プレイバック2015

東芝とシャープのテレビはどうなる? 各社テレビ“試練の年” by 大河原克行

 東芝のテレビ事業は、構造改革の対象になるとは予想していたものの、まさか、ここまでの大規模な再編の対象になるとは思ってもみなかった。

 年末になって発表された東芝のテレビ事業の再編は、ここ数年のテレビ市場を取り巻く環境の急激な変化を象徴するものであり、まさに業界再編の最終コーナーに差し掛かった出来事だといってもいいだろう。

東芝本社
東芝の室町正志社長

 東芝の室町正志社長が、テレビを中心とした映像事業の改革を指して、「大きな痛みを伴う改革」と表現したように、今回発表した構造改革では、映像事業の国内外の社員の8割にあたる3,700人の人員削減に踏み出すなど、まさに大鉈を振るうものとなった。

 これにより、東芝のテレビ事業は国内に集中。かつては全世界で1,500万台規模の出荷実績を誇っていた東芝のテレビ事業は、年間60万台にまで出荷規模を大幅に縮小することになる。

 会見で語られていた「三菱電機のようなビジネスモデルになる」という言葉が印象的だ。日本においては、10%程度のシェアを維持することになるが、この規模だからこそ実現できる東芝ならではの付加価値モデルの創出に期待したいところだ。

 そして、再編の波は、テレビ各社に及んでいる。2015年はテレビメーカー各社にとって試練の年だった。

 シャープのテレビ事業は、2015年に、欧米市場における自社ブランドによる事業からは撤退。海外では、シャープブランドを供与するビジネスを展開している。日本においては、栃木県・矢板でのテレビ生産を続けることを強調してみせるが、テレビの出荷台数は2015年度見通しで590万台という規模に留まる。前年実績の703万台に対して、16%減と絞り込むとともに、付加価値モデルへのシフトを鮮明にする。

シャープの栃木県・矢板工場

 もちろん、4Kテレビでのシェア回復などの明るい兆しはあるが、長期化する全社構造改革のなかで、テレビ事業もかなりの縮小を余儀なくされているのは確かだ。今後は、液晶事業の行方が気になる。かつて「亀山モデル」が一世を風靡したように、液晶を自前で生産していることを強みとしていたシャープのテレビ事業の行方は、これまでと異なる路線へと踏み出すことになるのは明らかだ。

 東芝、シャープが大胆な構造改革を行なう一方で、これまでテレビ事業で苦戦していたソニーとパナソニックがわずかながら回復へと転じてきたのも2015年の動きといえよう。その点では、攻守交代といった様相をみせている。

ソニーの吉田憲一郎副社長

 ソニーは分社化することで、2015年3月期に、11年ぶりにテレビ事業を黒字化してみせた。とはいえ、本調子というにはまだ早い。「病み上がりの状態」、あるいは「いったんしゃがみ込んで、次の手を考える」(ソニーの吉田憲一郎副社長)という言葉通り、まだまだ予断を許さない状態にあるのは事実だ。

 2014年度の年間出荷実績は1,460万台だったが、2015年度は、1,150万台と縮小。体質を強化することを優先している段階であり、成長戦略を描くのはその次だ。

パナソニックの津賀一宏社長

 パナソニックも、2015年度は、4月にテレビ事業部を復活させたとともに、8年ぶりの黒字化にようやくめどをつけはじめているところだ。

 米国や中国市場での販売絞り込みなどの影響があるものの、日本および欧州での販売を拡大。材料合理化や事業構造改革による固定費削減効果などが、黒字化を下支えしている。だが、テレビ事業が全社の収益拡大をドライブするといった状況にはならない。今後は、社内で「転地」と呼ぶ、コンシューマ向けテレビ主軸の体制を見直し、デジタルサイネージなどのビジネス用途向け展開を強化することで、収益改善に挑むことになる。

 こうしてみると、2015年はテレビメーカー各社にとっては、引き続き試練の一年だったことは間違いない。そして、もはやすべての国内テレビメーカーが、同事業を成長の主軸に置くことはこれっぽっちも考えていない。

 だが、ソニー、パナソニック、そしてシャープをみれば、テレビ事業おける構造改革の取り組みは、確実に成果になっている。あえて明るい材料をあげるとすれば、これまでは、すべてのテレビメーカーにおいて、構造改革の「一丁目一番地」だったテレビ事業が、少しだけその位置を変えつつあることは喜ばしいといえまいか。

東芝REGZA「65Z20X」

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など