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SVOD時代のウィンドウ戦略とは? FOX、バンダイらが紹介

 映像コンテンツメーカーや機器メーカーが加盟するデジタル・エンターテインメント・グループ・ジャパン(DEGジャパン)は8日、拡大する映像コンテンツデジタル配信マーケットについての市場動向や、業界の取り組みを説明する「映像コンテンツ デジタル配信セミナー2015」を都内で開催した。

 セミナーは、国内外のデジタル配信市場の現状と今後についてのプレゼンテーションと、ジャーナリストの西田宗千佳氏の進行のもと、東映、20世紀フォックス、バンダイチャンネルの各コンテンツプロバイダーによるパネルディスカッションという形で進められた。

国内の動画配信サービスで増すSVODの存在感

野村総合研究所の三宅洋一郎氏

 動画配信サービスの国内市場については、野村総合研究所(NRI)コンサルティング事業本部のICT・メディア産業コンサルティング部 メディアコンテンツグループマネージャー 上級コンサルタント、三宅洋一郎氏が説明。

 パッケージ市場は右肩下がりの縮小傾向にあり、'14年のセル・レンタルBD/DVD市場規模は4,390億円。一方で、動画配信サービスがインフラの普及や各事業者サービス品質の改善により市場が拡大。'11年の799億円から右肩上がりで成長し、'14年は1,346億円に達した。

'08年からパッケージ市場が縮小。動画配信サービスは'14年度に1,346億円規模に成長
有料動画配信サービスの利用率は'15年7月に1割を超えた
動画配信ではSVODが最も利用され、月額平均利用金額もトップ

 '11年7月の調査では、インターネット利用者の利用経験率は5.6%だったが、'15年7月には11.1%に伸長。アンケート調査によると、配信サービスの中では定額制動画配信(SVOD)が最も利用されており、月額平均利用金額も高いという。

 有料動画配信サービスを利用する層は、映画館で作品鑑賞したり、ビデオをレンタルする頻度が高い層と一致。地デジ放送をよく観る層では、逆に利用しない傾向が出ているという。また、NRIが独自に設定した4つの消費スタイルとの関連性として、サービスの利便性や料金の安さを重視する消費スタイル層ほど利用が少ないと指摘。有料動画配信サービスの利便性がこの層には伝わっていないことが課題とした。

映画館での鑑賞やビデオレンタルの頻度が高い層ほど有料動画配信サービスを利用
利便性・料金の安さを重視する消費スタイル層の有料動画配信サービス利用は少ない

 一方、ネット接続やハイブリッドキャストに対応するテレビは'21年度に約3,200万世帯まで拡大すると予想。しかしテレビの常時ネット接続率が'15年に14%にとどまり、'13年の調査時(12%)から2%しか伸びていないことも課題であるとした。

ネット接続・ハイブリッドキャスト対応のテレビは'21年度に約3,200万世帯まで拡大と予想
'15年調査時のテレビの常時ネット接続率は14%。'13年から2%と微増

米国ではESTが伸長。BD/DVDから動画配信へフォーマット切り替えが進行

ワーナー エンターテイメント ジャパンの土屋隆司氏

 米国を中心とした海外の動画配信サービス市場について、ワーナー エンターテイメント ジャパンのメディア/リサーチ&カテゴリーマネージメント ディレクター、土屋隆司氏が解説した。

 全世界のホームエンターテイメント市場における消費者支出は285億ドル(3.5兆円)で、前年比7.2%マイナス。各国の割合を見ると、米国市場がトップで半分近い135億ドルを占め、次いで日本市場が43億ドル。続いてイギリス(29億ドル)、ドイツ(22億ドル)となっており、この4カ国で全世界のホームエンターテイメント市場の8割を占めるという。各国の支出構成比を見ると、米国、イギリス、ドイツにおける動画配信サービスの支出構成比が2割を超える中、日本は10.1%にとどまっている。

