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本田雅一のAVTrends

東芝が4K+裸眼3Dテレビで目指す、次世代映像

−実用化に向けた3D画質向上と4Kパネル応用




REGZA 55ZL2

 1月のInternational CESで東芝が予告していた4K2Kパネル採用、裸眼3Dを実現した「REGZA 55ZL2」が、ドイツ ベルリンのIFA2011で発表された。すでに東芝の発表会レポートは掲載済みなので、大枠はご存知のことだろう。

 欧州では12月に8,000ユーロ程度の価格で発売されるとアナウンスされている。パネルメーカー(非公開)と共同開発したという裸眼3D対応4K2Kパネルの画面サイズは55型、液晶駆動方式はVA型だ推察される。

 なお、欧州発表のレグザZL2が、そのまま日本で発売されるわけではないことに注意していただきたい。日本向けは様々な面でブラッシュアップが図られるようだ。ただし、使用するパネルや映像処理エンジン、裸眼3Dなどの基本的な仕様は同じである。

 日本モデルの発表ではないため、日本での価格は発表されていない。通例ならば8,000ユーロという価格に対しておよそ80万円という価格が予想されるが、どうやら日本での価格は別途、決められる模様だ。関係者の話を総合すると、日本での価格は8,000ユーロという価格から予想される金額よりも、少し下に振れるのではないかとのことだ。

ByeByeと印刷されたサングラスでグラスフリー3Dを紹介 4K2K(クアッドフルHD)

■ 裸眼3Dは高解像度の使い途のひとつ

欧州版の55ZL2

 55ZL2の解像度は、いわゆるデジタルシネマ規格における4K2K(4,096×2,160ドット)ではなく、3,840×2,160ドット。すなわちフルHD解像度の縦横それぞれ2倍の解像度である。しかし、ここで問題になるのは細かな解像度の違いではない。

 一番注目すべき点は、4倍もの画素数をテレビとしてどのように活用するか、その使い途だ。放送も市販パッケージも、当面、解像度はフルHD(1,920×1,080ピクセル)に限られる。では、どのようにして商品としての魅力を高めるのか。これが4K2Kパネル採用テレビを評価する上でのポイントと言える。

 話題の裸眼3D機能も、そうした高解像度の“使い途”のひとつだ。

 ZL2の裸眼3D機能はアクティブ・レンチキュラー方式で実現している。レンチキュラーとはレンズを並べたシートで画素に指向性を持たせる技術だ。レンズというと、画素ごとにレンズが並んでいるようにイメージするかもしれないが、実際にはシリンダーの一部を切り取ったようなレンズを並べたストライプ状のレンズだ。

 ZL2は9つの視差を作り、それぞれ異なる方向に画像を出す。2つの視差の間に3Dで視聴可能な位置が生まれ、最大8人が同時に裸眼で3D映像を楽しむことが可能になる。しかし、当然、有効画素はパネル画素の1/9になる。ここで4K2Kの解像度が生きるわけだ。

 今回のパネルは約800万画素であるため、有効画素数は約89万画素だ。これは標準解像度である480p(720×480ドット)と、ハーフHDと言われる720p(1,280×720ドット)ほぼの中間に相当する数字。したがって画質もそれに準じるもの(720pよりは落ちるが、標準解像度よりは良い)だと考えられる。しかし、見た目にはもう少し良く、720pには少し足りない、あるいは質の高いDVDを見ている……といった雰囲気だ。

9視差をレンチキュラーで作る

 CESの時点では、同じパネルを使いながら映像を楽しめるレベルの解像感を実現できていなかったことを考えると、これはかなりの進歩だ。CESの時点では、間引きされた画素のつながりが悪く、なめらかな映像表現が行なえていなかった。

 しかし開発の最終段階に近づいてきた現在、画素のつながりは良くなった、解像感も以前より高まっている。画素数が少ない以上、高精細な3D映像は望めないが、見やすい3Dは実現できるかもしれない。レンチキュラーレンズの特性、画素の配置などに工夫をしているのだろうか。

 ストライプ状のレンズシートというと、レンズが画素に沿って垂直に貼られていると考えるかもしれないが、それでは体感的な解像感の低下が著しくなる。横方向の画素が9個おきにしか見えないのだから当然だ。このため、昨年末に発売されたグラスレス3Dレグザでは、液晶パネルの画素配列を変えていた。しかしZL2の画素配列は通常の画素配列。どのように裸眼3D化しているのだろうか?

 かつてフィリップスが裸眼3D技術を開発したとき、彼らはレンチキュラーシートを斜めに貼ることで解像感の低下を最小限に抑える工夫をしていた。では東芝はどうしているのだろうか?

