ミニレビュー

取材記録は音から「映像」へ。ソニー「HDR-MV1」を取材で活用

実はライター向け? なミュージックビデオレコーダ

西田宗千佳 取材機材の歴史

 我が家のNASには、原稿と執筆に使った資料が、かなりどっさりと蓄積されている。

 今見たら、原稿は1998年からある。取材資料のうち、取材メモは2002年あたりまで紙だったので段ボールの中に山盛りだが、取材録音データは、1999年末のものが発見された。要はこの頃からボイスレコーダで録音するようになっていた、ということだ。取材件数は年々増えている(恐ろしいことに減っていない)ので一律にはいえないが、2004年からこっち、録音データは年5GBくらい(録音本数にして130本から180本)で推移していた。

 それが今年は激増している。年の半分を過ぎたところで、だいたい140GB(!)。その時点でのデータ数は60本程度だから、数量的に増えたのではなく、1本あたりのデータ量が激増した、ということになる。

 理由ははっきりしている。音声での録音を止め、ソニーのミュージックビデオレコーダ「HDR-MV1」での動画記録に切り換えたからである。

ソニーのミュージックビデオレコーダ「HDR-MV1」。現在は、筆者の取材三点セットのひとつだ

 今回は筆者がなぜ、取材を音声記録から動画記録へ変えたのか、そして、その機材としてHDR-MV1を選んだのか、ちょっと語ってみたいと思う。

「見える」と原稿執筆は楽になる……?

 筆者が最初に買ったボイスレコーダは、ソニーのメモリースティック・ボイスレコーダ「ICD-MS1」だったと記憶している。ぶっちゃけ、音声録音、とはいったものの、ボイスレコーダとして選んだというより、「メモリースティックのテスト用」だった。それまではMDで録音しており、それなりに満足していた。とはいえ、物理メディアからファイル管理へと移るのはやはり便利であるため、ボイスレコーダが取材道具へと切り替わるのに時間は掛からなかった。だが、ICD-MS1は音を独自規格で記録しており(今となっては考えられないが、技術的な問題から、当時はソニーに限らず、そういうものが多かったのだ)、扱いが面倒だった。

 その後、三洋がUSB接続/MP3記録可能なボイスレコーダを出すと、そちらへと移行した。筆者が持っていたのは、「ICR-S290RM」。乾電池で動き、壊れもしなければ使い方もシンプル。実にヘビーデューティーな代物だった。サブ機としての利用も含めれば、なんだかんだで10年は手元にあったように思う。これだけ長く使ったデジタル機器は、おそらく他にない。

 だがこの4年くらい、新製品のボイスレコーダを買うことはなかったし、メインでも使ってはいなかった。

 なぜならスマートフォンが手元にやってきたからだ。超高音質というわけではないが十分な音質であり、その場でヘッドホンで聞くのも容易。常に身につけていて忘れることもない。なにより、データのバックアップが簡単で、管理しやすかった。2012年あたりからは、録音後、データをクラウドストレージのDropboxに自動転送するようにしていたため、データが失われることもまずない。正直、満足度は非常に高かった。

 そこで、あえてHDR-MV1へと切り換える気になったのは、「音だけである限界」を感じるようになったためである。

 筆者は、取材データを生で外に出すことはない。インタビューも単なるテキスト起こしではなく、原稿としてよりよいものになるよう、出来るだけ手を入れたものを使っている。音声はあくまで「ソース」だ。それが動画になったからといって、立場は変わらない。今回は短い撮影サンプルを公開させていただいているが、これは例外だ。

 映像は「見る」ものだ。人に見せるのでなければ、映像として残す意味は薄いように思える。

 だが、取材、特にインタビューが「動画」であるのは、やはり価値がある。

 まず大きいのは、相手の様子がつかみやすいことだ。表情や口元が見えると、いわゆる「テープ起こし」がしやすくなる。特に英語だと、微妙な単語の違いの把握が楽になる。また、複数のインタビュー対象者がいる場合、どの人が話したものかを把握するのが容易だ。取材メモには着席位置を書いておき、発言者もメモし、さらに音の定位で確認する、といったことをやってきたが、動画ならその辺、よりシンプルである。

