レビュー

“いつでもどこでもTV”を手軽に「Slingbox PRO-HD」

約2年間使用中。タブレット時代ならではの利便性

Slingbox PRO-HD

 イーフロンティアが販売する米Sling Mediaの「Slingbox PRO-HD」は、いわゆる"ロケフリ"と総称される、場所や時間を選ばず自宅に設置したレコーダやチューナの映像をインターネット経由で楽しむことができるようにする製品だ。

 以前からこうした製品は、PCと組み合わせて利用されることが一般的だったが、近年はスマートフォンやタブレットといったより手軽に使える機器が登場していることで、より手軽に活用できるようになってきている。

 2011年初頭に発売された製品だが、筆者も発売開始すぐに購入し、すでに2年近く使用している。本記事では「Slingbox PRO-HD」の利用シーンなどについて紹介していきたい。

いわゆる“ロケフリ”が必要な人達

 スマートフォンやタブレットが流行りだして、誰もがモバイル機器を持ち歩き、自分自身が持つ情報やコンテンツに、いつでもどこでもアクセスできる時代になった。昔からノートPCを毎日持ち歩き“奇人変人”よわばりされていた筆者からすれば、いい時代になったなと感じている。

 しかし、ではすべてのコンテンツにアクセスできるようになったのかと言えば、そうでもない。時間や場所に縛られないと楽しむことができないコンテンツがある。「テレビ放送」だ。

 無料放送の地上波に関しては、携帯電話にワンセグチューナが装備されていれば、かなり広いエリアで楽しむことができるようになってきた。しかし、衛星放送のBS/CSに関してはアンテナとチューナ、さらには契約情報が入ったB-CASカードが無ければ視聴することができないため、実質的にテレビやレコーダなどがある場所(普通は自宅)でしか楽しむことができない。

 また、地上波、BS、CSに関わりなく、日本の放送コンテンツにはコピー制御が導入されており、多くはダビング10、一部有料放送ではコピーワンス(録画したコンテンツのムーブのみ許可)となっている。国内メーカーの一部製品を除き、一般的なスマートフォンやタブレットにはダビングできないことがほとんどだ。

 こうした状況を大きく変えてくれる製品が「Slingbox PRO-HD」だ。レコーダに接続することで、録画したコンテンツをネットワーク経由で、特定のクライアント機器に対して1:1で配信するという仕組みだ。

 重要なのはこの1:1でという点であり、誰にでも配信する「公衆配信」では無く、ユーザーが自分のクライアントにだけ「限定配信」するという仕組みのため、著作権法などの関連法令もクリアできているというわけだ。

 この手の製品は俗称として“ロケフリ”とも呼ばれている。ロケフリとは、ロケーションフリーという英語の略称で、元々はソニーが発売していた「ロケーションフリー」という製品ブランド名に由来する。基本的なしくみはSlingbox同様だが、ソニーは5年以上ロケフリの新製品を発表しておらず、全製品が生産終了している。この手の製品の有力な選択肢は、SlingboxのほかはVULKANO FLOWくらいだ。

 この手の“ロケフリ”機器はある特定のユーザー層には非常に魅力的なはずだ。例えば、以下のような人達がこうしたソリューションを必要としているからだ。

(1)海外に赴任する日本人が、実家などにロケフリ機器を置き、海外からインターネット経由で視聴する
(2)仕事で家を空ける機会が多いビジネスパーソンが出張先などからインターネット経由で視聴する
(3)BS/CS放送などでしか放送されていない特殊なコンテンツ(スポーツなど)をどこでも見たい

 実際、筆者も(2)ないしは(3)に相当するヘビーユーザーだ。

 僚誌PC Watchの読者の方はご存じかもしれないが、筆者の仕事は国内外の半導体メーカーやPCメーカーを取材してPC業界の動向の記事を書くことだ。このため、海外出張も多く、家を空けることが少なくない。また、筆者の最大の趣味は、モータースポーツ観戦、その中でも特にF1レースを見ることが三度の飯よりも大好きだ。

 その筆者にとって最も避けたい事態は、レースを見る前に“ネタバレ”してしまうことだ。言うまでも無いと思うが、スポーツは結果を知ってから見ると、面白さ半減だ。誰が勝つのかわからない“筋書きの無いドラマ”だからこそスポーツ観戦は面白い。

 最近ではTwitterやFacebookなどのSNSも発達しており、ニュースを見ないようにしようとしても、誰かがつぶやくということは普通に起きる。そんな事態を防ぐために、やはりスポーツはできるだけライブか、ライブでは見られないとしてもできるだけライブに近い環境で見るようにしたい。そうした状況で、“ロケフリ”機器を利用してCS放送でやっているF1の生中継を外出先からライブで視聴しているのだ。

