■ まだまだ進むDIGA
この秋、各レコーダメーカーの戦略を伺っているが、これまでの「デジタル放送を見ましょう」的なアプローチから、「アナログ系機器から乗り換えましょう」的なアプローチに変わってきているようだ。アナログ停波まで2年を切り、アナログ放送オンリーのレコーダがいよいよ使えなくなるという事態に備え、ユーザーは本格的なデジタルオンリーなワールドへの移行を迫られている。
パナソニックの調査によれば、アナログ停波で使用できなくなるビデオデッキ・DVDレコーダは、日本国内に約4,000万台。世帯数にして約2,700万世帯に及ぶ影響があるという。ある意味これは、情報メディア上の民族大移動とも言える。
さて、この9月で主だったレコーダの発表は出そろったようである。もしかしたら10月6日から行なわれるCEATECで何か隠し球を繰り出すメーカーもあるかもしれないが、今回はパナソニックの新フラッグシップ「DMR-BW970」(以下BW970)を取り上げる。
DVD時代にはDIGAと言えば大衆路線といったイメージだったが、Blu-ray時代になって豹変、一躍高品質、高機能路線を確立した。アイ・オー・データのRecPotからのムーブなどの機能やHDMI CEC機能(VIERA Link)を搭載したあたりから、デジタル機器に強いユーザーが一気に乗り換えてきたように思う。
今回のBW970も、マニアックな機能から一般ヘビーユーザーにまで満足できる機能が色々搭載されている。値段は店頭予想価格が28万円前後だが、ネットの価格では18万円台にまで下がってきている。
ではパナソニック自信のプレミアムモデルを、さっそくテストしてみよう。
■ デザインは変わらず…
まずはデザインからである。筐体デザインは今年2月のフラッグシップ、BW950と同じだ。ソニー、東芝、パナソニックと順に各メーカーのフラッグシップを見てきたが、デザインは前モデルそのままという点は共通している。ただパナソニックは今年すでに2機種目の投入ということで、デザイン変わらずでも納得できる。
パナソニックも筐体デザインは前モデルを踏襲 | フラッグシップながら、奥行きはかなり短い |
他社フラッグシップは、筐体の厚み、奥行きともにそこそこのサイズだが、BW970は前モデルおよび同時発売の下位モデルと同寸で、薄型コンパクトだ。デジタル時代のフラッグシップはその集積度にあるというポリシーで、一貫している。
搭載BDドライブは、BD-Rが6倍速、BD-REが2倍速。内蔵HDDは2TBで、今回のラインナップでは約3Mbpsのビットレートながらフルハイビジョン録画を可能にした「MHモード」を搭載した。このモードなら、内蔵HDDに約1,440時間録画が可能になる。画質に関しては、後で見てみよう。
フロントは右側が端子類、左側がBDドライブ | BDドライブの性能も同じ |
背面端子類もほとんど変わらないが、以前は存在したD端子とセットで使うためのアナログオーディオ出力が省略された。テレビ接続もHDMIが主流になってきたことだし、もういいか、という判断かもしれない。
さらに今回は、BDレコーダでは初搭載という192kHz/32bit DACを搭載した。アナログオーディオ出力は結果として1系統しかなくなったわけだが、デジタルだけでなくアナログオーディオにかなりのコストをかけている。オーディオの方もテストしてみよう。
背面端子は、D端子とセットのアナログオーディオ出力が省略された | リモコンは見る限り、前作と同じようだ |
■ 強化された番組表
19チャンネル12時間表示にした場合 |
ではまず番組予約から見ていこう。EPGは相変わらずGガイドだが、注目の機能としては今回最大19チャンネル12時間表示が可能な、「フルハイビジョン番組表」を搭載した。以前のレコーダは接続されるテレビの解像度が低いことも想定して、字が細かくなってしまう大量表示は避けてきたが、今後ハイビジョンモニター前提の番組表解像度になってくるだろう。
しかしさすがに19チャンネル表示では、目の悪い人はちょっと近づかないと、番組名などは読めないケースもあるだろう。これがGガイドじゃなければもうちょっと横が使えるのかもしれない。
ただ、番組表を見ている間にも、放送中の番組が左肩に小さく見られるのはメリットがあるのに気がついた。家族でテレビを見ているときにこれだけ大規模な番組表を開いても、「あー今いいとこなのにー」というブーイングが起きないのである。一方ソニー、東芝のレコーダは、「標準の番組表機能」は画面いっぱいに広がるので使える面積が広がるが、放送中の番組が見られなくなる。どちらがいいということではなく、各ユーザーにとってどういう使用シーンが多く想定されるか、ということで評価が変わるだろう。
