ミニレビュー

音楽を聞いて仕事に集中に最強! ソニー「MDR-100ABN」

NC+Bluetoothで仕事に没入できるh.ear on Wireless

 ヘッドフォンは、音楽を聴く現代人の生活に必須のデバイスとなっている。昔はウォークマン、今ならスマートフォンやPCなどにヘッドフォンを接続して音楽を楽しんでいる人は多いだろう。

 筆者(笠原一輝)もその一人だが、筆者の場合は純粋に音楽を聴くだけというより、仕事に集中する為に使うデバイスとしてヘッドフォンを活用している。ライターという職業柄、家だけでなく、外で記事を書くことも多いからだ。そうしたときに、周囲の雑音を気にせずに仕事をするためにはヘッドフォンが必要なのだ。

 そんな筆者が最近購入したのが、ソニーの「h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)」だ。Bluetooth 4.0に対応したワイヤレスのオーバーイヤーヘッドフォンで、デジタルノイズキャンセリング対応が特徴。購入してから1カ月程度、筆者なりに使った使用感についてお伝えしていきたい。

ソニーのh.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)

探し求めていたBluetooth、オーバーイヤー、NCが揃ったヘッドフォン

 筆者がヘッドフォン選びで重視していることが重要度の順に2つある。1つはワイヤレス、つまりBluetoothであることだ。これは、仕事でも電車の中などで使う場合でもそうなのだが、ケーブルがあると、絡まったり、本体を入れたカバンやポケットからのケーブルの取り回しを常に気にしなければならないのが鬱陶しい。それを嫌って、2007年ぐらいにソニーの「DR-BT50」というオーバーヘッド型Bluetoothヘッドフォン購入して以来、メインで使うヘッドフォンはずっとBluetoothヘッドフォンだ。

 もう1つの理由は、仕事に集中したいので、外の音をカットできるノイズキャンセリング(NC)、そうでなければ耳を覆って外の音が入りにくくなるというオーバーイヤーのヘッドフォンであることだ。

 このため、ここ数年は概ねソニーのMDR-1xBTシリーズのユーザーで、MDR-1RBT、MDR-1RBTMK2、MDR-1ABTと乗り換えてきた。ただ、このMDR-1xBTシリーズの最大の不満はノイズキャンセリングに非対応という点で、騒がしい喫茶店などで仕事する時には周囲の音が気になる時があった。「NCに対応したMDR-1xBTシリーズがあればなぁ」とずっと思っていた筆者の前に、新たな選択肢として登場したのが、「h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)」だ。

 MDR-100ABNは、1月に開催されたCESで米国向け製品が発表され、その時に会場でノイズキャンセリングの機能を試して、「これはいける」と感じていた。CESの期間中は、PC Watchの取材で手一杯で、MDR-100ABNをじっくり触る余裕はなかったが、ちょっと聞いただけでも、普段飛行機の中でノイズキャンセリング用に使っているボーズの有線タイプのNCイヤフォン「QuietComfort 20」(QC20)に匹敵すると感じた。

 その時点で筆者は、普段使いのヘッドフォンをMDR-1ABT、飛行機の中をQC20と使い分けていたのだが、できれば同じヘッドフォンを機内でも使いたいと思っていた。その最有力候補として、Bluetooth/オーバーイヤー/NCの3つが揃った「MDR-100ABN」が急上昇してきたのは言うまでもない。

AH-GC20に乗り換えるも満足できずMDR-1xBTシリーズに戻っていたのだが…

 実は、以前にも3条件(Bluetooth/オーバーイヤー/NC)を満たす製品は発売されていた。筆者が'15年春に購入したのはデノンの「AH-GC20」。さらに他にも、Beats by Dr. Dreの「Studio ワイヤレス オーバーイヤーヘッドフォン」などだ。Beatsも検討したのだが、ネックになったのはBluetoothのオーディオコーデックで、SBCとAACにしか対応しておらず、WindowsやAndroidで標準的なaptXには非対応という点だった。

デノンの「AH-GC20」

 手持ちのデバイスがAppleで統一されていればそれでもいいかもしれないが、筆者の場合、PCはWindows、スマートフォンはWindowsとAndroid、タブレットはWindowsとAndroidとiPadと、OSが混在している環境となっており、どの機器でも使う場合、aptXとAACの両方のサポートは必須と考えた。この時点でStudio ワイヤレス オーバーイヤーヘッドフォンはなくなったのだ。他にも、Parrot Zik3も候補だったが、設定ツールがAndroidかiOSしかなく、Windows PCとの組み合わせで長時間使うと考えると、選択肢から消えた。