設置は単純だが、ネットワーク周りの知識が必要

 筆者はかつてソニー「LF-B1」ユーザーであったが、ソニーのロケフリはすでに全製品が生産完了になっている。これにより多数の“ロケフリ難民”が発生していたのだ。そうした難民に福音となったのが、2011年にイーフロンティアが国内販売を開始した「Slingbox PRO-HD」だ。筆者も販売開始直後の2~3月頃に導入している。

 Slingbox PRO-HDには、1つのチューナと2つの入力系統を持っているが、内蔵チューナはアナログのため、実質的には使い道が無い。このため、コンポーネントないしはコンポジットという2つの入力に対してレコーダや外付けチューナなどを接続して利用することになる。また、コンポジット/コンポーネントの各出力端子も備えているため、テレビとレコーダなどの間に挟み込んで設置できる。

Slingbox PRO-HDを設置したところ、下にあるのがレコーダになる東芝「DBR-M180」。右端に見えるIRブラスターでSlingboxからレコーダを操作する
背面。入力はコンポーネントが1系統、コンポジット/Sビデオが1系統

 設置については、一般的なAV機器の知識と、LANの設定をしたことがある人ならば、そんなに戸惑わずできるだろう。しかし、IPアドレス、DHCP、UPnPといった用語が「1つもわからない」といった人でも簡単か? と問われると難しい。おそらく簡単では無いだろう。そんな場合は、販売元のイーフロンティアが有料の訪問設定サービスを用意しているので、そうしたサービスの利用を検討したい。

 機器の設置で問題になるのは、HDMIかコンポジット端子しかない最新の機器で接続する場合だ。Slingbox PRO-HDの入力はHDMI端子がなく、コンポーネント端子(D端子変換ケーブルが付属)、もしくはSビデオ/コンポジット端子のみのため、Sビデオ/コンポジット端子接続の場合、SD解像度でしか再生することができないからだ。

 最近のBDレコーダでは、著作権保護の関連でHD解像度対応のアナログビデオ出力機器がほとんど無くなっており、HD出力はデジタルのHDMI出力のみとなっている。

 実際、筆者宅では東芝のREGZAサーバー「DBR-M180」をSlingbox PRO-HDに接続しているのだが、DBR-M180もアナログビデオはSビデオ/コンポジット出力のみのため、この点はやはり問題になった。他の機器の接続も考えたのだが、全番組録画をできるREGZAサーバーを活用したいし、BS/CS放送はREGZAサーバーで録画しているため、結局はSビデオ端子に接続している。

 筆者の場合は、それと同時に東芝のREGZAチューナー「D-TR1」をコンポーネント端子に接続し、HD解像度で見たいときにはそちらを利用するようにしている。というのも、Slingbox PRO-HDには2系統の入力が用意されており、クライアントから入力を切り換えて利用することが可能だからだ。

 外出先からインターネット経由でSlingbox PRO-HDに接続して見る場合、回線側の速度が十分ではなかったりすることも少なくない。そうした時にSビデオ接続のREGZAサーバー側に接続する。一方、家の中でPCなどからライブでテレビを見る場合には、コンポーネント端子のREGZAチューナーにと使い分けている。

スマートフォン/タブレット向けのプレーヤーも用意されている

 設置が終わってしまえば、あとは利用するだけだ。クライアントは、以下のような選択肢が用意されている。

(1)PCのブラウザ(Windows、Mac OS)
(2)スマートフォン(iOS、Android)
(3)タブレット(iOS、Android)

 Windows PCやMacでは、Internet ExplorerやChromeなどのWebブラウザを利用して視聴できる。筆者はChromeを利用しているのだが、Chromeの場合には専用のプラグインが用意されており、それをインストールすることでChromeのアプリケーション一覧からSlingPlayer for Webとして呼び出せる。

 ブラウザの中でも視聴は可能だが、ポップアッププレーヤーとして別ウインドウにして起動したり、映像を最大化して表示することもできる。

Slingbox PRO-HD

 スマートフォンやタブレットで見る場合には、それぞれのOSのアプリストアから購入する必要がある。注意したいのは、iOS用、Android用それぞれにスマートフォン向けとタブレット向けがあることだ。

 Androidの場合、スマートフォン用とタブレット用が別々に販売されており、それぞれ1,099円。基本機能は一緒だが、タブレット版は高解像度に最適化されたUIを採用し、大きな画面で操作しやすいようになっている。

