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利益成長重視で10兆円の旗を降ろす津賀パナソニック

'16年度は“意思を込めた減益”で成長へ足場固め

 パナソニックは、2016年度事業方針を発表。2016年度の売上高は、前年比1%減の7兆5,000億円、営業利益は前年比350億円減の3,750億円、営業利益率は5.0%を目指す。

 また、創業100周年を迎える2018年度の売上高10兆円を目標としていたが、これを8兆8,000億円に下方修正した。パナソニックの津賀一宏社長は、「2018年度に10兆円という目標は、すべての従業員が、一緒になって成長を考えていくということがベースにあり、成長戦略を活性化するためには、明確な目標と時期が必要。そのために掲げたものである。これによって、M&A戦略などが明確になった。しかし、2015年度見通しの下方修正によって、発射台が下がった。成長戦略を継続しながらも、より具体的なターゲットに変更した」と説明した。

パナソニック 津賀一宏社長

 また、「利益成長を重視し、営業利益は5,000億円、当期純利益は2,500億円以上を目指す。当期純利益を公表することは、ここ数年の構造改革を経て、経営体質が健全化してきており、純利益に目線をおいて、経営を推進できるようになったことの表れ。企業価値の源泉である純利益の成長にこだわった経営を推進する」と発言。「成長戦略が軌道に乗りつつある家電、住宅、車載で確実に利益を積み重ね、そこに高い収益性が望めるB2B事業を付加することで、確実に利益成長ができる構造を作る」とした。

4つの事業領域で'18年売上高8.8兆円へ

 同社では、中期経営計画などの事業計画を打ち出す際に、これまでは家電、住宅、車載、B2Bソリューション、デバイスという5つの事業領域に分けていたが、これを家電、住宅、車載、B2Bソリューションの4つの事業領域へと再編。デバイスをそれぞれの事業に包含して計上する形に変更した。

4つの事業領域に再編

 2018年度の売上高8兆8,000億円の内訳は、家電が2兆3,000億円、住宅が1兆6,000億円、車載が2兆円、B2Bが2兆9,000億円とした。また、営業利益目標は、家電、住宅、車載の合計で3,000億円、B2Bで2,000億円とした。

2018年度の事業領域別売上見通し
各事業領域の経営指標

 家電、住宅、車載は、最終顧客に対して広く価値を提供し、新たな成長を創ることを目指す一方で、B2Bソリューションは、顧客の競争力強化に貢献。高収益を実現する姿勢を示したが、「B2Bソリューションは、まだ勝つためのビジネスモデルが構築できていない。強みとなる商材、地域、向き合う業界を明確にし、そのかけ算で高い収益が取れるビジネスモデルを構築する」とした。また、デバイスについては、「強いデバイスで稼ぎ続けることを目指し、コモディティ化が進むICT分野から、車載、産業分野への転地を進めている。だが、これには時間がかかる。まずは、いまの立地において生き残りをかけて、単品の強みを磨き、専業メーカーに打ち勝つ必要がある」と語った。

立地・競争力に応じた事業戦略の実行
高成長事業にリソースを集中

 また、新たな4つの事業領域における売上高、利益目標については、「デバイスを4つの事業に配分したほか、M&Aによる非連続成長のうち、住宅、車載領域においては、すでに意思決定をしており、確度の高いものを含めた。また、家電、住宅領域などにおける事業環境の変化も盛り込んだものにしている」と語った。

2018年度の事業領域別 営業利益目標

 家電では、アジアの重点国において、プレミアム商品を展開。インドやアフリカ市場を攻略するための商品や販売基盤を強化。住宅に関しては、国内リフォーム事業拠点やエイジフリー事業拠点を拡大するほか、アジアにおける街づくり事業を加速する。車載では、次世代コックピット事業での成長を見込むほか、2018年度以降の成長を目指し、ADASや車載電池の強化を進める。また、B2Bでは、航空(アビオニクス)、食品流通(コールドチェーン)に続く新たな柱事業の創出に着手。先行投資や1兆円規模の戦略投資を通じて、非連続型の成長戦略を描くことになる。

 「成長戦略が軌道に乗っている家電、住宅、車載は、目指す指標として営業利益率5%以上、営業利益3,000億円以上とし、これは2018年度に達成できる。だが、向き合う顧客に対して突き刺さる形で価値を提供するB2Bは、営業利益は3,000億円以上、営業利益率は10%以上を目指すが、これは2020年度以降のものになる」と語った。

