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マランツ、価格を抑えたPC/ネットワークオーディオ・フルスペック機「NA8005」開発中

「NA8005」

 マランツが昨年発売したUSB DAC/ネットワークプレーヤー「NA-11S1」は、PCからのノイズ流入防ぐため、信号ラインだけでなく、グラウンドまで切り離すなど、徹底的なノイズ対策を実施し、高い音質で話題となり、USB DACの1つの到達点と言っても良いモデルだ。一方で、価格は330,000円と高価であり、より“買いやすい”モデルが待ち望まれている。そんな中、まさにそのニーズにマッチする「NA8005」という新製品が開発されているという情報をキャッチした。

 価格などの詳細はまだ発表されていないが、「NA8005」という名前を見てピンときた人もいるだろう。2010年に発売され、当時まだ珍しかった単体ネットワークプレーヤーのエントリー機「NA7004」(93,000円)を彷彿とさせる型番だ。8,000番台に数字が増えているので後継モデルではなく上位機種のようだが、前述のNA-11S1(330,000円)より低価格になる事は間違いない。PCオーディオ/ネットワークオーディオの要注目モデルとなりそうだ。

 そこで、開発が行なわれているマランツの試聴室に潜入。「NA8005」の試作機を、お馴染み、マランツの音質担当マネージャー、澤田龍一氏に見せていただいた。

フルスペック対応のUSB DAC/ネットワークプレーヤー

「NA8005」の背面端子部

 筐体サイズはNA7004とほぼ同じのように見える。スペックとしてはNA-11S1と同じ、USB DAC/ネットワークプレーヤーで、最新のフォーマットにもフル対応。USB DAC(USB B)とネットワークプレーヤーの両方で、DSDの2.8/5.6MHzをサポート。AIFF/WAV/FLACは192kHz/24bit、Apple Losslessも96kHz/24bitまでサポート。DoP、WASAPI、ASIO2.1に対応している。

 USB A端子も備えており、USBメモリなどに保存したハイレゾファイルを再生したり、iOS機器をUSBケーブルで接続し、デジタル再生する事も可能だ。

 さらに光デジタル、同軸デジタル入力も各1系統装備。出力は光デジタル、同軸デジタル、アナログ音声(RCA)を各1系統搭載している。

 DACには、DSD 1bit信号のダイレクト変換が可能なシーラス・ロジックの「CS4398」を採用。ジッタを低減するための超低位相雑音クリスタルのクロックを組み合わせている。「NA-11S1」でそうだったように、44.1kHz系、48kHz系それぞれに専用のクリスタルを搭載する贅沢なデュアルクロック構成だ。これにより、入力信号のサンプリング周波数に最適なクロックを供給し、ジッタを抑制している。

デジタル・アイソレーションシステム

音質担当マネージャーの澤田氏

 NA-11S1が大きな話題となったのは、信号ラインとグラウンドを絶縁するというノイズ対策の“徹底ぶり”だ。そのこだわりを、購入しやすい価格帯でも貫くというのが「NA8005」の大きな特徴となる。だが、コストの問題があるため、完全にNA-11S1と同じデジタル・アイソレーションシステムを採用するのは難しい。

 NA-11S1のデジタル・アイソレーションシステムの詳細は、以前のインタビュー記事に詳しいが、簡単におさらいしよう。ノイズの固まりであるPCとオーディオ機器をUSB接続すると、オーディオ機器にノイズが侵入する。それを防ぐため、USB Bから入力された信号をレシーバICで受けた後、そこから出るデータライン、コントロール信号、クロックなどをデジタルアイソレータを用いて全て絶縁。メインの基板と直流的に繋がらないようにしている。信号だけでなく、リレーを設けてアース(グラウンド)も電気的に絶縁。この徹底ぶりがNA-11S1のポイントであり、澤田氏も「(ハイレゾ対応USB DACには)これまでのオーディオ機器で採用していたものとは違うノイズ処理が必要だとわかり、その対策を徹底的に行ない、私達の“一つの結論”として発売したのがNA-11S1」と振り返る。

 だが、音が良い反面、コストがかかる手法でもある。「NA-11S1は可能な限り上流で(ノイズを)カットしようと、デコーダICの周囲でみんな切っています。しかし、それによりアイソレータが多数必要になり、コストは高くなります。アースを切る方も徹底的にやりましたので、それに応える音質アップは実現できました。NA8005も基本的には同じ手法ですが、“切る場所”が違います。理想的には上流ですが、もう少し後退させ、DACの手前、DACを含んだアナログパートと、それ以前のデジタル処理を行なうパート、その間にアイソレータを入れています」(澤田氏)。

縦に並んでいる小さな黒いパーツがデジタル・アイソレータ

 つまりNA8005では、DIRの後ろ、DACの直前で一括して絶縁している。この工夫により、高速アイソレータの数は6個12回路に抑えられている(NA-11S1は8個18回路)。

 コストダウンの工夫ではあるが、これにより利点も生まれているという。NA-11S1では、USB B(USB DAC)以外の入力については、ジッタリムーバーを使うなど、従来のオーディオ機器で採用してきた手法でジッタを低減している。しかし、NA8005では、DACの前段にデジタル・アイソレータを設置しているため、USB Bだけでなく、USB A(USBメモリやiOS機器)、同軸デジタルなどの信号についても、高周波ノイズもまとめて除去できる。全ての入力を高音質化できるというわけだ。

