レビュー

ヘッドフォンも耳に合わせてカスタムする時代!? JBLの意欲作EVEREST ELITE

 ユーザーの耳のカタチに合わせて作るカスタムイヤフォン、交換によって理想の音を追求するリケーブル、ユーザーが好きな音を追求できるイコライザなど、ポータブルオーディオでは“カスタム”が人気。そんな流れを受け、ヘッドフォンにも「ユーザーに合わせて音をカスタマイズする」製品が登場した。JBLのBluetoothヘッドフォン「EVEREST ELITE」シリーズだ。

今回取り上げる2機種。左が「EVEREST ELITE 300」、右が「EVEREST ELITE 700」

 以前、「EVEREST」シリーズをレビューしたが、その上位モデルにあたる、JBLのモバイルヘッドフォン/イヤフォンの最上位が「EVEREST ELITE」だ。約70年の歴史を持つJBLは、ピュアオーディオスピーカーのハイエンドモデルに最高峰の山の名前をつけているが、その伝統をモバイルで受け継ぐシリーズと言える。

左がJBLのProject K2 S9900、右がProject EVEREST DD67000。ハイエンドスピーカーでは最高峰の山の名をつけるのが伝統だ

 最上位らしく、音質を追求するだけでなくBluetoothによるワイヤレス接続、アクティブノイズキャンセリング機能、そして前述の“ユーザーに合わせて音をカスタマイズする”オートキャリブレーション機能も備えた意欲作だ。

 価格はヘッドフォンの「EVEREST ELITE 300」が29,880円、「EVEREST ELITE 700」が34,880円、イヤフォン「EVEREST ELITE 100」(4月下旬発売予定)が27,880円となっている。今回は、4月下旬発売のヘッドフォン「EVEREST ELITE 300」、「EVEREST ELITE 700」を使ってみる。

基本的な仕様をチェック

 気になるオートキャリブレーション機能の前に、各モデルをチェックしよう。

 カラーバリエーションは、ヘッドフォンの「EVEREST ELITE 300」がブラック、ブラック/レッド、ホワイト。「EVEREST ELITE 700」はブラック、ブラック/ブルー、ホワイトを用意している。

ELITE 300。左からホワイト、ブラック、ブラック/レッド
ELITE 700。左からブラック/ブルー、ブラック、ホワイト
EVEREST ELITE 300のホワイトモデル。エレガントなカラーだ

 ハウジングはどちらも密閉型。搭載ユニットも40mm径でサイズは同じだが、300はオンイヤータイプ、700はアラウンドイヤータイプとなる。300はオンイヤーとは言え、平面のイヤーパッドではなく、耳の周囲にパッドがフィットし、中央は空間が空いているタイプだ。700は耳の周囲にパッドがフィットする。

EVEREST ELITE 700のブラック/ブルー

 両モデルとも、Bluetoothバージョン4.0に対応し、コーデックはSBCをサポートする。ハウジング側面に操作ボタンを備えており、右ハウジングの背面上側にあるボタンを長押しすると、電源ONとペアリングモードになる。スマホなどから機器の検索をすると型番が表示されるので選ぶだけ。NFCには対応していないが、ペアリング自体は簡単にできる。

 有線接続にも対応し、ヘッドフォン側の入力端子は4極の2.5mm、プレーヤー側は3.5mmの4極だ。バッテリが無くなっても、スルーで音を出す事ができ、普通のヘッドフォンとして使うことができる。

どちらのモデルも有線接続に対応している

 側圧はどちらのモデルも強めだが、イヤーパッドが柔らかく沈み込むので痛いとか、キツイと感じる事はない。シッカリとホールドしてくれるので安心感があり、小走りしたり、首を動かす程度でズレる気配はない。

 ハウジングは内側に折りたたみ可能で、キャリングケースも付属する。

ハウジングは内側に折りたたみできる

 再生周波数帯域はどちらも10Hz~22kHz。有線接続時の感度は300が102dB/mW、700が99dB/mWで、インピーダンスは16Ωで共通。バッテリの最大持続時間と重量は、300が約10時間で255g。700が約15時間で305gだ。

