ディスコレ
他人事じゃない高校生活「桐島、部活やめるってよ」
冷静に見られない話題作。グッとくる特典も
(2013/3/8 13:12)
「ディスコレ」(Disc Collection)は、Blu-ray/DVD/CDなどから、ジャンルを問わずに選んだ作品のショートレビューコーナーです
「桐島、部活やめるってよ」は、早稲田大学在学中に第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー小説を原作とした2012年8月公開作品。出演は神木隆之介、橋本愛、大後寿々花ほか。監督は吉田大八だ。
この作品が話題を集めたのは公開後しばらくしてから。筆者の回りでも、「桐島」に関する謎解きのような感想から、高校という運動部などが中心の世界における文化部の悲哀、いわゆる「スクールカースト」の描写が絶妙、的な話もよく聞こえてきた。本作に関して、実体験としてのスクールカーストの有無を議論したり、自分が味わった悲哀などを面白おかしく聞かせてくれた人もいた。が、その盛り上がりは把握していたものの、今回のBD/DVD化にあわせて初めて鑑賞した。
舞台は、ありふれた時間が校舎に流れる「金曜日」の放課後。1つだけ昨日までと違ったのは、学校内の誰もが認めるスター桐島のバレー部退部のニュースが校内を駆け巡ったことだった。彼女や親友さえも連絡がとれず、その理由すら知らされていない。退部に大きな影響を受けるバレーボール部員たち、桐島と同様に学校内ヒエラルキーの“上”に属する生徒たち、そして直接的には桐島と関係のない“下”に属する生徒まで、あらゆる人間関係が静かに変化していく。校内に緊張感が張りつめる中、桐島に一番遠い存在だった映画部前田(神木隆之介)が動きだす……。
これまで均衡を保っていたそれぞれの高校生活が、突然の桐島の不在により崩壊し出す。バランスを失った高校生活の中、変化に立ち向かったり、目を背けたりする生徒たちを描き出す映画といえる。
それぞれの生活。それぞれの時間
本作の登場人物をざっくり分けると、学校内ヒエラルキーで「下」に位置する映画部の前田や前野、「上」に属する帰宅部の宏樹、竜汰、友広の3人組、同じく「上」の女子4人組、梨沙、沙奈、かすみ、実果。あとは吹奏楽部の亜矢、桐島周辺のバレー部などだ。
金曜日。主人公といえる映画部前田は周囲にバカにされつつも、映画制作に取り組む。スポーツ万能だが、熱中できずに野球部をやめて帰宅部になった宏樹(東出昌大)と仲間たちは、桐島と一緒に帰るためだけに放課後に校内でバスケに興じている。
密かに宏樹に思いを寄せる吹奏楽部 部長の亜矢(大後寿々花)は、個人練習と称して、屋上から宏樹たちのバスケを見ている。「上」の女子4人組のうち、最上位といえる梨沙は桐島と、次席級の沙奈は宏樹と付き合っている。かすみ(橋本愛)、実果はバドミントン部に所属して練習へ。
いつもと同じ日常だが、桐島の退部をきっかけに、それぞれの「金曜日」が動き出す。
本作の存在をユニークにしているのは、それぞれの視点でシーンが描かれていること。金曜日の教室には、映画部や女子4人組、帰宅部3人組などが揃っているが、7つのチャプタに分けて、それぞれの視点、それぞれの時間が交互に交じり合いながら進行。そのため、「桐島が部活をやめる」という情報が各グループに伝わるシーンだけで、4回も現れる。こうすることで、教室の中心の女子から見えていた世界と、映画部の前田から見えていた世界が、同じ空間にいながらも全然別のものである、ということが強く印象づけられる。
「全てが伏線」といえるぐらいに絡みながら、重層的に物語が進行してくため、最初は戸惑うかもしれないが、ふとストーリーが繋がる瞬間がでてくる。話が繋がり、理解した時の気持ちよさ、というのも本作の魅力と感じた。
ただ、最も魅力的に感じたのは、様々な思いを抱えたそれぞれのキャラクターの「違い」が、103分という短い時間の中できっちりと描き出されること。
前田と映画部の仲間たちが繰り広げる映画撮影シーン。拙さを隠せないのだが、ダメなやつらだけでつるんでいるからこそ出せる、独特の空気感が滲み出ていてほっこりとする。また、映画館で「鉄男」を見ていた、前田が「上」グループの美少女かすみに話しかけられ、有頂天になって「ザ・フライ?、エイリアン?」などと、マニアックな映画タイトルをまくし立てる(しかも超早口で)シーンには脂汗が出てきそうになる。
