本田雅一のAVTrends

Disney Studio All AccessとUltraVioletの違い

コンテンツをコミュニティに繋ぐディズニー




 ”UltraVioletの理想と現実”について、少し前にこの連載で触れた。

 UltraVioletが目指すのは「デジタル配信の時代におけるコンテンツ保有」という概念を定着させることだ。その実現のため、UltraVioletを策定しているDECEが用意したのが以下の項目だ。

  • コンテンツオーナーに跨る単一のユーザーID管理
  • ユーザーIDにコンテンツ購入履歴を紐付けるライツロッカー(著作物使用権保管庫)というデータベースサービス
  • コンテンツを家族で共有する概念(世帯主の下にファミリーIDが連なり家族間のコンテンツを共有可能)

 オーナーが自分のものであるとしてIDを登録すると、登録したコンテンツは10回、デバイスのローカルストレージにダウンロードが可能であり、それとは別に同時3カ所へのストリーム配信が許可されている(ただし、現時点では配信サイトによっては条件が異なる場合がある)。

 また、日本に帰国したあとに試したところ、ソニーピクチャーを除くUltraViolet対応映像配信サービス(FlixsterとUniversal Hi-DEF)は、日本からのアクセスでもサービスが利用できる。これは「パッケージを買った人には、オーナーシップ(所有権)を与える」というUltraVioletの理念にかなうものだ。ソニーピクチャーも自社配信サイトこそ、米国外への配信を遮断しているが、Flixsterからの配信が許可されているため、結果的に日本からも楽しめる。

 このように、UltraVioletは映像ソフトに投資をする消費者にとって、理想的なサービスとも見えるが、実際には日本でそのままのやり方を導入しても、うまくいかないのではないか? という懸念がある。


■ 本当に必要なものは何なのか?

 米国で導入が進んでいるUltraVioletに関しては、業界標準になるかどうか、まだ見えていない面もある。ハリウッド大手映画スタジオのうち三社が、すでに導入を決めているため、ある程度はタイトル数も伸びていくだろう。

 しかし、UltraVioletに対応させるには継続的なコストがかかる。クラウドによってサーバーとストレージのコストが劇的に下がったとはいえ、タダではない。配信用の映像エンコードなどのコストも見込まねばならない。

 UltraVioletの位置付けは、パッケージソフトを買ってくれたお客様への付加価値であるため、別の機器に転送する際、あるいはストリームで映像を楽しむ際、(少なくとも現時点では)追加料金を徴収しない。

 パッケージソフトに同梱されるUltraVioletの登録コードには使用期限があるものの、一度登録すれば半永久的(すなわちUltraVioletのサービスが終了するまで)は、ずっと追加料金なしに楽しめる。米国の映画やテレビシリーズは日本よりも売り切りパッケージの数で多いとはいうものの、あらゆるタイトルをUltraViolet対応とし、さらにこの取り組みを継続するには、それなりに覚悟が必要だ。UltraViolet対応だからといって、アドオンのコストをパッケージ料金に上乗せするわけにはいかない。

 北米では、それをやって行くことになったわけだが、日本ではどうか? というと、まずは市場規模の問題があるだろう。映像配信のシステムを維持するコストを、販売会社がずっと負担していかなければならない。まずはそこがひとつめのハードルだ。

 もしパッケージの売上げに寄与するならば、そこもクリアできなくはない。いずれにしろ、何らかの電子配信サービスにも対応するのだとすれば、UltraVioletとセットでシステムを作ってしまうという手もあるだろう。

 では、DECEが策定したCommon File Format(共通ファイルフォーマット:CFF)は、どうだろうか。UltraVioletを支持する映画スタジオは、ファイル形式を統一することで、UltraViolet対応機器の仕様をタイトにまとめ上げ、メーカー間の相互運用を高めるためにCFFに対応していくことが重要だとしている。

 しかし、CFFはむしろ、クラウド型のライツロッカーサービスの普及を遅らせる可能性がある。新たな動画形式に対応するには、機器を新しい形式に対応させる新たな開発や互換性検証が必要になる。また、CFFに技術的な優位性が見られないことも積極的になれない理由のひとつのようだ。

 冒頭に振り返ってDECEの目指す理念に近付くために、何が重要なのかといえば、CFFなどではなくライツロッカー、すなわち「このコンテンツは僕が買ったものだ」という情報の管理を、個人IDと紐付けてしっかりやってくれること。

 それ以外はオマケでしかない。


■ コンテンツを中心にコミュニティを作るDisney Studio All Access

 UltraVioletに関するDECEの議論で、今もっとも活発に規格策定に積極的なのは、マイクロソフト、IBM、ノキアといったIT系企業だという。マイクロソフトはCFFの映像圧縮コーデックに深く関わっているし、IBMは配信インフラ、モバイルで活用したいノキアが積極的な理由もわかる。ただ、細かな仕様に関して積極的に発言する映画スタジオは20世紀フォックスぐらいという。

 パッケージ販売のプラスαの付加価値としてUltraVioletを始めるとなれば、IT系企業が利潤を得やすいわけで、こうした構図になるのは当然と言える。20世紀フォックスはUltraViolet対応タイトルを出していないが、以前から意見は積極的にいうスタジオだ。