 そうしてみると、昨春の時点で、デノン「AH-GC20」は筆者の条件に当てはまっているように見えた。発売日当日に購入したのだが、しばらくすると満足できなくなり、結局「MDR-1RBTMK2」に戻してしまった。

 理由は、筆者がメインで使っているPCのVAIO Z(VJZ13A、元はWindows 8.1でWindows 10アップグレード済み)に接続すると、最初はいいのだが、一度切って接続し直すとPC側のBluetooth周りがおかしくなり、Bluetoothの機能そのものが使えなくなってしまったため。再起動すると直るが、接続し直す度に再起動とは面倒なことこの上ない。AndroidやiOSの組み合わせだと問題は起こらず、PC側に問題がある可能性もあるが、ドライバーがアップデートしても治らないため、AH-GC20の利用を諦めることにしたのだ。

 そうした中で登場したのが、MDR-100ABN。ブランド名こそ違っているが、型番は同じMDRシリーズということで、MDR-1RBT>MDR-1RBTMK2>MDR-1ABTと乗り換えてきたユーザーとしてなじみがあるのも理由の1つだ。

 ノイズキャンセリングの効き具合も、CESで試して確信を持てていたので、発表と同時に直販サイトのソニーストアで予約して購入した。色はビリジアンブルー(青に近い緑)、シナバーレッド(赤)、チャコールブラック(黒)、ライムイエロー(黄)、ボルドーピンク(桃)という選択肢があったが、落ち着いた色が好みなのでチャコールブラックをチョイスした。

外箱

 直販価格は34,992円、ソニーストアのクーポンにより長期保証/5年ワイド(3,888円)割引となり、送料込み税込価格は37,791円だった。余談だが、ソニー製品はいつも、ソニーストアで買うか、ポイントが実質割引となる量販店で買うか悩むところなのだが、筆者は、クーポンで延長保証で長期保障をつけられる場合には、ソニーストアで買うことにしている。注文したのは2月19日で、3月9日には配送された。

内箱の中には、キャリングケースとその中に本体が格納されている
内容物、USB充電ケーブルと有線ケーブルとマニュアルなど
初期の梱包状態
キャリングケースに格納する状態

Bluetooth 4.0、aptX/AAC両対応、NFC

 筆者の重要なポイントは、Bluetoothとオーバーヘッド/NCなので、その2つのポイントに絞ってMDR-100ABNを評価していきたい。Bluetoothに関しては、以前に利用していたMDR-1ABTとAH-GC20と比較してみた。

左からDENONのAH-GC20、中央がMDR-100ABN、右がMDR-1ABT
製品ソニー
MDR-100ABN
ソニー
MDR-1ABT
デノン
AH-GC20
Bluetooth
バージョン
(出力)
4.0
(Class2)
3.0
(Class2)
4.0
(Class1)
マルチペアリング
・マルチポイント
マルチペアリング
・マルチポイント時
2台同時(A2DP)
--
NFCペアリング-
SBC
AAC
aptX
aptX Low Latency--
LDAC-
SCMS-T
ドライバーユニット40mm ドーム型
(CCAWボイスコイル)
40mmドーム型
(CCAWボイスコイル)
40mm専用
ドライバ
ノイズ
キャンセリング
デジタル方式-デジタル方式
連続再生時間最大20時間最大30時間20時間
重量約290g約300g約275g

 MDR-1ABTに対して、MDR-100ABNが強化されたポイントはBluetoothが最新の4.0になること。ただし、Bluetooth LE(Low Energy)という超低消費電力のモードが利用できるマウスなどと異なり、ヘッドフォンの場合にはBluetooth 4.0にしたからといって具体的なメリットはあまりない。コーデックも標準のSBCの他に、高音質のAAC/aptX/LDACに対応という点もMDR-1ABTと同等だ。