 なお、筆者が試してみたところ、タブレット版をスマートフォンにインストールすることはできなかったが、スマートフォン版をタブレットにインストールすることはできた(もちろんメーカーの動作保証外なので、試すときは自己責任で)。従って、Androidタブレットとスマートフォンの両方を持っているユーザーであれば、スマートフォン版を買っておけば、タブレットでの操作の快適性は落ちるものの両方で使うことができる。とはいえ、タブレット視聴が中心であれば、操作し易いタブレット版の利用をおすすめする。

Androidタブレット版の入力切替画面。通常のAV機器を操作するような感覚で操作できる
Androidスマートフォン版のリモコン。文字での表示になっており、タブレット版のグラフィカルな表示に比べるとやや操作しにくいが、スマートフォンではこの方が操作し易い

お風呂、車、台所。SlingPlayer for Mobileで快適なテレビ視聴

 では筆者の環境でどのように利用しているのかを紹介していきたい。

 もっとも多い利用シーンは、実は家の中だ。筆者の自宅では家族共用のAndroidタブレットとしてNTTドコモ「ARROWS Tab LTE F-01D」を利用している。この製品はLTEモデムを内蔵しており、NTTドコモのLTEネットワーク経由で通信ができるのだが、実際には内蔵のモデムはオフにして無線LANで家庭内のネットワークに接続している。

お風呂でARROWS Tab LTE F-01Dとの組み合わせで利用しているところ

 ARROWS Tab LTE F-01Dの最大の特徴は、タブレットなのにIPX5/IPX7レベルの防水を実現していることにあり、お風呂場や台所といった水回りでも使える点にある。筆者はこのF-01Dに、SlingPlayer for Mobileを導入することで、お風呂場や台所でお皿を洗ったり料理したりするときにテレビを見る用途に利用している。

 こうした場所ではこれまでワンセグが利用できるお風呂テレビを利用するというユーザーも少なくなかったと思うが、こうした防水タブレットや防水スマートフォンとSlingboxの組み合わせであれば、もちろんライブテレビを楽しめるほか、レコーダに録画しておいた番組を楽しむこともできる。

 また、マンションなどで風呂場が建物の奥のため、ワンセグの電波が入りにくいということもある。こうした場合でも、Slingboxであれば無線LANの電波さえ届けばいいのだから心配する必要が無い。防水タブレットであれば、別にテレビを見るだけでなく、他の用途(例えばSNSを見たり、Webサイトを見たり)にも活用できるため、お風呂場や台所などのながら用途には最適だとも言える。

外出先では? モバイル回線では、回線のデータ量制限に要注意

 また、自動車で外出する場合には、Googleの7型液晶搭載Androidタブレット「Nexus7」をダッシュボードに取り付けて利用している。もちろん、運転中には危険なので操作したり、画面を注視しないのはもちろんで、そうした行為は道路交通法でも禁止されており取締の対象になるので注意したい。

 筆者の場合は、停車中で誰かを待っている時などちょっとした時間つぶしに使ったり、停車してCS放送を見たいときや、同乗者のためのデバイスとして利用している。

 このNexus7にもSlingPlayer for Mobileをインストールすることで、まるでワンセグ放送のように使えている。筆者のカーナビは2005年モデルとやや古い型であるため、TVチューナーはアナログ放送のみ対応となっており、2011年7月のアナログ停波以来一切使えていないのだが、そのかわりとしてSlingPlayer for Mobileを利用している。

車の中でNexus 7の利用例

 ただし、外で利用する場合には回線の選択に注意が必要だ。現在の携帯電話キャリア3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)でWi-Fiルータなどを利用する場合には、データ通信の容量に制限がある場合がある。例えば、NTTドコモで、Xi対応のWi-Fiルータを契約すると、7GBまでは定額だが、それ以上のデータ通信を行なうと通信速度が128Kbpsに制限される。この制限はSlingboxの動作環境である250Kbpsを下回る通信速度だ(追加料金を払うことで解除は可能)。

 実際Slingboxのようなストリーミングで動画を転送する使いかをすると、データ量は決して小さくなく、Slingboxの最低動作環境である250kbpsで再生していたと仮定して1時間使えば計算上は112MBになる。これで月に30時間見ればそれだけ3GBに達してしまう。これは机上の計算であり、Slingboxの仕様上、回線が速ければもっと高いビットレートでの再生されるため、簡単に7GBの壁を超えてしまう可能性は高い。