2018年度のグループ経営目標

 さらに、売り上げ成長が望めない領域を収益改善事業とし、利益率向上を図る一方、成長市場に身を置く事業については安定成長事業として、業界全体を上回る成長を維持。さらに、リソースを集中させて、非連続の成長を見込む高成長事業では、全社の売上高、利益成長を牽引していくことになると位置づけた。

 「収益改善事業としては、5%の営業利益率の指標に対して届かないもの、成長によって利益率を高めることが難しい事業が含まれる。ここには、ICT領域やデジタルAV領域の事業が含まれ、AVCやAIS、アプライアンスの一部にも該当するものがある」と指摘。「どう変えていくのかということを基本に考えるが、売却が適切と判断した場合には、オプションとしてそれを選択する場合もある」とした。

 津賀社長は、液晶パネル事業についても言及。「姫路工場で生産している液晶パネルは、昨年上期時点においては、円安の影響に加えて、32型テレビ向けのパネルが市場に回らないということもあり、限界利益が高い状態で推移したが、いまは一転して状況が変わっている。テレビ向けで、液晶パネル事業をどうにかしていくというのは現実的ではない。産業用、車載用といったところで独自性を高め、足腰を固めていく必要がある」と述べた。

'16年度は足場固めで減益。車載、住宅で“仕込み“

 一方、2016年度の計画は、売上高、営業利益ともに、2015年度見通しを下回る計画となるが、これについて津賀社長は、「2016年度は、意思を込めた減益である。成長への足場固めの年」と発言。「2017年度の増収増益の実現、2018年度以降の増収増益の定着に向けて、足場固めと成長事業への仕込みを行う。これまで、利益の確保を優先してきた結果、将来の成長に向けた積極的投資が不十分な事業があったともいえる。2016年度は、減益になっても、将来に向けた投資を行なう。とくに車載、住宅領域における仕込みを実行する」と語った。

2016年度のグループ経営目標

 先行投資などによって発生する固定費の増加は、500億円規模になると見ており、これが減益の大きな理由となる。「車載、住宅に加えて、海外家電事業を伸ばす部分に投資をしていく」とした。

2016年度グループ経営目標の考え方
2016年度の位置づけ

減収減益の'15年度も成長戦略は普遍。ソニーには「学びがある」

 なお、2015年度通期見通しは、2月の公表値を維持。売上高は期初計画に比べて4,500億円減の7兆5,500億円、営業利益は200億円減の4,100億円、税引前利益は200億円減の2,800億円、当期純利益は据え置き1,800億円とした。

2015年度の位置づけ

 2014年度に、中期経営計画を1年前倒しで達成した同社は、構造改革フェーズを脱却し、2015年度を、「売上成長による利益創出」へと大きく舵を切り、大規模6事業部が成長を牽引するとともに、戦略投資の仕込みおよび実行により、持続的成長のステージへと転換する姿勢をみせていた。

 パナソニックの津賀社長は、「売上高では、年初計画に対して4,500億円もの大幅な下方修正、営業利益についても200億円の下方修正となった。大規模6事業部が牽引役とはならず、その他のほとんどの事業部において、当初の売り上げ目標を下回る厳しい結果となった。2015年度を総括すると、中国市場の変化やICT需要の低迷など、経営環境変化への対応力に課題があった。事業環境の前提や自らの競争力を改めて評価し、必要な手を打っていく必要がある。また、売上高は目標を下回り、増収による増益という構図を作ることができなかった。だが、経営体質は着実に強化。ハスマンの買収など、将来の成長に向けた仕込みが進展した。10兆円という高い目標を掲げたことで、従来の発想にはとらわれない、積極的な挑戦ができている。しかし、こうした成果が出るには時間がかかるのも確か。増収増益実現に向けた成長戦略は不変である」とした。

2015年度の業績見通し
増収による増益の構造作れず
経営環境変化の対応に課題

 さらに津賀社長は、「パナソニックがよりどころにしているのは経営理念であり、お客様へのお役立ちを創出しつづける会社であることを目指している。これを、A Better Life,A Better Worldの実現に貢献すると言い換えることもできる。利益はお役立ちに対する報酬であり、この原点に立ち返り、利益を伴った成長と継続的な利益創出を目指す。売り上げはその手段のひとつである」と述べた。

パナソニックが目指す姿

 また、「ソニーの姿には大きな学びがある。改革は我々が先に着手し、ソニーは一歩遅れてスタートした。(ソニーも業績が回復しているが)、我々も負けないように改革をしていきたい。よきライバルである」と、笑顔をみせながら語った。

(大河原 克行)