こうした中で、少しでも紹介したかった」と説明。DJも務めるTAKUさんは、音楽との出会いについて「DJという職業が、ソムリエ、キュレーター的ポジションになっている」とした。
TAKUさんは「海外から『日本の音楽には多様性がある』と言われるが、それを海外に発信していくインフラがまだまだ整っていない。食材はそろっていて、お客さんもいるけど、料理人となるインフラが揃っていない」と指摘。また、アーティストに対しても「国内をゴールにせず、世界に出ていく意識を持つことで変わっていくのでは」との考えを示し、モデレーターの山口哲一氏も「マネージャーも海外展開にブレーキを踏んで臆病になっている。この意識を変えなければダメ」と述べた。