また、前田視点の学内の「下」側だけでなく、むしろ「上」の苦悩や空虚さがより鮮明に描かれているのも素晴らしい。桐島の不在だけで、男子も女子も狼狽。その姿がリアリティに富んでいるのだ。
面白かったのが、女子グループナンバー2的な沙奈(松岡茉優)の存在。ナンバーワンの梨沙のいうことには基本的に賛成で、常にご機嫌を伺っている一方で、4人組のなかでも、かすみと特に実香には時折やや見下した態度を見せる。頷き方や仕草は、高校生の女子なのだが、ふと「これってオトナの社会でもよくある構図だよな」と気付かされる。最初は「提灯持ち」に対する不快感がともなうのだが、徐々にある種の同情というか憐憫といった感情も抱かせる。また、彼女の権力基盤? は、イケてる彼氏の宏樹という部分も大きいと思われるが、それゆえに宏樹を思う亜矢への見せつけなど、随所に意地悪さを発揮して、物語に引き込んでくれる。
そして、徐々に明らかになる宏樹の苦悩。前田に感情移入しながら見ても、どこにいても、だれといても、不安げな宏樹の存在感がとても印象的だ。時折でてくる野球部の先輩など、脇役も宏樹の苦悩を際立たせてくれる。
皆がそれぞれ異なる思いや悩みを持ち、また違う時間を生きながら、高校生活のある一瞬だけ交わる。その一瞬の眩しさが丁寧に描かれた作品だ。
パッケージだからこその楽しさ。メイキングの“桐島感”
張り巡らされた伏線や、残された謎などが豊富で、見た後にも語りたくなる映画だ。一度見ただけで気づかなかった部分を、再度見返すことで発見できるのはBD/DVDパッケージならでは。劇場で見た人も、もう一度見ると新たな発見があると思う。
映像特典は、ビジュアルコメンタリー「キャストが語る衝撃の“火曜日”」、メイキング、イベント映像集(完成披露試写会、早稲田大学特別試写会、初日舞台挨拶)、スピンオフ短編「宮部実果」+短編エチュード「帰宅部」「女子部」、キャスト・スタッフ特別インタビュー「“桐島現象”を振り返って」、松籟高校フェイクインタビュー集、予告 & TVスポット集など。吉田大八監督と原作の朝井リョウらによるオーディオコメンタリーも収録されている。また、ブックレットも付属する。
秀逸なのはブックレットだ。キャスト紹介やあらすじなど一般的な内容だけでなく、チャプター&シーン解説や、原作の朝井リョウによるコメント、吉田大八監督インタビュー、さらに、オーディションの模様などを含む、新人プロデューサーの枝見氏による2年半分の製作日記とプロモーション日記も含まれている。
本作の理解に重要なのは、金曜日と火曜日の時系列を整理したチャプター&シーン解説。見た後で確認すると、シーンのつながりについて理解が深まる。同じ時間を異なる視点から描いているので、こうした整理をしてくれるととても助かる。
製作日記では、企画の立案から監督への連絡、オーディションの模様、ロケハン、配給会社決定、撮影やあいさつ回りなどが時系列で紹介。これだけでも十分楽しめるコンテンツになっているが、「撮影を終えて、高知県知事と高知市長へ表敬訪問」などと書いてあるのを見て、「映画作りって大変だよなー」などという当たり前の感想を抱く。映画製作の流れを追体験できるという意味でおもしろい特典だ。
メイキングを見ると、まるで高校生活のような若い役者たちの苦悩と楽しそうな笑顔が。それぞれがそれぞれの思いを重ね、そして撮影のスケジュール上、それぞれが別のタイミングでオールアップ(俳優の担当シーン終了)を迎えて別れていく。映画で刻まれた時間とはまた別に、それぞれの物語があることが感じられる。
「桐島、部活やめるってよ」の評価ポイント(5段階) | |
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身につまされる感 | ★★★★★ |
高校時代に戻りたくなる | ★★★ |
特典の魅力 | ★★★★★ |
価格:5,040円 発売日:2月15日 品番:5,040円 収録時間:本編約103分 映像フォーマット:MPEG-4 AVC 画面サイズ:16:9シネスコ 音声:リニアPCM ドルビーTrueHD 発売元:VAP |
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桐島、部活やめるってよ Blu-ray | 桐島、部活やめるってよ DVD |
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