 こういったことは、取材者の間ではわりと知られた話ではある。知り合いのライターの中にも、カムコーダーやアクションカムで取材記録する人はいる。

 筆者がそういう使い方をするに至らなかったには、もちろん理由がある。音質が今ひとつであり、使いにくかったからだ。特にカムコーダーは、機器がかさばり、充電が面倒で、データ保管も手間がかかる。メリットを飛び越えて「動画化」する気にならなかったわけだ。録音品質を上げたいなら、高音質をウリにするボイスレコーダか、スマホ用の外部マイクを使えば済む。そしてそのジャンルでは、音響メーカーやベンチャーがしのぎを削っており、2013年の中頃には、「私もそのうち、高音質系にするか……」とぼんやり考えていた。

 そして、そうしたマイナス要素をひっくり返してくれたのが、HDR-MV1だったのである。

「高音質」「microUSB」「リーズナブル」で移行を決意

 HDR-MV1は、本来取材用ではない。愛称でおわかりのように、「音楽のセッションを撮る」ためのものだ。ソニー・平井一夫社長によれば、カムコーダー部隊とソニー・ミュージックの関係者が意見交換している際、「ミュージシャンがPVや練習セッションを記録する際、高音質なカムコーダーがなくて困っている」という話が出たことから、「じゃあ、シンプルで高音質記録ができるものを」ということになり、開発された、という経緯を持つ。

HDR-MV1のレンズ・マイク部。X-Y方式のステレオマイクが目を惹く

 カメラ部は同社のアクションカメラ「HDR-AS15V」と大差ない。固定焦点式・画角120度のレンズを使ったカメラ部は、1080/30pの映像を記録できる。アクションカメラ同様、撮影中のピントやズームの操作はしない「据え置き撮影」メインだ。

 アクションカメラと違うのは、マイク部にX-Y方式のステレオマイクを採用したことだ。また、音声にリニアPCM 16bit/48kHzでの記録が選択可能である。従来であれば、音だけ別撮りしないと実現できないレベルのクオリティを「据え置き一発撮り」の簡単さで実現できる。まさに「PV作成」「音楽練習」用のミュージック・カムコーダーという趣である。発売直後には音楽系の趣味を持つ人々にかなり注目されたようで、大ヒットする製品ではないがピンポイントなニーズをもったもの、だったのだろう。

操作画面。ピークメーターが大きく表示されているところがポイント。とはいえ実際に使っている時は、電力がもったいないので画面はオフにしている
HDR-MV1のファイル構造。映像コーデックにAVCを使ったMP4形式。サムネイルなどのためにTHMという拡張子のデータも作られているが、PC内で使う時は無視してかまわない

 筆者は正直、そこまでの品質を求めていたわけではない。だが一方で、アクションカムやカムコーダーレベルなら、ボイスレコーダやスマホでもかまわない、と思っていたのも事実である。しっかりした定位を把握できて、しかも小さな音まで記録できる「余力」が欲しかった。特に、奥で聞こえる小さな音の再現力については、より余裕が欲しかった。HDR-MV1のマイクなら問題ない。ファイル形式も特別なものではなく、汎用性の高いMP4形式。今後も読み取りに苦労することはなさそうだ。

 そして、さらにプラスだと考えたのが、「電力系」の仕様だ。

 HDR-MV1はmicroUSBを使っているため、充電にも、データ転送にも、特殊なケーブルを必要としない。HDR-MV1ならば、いざという時はPCやモバイルバッテリーからいくらでも電力を供給できる。

 そして、バッテリーパックは、筆者が常備カメラとして使っているソニーの「DSC-RX100MK2」が採用している「NP-BX1」と同じものであり、いざとなれば入れ替えて使うことだって可能だ。まあこちらは正直、買うまで気付かなかったのだが。

