本田雅一のAVTrends

CES記者会見に見る、TVメーカーのトレンド

超高画質なソニーCrystal LED。韓国勢は55型OLED




 International CES 2012が開幕。多くの家電メーカーが新製品、新コンセプトを訴求した。前回は、一昨年秋から提唱されていたネットワークサービスとテレビを、機能面で融合するというコンセプトが示され、さらに遡ると3D表示機能の提案などがあった。では今年はどのようなトレンドなのか。

 各記者発表の詳細に関しては、それぞれのニュースレポートにまかせるとして、本稿では記者発表を“テレビ”を中心にした視点で、テーマ別に追いかけてみることにしたい。



■画質とデザインのバランス感覚

 一連の記者発表を終えて感じたのは、テレビのデジタル化、フラットパネル化が進んできた過去10数年に比べ、各社に共通したテーマが存在しないことだ。デジタル化、フラットパネル化が進み、製品としての成熟が進んできたからだろうか。

 そんな中で注目しているのが、画質とデザイン。現代のテレビでもっとも重要な2つの要素の“バランス感覚”である。

約600万個のLEDを使った、ソニーの次世代自発光ディスプレイ「Crystal LED Display」

 記者発表を一巡しただけの段階だが、今年のCESで最も高画質なディスプレイを出展しているのはソニーだ。「Crystal LED Display」は「製造プロセスの改善も含めて、商品化の方法を模索している」という段階だが、生産技術さえ確立できれば、超高画質のディスプレイとなるはず。

 既報の通り、超小型のLEDをガラス面に並べ、高周波数で発光制御することで階調表現を行なう。LEDらしく高純度の色を出せる上、デジタル駆動だけに安定した品質も期待できるだろう。個々のLEDの輝度にムラが出るのでは? との疑問を持ったが、その影響は無視できるレベルだという。

 さて、LEDが並んでいると言うと、昔のLEDジャンボトロンやオーロラビジョンのように画素のツブツブが見える様子を想像するかもしれないが、実際のCrystal LED Displayの見た目、表面の質感は液晶パネル(よりもプラズマに近いかもしれない)と変わらない。

 しかし画質は圧倒的で、応答速度、色再現の自然さや色再現域の広さ、階調表現の自然さなど、液晶テレビとは比較にならないほど良い。実際に製品として作り込めば、さらに良くなっていくだろう。


液晶テレビと「Crystal LED Display」の比較。それぞれ左が「Crystal LED Display」、右が液晶だ
「Crystal LED Display」の側面

 消費電力は55型の試作パネルの場合で、液晶テレビの約半分(70~80W)程度とのことなので、薄型化にも有利だろう。超狭縁ベゼルにもしやすい。デザイン性の面でも進歩を促す可能性があるが、ソニーの展示はあくまでも高画質。実際の映像からは、その自信を裏付ける実力を感じるが、ライバルはそう考えていないようだ。

 たとえば、サムスンとLG電子が披露した55型の大型OLED(有機EL)パネル。サムスンは画質をそれなりに訴えていたものの、LG電子に関しては高画質よりもデザイン性を強く訴求していた。LG電子のOLEDパネルが明るさを重視したものであることも影響しているのだろう。


 しかし、最新のハイエンドテレビには、画質よりも高いデザイン性を求める傾向が感じられる。これは各国で韓国メーカーが展開するプロモーションの影響も大きいだろう。デザインに力を入れてきた韓国メーカーは、ここ数年でテレビの形を大きく変えてきた。パネルと同時開発できる優位性も影響しているだろう。

 たとえばLG電子のOLEDディスプレイは、輝度は驚くほど高く、黒沈みとともにダイナミックな映像を見せていたが、階調性は低く、コントラストが高いことと合わせ、やや画質に破綻が見られた。

 またサムスンの55型OLEDディスプレイは、デモ映像があまりにも派手だったこともあり、鮮やかでコントラストは高いものの、画質として本当に良いものになっているかどうかは判断できなかった。

サムスンの55型OLEDディスプレイLG電子のOLEDディスプレイも55型

 一方でデザイン面での新しさについては、発表会で繰り返し訴求されており、“OLEDの売り方”として高画質よりも、デザイン性の高さにベクトルが向いていることが伺える。