DSD再生にもこだわり

 昨今のUSB DAC&ハイレゾ配信ではDSDがトレンドだが、NA8005のDSD再生には、NA-11S1から踏襲された特徴がある。

 再生するファイルによって、DAC回路にはDSDとPCMの2種類のデータが入力される事になるが、澤田氏によれば、PCMとDSDの信号では、原理的にフルスケール・レベルに違いがあるという。具体的にはDSDはPCMよりも最大で6dB低い。「DSDはノイズシェーパー(Δ∑変換器)の技術を用いて可聴帯域のダイナミックレンジを稼いでいるため、理論上の100%変調をかけるとノイズが増加してしまう」ため、抑えられているわけだ。

 フィルタにもよるが、最大6dB低いため、DACからの出力をそのまま使うと、例えばSACDのハイブリッドディスクで、SACD層(DSD)とCD層(PCM)を切り替えると、DSDの方が“音が小さく”なってしまう。これを補うために、多くのDACには“PCMの信号を抑えて”DSDのレベルに合わせる調整機能が搭載されている。

 しかしNA-11S1では音にこだわり、こうした調整機能を使わず、DSDが3dB低いまま出力しているのは以前お伝えした通り。NA8005でもこの姿勢が貫ぬかれており、DSDはPCMより若干レベルが低く出力される。DSDデータとしてはそれが“素”の状態であるため、あくまでそれにこだわっているわけだ。

培ってきたアナログ技術も投入

 アナログ回路には、オリジナル高速アンプモジュール「HDAM」と、「HDAM-SA2」を使い、電流帰還型フィルタアンプ兼送り出しアンプを構成している。

 また、電源部にはPC電源ノイズの回り込みを防ぐために、NA-11S1と同様にフェライトコアを使用し、ノイズをコントロール。電源トランスは、大型のEIコアトランスをケースに入れたもので、NA7004と比べ、容量は2倍になり、かなり余裕を持って動作しているという。

左がNA7005、右がNA8005の内部。NA7005の基板は2階建て構造になっている部分があるが、「2階建てになると干渉が難しくなり、アースポイントも複雑化するのでできれば一枚基板が理想的」(澤田氏)との事から、NA8005では一枚基板が採用されている。

 NA-11S1にはトロイダルコアトランスが使われているが、澤田氏は「ファイルベースのプレーヤーの場合は、低コストなEIコアトランスにもメリットがある」という。「トロイダルはドーナツリングのコアに巻線をしたもので、電圧変動率やリンケージは優秀ですが、構造的に一次から入ってきたノイズが、二次へとパスしやすい。つまり、外から入ってくるノイズを純粋に通してしまう側面があり、専用の対策が必要になります。EIコアトランスは、E型のコアとI型のコアで蓋をしたような構造ですので、結合が密ではなく、ノイズスルーはトロイダルと較べて格段に少ない。悪く言えば構造がいい加減なのですが(笑)、それが幸いしている部分もあるという事です」。

左がNA7005、右がNA8005の電源トランス。容量が2倍になり、大きさの違いもひと目で分かる

発売はいつ頃?

 気になるのは発売時期だ。お邪魔した開発試聴室では、まさに量産試作に向けて最終的な調整が行なわれていた。つまり、開発はもう大詰めと言え、そう時間を経ずにショップに並ぶことになりそうだ。

 澤田氏の前に置かれた試作機には、コンデンサが手作業で付け替えられていたりと、様々な音質検討が現在進行形で行なわれているのがうかがえる。

 そんな作業の一例として澤田氏は、つい最近交換したというデジタル部の基板に取り付けられた電源供給用のコンデンサを指し示す。「デジタルデータなので、高周波特製が良いパウダー型のドライコンデンサが合うと考え、最初はそれを取り付けていたのですが、DSDで聴き比べてみると、ウエットなコンデンサの方が効くんです。DSDはデジタルデータですが、振る舞いはアナログなんですよ(笑)」。このような細かな試行錯誤を繰り返し、音のクオリティは日々向上しているようだ。

NA8005の試作機基板。試行錯誤の様子がわかり、面白い

 そんな開発機の音を、短時間ではあるが試聴した。

 「NA-11S1」のUSB DACを聴いた時は、唖然とするほど広大な音場と、そこに極めて自然で、輪郭強調のない音像が、それでいて細部までハッキリ見えるほどの情報量で出現。USB DACの従来のイメージを覆すクオリティに驚いたが、NA8005でも、その時と同じ感覚が味わえる。

 ともするとPCオーディオは、ハイレゾの情報量の多さを誇示するような、分解能を重視した“むき出しの音”と感じる部分があるが、NA8005のサウンドは、ピュアオーディオライクな滑らかさがある。ピシッとフォーカスが合う精密さがありながら、ヴォーカルやギターなどの響きに豊かな階調性があり、音像にも厚みと温度が感じられる。こうした傾向があるため、PCMの音源を再生しても、「あれ? このファイルはDSDだっけ?」と感じてしまうのが面白い。ネットワーク経由での再生も同様の印象だ。

 NA7005とも比較してみたが、細部がどう進化したというレベルを超え、別物、別次元といったクオリティの違いがある。音場の広さ、立体感もNA8005が圧倒的に上だ。JAZZのトランペットやアコースティックベースの音圧も、NA8005の方が力強くて心地良いが、それでいてボワッとした曖昧な音にはならず、ベースの弦の細かな情報量はNA8005の方がしっかり聴きとれる。

 ノイズ対策を徹底した事で得られる、新しいUSB DAC/ネットワークプレーヤーの音の世界が、より購入しやすい価格で楽しめるモデルとして「NA8005」は要注目の新製品だ。価格がいくらになるのか、正式発表に期待したい。

(山崎健太郎)