ミニレビュー

伝説再び!? 10周年記念イヤフォン「TriFi」を聴く。約6万円で日本限定1,000台

 8個や10個など、多数のバランスド・アーマチュアユニットを搭載したモデルが珍しくなくなった高級イヤフォン市場。一昔前は2万円でも高価で、5万円ともなれば驚きを持って迎えられたが、今では高級機と言えば10万円オーバーも当たり前。それだけ製品数や価格帯の幅が広がり、市場が発展したと言っていいだろう。

左から新モデル「TriFi」、「Triple.fi 10 Pro」。Triple.fi 10 Proのケーブルは純正のものとは異なる

 こうした盛り上がりの原点はどこかと思い返すと、真っ先に思い浮かぶのがUltimate Earsから2007年に日本で発売された「Triple.fi 10 Pro」(発売当初実売5万円程度)だろう。BAを中低域×2、高域×1の2ウェイ3ドライバで搭載し、高解像度かつパワー感のある低域で人気を集め、高級イヤフォンブームの火付け役となった。まだ真新しかったBAユニットの良さを、多くの人に知らしめたモデルとも言える存在だ。

Triple.fi 10 Pro

 そんな「Triple.fi 10 Pro」の開発から10周年を記念し、その系譜に位置する製品がJH Audioから登場する。その名も「TriFi」(トリファイ)。Triple.Fi 10が大人気となった日本市場向けに、1,000台限定で販売されるもので、発売開始時期は1月末〜2月中旬を予定。予定価格は61,600円前後と、JH Audioのイヤフォンとしてはリーズナブル。伝説的イヤフォンを継承するモデルとして、注目度は満点だ。

銘機を踏襲しつつ、最新フィーチャーも

 既に知っているという人も多いと思うが、背景を簡単に説明しよう。ロックバンド、ヴァン・ヘイレンの元音響エンジニアで、ミュージシャンにカスタムイヤフォンを提供していたジェリー・ハービー氏。彼が立ち上げたのがUltimate Ears(UE)であり、そこから生まれたのが「Triple.Fi 10 pro」だ。

ジェリー・ハービー氏

 彼はその後、自身の名前を冠したJH Audioを設立。「Roxanne」など、新たな製品を続々とリリースしているのはご存知の通り。新モデルの「TriFi」は、そんなジェリー・ハービー氏自らが開発を手掛け、JH Audioで培ってきた技術や思想も盛り込んでいる。このモデルのために再設計したBAユニットも使っているそうだ。

新モデルの「TriFi」

 搭載しているユニットの数はTriple.fi 10 Proと同じ3つだ。構成は、低域×2、高域×1の2ウェイ3ドライバとなる。

【訂正】 記事初出時、ユニット構成を“低域×1、中域×1、高域×1の3ウェイ”と記載しておりましたが、メーカー側の発表情報が変更されました。正しくは“低域×2、高域×1の2ウェイ”となります。記事を修正しました。(2016年2月2日)

 また、JH Audioの他背品でも使われている「FreqPhase テクノロジー」も投入。多ドライバ構成において、時間軸と各帯域の位相を正確に制御するものだ。つまり、過去の銘機を踏襲しつつも、最新フィーチャーを取り入れた進化モデルというわけだ。

筐体はブルーパール・カラー。フェイスプレートにはマザーパールを使っている

 筐体はブルーパール・カラー。深みのある青がTriple.fi 10 Proを想起させるが、実物と並べてみると、Triple.fi 10 Proの方がやや緑が多い。色が濃く、光に当てると独特の深みがあるのは両者共通。TriFiにはラメが使われており、キラキラと反射する光が綺麗だ。個人的には、なんとも言えないTriple.fi 10 Proの色味が好きだが、TriFiの方が高級感のある見た目で、甲乙つけがたい。フェイスプレートにはマザーパールを使用。アートワークには、JH Audioのロゴにもなっている 「FlyingGirl」 、モデル名の「TriFi」が描かれている。

左がTriple.fi 10 Pro。やや緑成分が多い

 形状は大きく異なり、TriFiは今時のカスタムイヤフォンでよく見る豆のような形状。Triple.fi 10 Proは横長筐体で、耳孔に横から突き刺さるようなカタチだ。当然、装着した状態ではTriple.fi 10 Proの方が耳から飛び出して見える。TriFiの方が耳孔に蓋をするようなカタチで、装着感も自然だ。TriFiの方がホールド力も高く、安定している。音を出す前に「イヤフォンも進化したなぁ」と感慨にふけってしまった。

筐体にはラメが入っている
イヤーピースを外したところ。ノズルの先端に2つの穴が開いているのはTriple.fi 10 Proと同じだ
形状はカスタムイヤフォンっぽい、今時のフォルムだ

 ケーブルはアンバランスのステレオミニ3極。着脱可能で、端子はオーソドックスな2ピン。昨今の流行りとしてはMMCXだが、ここはTriple.fi 10 Proから変わっていない。JH Audioのイヤフォンは、最近ネジで固定するタイプの端子を使っているが、それとも違うのはやや驚きだ。個人的にはリケーブルのしやすさも考慮し、MMCX端子を採用して欲しかったところだ。

