ニュース

パナソニックはテレビが8年ぶり黒字。'15年度は営業利益4,157億円、地震の影響も報告

 パナソニックは28日、2015年度(2015年4月~2016年3月)の連結業績を発表した。売上高は前年比2.1%減の7兆5,537億円、営業利益は8.8%増の4,157億円、税引前利益は19.0%増の2,170億円、当期純利益は7.7%増の1,932億円となった。

パナソニックの津賀一宏社長

 パナソニックの河井英明代表取締役専務は、「2015年度は、テレビなどの販売絞り込みや、ソーラー、ICT関連事業が悪化した。売上高は減少したものの、収益体質の貢献により増益。特に白物家電やバーティカルソリューション事業が貢献した。売り上げ、利益ともに1月公表値を上回る結果になった」と総括した。

2015年度連結決算概要

 なお、テレビ事業の売上高は前年比22%減の3,508億円と減収になったものの、営業利益は162億円増の13億円の黒字。8年ぶりに黒字化した。

 2016年度はテレビ事業において、売上高は3,258億円、営業利益は31億円と、2年連続の黒字化を見込む(2015年度は米国会見基準、2016年度はIFRSにより算出)。

 セグメント別では、アプライアンスの売上高が前年比3%減の2兆2,694億円、営業利益は45%増の722億円となった。

 アプライアンスは、テレビ事業の販売絞り込みが影響。白物家電の増収分ではカバーできずに減収となった。一方で、白物家電のプレミアム戦略によって収益が良化。テレビの黒字化も増益に貢献した。

 「テレビ事業は、合理化や固定費削減に加え、4Kテレビに代表されるプレミアム商品の増販などにより、営業利益が大きく改善した」という。だが、「2016年度も、引き続き、収益改善を優先した取り組みを推進していくことになる」と述べた。

大規模6事業部とテレビ事業部の実績

 冷蔵庫事業は前年比7%増の1,314億円、ランドリー・クリーナー事業部は前年比8%増の2,044億円となった。

 AVCネットワークスの売上高は、前年比1%増の1兆1,698億円、営業利益は44%増の747億円。エコソリューションズは、売上高が3%減の1兆6,108億円、営業利益が18%減の784億円。オートモーティブ&インダストリアルシステムズは、売上高が3%減の2兆7,086億円、営業利益は12%減の1,027億円となった。

セグメント別実績

 また、エコソリューションズは、ソーラーの落ち込みが大きく影響。AVCネットワークスは、モビリティ事業、コミュニケーション事業における販売不振があったものの、バーティカルソリューション事業が牽引して増収増益。オートモーティブ&インダストリアルシステムズは、車載および産業向けの販売が伸長したものの、事業の縮小や撤退影響のほか、ICT関連の電池・デバイスが落ち込み減収減益となった。

 規模が大きいものの、営業利益率が5%に満たない、エアコン、ライティング、ハウジングシステム、インフォテイメントシステム、二次電池、パナホームの大規模6事業部については、売上高合計が2兆3,794億円、営業利益が858億円。営業利益率は3.6%に留まった。「インフォテインメントシステムは、将来の成長に向けた開発投資の増加により減益。二次電池は、ノートPCなどのICT向けの販売が大きく落ち込んだことによって減益となった」という。

 2015年度の地域別売上高は、円ベース換算では、国内が前年比2%減の3兆6,018億円。海外は、前年比2%減の3兆9,519億円。そのうち米州が2%増の1兆2,414億円、欧州が4%減の7,019億円、中国が7%減の9,626億円、アジアが1%増の1兆460億円となった。

 「日本は、白物家電の販売が好調だったが、ソーラーやICT関連デバイスが落ち込んだ。米州は、車載関連やバーティカルソリューション事業が好調だったものの、テレビの販売を絞り込んだこと、ノートPCの販売低迷が響いて減収となった。欧州は、テレビが減収だが、エアコンなどが堅調に推移。アジアは、白物家電が伸長したものの、デバイス関連が落ち込んだ。中国は、エアコンの苦戦に加え、デバイス関連が低調に推移したため大きく減収となった」という。

