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シャープのテレビは今後も矢板から。栃木工場を公開
US30好調で4Kトップシェアに。'16年は売上の4割を4K
(2015/11/20 08:45)
シャープは19日、報道関係者向けに、栃木県 矢板市、早川町の栃木工場見学会を開催。今後のテレビ事業の展開や、「マザー工場」と位置づける栃木工場の取り組みなどを紹介した。
シャープ栃木事業所は、1968年にカラーテレビ専門工場として操業を開始。東京ドームの約7倍となる総面積326,300m2に、AQUOSなど液晶テレビを開発設計する技術センターと、国内向け液晶テレビの第1工場を設置。第2工場、第3工場、基板製造の第4工場、ロジスティクスセンターも併設されている。
折からの経営危機に際しては、栃木工場からの撤退なども取り沙汰されたが、シャープは、今後もテレビの設計開発や生産は、栃木工場をマザー工場と位置づける方針。そのことを強調するため、AQUOSスタート以来初めて栃木工場を報道向けに公開した。シャープ コンシューマーエレクトロニクスカンパニー デジタル情報家電事業本部長の小谷健一氏は、「シャープの液晶テレビは、今後もこの栃木を中心にやっていく。生産の自動化も含め、きっちりやっているということを紹介したかった」と、その意図を説明した。
設計生産一体が矢板の強み。中古設備と内製化設備で低コスト化
コンシューマーエレクトロニクスカンパニー デジタル情報家電事業本部 生産統括部 統括部長の魚譲司氏は、同一敷地内に開発部門と生産部門が一体という栃木工場の特徴を紹介し、「生産と、ものづくり関連部門が同じ敷地の中にあることが強み。お互い密にコミュニケーションしながら、フィードバックやコストダウンに取り組め、設計生産の効率化が図れる。それが矢板マザー工場の強み」と語り、ネジ締めの自動化や、ロボット導入などを紹介した。
栃木工場では、省力化を徹底して進めながら、確立した技術を他の工場や製品のグローバル共通設計などに盛り込んでいるという。その技術を活かして、世界初の8Kモニターも矢板で生産立ち上げされたが、今後も4K/8Kを中心に生産に取り組む。
魚氏が強調したのは、低コストな設備とその使いこなし。コンセプトは「お金をかけない省力化システムの構築」という。「実はロボットは中古。設備を安く手に入れて、自分たちで使いこなす。知恵と工夫により、結果的に生産技術力が高まる」と説明。品質とコストを両立した生産システムの構築例を説明した。
今回公開されたのは、第1工場にある4Kテレビの生産ライン。8K相当の4K AQUOS NEXTの60型「LC-60XD35」のAラインと、US30シリーズの60型「LC-60US30」のBラインなどを見学した。大部分は撮影禁止となっていたが、省力化ラインを中心にシャープの生産技術の取り組みが紹介された。
まずは、液晶パネル供給装置や液晶パネル移送装置。調達した液晶パネルモジュールを汚さぬように開封し、工程に載せるものだが、これも中古のロボットアームなどを利用。パネルを吸着する治具や、アームを制御するソフトウェアなどを、栃木工場内の生産技術担当が開発することで、低コストな設備による効率的かつ省力化された工程を実現したという。
同様にサイドネジ締め装置も中古設備を活かして、工程に投入。製品設計段階から効率的な生産のための話し合いを設計/生産の双方で調整することで、省力化を可能にしたという。
液晶パネルとバックライトの間に挟む光学シートの移載機も自前で開発。60型など大型テレビ用の大きく薄い光学シートを1枚ずつピックアップして、次の工程でパネルに組み上げる。このピックアップして移送するシート移載機も中古設備や自前の制御ソフトウェアで構築しているという。