'14年のホームエンターテイメント消費者支出は前年比7.2%縮小。割合は米国がトップ
米国、イギリス、ドイツのデジタル支出構成比は2割超え、日本は10.1%

 '14年から動画配信サービスの利用が急伸しており、中でもEST(買い切り)とTVOD(都度課金)が伸びているという。映像コンテンツ売上の首位はNetflix。次いでAmazon、ウォルマートとなっており、AmazonはSVODの購入率が高いだけでなくフィジカル(BD/DVD)の顧客もうまく獲得できているとする。

米国のデジタル支出はEST/SVODが中心
映像コンテンツ売上の順位はNetflix、Amazon、ウォルマートが上位

 '15年上半期のホームエンターテイメント消費者支出は前年同期比で6.3%マイナス。米国の映像コンテンツに関する支出構成比は、「セル」(BD/DVD/ESTなど)と、VODを含む「レンタル」で50:50になった。

 動画配信サービスの利用状況の内訳を見ると、米国では'15年上半期にSVODの利用が過半数のシェアを獲得する一方、伸長率ではESTが27.1%と、SVOD(24.5%)を上回った。日本のESTの伸長率は31.1%と最も高いが、シェアは13.6%にとどまっている。イギリスとドイツは、VOD/SVODがシェア・伸長率ともにESTを上回った。

 今後、米国のホームエンターテイメント市場全体は'18年末までに182億ドル(2.2兆円)規模まで増えるものの、'15年(176億ドル)から6億ドルの微増にとどまると予想。注目ポイントとして、セル・レンタルのBD/DVDの割合が下がっていく一方、EST/SVODの割合が増加。市場がゆるやかに拡大する中で、映像コンテンツのフォーマットの入れ替わりが進行するとしている。

米国ではESTの伸長率がSVODを上回る。日本のESTは最も伸長もシェア13.6%
米国市場全体は182億ドル規模まで微増と予想、フォーマットの入れ替わりが進行

SVOD時代のウィンドウ戦略をバンダイらが紹介

モデレーターを務めた西田宗千佳氏

 パネルディスカッション「本格化する映像デジタル配信時代に向けた、コンテンツプロバイダーの市場展望と戦略」では、東映、20世紀フォックス、バンダイチャンネルの3社からパネリストが登壇。映画作品を中心とした映像コンテンツの上映・販売・配信のタイミングを決める各社のウィンドウ戦略や、映像配信事業に関する展望が紹介された。

 モデレータは、ジャーナリストの西田宗千佳氏。パネリストは、東映 コンテンツ事業部長代理 企画開発室長の吉村文雄氏、20世紀フォックス ホームエンターテイメント Head of Digital Sales, Japanの吉川広太郎氏、バンダイビジュアル 事業本部 営業部 部長の小西貴明氏。

 3社は、映画作品の劇場公開後、BD/DVD販売や動画配信サービスへの提供時期(ウィンドウ戦略)が異なる進め方をしている。

 東映の場合、全国公開作品の標準事例として、BD/DVDのセル・レンタル開始は劇場公開から6カ月後を基準とし、同時にEST/TVOD配信をスタート。SVODでの配信開始はレンタル開始からさらに1年経過した後に実施するが、こうした開始時期のタイミングはヒット作とそうでない作品によって調整しているという。

 20世紀フォックスは、公開4カ月後にBD/DVDのセル・レンタルを開始。これに4週間先行する形でEST/TVOD配信をスタートするが、SVODについては公開から5~6年後とかなり後ろに設定されている。

東映の映画作品(全国公開)の標準的なウィンドウ戦略
20世紀フォックスの新作映画のウィンドウ戦略

 バンダイビジュアルは、2つのウィンドウ戦略を紹介。まずOVA作品(イベント上映型)として「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を例にとり、2週間限定の上映期間中にBDを劇場先行販売し、同時にTVODも先行配信開始。公開から8週間後にBD/DVDの一般流通販売とプラモデル販売を開始し、次作のイベント上映につなぐ形でレンタルとTVOD配信を開始する。