地上波は番組表では1週間先までしか見られないが、「注目番組一覧」を選ぶと、ジャンルごとにお勧め番組を紹介してくれる。この機能では、最大1カ月先の番組まで事前に知ることができる。ただし1週間以上先の番組は時間指定予約になるようで、番組名での追跡ができない。番組名や放送日、放送時間が変わる場合には、録れない可能性もある。
一方WOWOWは有料チャンネルなので、月間で放送スケジュールが決まっている。これまではEPG頼みだったので1週間先の番組表しか見られなかったが、今回はネットから番組情報を追加ダウンロードして、月単位で番組表を見ることができる。WOWOWユーザーには楽しみが増える機能だろう。
注目番組一覧からは、1カ月先までのおすすめ番組が探せる | WOWOWは今の時点で10月末までの番組が確認できる |
さらにお楽しみ機能として、これまで地上波しか対応していなかった番組持ち出しが、WOWOWを含むBS、CS放送に対しても可能になった。これまで地上波しか対応していなかったのは、録画時にワンセグ放送部分を同時録画することで、番組持ちだし用データとしていたからである。
BS、CS波にはワンセグがないわけだが、これらの放送波の持ちだし用データは、録画していない状態の電源OFF時に、別途エンコードする。録画予約時に「持ち出し番組の作成」を指定しておけば自動でエンコードしてくれるが、録画後でも指定することができる。録画終了後すぐに持ち出せるわけではないが、一晩寝かせれば持ち出し可能になるわけだから、実際の利用にはそれほど不便はないだろう。
ではBS放送も含めた、持ち出し手順を見ていこう。まずSDカードを本体スロットに差し込むと、かんたん転送ほかの動作を指定する画面が表示される。かんたん転送とは、すでに転送用データが作成されたものをまとめて高速転送する機能だ。
予約時に持ち出し番組作成を指定できる | SDカードを入れると動作指定画面が表示される |
BSデジタルも無料放送はダビング10対応になっているが、WOWOWは有料放送なので、コピーワンスである。コピーワンスと言うことは、録画したものから別のメディアへは、ムーブとなる。
転送データの中にムーブしかできない番組が含まれていると、本体の録画データは消えてしまう旨のアラートが表示される。ここでは転送されるデータの中味を確認することができる。
今回テストした番組中では、「ハムナプトラ 3」のみ「1」のマークが付けられている。これが転送すると消えてしまう番組、ということになる。なおデータ容量が小さいのは、テスト的に一部分しか録画していないからだ。ここで「転送内容を変更する」を選択して、転送する番組リストから外すこともできる。
転送リストにコピーワンスの番組が含まれていると、警告が表示される | 転送リストのうち、コピーワンスのものにはマークが付けられる | リストから番組を外すこともできる |
転送前にもう一度警告が表示される |
あとは「転送を開始する」を選択すると、SDカードに番組が転送される。コピーワンスの番組は、本体から削除される。ソニー機の場合は「おかえり転送」、すなわち権利情報だけを書き戻すことができるので、本体で番組視聴する権利を復活させることができるが、DIGAでは一方通行だ。しかしながら有料放送であっても持ち出せ、しかもワンセグ内蔵ケータイならば見られるという対応機種の多さは、かなり汎用性が高い機能である。
持ち出した番組の画質だが、コーデックやビットレート、解像度などはワンセグ規格に準拠するため、ある意味ではワンセグ相当の画質だ。しかし地上波ワンセグを録画したものに比較して、DIGA内でエンコードしたもののほうが、ブロックノイズが目立たず上質のようだ。同じ番組で比較できないため、厳密な評価ではないが、ワンセグそのままよりもだいぶ見やすい画質となっている。
■ 画質と音質のこだわり
今回新たに搭載された、3.0MbpsでフルHDを記録するHMモードを見ていこう。この秋発売のシリーズでは、「新アドバンスドAVCエンコーダ」を搭載した。映像シーンのうち、動きの速いところではノイズ低減、動きの遅いところでは精細感を向上させたという。
またVBRも、よりダイナミックにビットレートが可変するようにチューニングされている。動きの少ないシーンでよりビットレートを節約することで、3.0MbpsのHMモードでも、動きの激しいシーンにより高いビットレートを割けるようになった。
実際にHMモードでいくつか番組を録画してみた。確かに以前の最低ビットレートモードでありがちな、「これもう破綻してんじゃん」という感じはない。画面を近くで見れば細かい部分にアラは見えるが、2~3m離れた場所で見る分には、全体的に甘い感じがするだけで、ブロックノイズで見ていられないような状態ではない。
