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マランツ初のUSB DAC/ヘッドフォンアンプ。PCノイズ対策徹底、「アンプのひとつの完成形」

 ディーアンドエムホールディングスは、マランツブランド初となるUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「HD-DAC1」を10月上旬に発売する。価格は108,000円。カラーはシルバーゴールド。

USB DAC/ヘッドフォンアンプ「HD-DAC1」

 同社初のヘッドフォンアンプだが、「マランツが求めてきた、アンプの“ひとつの完成形”」(マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏)というアンプ部を搭載。さらに、USB DAC部分は、フラッグシップのUSB DAC/ネットワークプレーヤー「NA-11S1」で採用され、「NA8005」などにも導入された技術を継承している。

 USB DAC部には、DACの前部分にデジタル・アイソレーション・システムを導入。USB接続されたPCから流入する高周波ノイズや、HD-DAC1のデジタル回路から発生する高周波ノイズによる音質への悪影響を排除するため、高速デジタルアイソレーターを8素子、16回路投入している。

ヘッドフォンアンプだが、中央の丸窓など、マランツらしいアンプデザインは変わらない

 ICチップ上に組み込まれたトランス・コイルを介して磁気によりデータ転送を行なう事で、入力側と出力側を電気的に絶縁。デジタルオーディオ回路とDAC間の信号ラインを絶縁し、DAC回路およびアナログオーディオ回路への高周波ノイズの影響を排除。高周波ノイズによる音質劣化を防止している。

内部構造
デジタル基板
縦に沢山並んで見えるのがデジタル・アイソレータ

 なお、アイソレータが8素子、16回路と、NA8005の6個/12回路より増えているのは、ゲインの切り替えやミューティングのコントロールなど、コントロールマイコンから出たコントロール信号もアイソレーションしているため。この徹底ぶりを澤田氏は、「裏道が抜けていると、表通りだけ(アイソレータを)通しても意味がない」と表現する。

 USBではアシンクロナス伝送に対応し、PCMデータは192kHz/24bit、DSDは5.6MHzまで再生可能。ASIO 2.1によるDSDのネイティブ再生、DoP再生にも対応。WASAPIもサポートする。ファイルフォーマットはMP3/WMA/AAC/WAVに対応する。

 USBメモリに保存したMP3/WMA/AAC/WAVファイルも再生可能。iPod/iPhoneとのデジタル接続も可能だが、その場合は48kHz/16bitまでの対応となる。接続したiPod/iPhoneの充電もUSB経由から可能。

 同軸デジタル×1、光デジタル入力×2も装備。どちらも192kHz/24bitまでの入力に対応する。なお、入力信号はD/A変換前に、ジッターリデューサーによりジッタを軽減する。

背面
リモコンも付属する
側面にはウッド調のパネルを採用
「CS4398」の仕様

 DACにはシーラスロジックの「CS4398」を採用。PCMだけでなく、DSDの信号にも対応しており、マランツがPhilipsグループだった当時、開発に協力したDACでもある。「使いこなしを知り尽くしている」(澤田氏)というチップで、DSDデータを入力した場合に、プロセッサを通して⊿Σ変換を行なうモードに加え、プロセッサを通さずにマルチエレメント・スイッチド・キャパシタ・アレイに繋ぐダイレクト変換に対応。HD-DAC1ではこのモードを使っている。

 高精度なD/A変換を行なうために、NA-11S1やSA-14S1などの上位モデルと同様に、クロック回路に超低位相雑音クリスタルを搭載。48kHz系、44.1kHz系それぞれに専用のクリスタルを使う事で、入力信号に合わせて最適なクロックを供給。ジッタを抑制できるという。

新開発ヘッドフォンアンプには0dBゲインの無帰還型バッファアンプを採用

ヘッドフォンアンプ回路

 DAC以降のアナログステージには、NA8005と同じ回路構成によるフルディスクリート回路を採用。独自の高速アンプモジュールHDAM、HDAM-SA2により、電流帰還型フィルターアンプ兼、送り出しアンプを構成している。左右チャンネルの等長、平行配置も徹底し、チャンネルセパレーションや空間表現力を高めている。

 電圧増幅段にはHDAM-SA2による電流帰還型回路を使い、ヘッドフォンをドライブする出力段にはフルディスクリート構成の無帰還型バッファアンプを搭載している。この無帰還型バッファアンプはゲインを持たず(0dBゲイン)、ヘッドフォンのドライブのみを行なうアンプで、ヘッドフォンのドライバから戻ってくる逆起電力による影響を排除している。

 つまり、電圧増幅とスピーカードライブのアンプを完全に分業化。「HDAM-SA2搭載のゲイン切り替え式電流帰還型アンプ」+「ゲイン0dBの無帰還型バッファアンプ」という構成になっている。

HD-DAC1、ヘッドフォンアンプ部の概要
マランツのこれまでのスピーカー用アンプでは、スピーカードライブのパワーアンプも増幅をある程度担当していた
HD-DAC1のレベルダイアグラム。パワーバッファアンプ部が0dBになっている

 この構成について澤田氏は、「アンプの役割は正確に信号を増幅すると同時に、スピーカーをドライブする役割もある。しかし、逆起電力も戻ってくるため、なかなかドライブするのは難しい。そこで、ここ10数年、信号増幅とスピーカードライブの分業を図ってきた」という。