電車内で使う「Ambient Aware」機能が便利

 ノイズキャンセル機能も両モデルが搭載。新技術「NXTGen Active Noise Cancelling Technology」が使われている。

さっそくノイズキャンセル機能を電車でチェック

 両モデルを電車内使ってみると、「ゴーッ」という低い走行音がかなり低減される。音楽をかけると、騒音がある事自体ほとんど気にならない。キャンセル能力が強力な製品だと、鼓膜が圧迫されるような感覚を受けがちだ(高層ビルのエレベーターに乗った時のような)。だが、この製品に関しては、そんな不快感も無い。

 2機種のNC機能の優劣だが、アラウンドイヤーとオンイヤーなので比較が難しい。静かな編集部でじっくり比較してみると、空調の「ゴーッ」という音や、キーボードのカチャカチャした音の中の低音の減り具合にさほど大きな違いはない。オンイヤーの「ELITE 300」の方が耳の周りをピタッと抑えるので“より静かになる気がする”程度だ。

アプリのメイン画面。下部にあるのが「Ambient Aware」の調節ボタンだ

 便利なのは「Ambient Aware」という機能だ。ヘッドフォンの細かな制御が可能なアプリ「My JBL Headphones」をインストールすると、「AWARENESS」という項目があり、OFF/LOW/MEDIUM/HIGHを選択できるようになっている。

 OFFは普通にノイズキャンセルを効かせている状態。駅のホームで立ったまま、音楽を止めた状態で「LOW」を選ぶと、静けさは変わらないのだが、周囲の人の話し声や、足音が少し耳に入ってくる。「MEDIUM」ではそれらがより目立つようになり、HIGHだとかなり明瞭に、強調されたように聞こえてくる。

 面白いのは“ノイズキャンセルの効き具合が弱くなっていく”のではなく、外の世界の“高めの音”が耳に入ってくるようになる事だ。例えば、駅に電車が入ってきた時の「ゴォー」という低い音はカットされて静かなまま、AWARENESSのHIGHを選ぶと、周囲を歩いている人達の靴音だけが「カッカッ」、「コツコツ」と明瞭に聞こえてくる。

 これが効果を発揮するのは、車内やホームでアナウンスがある時だ。NCヘッドフォンを装着して、スマホで音楽を流しながら何かのアプリをいじっていると、NC機能でアナウンスが聞こえず、降りるはずの駅を過ぎてしまったなんて失敗が起こる。

 そんな時、例えばMEDIUMにした状態で音楽を流していると、「あれ? 今、何かアナウンスがあったな」と気づくようになる(あまりにも音楽を大きなボリュームで流していると流石に聞こえないが)。そこで、音楽再生を停止し、MEDIUMのまま、もしくはHIGHを選ぶと、ヘッドフォンを耳から外さなくてもアナウンスが聞き取れる。

 車内で試してみると、走行しているゴーッという低い騒音をカットした上で、人の声の高い音を拾って聞かせてくれるので、ヘッドフォンを外した時よりもむしろ聞き取りやすい。ただ、人の声自体は自然な声ではなく、塩ビパイプの端っこに口をつけて喋ったような、ちょっと不思議な声に聞こえる。

 「ヘッドフォンを外せば済む話」ではあるのだが、例えば満員電車で右手はつり革、左手はスマホなんて時には、スマホの操作だけで上記の事が可能なAmbient Awareはとても便利だ。

アナウンスを消して、ギターサウンドなど他の短い音に変える事もできる

 もう1つ気に入ったのは、Ambient Awareを効かせていても、再生している音楽の音質がさほど変化しない事だ。もちろん外部の音が入ってくるのでまったく同じ音というわけではないが、バランスが崩れたり、音楽まで高域に寄ったりというような事はまったくない。「何かアナウンスがあった」と思って、慌ててAmbient AwareをONにするのではなく、常時LOWやMEDIUMを選択した状態で音楽を聴く……という使い方もアリだ。

 ちなみにモードを選択するたびに、女性の声で「Ambient Aware LOW」、「Ambient Aware HIGH」と喋るので、その声でアナウンスが聞こえないという場面もあった。だが、設定メニューからボイスをOFFに、ギターサウンドなど他の短い音に変更できた。