 一方、TVアニメ作品の場合も、地上波での放送直後から各話終了後に1話ずつ、TVODで配信。BD/DVDのセル・レンタルは放送終了後に行なうが、SVOD配信については作品の特性を見つつ、約3カ月間などと期間を限定して行なっているという。なお、最近のアニメ作品では地上波放送と同時にTVOD/SVODに投入。「見逃し配信」という形で提供しているものもあるという。

バンダイビジュアルのOVA作品(イベント上映型)のウィンドウ戦略
バンダイビジュアルのテレビ作品(1クール)のウィンドウ戦略
東映の吉村文雄氏

 活発化しているSVODの動きについて、バンダイビジュアルの小西氏は「いかにお客様にSVODに触れてもらうか。ハードルは下がってきているので、まず触れてもらってデジタル配信の楽しい世界を経験してもらいたい」とコメント。また、SVODに向いているタイトルについては、3社とも共通して“ある程度話数のあるドラマやアニメ作品などの続き物”を挙げた。

 デジタル配信の活性化策については、各社からさまざまな取り組みの事例が紹介された。

 東映の吉村氏は「YouTubeやniconicoに公式チャンネルを作り、作品の一部を観てもらって続きは有料で、という取り組みをしている。コンテンツ視聴に対して料金を払うという習慣に馴染んでもらいたい」。

20世紀フォックスの吉川広太郎氏

 20世紀フォックスの吉川氏は「レンタルビデオ店が『タイタニック』(97年公開)頃の1万店舗から約2,900店舗まで減少し、消費者のタッチポイント(視聴機会)が減っているという現実がある。フィジカル(BD/DVD)のレンタルで観るという体験をデジタル配信へ移行したい。“デジタル配信なら延滞料金がかからない”など基本的なことから、啓蒙活動を続けたい」。

 バンダイビジュアルの小西氏は「デジタル配信限定のガンダム最新作『機動戦士ガンダム サンダーボルト』をEST/TVODでスタートする。デジタル配信はスピード感が速い。パッケージも重要な売上を作っているが、ディズニー作品のMovieNEXのようなデジタルとパッケージの組み合わせを考えたい」。

バンダイビジュアルの小西貴明氏

 また、ESTのメリットについては「これまで製作した作品のうち、ソフト化していない、あるいは廃盤になったものを(ESTで)デジタル配信するなら成立するかもしれない」(東映・吉村氏)、「価格が抑えられること、スマホ/タブレットでどこでも見られるポータビリティ性の高さ、ディスク入れ替えの手間がない即時性」(20世紀フォックス・吉川氏)、「(セルスルーからスタートする)『ガンダム サンダーボルト』で始める分野だが、アニメユーザーが求める(BD/DVDの)コレクション性をデジタルでも実現できるようにする」(バンダイビジュアル・小西氏)といったコメントがあった。

 西田氏は最後に、「これまではテレビの前などにある程度限定された場所に、メディアを持っていって観るのが基本だった。ネットで配信するということは、さまざまなデバイスで、さまざまな場所で見られるということ。今は定額で観られるSVODが分かりやすいので注目されているが、プレミアム性のあるESTや、スピードの点で有利なTVODもある。(有料動画配信サービスが広がることで)自分の好きなタイミングで、好きな価格で楽しめる環境が出来上がる」と述べた。

女優・モデルの新川優愛さん

 第2部では女優・モデルの新川優愛さんが登場。普段から動画配信サービスで映画やアニメ作品を視聴しており、「仕事で車に乗って移動している時や、撮影の合間の空き時間などに見ている」とコメント。

 家ではテレビで、出先ではスマホで、と映像配信サービスを見るデバイスを使い分け、「一時停止したところから続きから見られるのはありがたいし、気持ちが冷めなくて良い。情報番組のMCも務めているので芸能情報を仕入れるためにも役立っている」と話していた。

(庄司亮一)