ミニレビュー
iPhoneユーザー注目の平面駆動型オンイヤーヘッドフォン。AUDEZE「SINE」
2016年6月17日 08:00
アスクから発売された、米AUDEZEの平面駆動型オンイヤーヘッドフォン「SINE」シリーズ。ポータブルを意識したオンイヤー型ながら、平面駆動ヘッドフォンという大きな特徴を持つほか、iPhone等のLightning端子と直結できるDAC内蔵ケーブル付属の「SINE On-Ear Headphone Lightning Cable」モデルも用意される。
個人的には気になったのは、平面駆動型かつポータブルで、Lightning接続対応ということ。ポータブルでも利用できる平面駆動型ヘッドフォンとしてはOPPO Digitalの「PM-3」などがあるし、比較的リーズナブルな平面駆動型としてはフォステクスの「T50RPシリーズ(約2万円)もあるが、平面駆動型かつLightning対応というのは珍しい。また、AUDEZEによれば、耳の上に載せるように装着するオンイヤータイプの平面駆動型ヘッドフォンは、SINEが世界初となるという。
実売価格はDAC内蔵Lightningケーブル付属の「SINE On-Ear Headphone Lightning Cable」が62,000円、ステレオミニケーブルのみの標準モデル「SINE On-Ear Headphone Standard Cable」は54,800円。
本体は意外な高級感。装着感は良好
SINEは、オンイヤータイプの平面駆動型ヘッドフォン。BMWのデザイン部門「BMW Group DesignWorks USA」とのコラボレーションによるデザインだ。実物を見てみるとハウジングの革の質感やヘッドバンドの縫い目などに高級感がある。ヘッドバンドは、高級車のステアリングのような質実剛健さが格好いい。
ユニットは80×70mmと大型の平面磁気ドライバで、振動板全体に均一化された磁場を生成し、歪みを減少するという「Uniforceダイヤフラム」も採用する。再生周波数特性は10Hz~50kHz。最大出力は120dB(6W)。インピーダンスは20Ω。推奨電力要件は500mW~1W。
大型ドライバを搭載しているにもかかわらず、オンイヤー型のハウジングはとてもコンパクト。実際に装着してみると、イヤーパッドの装着感がとても良く、耳上をちょうど覆ってくれる。遮音性はそれほどでもなく、隣の話し声なども聞こえてくるが、音を出せばあまり気にならなくなる。音漏れも、よほど音量を上げない限り、ポータブル用途で問題になることはなさそうだ。
重量は230g。平面駆動型のヘッドフォンとしては相当に軽量で、持ち運びも気軽にできる。重量バランスが良く、しっかりフィットするためか、実際の重量以上に軽く感じる。
SINE On-Ear Headphone Lightning Cableには、3.5mmのステレオミニと、Lightningの2種類のケーブルが付属する。
ヘッドフォンとの接続端子はミニプラグだが、ちょっと変わった形状で、L字を更に狭くした[レ]のような角度がついたデザイン。外れづらいという点では、よく出来ていると思うが、かなり奥まで差し込む形なので、交換ケーブルの選択肢は限られそうだ。ケーブル長はスペックシート上は2.5mと書いてあるが、今回使用した機材は約1.2mだった。
シンプルな接続と、平面駆動型ならではのサウンド
まずは、iPhone 6s+Lightningケーブルを利用した。Lightning接続ということは、iPhoneのLightning端子からデジタル音声出力され、ケーブル内のDACとアンプでヘッドフォンを駆動することになる。単にアナログ出力を行なうステレオミニ接続とは、構成がだいぶ異なっている。なお、Lightningケーブルのみリモコンを備えており、ボリューム調整や再生/停止、曲スキップなどの操作が行なえる。
音質を求めるのであれば、iPhoneからCamera Connection Kit等を用いてデジタル出力し、外部DACやヘッドフォンアンプでヘッドフォンを駆動するという手法もある。しかし、複数のデバイスをケーブルやシリコンバンドで繋いだり、それぞれのバッテリ残量をチェックしたりと、ポータブル利用にはそれなりに工夫が必要となる。
一方、SINE+Lightningケーブルだと、接続はぐっとシンプル。iPhoneにLightningケーブルを接続し、Apple Musicで音楽を再生すると、当たり前だがヘッドフォンから音が出る。デジタル出力+外部DACという構成を、通常のヘッドフォン出力と全く変わらない使い勝手で実現できている。ケーブルは太めのフラットタイプで張りがあるため、一般的なヘッドフォンケーブルと比べると少し取り回しに苦労するかもしれないが、個人的にはすぐに慣れることができた。
一般的に平面駆動型のヘッドフォンは、振動板全体で均質に振動するため、低音から高音までフラットな周波数特性が実現できるとされる。一方で、能率が低く、アンプの駆動力が必要なため、きちんと駆動できるヘッドフォンアンプが必要となる。従来の平面駆動型では、スタジオモニターや開放型の据え置きタイプが多かったのもそうした理由だ。
Apple Musicで、曲を聞いてみると中高域の情報量の多さ、特に高域のアタックの強さに耳を奪われる。また、音をギュッと濃縮したような密度感も印象的。ジャズギタリストのジム・ホール「Live!」では、ギターの美しい響きが実に魅力的で、ベースの深さ、ハイハットの小さな響きまで、鳴らされている全ての音が粒立って聞こえる。
平面駆動型のヘッドフォンには、素直な出音に対して低音が物足りない、という思い込みもあったが、SINE+Lightningにおいては、その心配はない。スマッシング・パンプキンズ「1979」のベースラインも気持ち良いドライブ感。低域が強いわけではないのだが、しっかりと下の帯域まで伸びているように感じられる。一方、密閉型のためか音場はあまり広くなく、左右の広がりに対し、前後、上下方向の広がりが乏しく感じる。
ボリュームはiPhoneの目盛り表示で5~8ぐらいで十分。8以上にあげると一応音は大きくなるが、駆動力が上がった感じはしない。また、3~4だと少しかなり線が細くなる。