ハウジングは部屋? リスナーの耳に合わせた補正で再生

中央の白いボタンがオートキャリブレーション機能のスタートボタンだ

 いよいよオートキャリブレーション機能を試してみよう。ヘッドフォン本体でも、右ハウジングの下側ボタンを長押しすると使えるのだが、せっかくなので先ほどの「My JBL Headphones」アプリから操作してみよう。

 ホーム画面右上のボタンを押すと、非常にシンプルでわかりやすいオートキャリブレーション画面が出てくる。書いてある指示は「ヘッドフォンを装着」、「スタートボタンを押す」の2つだけ。

 言われたとおりに「スタート」ボタンを押すと、「ピュイ」という電子音(サイン波)が一回だけ流れ、しばし無音に、押してから約9秒後に再び音楽が聴こえだした。

キャリブレート用ボタンには、ノイズキャンセル機能を割り当てる事もできる

 すると、明らかに先ほどまでと音が違う。まずわかるのは低域の深みだ。キャリブレートする前はやや膨らみがちでボワッとしていた低音が、キャリブレート後はビシッと締り、キレが出て、解像度が上がり、ベースが切り込む様子がよく分かるようになる。

 これに伴い、中高域のコントラストもアップ。クリアでより明瞭なサウンドに変化した。この傾向は300でも700でも同じだ。なお、アプリを使わなくても、右ハウジング側面の下側にあるボタンを長押しすると、キャリブレーションが可能だ。また、アプリからボタンの機能割り当てを、キャリブレート/ノイズキャンセルから選べるようにもなっている。

ハウジング側面の下側のボタンでもキャリブレーションできる

 面白いのでヘッドフォンを外してキャリブレート開始、完了してから装着して音を聴いてみると、最初の状態よりも低音が膨らんだ、モコモコしたサウンドに変化している。装着したまま再度キャリブレートとすると、またスッキリクリアなサウンドに戻った。

 オートキャリブレーションが何をしているのかは、ホームシアターを思い浮かべるとわかりやすい。

 御存知の通り、昨今のAVアンプにはマイクが付属しているモデルが大半で、シアタースピーカーの中央、リスナーが座る頭の位置にマイクを設置。周囲のスピーカーから音を出して、その音が部屋の壁などにも反射しながらどのように耳に届くかを計測。その測定結果を踏まえ、補正をした状態でサラウンドを鳴らす“自動音場補正機能”が搭載されている。

 この理屈をヘッドフォンに置き換えると、ドライバユニットとリスナーの耳が存在するハウジングの中が、ある種の“部屋”だと気づく。ドライバから発せられた音は、ハウジングの内部だけでなく、イヤーパッドを介して繋がっている耳の穴や、耳の周囲などにも反射しながら鼓膜に届く。そして、耳の形は人によって異なるため、その“届き方”も人それぞれ。

 そこで、テストトーンを「ピュイ」と鳴らし、耳やハウジングに反射して戻ってきた音をマイクで集音、「ああ、この人の耳はこんな形状なのだな」とヘッドフォン側が認識した上で、「では貴方にはこんな音で」と、補正した音を流してくれる……というわけだ。

700の内部。ユニットの前にある銅色のパーツがマイクだ

 「My JBL Headphones」アプリにはイコライザも搭載されており、プリセットを選んだり、好みの設定を保存する事も可能だが、オートキャリブレーションは好みの音を追求するのではなく、ベーシックな再生音を高品位にするという印象だ。ユニークかつ実用的な機能と言えるだろう。

キャリブレーションした上で音質をチェック

 300と700のサウンドを、キャリブレーションした上でチェックしよう。接続相手はXperia Z5だ。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best of My Love」を再生。まず300から聴いてみる。

 700と比べるとハウジングが小さく、NCヘッドフォンでもあるので、音場は狭めかなと予想しながら音を出すと、それを良い意味で裏切ってくれる。ボーカルの声の余韻が、音像の背後の空間にキチンと広がり、消えていく様子が見える。

