本田雅一のAVTrends

新ウォークマン「NW-ZX2」の音質をCES会場でチェック

すぐにわかる音の“質感”の違い。LDACも「アリ」

 米ネバダ州ラスベガスでは2015 International CESが始まった。各社が展示内容やその年の戦略について語る中、ソニーもいくつかの製品を記者会見で発表しているが、その中でウォークマンシリーズの最上位モデルに位置付けられる「NW-ZX2」が展示されていた。ちょうど関係者を見つけて話を伺った上で、静かな場所で試聴をさせていたくことができたので、そのレポートをお届けしたい。

NW-ZX2

 米国では今春発売で、価格は1,199.99ドル。現時点では国内での発表、発売予定について、ソニーは公式な見解を明らかにしていない。しかし、CES展示の過去の例から言えば、国内での発表、発売もそう遠いことではないだろう。

 ポータブル型のデジタル音楽プレーヤ(Digital Audio Player:DAP)は、iPodに代表されるように一時期隆盛を誇ったものの、スマートフォンにその役割を奪われたこともあって市場が縮小している。現在はスマートフォンをまだ持たされていない世代の子たちか、あるいは音質にこだわる上位製品を求めるかの両極に市場が分かれるようになってきた。

 そんな中、ソニーがスマッシュヒットを飛ばしたのが先代モデルのNW-ZX1だった。音質重視の高品位なDAPは、当時もAstell&KernのAK240といったハイエンド製品も話題だったがあまりに高価という側面もあり、そこにうまくZX1がハマったという印象だった。

 新製品のZX2は、そのZX1の後継機種として位置付けられているのではなく、シャシー設計やアナログ回路部の設計を一新することで音を整えた上位製品という立ち位置として作られているという。価格は発表されていないが、おそらくZX1(直販価格71,130円)よりもワンランク上のプライスタグがぶら下がるはずだ。

仕様面のブラッシュアップもあるが、一番の変化は”音の質感”

NW-ZX2

 ZX2はZX1に寄せられた意見を反映してか、いくつかの仕様変更が施されている。

 たとえば128GBの内蔵メモリに変化はないが、microSDスロットが追加された。現在、最大で128GBのmicroSDカードが存在するため、比較的安価に内蔵メモリ容量のアップグレードを行なえることになる。ソニーからは再生音質を重視した高音質版のmicroSDカードも発売される(ただし、こちらはまだ話で出ていただけなので、詳細は不明だ)。もちろん、通常のmicroSDカードも使える。

 ハイレゾ音楽……とくにDSD音源の場合は、録音の基準レベルを低く抑えているものもある。そこでDSD再生時、基準レベルが低いものの音量を上げるゲイン調整を行なう機能が追加されている。これでDSDとPCMが混在したプレイリストでも音量調整に悩まずに済むようになるはずだ。そのDSD再生だが、内蔵DACやシステムハードウェアの構成に大きな違いはないため、PCM変換再生という点に違いはないものの、DSD64(2.8MHz)だけでなくDSD128(5.6MHz)にも対応した。

側面に操作ボタン
背面
大型のヘッドフォン出力を装備

 さらにはDSDをPCM変換する際に通すローパスフィルタの設定を二種類用意。急峻に減衰させるフィルタ(シャープロールオフ)と、ゆったりとエンベロープを描くフィルタ(スローロールオフ)を好みで切り替えることができる。

 さらにはバッテリ容量を2倍に増量してるほか、内蔵スピーカーを外すなどの変更点もある(これでイヤホンプラグを外した時、いきなり聴いている音楽が鳴り始めるといったこともなくなるだろう)。シャシーそのものも分厚くなっているため、重量は増加している。が、このクラスの製品は「音が良ければ」ある程度のことは許される。

 最終スペックなどのチェックは日本版発売時に行なうとして、まずは現時点での音質をチェックしてみた。プレスカンファレンス会場は周辺の音がうるさく、落ち着いて試聴できないため、静かな場所で自分のコンテンツを転送した上で試聴。使用したヘッドフォンはMDR-1Aで、手持ちのZX1と比較しながら聴いた。

 すぐに解ったのが、音の質感が大きく異なっていることだ。まずは“品位の高い/低い”という視点を取り去ったとしても、ZX2はまったく異なる音作りが行われている。ZX1が音像のシャープさや音のキレ、透明感を演出する音とするならば、ZX2の音は自然な音場空間とそこを埋める柔らかくも濃密な空気を表現する音だ。