 AH-GC20との比較で言えば、AH-GC20はaptX Low Latencyに対応していることが強みで、逆にMDR-100ABNはソニー独自のコーデックであるLDACに対応していることがメリットになる。現状では、両コーデックも対応製品が少なく、筆者の手持ちの機器だとaptX Low Latencyに対応しているのはWindows 10 November Update(TH2)の機器(PC/スマートフォン)だけで、LDACに関しては1つも無かった。従って、正直さほど必要性を感じていない。

 ただ、MDR-100ABNとMDR-1ABTが、NFCペアリングに対応している点は評価したい。NFC搭載スマートフォンやPCと組み合わせると、機器側のNFCに1、2回タッチするだけでペアリングが完了する。ペアリングだけでなく、再接続時にも使えるし、もう一度タッチすると接続が解除されるので、とてもに便利だ。NFC(ないしはおサイフケータイ機能を持った)スマホなどを使っているユーザーであれば、必須機能と言ってもいいのではないだろうか。

NFCに対応しておりNFC対応のスマートフォンなどでワンタッチでペアリングや再接続、切断が可能

 バッテリ駆動時間に関しては、どの製品も20時間を超えており、日常の利用シーンで困るということはないだろう。MDR-100ABNは、MDR-1ABTより10時間短いが、おそらくわずかに軽量なことと、NCの機能が電力を食うためで、そのトレードオフだと考えれば致し方ないだろう。ただ、実のところ20時間あれば、睡眠時間を除いてほぼ1日中使えるので、帰ってきたら充電と心掛けていれば、困ることは無いだろう。実際、1カ月使ってバッテリ切れになったことは一度もない。

 ただ、デノン「AH-GC20」の方が明確に優れている点もあった。それが複数機器の同時利用だ。マルチペアリング・マルチポイントは、例えばA2DPでオーディオはPCに、HSPでハンズフリーはスマートフォンにといったように、同時に複数の機器で接続できる機能。

 MDR-100ABNも対応しているのだが、AH-GC20の2台同時接続は、A2DPオーディオを2台同時に接続しておける。これに対応していると、PCとスマートフォンを同時にA2DPでAH-GC20に接続しておき、必要に応じて鳴らす機器を切り替える(実際には最後になったデバイスが優先される)ことが可能になる。例えば、普段はスマホで音楽を聴いていながら、時々PCで録音したインタビューの音声を再生するという作業を、イチイチBluetoothの再接続せずに行なえる。非常に便利なので、ぜひソニー製品でも将来の製品では対応して欲しいものだ。

Bluetoothヘッドフォンとしての利用感も良好、スイッチの配置もよい

 Bluetoothヘッドフォンとしての利用感も良好だ。音質については、Bluetooth/aptXで接続し、主にMP3ファイル(160kbps)再生するという筆者のメイン用途で使う限り、MDR-1ABTと同等だ。

 MDRシリーズの特徴は、高音がちゃんと鳴っていることで、ノイズキャンセリングヘッドフォンにありがちなこもった音という感じはない。非圧縮音源やケーブルを接続して聞けば、MDR-1ABTの方がいい音で鳴るのかもしれないが、筆者の用途では同等と感じている。なお、使っている時に周りの人に確認したが、音漏れも特にないようだ。

ドライバーユニットはMDR-1ABTとスペック上は同じ40mmドーム型ということもあって、音もかなり近く感じた

 MDR-1ABTから乗り換えて良かったことの1つは、MDR-100ABNはより小さく折りたためるという点だ。筆者は、ヘッドフォンを日々持ち歩き、使っていない時はカバンにしまって持ち運んでいる。MDR-1ABTは耳に当たる部分が回転はするが折れ曲がらないので、小さく折りたたむことができない。これに対してMDR-100ABNは折れ曲がるため、より小さく折り畳める。カバンにいれる時に、これは重要なポイントだ。

左からAH-GC20、中央がMDR-100ABN、右がMDR-1ABT。MDR-1ABTに比べてかなり小さくたためるのでカバンにいれる時便利

 飛行機内で利用する場合には、有線ケーブルで利用する(最近はBluetoothのヘッドフォン利用が許可されている航空会社もあるが、多くの場合は許可されていないので注意したい)が、その場合はケーブルを挿すと自動でBluetooth部分はオフになり、ノイズキャンセリングだけオンになるなど使い勝手は良い。