 「例えば、スピーカー用アンプのPM-14S1では、電圧増幅部で17dB、スピーカードライブアンプで24dB。SC-7S2/MA-9S2では、電圧増幅部で12dB、パワーアンプ部で23dB、6dBの増幅を分担してきた。しかし、理想形は、スピーカーをドライブするアンプのゲイン増幅は0dB、つまりスピーカーをドライブする事だけに専念し、“増幅はしない”事。しかし、スピーカーアンプでそれをやろうとすると、パワーアンプの後ろに、もう一つファイナルステージを持ってくるような複雑な構成になってしまい、実現は難しかった。しかし、図らずもヘッドフォンアンプを開発する事になり、スピーカーアンプのように何百ワットも出すわけではないため、長年温めてきたアイデアを比較的容易に実現できると考えた」という。

 しかし、バッファアンプでは増幅を行なわないため、そこで音に手を加える事ができず、「(音の)お化粧ができないので、裸の回路で素性が良くなければならず、開発は難しかった」という。しかし、完成したアンプの音は、「ずっと追求してきた三次元的な音の広がり、それに加えて、神経質にならない、おおらかで温度感のあるのびのびとしたサウンドが実現できた。ハイファイアンプで試したかった事が、ヘッドフォンアンプで実現した」という。

 なお、ヘッドフォン出力は標準プラグのアンバランス×1系統で、バランス出力は備えていない。この点について澤田氏は、「アナログ回路的に凝っているので、バランスにすると、とてもではないがこのサイズの筐体には入らなくなり、コストも高くなる。使い勝手の良いオペアンプを使ってバランス仕様にするよりも、シングルエンドであっても、私達が作りたかったアンプを実現した」と語り、サイズや価格を抑えながら、アンプとしての性能を追求した結果だと説明した。

 出力は800mV(32Ω/ボリューム最大/ゲインLow時)。ヘッドフォンのインピーダンスに合わせてゲイン出力は3段階に切り替えられる。なお、澤田氏によれば「ほとんどのヘッドフォンで、A級動作の範囲で増幅できる」という。

マランツ音質担当マネージャー 澤田龍一氏
発表会の冒頭、挨拶するディーアンドエムホールディングスのConsumer Strategic Business Unitのプレジデント、ティム・ベイリー氏

 電源部には、大容量EIコア電源トランスを搭載。シールドケースに収納し、音質に影響を与える磁束漏れを抑えている。なお、デジタルオーディオ回路、アナログオーディオ回路、USBインターフェイス、ディスプレイのそれぞれブロックごとに、専用の二次巻線を用いて、後段の整流回路や平滑回路も独立させることで、回路間の相互干渉を排除している。

 アナログ回路電源用のブロックケミコンには、ニチコン製のマランツ専用カスタムブロックコンデンサ(3,300μF)を使用。試作と試聴を繰り返し、最適なものをニチコンと共同開発したという。アナログ出力回路には、オーディオグレードのフィルムコンデンサを使っている。

EIコア電源トランス
コンデンサ
ボリューム素子

 RCAのアナログ音声出力は2系統装備。可変と固定を用意し、固定出力をプリメインアンプに繋いでUSB DACとして使えるほか、可変出力をパワーアンプに繋ぎ、USB DAC付きプリアンプとして使う事もできる。

 アナログ出力端子には真鍮削り出しのピンジャックを採用。金メッキを施している。端子の間隔は広くとり、プラグの大きなケーブルも接続できるという。

 メインシャーシにはボトムプレートを追加し、重心を下げ、外部からの振動による音への影響を抑制したダブルレイヤードシャーシを採用。シャーシを支える脚部には、専用に開発されたアルミダイキャストインシュレータを使っている。

 入力端子はUSB B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2、ステレオミニのアナログ×1、USB-A×1。出力は、固定のアナログRCA×1、可変のアナログRCA×1、ヘッドフォン出力は標準プラグとなる。マランツリモートバス(RC-5)入出力も用意する。

 消費電力は35W。待機時消費電力は0.3W。外形寸法は250×270×90mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は5kg。リモコンやUSBケーブルなどを同梱する。

音を聴いてみる

 会場で短時間だが音を体験したので、第一印象をお伝えしたい。ヘッドフォンはゼンハイザーのHD800、PCからのUSB接続で再生した。

 音が出た瞬間にわかるのは、非常に広い音場だ。開放型ヘッドフォンと組み合わせているからというのもあるが、音の響きが広がる範囲や、音象の位置などがサラウンドヘッドフォンかと思うほど遠く、開放的。頭内定位の閉塞感などはほとんど感じられない。

 音はクリアかつナチュラル。ハイレゾの情報量がキチッと聴き取れるが、輪郭を強調したり、音が固かったりといった事が無く、高域や響きの余韻も極めてしなやか。コントラストが豊かで、ピュアオーディオライクな質感描写が楽しめる。「NA-11S1」や「NA8005」のUSB DAC部は、デジタル・アイソレータでノイズ対策を徹底した事で、極めて音場が広く、立体的でナチュラルなサウンドを実現した事が話題となったが、その特徴をHD-DAC1のアンプ部はさらに引き立てていると感じる。要注目モデルだ。

(山崎健太郎)