 韓国の2社が「4K2K」に関して無関心なのに対し、プロフェッショナル向き機器や映画会社も持つソニーは4K2K技術をB2B2Cで提供できることを訴求しているのも、なかなか興味深い違いだ。



■トレンドを見据える東芝、シャープは大型化推進

 一方、その年の状況に合わせ、毎年、臨機応変に対応してくるのが東芝だ。今回のCESではタブレット端末連携やエコ技術に力を注いでいるが、一方で4K2Kパネル採用製品の訴求を忘れていない。東芝が4K2Kに取り組む理由は2つある。

 まずネット配信などに対応する事で、プレミアムなコンテンツの流通に可能性があることが挙げられるが、デジタル写真を見るために高解像度のテレビが有効という部分にもかなり注目をしているようだ。

 また、液晶パネルをキャンバスとした時、より高い解像度のパネルを使うことで、画像処理技術で他社との差を明確に示しやすいこともある。

 このように高画質への対応を進めながら、さりげなくLG電子の最新型液晶パネルを採用したテレビを、記者説明会で並べていた。このパネルはエッジライトを下部に配置したもので、左右と上の辺の額縁を大幅に狭くできる。薄型化にも有利であり、デザイン性と機能、画質の両面でトレンドを見極める東芝らしい製品だったと思う。

東芝のプレスカンファレンスでの展示。右にあるのが55型4Kパネルを搭載し、裸眼3Dに対応したグラスレス3Dテレビの米国モデルLG電子の最新型液晶パネルを採用したテレビも展示されていた。エッジライトを下部に配置し、左右と上の辺の額縁を大幅に狭くしている
シャープのプレスカンファレンスの模様

 さて、こうした中でシャープの展示は特徴的だ。生産キャパシティの大きさを活かした、パネルの大型化で攻め込もうとしているのだ。米国での売れ筋テレビサイズは55型(各社の最新試作パネルが55型で揃っているのはこのため)だが、消費者からはもっと大きなサイズが欲しいという声があるという。このあたりは、住環境が異なる日本では考えにくいことかもしれない。

 もちろん、日本で展開している無線LANを用いたフリースタイルAQUOS、米国の事情に合わせたスマートテレビ機能への対応なども進めている。高画質化に関しても4K2K、8K4Kといった高解像度化、CEATECで披露したICC 4K技術などへの取り組みも発表会ではきちんと訴求していた。

 デザインの面でも狭額縁や薄型化といったトレンドは押さえてはいるものの、昨年より進めている60インチ以上の大型製品へのフォーカスを、今年はさらに強めていくことを示す発表だったと思う。

 北米で、大型液晶テレビを低価格化していくという方向性は、日本にも伝搬が始まっていることから、いずれは日本でも大型化の方向性を強めてくるのかも知れない。




■“スマート”対応ではパナソニックの20型に注目

4K2K表示ディスプレイとしては世界最小、最薄となるパナソニックの20型4K2K IPSα液晶パネル。会見場には現物はなかった

 さて、本稿とは別にテレビのネットワーク対応、いわゆる“スマート化”についても、各社の状況をまとめてみたいと思っているが、その中で注目しているのが、パナソニックの20型4K2Kという超高精細ディスプレイである。

 1インチあたり216画素の解像度で20インチの大きさを持つディスプレイは、テレビ映像よりも、インターネットで流通する多様なコンテンツを表示するために向いている。画素密度の高さから、より視聴者に近い位置で使うディスプレイとして、パナソニックが何かを考えているのかは、発表からだけでは解らない面もある。

 このあたりは、20型というサイズ、楽しみ方、コンテンツなど、どのような形での利用シナリオを想定しているのかについて、北米パナソニック社長の北嶋氏へのインタビューを予定している。

 また“スマートな機能”という視点では、サムスンがスマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、テレビ、Blu-rayプレーヤー、白物家電などの間を、アプリケーションで接続するソリューションを提案していた。従来の同社の枠組みに比べ、機能指向から利用シナリオ指向へ、より実用的な仕組みへと発展しているようだ。これらを含めたスマート機能についても、別途まとめることにしたい。


(2012年 1月 11日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]