 ノイズキャンセリングのオン、オフは、本体の左耳側に用意されているボタンを利用する。電源スイッチは本体とほぼ平行で押し込まないと押せないボタンだが、NCのボタンは若干膨らんでおり、頭につけたまま操作する時でも間違って電源を押すことがない。その他にも、再生/停止や、ボリュームなども大きさが異なっており、手探りで操作する時にも迷わない。ボタン/スイッチの配置がよくできている。

スイッチ類の配置。ノイズキャンセリングのスイッチは膨らんでいるが、電源スイッチは筐体と平行など、工夫されている。再生/停止スイッチやボリュームなどもわかりやすい形状で手探りでも操作しやすい

 もっとも実際に使ってみて気になった点があった。1つは、ヘッドフォンをしながら操作すると、電源オン/オフ、Bluetooth機器の接続時などに音声ガイドが流れるのだが、それが英語音声のみという点。なぜ日本語じゃないの? と思う人はいるだろう。ただ、"PowerOn"、"Bluetooth Connected"などの非常に短いフレーズの英語なので、慣れてしまえばなんてことは無いと思う。

 もう1つは、屋外で使っている時ノイズキャンセリングをオンにしていると、風切り音が気になった。オンにして、風が強い中を歩くとかなり気になる。もっとも、NCの効き自体が良いので、外でオンにしながら使うのは危ない。屋外で使う時にはノイズキャンセリングはオフにして使うほうがいいだろう。

純粋なNC効果はQC20だが、音楽再生はMDR-100ABNが良い

 筆者の2つ目のポイントであるノイズキャンセリングだが、従来のソニーのNC機能は、シーンに合わせて機能をユーザーが切り替える方式などが採用されていた。しかし、MDR-100ABNでは、フルオートとなっており、騒音の種類に応じて3つのモードから自動的に切り替わるようになっている(ユーザーとしてはどこでどう切り替わっているか全くわからないが)。

ボーズ「QuietComfort 20」

 実際に使ってみた感想だが、従来ノイズキャンセリングイヤフォンとして使っていたボーズ「QC20」と比較しても遜色ない出来と感じている。NCの機能が一番わかりやすい飛行機の中で比較してみたところ、どちらも“ゴー”という飛行機特有のノイズがきっちり消されていた。

 QC20は、何も再生していない状態でNCだけをオンにした状態でより、ゴーという音がほぼ消されており、NC特有のホワイトノイズがやや聞こえるという印象。それに対してMDR-100ABNは、何も再生していないとゴーという音がやや残るが、気になる高音部がカットされていて、若干の低音部が聞こえるという印象だ。何も音楽をかけず純粋に“耳栓”として使うのであればQC20の方が優れていると感じた。

 しかし、デバイスで音楽を再生してみると、印象はだいぶ変わった。QC20の方がノイズキャンセリング特有のややこもった印象を受けるのに対し、MDR-100ABNの方は高音部がちゃんと再生されていて不自然な感じがないのだ。音楽をかけて快適に聞きたいというニーズであれば、MDR-100ABNの方が優れている。

 この特徴は、機内でなくても同様。カフェや自宅で仕事している時なども、周りの音を気にせず作業に没入できるという点で、MDR-100ABNは筆者がこれまで使ってきたヘッドフォンの中で最も没入感が強いといえる。

 実際、MDR-1ABTの時には、音楽をかけていても家族が帰ってきて玄関のドアが開けば、その音で家族が帰ってきたことに気がついていたのだが、MDR-100ABNに買い替えてからは、家族の帰宅に気がつかず、仕事部屋のドアが開いて初めて気がつくということも何回かあった。

音楽をかけて集中して作業する筆者には最強ヘッドフォン

 筆者の現時点でのMDR-100ABNの評価は、「集中して作業したい時に最強のヘッドフォン」というものだ。Bluetoothで接続されているのでケーブルに煩わされることもないし、音楽をかけてしまえば高音質でかつ周囲の騒音をカットした状態で聞くことができる。家族の帰宅にも気づかないというのは、それだけ集中して作業ができているということだ。

 筆者はあくまでBluetoothでMP3を聞く用途でしか使っていないので、有線接続して、ハイレゾ音源を再生した時などの性能などはわからない。だが、筆者と同じように、音楽をかけて作業に没頭というニーズにおいては、史上最強のBluetoothヘッドフォンと言ってもいいと思っている。同じような悩みやニーズを持つ人には、是非試してほしいヘッドフォンだ。

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笠原一輝