 狭い部屋に押し込まれたような、壁を感じる事もなく、開放的なサウンドだ。その印象には、中高域の抜けの良さも寄与している。付帯音や色付けが少なく、解像度も高い。女性ヴォーカルのサ行など、やや高域がキツ目に出る瞬間もあるが、昔のNCヘッドフォンのモワっとした“眠い音”のイメージを打ち壊す明瞭さが良い。

 低域も量感とキレが同居した描写で、ボワボワ膨らんだり、中高域にかぶさって不明瞭にしたりはしない。ビートをキッチリ描写し、音楽を下支えすると共に、フラットなバランスからすると少しだけ中低域が持ち上げられており、パワフルさを演出している。屋外で、騒音の多い環境で使う機種なので、このくらい低域に力があったほうが良いだろう。

 700に交代すると、流石に大型モデルだけあり、音場の広がりがさらにアップ。より広々とした空間に音が広がっていく。また、300と比べると、ボーカルやギターの音像とリスナーの距離が遠く、圧迫感がより少なくなる。300でわずかに感じられた高域のキツさも、700では感じられず、質感の描写も丁寧だ。余裕のある大人なサウンドなので、長時間ゆったりと楽しみたいなら700が適しているだろう。

 中高域のクリアさ、低域のパワフルでタイトな描写は300とよく似ている。純粋に、重さやサイズといった可搬性をどこまで重視するかの違いで700/300を選んでも良いだろう。

 重さは700が305g、300が255g。どちらも折りたたみ可能だ。

 どちらのモデルも、NC機能をOFFにした状態や、電源をOFFにして有線接続でも音が出るので、その際のサウンドもチェックする。

 ビートがハッキリしている「坂本真綾/幸せについて私が知っている5つの方法」を聴きながら切り替えてみると、700も300も音の変化は同じだ。低域が減衰し、音が痩せる。中高域はしっかり出ているので、肉が削ぎ落とされたような描写になってしまう。基本的には常時NC機能ON、電源ON状態で聴く機種で、これらをOFFにするのはバッテリが無くなってしまった時の緊急時のみと考えた方が良いだろう。

EVEREST ELITEとEVERESTは何が違う?

 ナチュラルな再生音、高いノイズキャンセル機能、駅など生活の場で利便性が高いAmbient Awareに、オートキャリブレーション機能と、豊富な機能を搭載したヘッドフォンだ。高機能なヘッドフォンというと、ゴテゴテした製品を連想しがちだが、最新技術をあくまで自然な再生音の追求に活用しているあたりが、老舗オーディオメーカーのJBLらしいところと言えるだろう。

 今回は試用できなかったが、シリーズのイヤフォンタイプで、今後発売予定の「EVEREST ELITE 100」は、13.5mm径のダイナミック型ドライバを搭載。ハウジングにスタビライザーを取り付けられ、耳から外れにくくするといった工夫も施されている。Bluetoothとノイズキャンセル機能も搭載しているが、オートキャリブレーション機能は無い。耳穴に直接挿入するイヤフォンでは必要ないのかもしれないが、イヤフォンで「ピュイ」っとやると、どんな変化があるか知りたいところではある。

EVEREST ELITE 100
EVEREST ELITE 100

 以前紹介したEVERESTシリーズは、EVEREST ELITEの下位モデルにあたり、アクティブノイズキャンセリングやオートキャリブレーションは搭載していない。一方で、EVERESTに搭載している、スマホとBluetooth接続しながら、さらに他のBluetooth機器とも接続して同時に鳴らす「ShareMe 2.0」は、EVEREST ELITEには無い。利用シーンで活用できる機能から製品をチョイスするのも良いだろう。

 EVEREST ELITEが搭載したオートキャリブレーションは、Bluetooth/ノイズキャンセルヘッドフォンに限らず、様々なヘッドフォンに搭載して欲しい先進的な機能だ。ハイエンドヘッドフォンだけでなく、低価格なモデルでこそ大きな効果があるだろう。今後の対応モデル拡充にも期待したい。

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 (協力:ハーマンインターナショナル)

山崎健太郎