ケーブルを外したところ。端子は2ピンで、Triple.fi 10 Proと変わっていない
付属のケーブルはステレオミニのアンバランス3極タイプだ

“Triple.fi 10 Proぽさ”を残しつつ、より進化したサウンド

 では音を聴いてみよう。プレーヤーとしてはAK380を主に使用。スマートォンのXperia Z5とも接続してみたが、ボリューム値80%あたりで適度と感じる音量が得られた。

Triple.fi 10 Proを久しぶりに聴こう

 TriFiの前に、Triple.fi 10 Proの音を思い出そう。昔は良く聴いたので、どんな音か記憶に残っているつもりだったが、最新プレーヤーのAK380でドライブしてみると「こんなに音良かったっけ」と驚いた。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生。高域の抜けが良く、エッジのシャープな高解像度サウンド。ヴォーカルの輪郭やピアノ、パーカッションの切れの良さが良く伝わってくる。やや高域に硬質な印象があるが、それが独特の爽やかさを産んでいる。

 これだけであれば、昔のBAイヤフォンにありがちの“高域寄りの軽いサウンド”だが、Triple.fi 10 Proは違う。1分過ぎからのアコースティックベースが量感豊かに響き、特に「グォーン」と沈む低域の迫力がキチッと出ている。この中低域の持ち上がり具合、パワフルさを兼ね備えているところが人気モデルになった理由の1つ。バランスの良さを重視しつつ、最低音をしっかりと出す安定感と、さわやかな高域の抜け、分解能の高さを両立している。

TriFiにチェンジ

 そのままTriFiにチェンジ。音が出た瞬間に、「おっほー」っと謎の声が出てニヤニヤしてしまう。聴く前は「進化したTriple.fi 10 Proの音ってのはどんな音だろう?」と思っていたが、聴くと確かに「これは進化したTriple.fi 10 Proだ」と納得させられるものがある。

 まず気付くのは高域の抜けの良さがソックリである事。シャープな描写はまさにTriple.fi 10 Proという印象だが、ヴォーカルの質感で聴き比べると、Triple.fi 10 Proにあった高域の硬さがほぐれ、声の抑揚がより自然に聴こえるようになっている。だが、決してナローになったわけではない。響きに硬さが無くなっている、良い進化だ。

 同時に、中低域の厚みがグッと増えているのがポイント。押し出しが強くなり、Triple.fi 10 Proでは低い部分だけが持ち上がっているように聴こえた部分が、TriFiではよりなだらかなカーブとなり、音が出る瞬間のパワーが増していて、満足度の高いサウンドになっている。

 こう書くと、低域がブォンブォンと派手に膨らむサウンドを想像してしまうかもしれないが、まったくそんな事はなく、量感は豊かで音の出方も力強いが、無駄にボワボワと膨らまない。低域にも高域同様のシャープさが貫かれており、全体域で見通しは良い。

 全体のバランスが良く、上下のレンジも広くなり、モニターライクなサウンドと言っても良い。でありながらも簡素な音ではなく、高域のシャープさ、さわやかな抜けの良さをプラスし、同時に低域のパワフルさも少しアップさせた、“オールマイティーだが肉付きの良いサウンド”と表現できる。恐らく多くの人が好ましいと思う音だろう。試しに編集部全員で聴いてみたが、皆、イヤフォンを外したら「これイイっすね」、「コレで十分じゃないの」というストレートなものだった。

 「イーグルス/ホテルカリフォルニア」を聴いても、冒頭のベースが「グォーン」と野太く入るが、その音の中に弦の震える様子がキッチリと見える。ドン・ヘンリーのヴォーカルが入ってきても、豊かな低域に埋もれず、シャープに分離している。音場の広がりも良好だ。中低域が豊富なので広大な空間に音像が定位というタイプではないが、広がり自体は十分にあるので、閉塞感は無い。さわやかな高域が手伝い、長時間のリスニングでも聴き疲れしない音といえるだろう。

 アニメソングから「μ's/僕らのLIVE 君とのLIFE」を再生すると、ベースラインのゴリゴリ感と迫力が凄まじく、にも関わらずゴチャゴチャせずにメンバーの声の輪郭がシャープに描写される。この癖になるような気持ちよさはまさしくTriple.fi 10 Proの系譜だ。ジャズやクラシックも楽しく聴かせてくれるが、疾走感のあるロックを得意とするイヤフォンと言えるだろう。

 試聴を終えての素直な感想は、先ほども書いたが「これイイじゃん!」の一言。音が良いのはもちろんだが、カスタムイヤフォンより気軽に購入できるユニバーサルタイプのイヤフォンである事、価格が約6万円と、今の市場では猛烈に高価ではない事を踏まえての感想だ。

 えいやと購入するイヤフォンが10万円近い現状では、むしろ購入しやすい価格と言えるかもしれない。にも関わらず、ハイエンドモデルを購入した時に負けない満足度が得られ、かつ、ベーシックな再生能力も高い。万人受けしそうなサウンドデザインも手伝い、「良いイヤフォンが欲しい」と聞かれた時にオススメしやすいモデルだ。

 唯一気になるのは1,000台限定という事。限定モデルと聞くと、プレミアム感が高まって嬉しいが、ぶっちゃけこの音を聴いた後だと「すぐに無くなっちゃうのでは?」と心配になる。無名モデルならまだしも、“伝説的なイヤフォンの系譜”というカッコ良いハクもついている。音の良さが口コミで広まって買おうと思った頃には「売り切れです」という展開も十分ありえる。決断は早い方が良いだろう。

(山崎健太郎)