また、ネジ締め装置のほか、BS/CS放送受信などの画像検査装置も自前で開発。人の手をかけずに、テレビ受信関連の品質確認や不具合確認が行なえる。こうした設備の間にも、自動化された搬送ロボットが行き交っており、人の移動は抑制されている。
ただし、出画や、本体のキズなど外装の最終的な確認は、人力で行なわれており、フレームやスタンド、パネルの不良や、基板固定の緩みなどもチェックされる。見ていて驚いたのは、映像確認後、かなりの強さで液晶画面を叩いていたこと。特に基板の脱落などを確認するためとのことだ。
組み立てられたテレビは、「エージング」が行なわれる。40度の高温環境と、0度の低温環境で、300時間の動作確認を行なう。電源のON/OFFやチャンネル変更、主電源の遮断などのテストなどを行ない、良品のみを出荷する。直行率(組立後にそのまま出荷される数)は「100%に近い99%の後半」とのこと。
AQUOS US30がトップシェアに。矢板の生産台数は2倍に
コンシューマーエレクトロニクスカンパニー カンパニーEVPの小谷 健一氏は、1968年の栃木工場操業開始以来、最新製品の開発、生産に取り組んできた歴史を紹介し、「今後とも引き続き、栃木で液晶テレビを始めとした商品をきっちりと作っていく方針」と強調した。
コンシューマ エレクトロニクス事業の業績は、4~6月期に、中国の流通在庫削減や構造改革の積極化などで173億円の赤字だった。しかし、7~9月は23億円の黒字となり、「下期もこの流れを続けていきたい」と言及。テレビを中心とした同事業の下期営業利益20億円を見込む。日本だけでなく、アジア、中国で、4K AQUOS NEXTなどの高付加価値製品を積極的に展開していくという。
特に国内市場を重要視。「2016年以降、エコポイント商戦からのテレビ買い替えサイクルを迎えること、さらに、2020年には4K/8Kは放送インフラが大きく変わる。テレビ需要は回復に向かう」とし、拡大が見込まれる市場に対し、4K/8K製品を集中的に強化する。
「2020年までに高度BS化などにより、テレビが新調される」とし、2020年度の4K/8Kテレビ台数構成比は35%と見込む。
直近のAQUOS 4K販売も好調で、GfKによる調査データを例示。「4Kテレビ市場における昨年のシェアは20%だったが、今年は30%を超えた。弊社がトップシェアと認識している。特に50型以上については、40%以上を確保した」とする。
好調の理由は6月に発売した栃木工場生産モデルAQUOS US30シリーズ。「反射を抑えるN-Black、スイーベルなど、ちょっとした機能やこだわりが、商品の価値や高評価に繋がった。今後もきっちりとニーズを掴んでシェアを高めていきたい」とした。
栃木工場の位置づけについては、「中国やマレーシアなどの拠点があるが、栃木はマザー工場。開発現場と生産現場が一体となっていないと、高品位な生産は難しい。国内市場で戦う上でも、商品性やリードタイム短縮など、戦略的拠点としての栃木・矢板の重要性が高まっていく」と強調。生産規模も拡大し、「'15年度は、栃木工場の生産台数は年度比2倍になる」という。
栃木工場で生産する4Kテレビの売上構成比も拡大予定で、2015年度はAQUOSの売上構成比の3割が4Kとなる見込み。さらに、16年度は40%まで拡大予定という。
小谷氏は、「聴覚と視覚に訴える家庭内のディスプレイは無くならない」として、8K高精細化やAndroidなどのオープンプラットフォーム対応を推進。同社が掲げる“モノの人工知能化”「AIoT」に沿った、通信との融合製品の強化なども図っていく。
有機ELへの取り組みについては、「当社でも研究開発は続けていく。市場導入については、ユーザーのニーズなどについて検討していきたい」とコメント。
これからの栃木工場については、「私の信念だが、設計開発と生産部隊が、ともに矢板にいる。これが一体にならないと本当に高品質な製品は作り得ない。事業として続けるためには、きっちり工場をもって、開発現場と切磋琢磨して商品を作っていきたい」とした。