 2016年度の業績見通しは、売上高は前年並の7兆6,000億円、営業利益は前年比35%増の3,100億円、税引前利益は31%増の3,000億円、当期純利益は9%減の1,450億円とした。なお、2016年度からIFRSを採用。従来は米国会計基準を採用していた。

2016年度の連結業績見通し(IFRS)
河井英明専務

 河井英明専務は、「2016年度は、将来の成長に向けて足場固めの年と位置づけている。意思を込めた固定費の増加により、車載や住宅など、高成長事業への先行投資を積極的に実施する」と語った。

 津賀一宏社長は、「2015年度実績は期初計画と比べて大きな乖離があったが、目標を立てた段階でできもしない増収計画で進めていたところもあった。今年は減収やむなしということは期初から折り込む」と述べた。

 セグメント別の見通しは、アプライアンスの売上高が前年比4%増の2兆3,700億円、営業利益は63%増の970億円となった。

セグメント別の見通し

 アプライアンスでは、買収した米ハスマンの新規連結により食品流通の売上げが増加。また、エアコン事業や冷蔵庫や洗濯機などで構成されるメジャー事業が販売増を牽引。さらに 日本、アジア、中国においてはコンシューマ商品のプレミアム化を図るという。

アプライアンス
事業別の見通しなど

 津賀社長は、「日本ではより細かくセグメントを絞り込んだプレミアム戦略を推進。売りが少なくても、絞ったセグメントにフィットしたものを投入することが我々の付加価値になる。美容・健康関連では、高齢者向けに、膝のトレーニングを行なう製品を出している。30代をターゲットとしたふだんプレミアム戦略、50~60代を対象にしたJコンセプトも展開している。また、この県ではこういった製品が売れるといったように、県単位でのニーズにあわせた展開も考えている」としたほか、「アジアでは、ワンドアの冷蔵庫などのボリュームゾーンの製品が中心であり、プレミアムゾーンの製品がなかった。マレーシア、ベトナムにAPアジアの拠点を置き、プレミアムゾーンからボリュームゾーンまでラインアップを拡充し、日本ならではのクオリティを盛り込んでいく。また、IoT家電は中国市場が好む製品。自社生産とODMの活用によって展開していく」などと述べた。

 中国市場向けには、健康を軸にブランドを再構築していく姿勢を見せたほか、テレビ事業については、日本と欧州を中心にプレミアム製品の陣容を強化。4Kテレビの拡販に力を注ぐという。

 AVCネットワークスの売上高は、前年比14%減の1兆1,750億円、営業利益は14%減の590億円。エコソリューションズは、売上高が3%増の1兆6,400億円、営業利益が18%増の900億円。オートモーティブ&インダストリアルシステムズは、売上高が2%減の2兆6,400億円、営業利益は99%増の1,000億円とした。

AVCネットワークス

 AVCネットワークスでは、堅牢モバイルを中心に成長を見込む「モビリティ」、4Kの高付加価値製品によるデジタルサイネージの提案を行なう「映像・イメージング」、オフィス向け固定電話の需要が堅調な「コミュニケーション」、航空機関連需要が拡大している「ソリューション」の4つのカテゴリーすべてで増収を計画。だが、「ソリューション」では、前年度に特需があったことに加えて、グローバルでの体制強化に向けた先行投資を行なうことで減益を見込んでいる。

 エコソリューションズでは、ライティングとパナソニックエコシステムズを売り上げ成長の牽引役と位置づける一方、リフォームやエイジフリーでは、事業拡大のための人員増などの先行投資に力を注ぐという。エナジーシステムでは、国内でのシェア拡大に加えて、海外では北米、インド、トルコを中心に拡販する考えだ。