長期保存を目的とするならもう少し高ビットレートのモードで録っておいた方がいいが、画質にはこだわらず見たら消すルーチンの番組であれば、問題ないだろう。ただBW970では内蔵HDDが2TBあるので、それほど節約しなければならない事情はない。もっと下位モデルでうれしい機能と言えるだろう。
BW970独自の高画質機能としては、「新リアルクロマプロセッサ plus」がある。これは先にI/P変換をして上下ピクセルの信号密度を上げたのち、クロマアップサンプリングを行なうという手法である。これに関しては本田雅一氏のコラムに詳細が掲載されているので、参考にして欲しい。
次に音質に関する特徴を見ていこう。まずディスク物の再生機能として、「シアターモード」を装備した。これはディスクの再生時に、チューナ、HDDを停止させ、排気ファンを低回転にすることで、本体自身が発する電気的ノイズや振動、騒音を低減するものである。
シアターモード開始前には同意画面が表示される |
ただシアターモード時にはチューナとHDDがOFFになっているので、この間は予約録画が実行されない。またネット機能も一部動かない。音楽CDを入れるとgracenoteに接続して曲名情報を取得する機能があるのだが、シアターモード時には実行されない。
シアターモードは、常時ONになっているわけではない。初期設定でシアターモードONに設定した状態でディスクを入れると、シアターモードで再生していいかと問い合わせてくる。ここで「はい」を選んだときのみ、シアターモードとなる。
ここで「いいえ」を選ぶと、再生されずに元の状態に戻る。シアターモードでなくてもいいからとりあえず再生したいという選択肢は、ここではないわけである。もしシアターモードOFFでディスクを再生するには、初期設定のHDD/ディスク設定まで潜って、モードを解除しなければならない。シアターモードで「いいえ」を選んだときは、シアターモードOFFで再生できるとより使いやすかっただろう。
真空管サウンドをシミュレーションした「音質効果」 |
音質に関しては、再生設定の中に「音質効果」の項目がユニークだ。ここではパナソニックお得意のリ・マスターのほか、3種類の真空管シミュレーションモードを備えた。真空管サウンドというと、丸みを帯びた柔らかい音というのが一般的なイメージだろうが、実際の真空管アンプは、真空管の種類だけでなく回路設計やパーツなどで音質が劇的に変わる、可変幅の大きいシステムである。
今回搭載された真空管サウンドモードは、このあたりも十分に検討されており、単なる甘い音で終わっていない。実は効果OFFの音も結構芯の太い、ガッツのある音がするのだが、以下各モードでの簡単な感想をまとめてみたので、参考にして欲しい。
音質効果モード | サウンドの特徴 |
切 | 芯のしっかりした、ガッツのある音 |
ナイトサラウンド | ソフトで広がりの強いサウンド |
リ・マスター標準 | 高域が涼やかに伸び、1ランクアップの音 |
リ・マスター強 | 楽器、声の輪郭がはっきりする。 |
真空管サウンド 1 | ボーカルが多少引っ込み、輪郭のしっかりした堅めの音 |
真空管サウンド 2 | エコーの響きが気持ちよい、中低域重視のサウンド。 |
真空管サウンド 3 | 高域の伸びがいいが、やかましくはない。 |
■ 総論
今回でこの秋に発売されるレコーダの、ハイエンドモデル3機種を見たことになる。振り返ってみると、一番アグレッシブに機能を仕込んできたのが、パナソニック BW970ではないかという気がする。もちろんどの機種も結構なお値段なので、この景気低迷の中気軽に買えるものではないが、開発に停滞感がなく、一番楽しめるのではないだろうか。
EPGに関しては、ソニーが充実のお勧め機能「x-みどころマガジン」、東芝が予約情報をネットで集めてお勧めする機能を完成させてきたのを受けて、今回パナソニックも初めてお勧め機能を搭載してきたが、そこはまだよちよち歩きといった格好である。新番組に出会う開拓力という点ではこれからの充実にも期待したいところだが、ネットコミュニケーションもそれなりにやる人なら、とりあえず新番組の自動録画さえONにしておけば、不自由はないだろう。そういうタイプの人なら、あまりハンデとは言えない。
もうBlu-rayレコーダは、Blu-rayで何ができるのかというよりも、一種のメディアボックス化へ向かっている。レコーダもプレーヤーも集約されて市販コンテンツのハブとなり、ビデオカメラやデジカメのデータも集められてプライベートコンテンツのハブとなる。
日本にはiPodもiTunesもないという声もあるが、Blu-rayレコーダはノンPCで高品質のイン・アウトを実現し、ケータイと組み合わせるデバイスという切り口で、もっと評価されるべきだと思う。