Apple Music(ミュージック)の圧縮音源だけでなく、ハイレゾ再生を試した。ハイレゾ出力にはSINEとケーブルのほか、HF Player等の対応アプリが必要となる。AUDEZEでは、Lightningケーブルに内蔵したDACやアンプの仕様詳細を明らかにしていないが、結論からいえば、最大48kHz/24bitで出力されるようだ。
プレーヤーアプリ「iAudioGate」で、出力信号を調べたところ、192kHz/24bitや88.2kHz/24bitのFLAC、2.8MHzのDSDは48kHz出力、44.1kHz/24bitの楽曲は44.1kHzで出力された。これまでのLightning対応ヘッドフォンと同様に基本的に48kHz/24bitまでの対応のようだ。もし、96kHzやDSDをそのまま楽しみたいのであれば、Camera Connection Kit等を使って外部DACに出力する必要がある。
アプリはHF PlayerとiAudioGateを利用。キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」では、まずのピアノのアタック感と響きの明瞭さに驚かされる。ちょっとキツくて疲れるかな? というぐらい硬質なピアノの音が耳に残る。高域だけでなく中低域も“音の強さ”が印象的で、メリハリが良いというか、コントラストが強烈だ。音は明瞭だが、音場が狭めという印象は変わらず。他のヘッドフォンで聞くより、アクティブでダイナミックなコンサートになるように思える。
Daft Punk「Give Life Back to Music」では、気持ちのよいギターのカッティングと、ドスッと切れの良いバスドラがライブ感を高めてくれる。コーネリアス「Fit Song」で音の移動感を試したところ、やはり、左右の動きに対して前後方向の広がりは乏しく、奥行きはもう少し欲しいと感じるが、サウンドの勢いで気持ち良く聞けてしまう。イーグルス「ホテル・カリフォルニア」は、思いのほかバランス良く、深みのあるドラムに、絡みあうギターサウンドが明瞭に表現される。
特徴あるサウンドだが、個人的にはSINEのLightning接続のサウンドがとても気に入った。電車に乗っていて、それなりに外の音が入ってきても、曲をしっかり楽しめるのも魅力的だ。
なお、最初にLightningケーブルを接続する際にiPhoneアプリ「Audeze」のダウンロードが促される。このアプリの機能は、イコライザとファームウェアアップデートで、イコライザは32Hz、64kHz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4KHz、8kHz、16kHzの各帯域を調整可能となっている。ファームウェアアップデートは、ケーブル内のDACチップのファームウェアを管理するもののようだ。
SINEを使う前に気になっていたのは、Lightning接続時のiPhoneのバッテリ駆動時間への影響。iPhoneから電源供給するため、ただでさえ物足りないiPhoneのバッテリ駆動時間がさらに短くなるのでは? という危惧だ。
ただし、約1週間、毎日2~3時間程度使ってみたところでは、バッテリ消費に大きな違いを感じなかった。HF Playerで96kHz/24bit FLACファイルを3時間連続再生したところ、再生前に98%だったバッテリ残量が14%減の84%となった。数時間の移動を伴う出張などでは厳しいかもしれないが、普段の通勤利用などでは大きな問題はなさそうだ。
ステレオミニ接続時は、アンプの駆動力に注意
3.5mmステレオミニケーブルでの接続も試してみたが、SINEは平面駆動型ということもあり、能率は良くない。iPhone 6sではボリューム目盛りを8割超えても、サウンドが細身で低域は全然もの足りない。最大ボリュームにしてようやく「鳴りはじめた」と感じるレベルで、もう1、2段は出力が欲しい。SINEでiPhoneのヘッドフォン出力を使うのあまりオススメできない。
専用のポータブルオーディオプレーヤーとしてAstell&Kernの「AK120II」で再生すると、ボリューム目盛り125(最大は150)ぐらいで「かなり鳴ってきたな」という印象だが、更にボリュームを上げたくなる。同音量でソニー「MDR-1」に変えると、耳が痛いほどの音量レベルで再生される。SINEでヘッドフォン出力で楽しむには、相当駆動力の高いプレーヤーが必要だ。
Windows PCに接続したChordのUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「Hugo」+プレーヤー「foobar2000」で聞くと、Lightning接続時より、「ケルン・コンサート」のピアノは、情報量が豊かながら柔らかく、少し上品になった印象。ライブ終演時の拍手の音は、やや音がマイルドになり、会場の広がりが感じられる。Robert Glasper experimentの「Afro Blue」では低域の見通しが良くなり、ボーカルもよりしなやか。この駆動力があれば、Lightning接続時より、好ましく感じられるし、余裕を持ってSINEのステレオミニケーブル接続の魅力も味わえる。
ポータブル時にはLightningでiPhone+SINE、家庭ではステレオミニケーブルで、ヘッドフォンアンプ+SINEという使い分けは面白そうだ。
iPhoneユーザーにとっては、Lightning接続で平面駆動型の音をポータブルで気楽に楽しめるというのは魅力的だし、現状唯一無二の選択肢。ちょっと変わったヘッドフォンを試したい、というiPhoneユーザーには是非使ってみてほしい製品だ。
音場が特徴的で、どんな楽曲でもバランスよく再生というタイプではないのだが、個人的にはボディの質感やデザイン、装着感などを含め、最近試したヘッドフォンで一番気に入っている。
Audeze SINE On-Ear Headphone Lightning Cable |
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