 ZX1を「硬質で聴きづらい」と感じていたならば、ZX2は今一度評価してみることを進めたい。もっとも“柔らかな表現が行なえるようになった”からといって、解像力が落ちているわけではない。部品やシャシーの設計を見直したことでS/Nが改善し、情報量が増えたことで音場をギッシリと音が埋めるようになったのだ。この差が大きいため柔らかな音になったと感じるが、実際の音の立ち上がりはむしろ速い。

 筆者自身、AK240などのハイエンドDAPに対し、ZX1には音作りの方向性の面でやや不満を感じていた。ソニーのホームオーディオは立体感や空気感、情報量の多さなど、音場再現能力に優れたチューニングが施されているのに、ZX1は悪く言えば安易に“良い音っぽく聴かせる”意図を感じていたが、ZX2に関しては納得の改善だと思う。

 なお、DSD再生時にデジタルフィルタを切り替えてみたが、ZX2特有の繊細でふくよかな音を愉しみたいのであれば、スローロールオフの方がベターだろう。一方、シャープロールオフにすることで、ZX1の音を数ランク上げたような、シャープで明瞭な、それでいて情報量も豊富な音を愉しむこともできる。あえてDSD再生を行なうならば前者の方が良いと思うが、そこは好みだろう。

 開発エンジニアによると、ZX1の音質傾向に関しては同様の指摘は決して少なくなかったようで、音作りの方向を大きく変えたようだ。なお、ZX2のチューニングには、ホームオーディオの音質開発に関わったエンジニアも関わっているという。

ハイエンドヘッドフォンにはPHA-3を

 音質面では大きく変化した(音作りがより本格派のオーディオ製品に近付いた)ZX2という印象だが、アナログ部や筐体といった部分を除けば、基本的なハードウェアプラットフォームは変化していないようだ。これはS-Master HXを採用するアンプ部も同じである。したがって、マッチングの良いヘッドフォンに関してもZX1とほぼ同じだ。

 たとえば試聴に使ったMDR-1Aクラスのヘッドフォンならば、ZX2は余裕でドライブする。もちろん、イヤホン系の製品ならばなおさらだ。しかし、ハイエンドのヘッドフォンは厳しい。展示会場にあったMDR-Z7をつながせてもらったが、残念ながら一聴して本来の実力を発揮できていないことがわかる。

ヘッドフォンアンプ「PHA-3」とNW-ZX2

 通常、DAPやスマートフォンに、このようなヘッドフォンを直接つなぐことはないと思うが、ZX2は製品単価が高いが故に、聴いてみようというケースもあるかもしれない。このような組み合わせは、DAPにとってもヘッドフォンにとっても不幸だ。

 もし、Z7あるいはそれに準ずるような駆動力を必要とする……本来はポータブル向けではないヘッドフォンを使いたいのであれば、同じソニー製でZXシリーズとデジタル接続が可能なPHA-3を別途用意すべきだろう。とはいえ、出先で使いやすいだろうサイズのヘッドフォンであれば問題はない。

 さて、最後にZX2と同時に発表されていた新しいBluetooth向けオーディオコーデックについても触れておきたい。これはLDACというもので、対応するヘッドフォン、イヤフォン、ワイヤレススピーカーと組み合わせることで、Bluetooth接続でも本格的なハイレゾオーディオを楽しめる。

NW-ZX2では新BluetoothコーデックのLDACに対応

 LDACはA2DPで使われる音声圧縮コーデック。従来は44.1kHz/16bitでしか伝送できなかったが、LDACは96kHz/24bitのハイレゾ音声を圧縮できる。ビットレートも最大990kbpsと広帯域だ。ハイレゾ音声で高音質になるだけでなく、通常解像度の音楽でも990kbpsで伝送されるため音質劣化が少ない。

 広帯域を使うことで、電波状況に応じた音切れの心配も出てくるが、LDACでは330kbps、660kbps、990kbpsと動的に帯域を可変させることで音切れのない接続を実現しているとのことだ。

 ソニーはLDAC対応のワイヤレスオーディオ機器を春までに用意。イヤホン、ヘッドフォン、ワイヤレススピーカーなどを発売するとともに、ハイレゾ対応の最新ウォークマンAシリーズのLDAC対応アップデートも含め対応を進めるという。CES会場ではMDR-A1BTという、MDR-A1ベースのLDAC対応ワイヤレスヘッドフォンが展示されている。

 また、LDACの他社へのライセンスも検討中とのこと。実際に試聴してみたところ、確かにハイレゾらしさを、Bluetooth経由でも充分に感じることができた。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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