端子部。一番上から、ヘッドホン、microUSB、HDMIマイクロ、LINE-In。LINE-Inは「音楽用」たるゆえんか

 さらにうれしいのは、ストレージが内蔵ではなく「microSD」である、ということだ。この仕事をしていれば、32GB程度のmicroSDは何枚か自宅にある。8GB以下であれば一山いくらの勢いでジャンク箱のなかにある。これらを使えば、メモリーカードでの追加出費も不要だ。

 とまあこのように、理詰めで考えてみると「取材用カメラとして意外なほど欠点がない」ことに気付いた。

 そこでとりあえず、今年1月のInternational CESの取材から使ってみるか……と思い、試しに使って見たのだが、これが大正解だった。取材初日にサブとして使って以降は一気にメインに昇格、現在も使い続けている。

実用性は思った以上に高い、問題はファイルサイズへの対応か

 メインになった最大の理由は、想定通り「聞きやすく、仕事がはかどる」ことだ。ここは狙い通りだった。また、机の上に置いた際、自然な角度が付くため、相手の顔を狙っておきやすい、ということもある。カンファレンスの録音記録も、床やイスの上に置いて使えばOK。周囲のどよめきや笑いなどの情報も記録できてありがたい。

平らな場所に置くと、こんな感じに角度がつく。スタンドなどを使うと機動性が落ちるので、なにも使わなくていいのはありがたい

 そして、意外なほど良かったのが「囲み取材向け」だ。HDR-MV1を写真のように握ると、ボイスレコーダで囲み取材をしている感覚で、動画記録ができる。軽いし小さいのでかさばることもない。

囲み取材時や立ち取材時には、こんな感じで握って相手の方向に向ける。絵と音を両方、自然な感じで記録できる

 どんな感じになっているかは、サンプルをご覧いただきたい。これは8月5日に行われたUber Japanの会見の一部を切り出したものだ。画質・音質ともにHDR-MV1の最高スペック(1080/30p)は不要なので、720/30p、音声AACで記録しているが、それでも、見やすさ・聞きやすさがおわかりいただけると思う。

 理詰めでわかる「スペック的なちょうど良さ」と「持ってみたバランス」の両面で、HDR-MV1は「取材カメラ」に適切な商品だったのである。

 筆者はその後、取材中などに、多くの同業者(ライター)にHDR-MV1を紹介している。結果、数人がHDR-MV1を購入、現在も取材に活用中だ。その辺からも、実用性の高さがおわかりいただけると思う。

 もちろんマイナス点もある。

 バッテリーが意外に持たないのは厳しい。実利用で、フル充電からでも2時間30分は持つか持たないか、というところだ。ただし、「充電専用」の機能を持つmicroUSBケーブルを併用すると、給電しながら使うことも可能だ。ただし、メーカー側ではサポートしていない使い方である。

 外装は意外とプラスチッキーで安っぽい。仕事の道具としてちょっと手荒に使うと傷だらけになった。ある意味ないものねだりなのだが、以前使っていたボイスレコーダがその点かなり優秀だったので、ちょっと残念だ。

 そしてもちろん、最大の問題は「ファイルサイズ肥大」である。とはいえ、いまやストレージ容量は拡大の一途。PCに入れっぱなしにしておくのは厳しくなってきたが、容量増加を「富豪的」に見れば、たいした問題ではない……と強がりを言っておきたい。実際には、重要度が低いものはスマホで音声記録し、インタビューは必ず動画記録する、という使い分けにしている。今年の取材資料容量は、このままいくとだいたい300GBくらいになりそうだ。改めて数字にするとクラッとくる。

筆者のインタビュー録画データフォルダ。日付や取材対象名を隠させていただいている部分もあるがご容赦を。ファイルサイズで色々察していただきたい

 容量は十分だが、うちのNASも、動き始めてからまる4年が経過している。万一の故障に備えたバックアップ策もあるので安心してはいるのだが、このまま資料が「富豪化」するなら、ちょっと先のことを考える必要があるかもしれない。

 そしてなにより切ないのは、そうして用意した情報で書いた原稿のデータ量は、どうがんばっても年500MBを越えそうにない、ということだ。これでも相当生産量が多いはずなのだが……。

 文字って情報効率高けぇ。

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西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41