 裸眼3Dを担当する東芝のエンジニアは「何をしているかは内緒。しかし、画素配置の工夫はしています。映像の滑らかさも、開発する上で配慮したところですが、具体的な方法は今はまだ公開できません。製品発表時に細かな情報を出せるでしょう」と話した。

 また1月の時点では、画面の一部分だけがうまく3Dで見えず、場合によっては逆視(左右像が反転してしまう現象)となることもあり、視聴位置がかなりシビアという問題があった。これに関しては、内蔵カメラで視聴者の位置と距離を捉えるフェイストラッキング技術での解決を試みている。

 本機に採用されているアクティブレンチキュラーは、印加する電圧によってレンズの形状を変化できる。このため3Dをオフにすると、レンチキュラー方式にもかかわらず2D画質への影響がない。また、印加する電圧によってレンズ特性も変化させることが可能なので、指向特性を可変させることができる。

フェイストラッキングで視聴位置や目幅、距離を微調整

 そこでカメラで視聴位置を計測し、左右の目に送り出す視差の指向特性を微調整している。結果としてCESの時に見られた頭の位置のシビアさが緩和された。ちなみに発表会では視聴者とテレビの距離も調整される旨の説明があったが、これは距離を計測しているのではなく、目幅を計測することで光を送り出す方向を調整している、というのが表現として正しいという。目幅の計測であるため、大人でも子供でも、フェイストラッキングさせれば適した微調整が自動的に行なわれる。

 なお、このフェイストラックは常に動作しているわけではない。製品版でどうなるかはまだ決定していないが、たとえばリモコン上にフェイストラッキングボタンを設け、これを押したときだけ計測し、その後は特性が固定されるといった方法を考えているという。この時、頭の傾きや背の高さなども認識し、左右だけでなく上下方向のキャリブレーションも行なわれる。

 つまり座る位置を変更する場合は、再度、フェイストラッキングを動かすほうがベターということになるが、おおよそ同じ位置にいれば大丈夫だ。常に追跡してしまうと、映像を楽しんでいる途中に誰かがテレビの前を通った際に、不意にトラッキングし始める可能性があるからとのことだ。

 アクティブレンチキュラーは、レンズの曲率を変化させる液体レンズでできていると考えられるが、”複數の人が不均等な位置に座っている場合に、どのように微調整をかけるのか”、”上下方向のキャリブレートをレンチキュラーでどうやって取っているのか”などは、その場の話の中からはわからなかった。

 さて、画質についてもう少し触れておきたい。

 眼鏡なしで3Dを楽しめる手軽さは素晴らしい。しかし、3D映画を映像作品として楽しむには、4K2Kパネルと言えども、まだ画素数は不足している。細かな凹凸を含めた立体感は、うまく再現できていない。デフォルメされたCGアニメならば十分に楽しめると思うが、実写映画の微細な3D表現には不向きだが、こればかりは現時点での限界かもしれない。一方、3Dを生かしたゲームのディスプレイとしては面白いかもしれなが、その場合は処理遅延の問題を解決せねばならない。視差生成に処理時間がかかるためだ。

 あるいはアクティブシャッター方式のメガネにも同時対応することで、画質に優れた3Dメガネを使う方式と、画素数よりもメガネなしの楽さを求める裸眼方式の両方に対応させることが、現状はベストな解なのかもしれない。


■ 高解像度を活かす超解像技術

レゾリューション+の技術を用い、フルHDの映像を4K2K化

 一方、画質面での4K2Kパネルの応用についてはどうだろう。もちろん、スチルカメラに近い画素数を持つのだから、言うまでもなく写真表示のためによい事は間違いない。しかし、放送やパッケージソフトが数年内に4K2Kになる可能性はない。写真表示の質という面での可能性の高さはあるが、4K2Kを活かすには超解像技術が必須になる。

 そこで東芝はフルHDの映像を4K2Kに高めるだけのパフォーマンスを持つレゾリューション+を搭載する。その画質についてもデモ映像があった。当然、複數フレーム超解像が盛り込まれているのだが、さすがにここ数年、CESやCEATECなどで4K2Kへの超解像デモを見せていたように方法論そのものはすでに確立されている。

 IFAのデモでは、効き目がわかりやすよう、強めのエンハンスが同時に行なわれていたため、本当の実力はわからない。しかし、複數フレーム超解像を用いれば、4K2Kパネルの価値も引き出すことは可能だろう。2D画質に関しては製品化が近づいた段階で、ゆっくりと見極めたい。


レゾリューション+や写真表示など2Dにおける4K2Kパネルの応用を示すデモコーナー ビクターの4K2K対応民生用カメラを用いたデモ。今後、家庭用カメラのセンサーが高性能化し多画素化していくと考えられる
(2011年 9月 3日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]