 オートモーティブ&インダストリアルシステムズでは、エナジーとファクトリーソリューションが売り上げを牽引して増収の計画だが、成長分野である車載および産業向けに積極投資を行なうことで固定費が増加するため、減益の計画とした。

オートモーティブ&インダストリアルシステムズ

 河井専務は「2016年度の全社業績見通しで、前年比で減益する計画としているのは、車載、住宅、ソリューション事業などの高成長事業において、将来に向けた先行投資を積極的に実行することに伴い、固定費が大きく増加。とくに、エナジー事業では、今後市場拡大が想定される車載電池について、顧客の需要に応えるため、しっかりと投資をしていく。また、固定費の増加は、各事業セグメントにおける先行投資のほか、東京オリンピック・パラリンピックを契機とした事業拡大のための投資など、セグメントに直接帰属しない費用を含めている。さらに、2016年度の事業構造改革費用として、175億円を想定している」と説明した。

 一方で、2016年3月31日に発表した事業計画では、2016年度以降、事業部を、立地や競争力に応じて、「高成長事業」、「安定成長事業」、「収益改善事業」の3つに分類。メリハリある事業戦略を実行していくことを示していたが、今回の会見では、課題事業でもある「収益改善事業」について時間を割いて説明した。

事業部を「高成長事業」、「安定成長事業」、「収益改善事業」の3つに分類

 河井専務は「収益改善事業は、2015年度時点において、営業利益率が5%以下の事業のなかでも、大きな市場成長が見込みにくい事業だと定義している。すでに収益改善に向けた方向づけが終わっているテレビ、液晶パネル、半導体も、ここに含まれている。テレビについては、不採算商品の絞り込みや販路の絞り込み、徹底した固定費削減の取り組みなどにより、着実に成果が出ている。また、新たな課題として認識した事業のひとつとして、レッツノートを担当するITプロダクツと、固定電話などのコミュニケーションプロダクツがある。ITプロダクツでは、前年度の不振の原因となった北米において、マーケティングと商品力を強化し、建て直しを図る。コミュニケーションプロダクツは、固定電話の寡占化推進に加えて、ホームネットワーク事業を拡大する考えである。これらにより、2016年度には、収益改善事業全体で改善を見込む」とした。

大規模6事業部とテレビ事業部の見通し

 津賀社長によると、収益改善事業の対象は14事業部あり、そのうち半分がAVCネットワークス関連事業だという。ITプロダクツやコミュニケーションプロダクツも、AVCネットワークスに含まれている。

 河井専務は「AVCネットワークス関連事業では、今後の事業環境の変化も想定しながら、追加的施策も並行して検討していく」とした。

 津賀社長は、「“ゆでガエル”のように、なんとか踏ん張ろうというのではなく、5年後にその事業が置かれた環境を見たらどうなっているかということを捉え、身の丈にあった形に改革をしていくことが大切である」と、収益改善事業に対する姿勢を示した。

 なお、パナソニックでは、2015年度までの米国会計基準に対して、2016年度以降はIFRSを採用するが、これにより、2018年度における経営目標の公表値が変更。IFRSベースでは、営業利益では5,000億円から4,500億円に、当期純利益は据え置かれ2,500億円以上となった。

2018年度経営目標

 河井専務は「成長に向けた足場固めを行なうことで、2018年度には、増収増益の実現、定着を目指すことは変わらない」と述べた。

 また、会見では熊本地震の影響についても言及。「パナソニックグループでは、デバイスの工場が影響を受け、クリーンルームの天井が落ち、生産を停止することになった。業務用インクジェットプリンタのヘッドを生産する拠点であり、在庫があったため、サプライチェーンを切らさずに復旧させることができた。だが、多くの企業が影響を受けており、今後、どんな形でサプライチェーンに影響するかといった点に注視している」と語った。

(大河原 克行)