 このため筆者は通信容量に制限が無いUQ WiMAXを契約しており、そちらで利用することにしている。ただし、通信可能エリアは一般的な携帯電話の回線を利用しているキャリア3社などに比べるとやや狭く、通信できない場合もある。その時はメイン回線のNTTドコモの回線を利用することにしているが、その場合には前述のようにコンポジット端子に接続しているREGZAサーバーを低い方の画質(SQ画質)で見ることで、データ量をおさえるようにして見ている。この他にも、キャリアによっては、Wi-Fiの接続サービスを無料で提供している場合があるので、特定の飲食店などでいわゆる公衆Wi-Fiのサービスが利用できる場所であればそちらを利用するなど、各自データ容量の制限には注意して利用する必要がある。

 また、「外出先」という意味では海外や国内の出張時に、CS放送のフジテレビNEXTだけで放送されているF1の生中継をライブで視聴したり、録画をできるだけ早く見るために利用している。

 例えば、米国への出張のフライトが日曜の夕方だったりすることは結構多く、ちょうどフライト中(ヨーロッパのF1レースは日本時間午後9時にスタートする)にF1レースが行なわれていたりする。その状況では、日本に帰るまでにF1関連のニュースを目にしないのはほぼ不可能。なので、現地に着いたらできるだけすぐに録画済みのレースが見たいのだ。

 そこで、滞在先のホテルまではスマートフォンなどをすべてオフにして情報を遮断し、ホテルに着いたら即、Slingboxを使って録画しておいたレースを見る。その後で、スマートフォンの電源を入れSNSなどにアクセスするなどの使い方をしている。

 ただ、ここでも回線の品質は最大の問題だ。国内であれば高速な3GやWiMAXなどの回線が利用できるが、海外ではそれができないことがあるからだ。特に海外のホテルのWi-Fiは遅いことも多く、回線速度がSlingPlayer for Mobileで必須の250Kbpsを下回っていることが少なくない。そのため、現地のプリペイドSIMを購入して、3GやLTE回線を利用するようにしている。米国へ出張の場合は、WiMAXのローミングサービスが無料で使えるため、最近はこれを利用することが多い。

 F1など、どうしても生か生に近い状態で見たい番組があるときに限定して、国内のキャリアが海外で行なっているパケット定額のローミングサービスを利用することもある。例えば、NTTドコモの場合、日本時間の0時0分~23時59分までの間を1日としてカウントし、この間であれば20万パケット(約24.4MB)までであれば1,980円、それ以上であれば2,980円で利用することができる。確かに安くは無いが、緊急時にはこれをオンにして視聴することにしている。あまり大量のデータを通信していると、速度制限の対象になるので、もちろん画質は最低にしておくのがポイントだ。なお、海外ローミングは設定を間違えると高額の料金を請求されることがあるので、実際に行なう時にはキャリア各社のWebサイトを参照して間違いの無いように設定したい。

スマートフォンやタブレットの機能を拡張する機器

 Slingbox PRO-HDを活用すると、これまではテレビを楽しめなかったシーン(例えばお風呂場や台所)といった所でも楽しめるほか、BSやCS放送といったB-CASカードの制限があることで楽しめる場所に制限がある放送やレコーダに録画したコンテンツをどこからでも楽しめるようになる。

 特に、今は誰もがスマートフォンを持ち歩く時代になっており、SlingPlayer for Mobileを利用することで、本当の意味でどこからでもそれらを視聴することが可能になる。

 Slingbox PRO-HDは実売で29,800円と決して安価では無いが、例えばすでに防水スマートフォンを持っているユーザーが、Slingbox PRO-HD+SlingPlayer for Mobileを併せて購入すると3万円強の価格となる。レコーダも接続できるような無線で飛ばせるタイプのお風呂テレビを買うと、それよりも高価になることを考えれば決して高い価格ではないと筆者は思う。

 “家庭内だけ”であれば、最近のBDレコーダはDTCP-IP/DLNAサーバーにもなり、対応タブレットも増えているので、他にも幾つか選択肢はある。しかし、家でも外出先でもほぼ同じ環境でコンテンツを楽しめるというのは、Slingbox PRO-HDならではの魅力だ。

 海外に赴任するけど日本のテレビを見たい、出張先などいつでもどこでもBS/CS放送などを楽しみたい、防水タブレットやスマートフォンなどを所有していてそれに新しい機能として“ロケフリ”の機能を追加したい、そうしたユーザーであれば、Slingbox PRO-HDを検討してみる価値があるのではないだろうか。

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笠原一輝