 ただし、IT系企業ばかりでUltraVioletの技術的な側面を固めていくと、将来に影を落とすことになるだろう。単にアドオンのおまけにコストをずっと払い続けるには、UltraVioletが付加価値として投資に見合うものであることを売上げ面でも証明しなければならない。

Disney Rewards

 同じようにユーザーの映画(あるいはキャラクター)への投資を、目に見える形で提供しようとしている映画スタジオもある。それはウォルト・ディズニー・スタジオだ。ディズニーは現在、Disney Rewardsという顧客サービスプログラムを提供している。

 ディズニーのブルーレイやDVDだけでなく、映画鑑賞券にも付いてくる登録番号を入力すると、きちんと投資の履歴がIDごとに管理されるのはUltraVioletと同じだ。ディズニーは独自のKey Chestという技術を持っており、コンテンツやキャラクターへの投資履歴をフックにして、パソコン向けの映像配信サービスや、限定グッズの販売、関連イベントへの招待などを行なうようになっている。

 Disney Rewardsは、かなり細かく、登録後のユーザーベネフィットに関して、振るまいのさせかたを設定できる。たとえば、ブルーレイでも一番高価な、たくさんの特典ディスクが入った豪華パッケージ購入者には、映像配信が無償で許可される。あとは、パッケージの価格ごとに映像配信の追加料金が変化していく。

 このあたりの柔軟性は技術というよりも、マーケティングノウハウとでも言うべきものである。ディズニーは数年にわたって、この方法でユーザーとの関係を築き、映画やキャラクターに対する投資を“見える化”し、別のコンテンツへの優待などで顧客の支持を受けてきた。

Disney Rewardsでは購入品やポイントに応じて異なるサービスを提供

 そして、この延長線上にあるのがDisney Studio All Access、DSAAと呼ばれている、今年中頃の開始を予定している新サービスだ。DSAAは、簡単に言うとDisney Rewardsを拡張し、パソコンだけでなく、いろいろなモバイル機器やテレビ向け配信などもサポートする。

 UltraVioletはクラウド型映像配信と共通IDによるライツロッカーに拘ったサービスだが、商品設計の観点で言えば特典、オマケである。これに対してDSAAは、顧客との密な関係を築き、管理するコミュニティサービスと言えるだろう。この違いは大きい。


■ ディズニーと顧客の関係を強化

ウォルト・ディズニー・スタジオ Jason Brenek上席副社長

 DSAAに関して、ウォルト・ディズニー・スタジオの上席副社長Jason Brenek(ジェイソン・ブレネク)氏は「我々が他の映画スタジオと異なるのはブランド力。映画を見ただけで、それがどのスタジオの作品かを見分けることはできないが、ディズニーの作品は見ただけでディズニー制作と解る一貫した作品性やキャラクターがある」と話す。

「日本で言えばジブリがそうですが、ディズニーブランドとファンの間は共通認識の元でつながっている。ディズニーブランドならば、どんな作品かが大まかに想像できる。そうした特殊性を活かし、ファンと直接対話して、ファンの投資に対してダイレクトに消費者にフィードバックする責任があります。そのために、DSAAを2012年半ばに立ち上げます」

 DSAAにおいて、中心となっているのはパッケージ販売ビジネスではなく、あくまでも作品やキャラクターと、その周囲を取り囲むファンだ。パッケージ販売が中心ではない。従って劇場に足を運べば、それも投資のひとつとして登録され、ディズニー系列以外の電子配信サイトから映像を見たとしても、それも(クーポンが発行されるのなら)ちゃんと実績として残る。電子配信でも、劇場入場でも、パッケージ販売でも、すべて同じIDで管理され、そこからユーザー体験を高める方法論を積み上げていく形だ。おそらく、日本で始めるときにはレンタルでもポイントが積み上がる仕組みも導入できるのではないだろうか。

 Brenek氏は「我々の考え方は、ディズニーの作品に投資をしてくれるお客様には、どんな販売経路から売られたものでも、きちんとその見返りが得られるようにするという、実にシンプルなものです。UltraVioletはファイル形式まで共通で決めていますが、世の中には様々な機器があり、電子配信業者もいます。物理メディアもブルーレイ、DVD、VHSがあります。どんな経路で購入、あるいはレンタルしたとしても、それがきちんと顧客にフィードバックできるようにする。共通フォーマットを決めてしまうと、それも難しくなると考えています」と話した。

 ただしBrenek氏は、今後10年以上は映像配信が物理メディアの販売を売上げで上回ることはないだろうとも付け加えている。それでも、電子配信や通信販売をうまく活用し、顧客との関係強化を行なうことでプラスに持っていけるとの確信はあるという。


■ 日本版UltraVioletはどこに?

 DSAAの開始時期について、日本のディズニーは何も話をしていない。しかし、ディズニーは日本での展開にかなり積極的な姿勢を見せている。年内、あるいは来年早々にも日本でのサービス開始の可能性はありそうだ。UltraVioletとは異なり、自社が保有しているシステムだけに、準備さえ整えればいつでも始められる優位性がある。

 一方、UltraVioletに関しては、日本でも映像ソフトの販売会社、映画会社、テレビ局など、DVDやブルーレイのビジネスに関わってきた企業を中心として、UltraVioletに関する勉強会が昨年から開かれている。日本でUltraVioletを導入する場合に、そのままで良いのか、カスタマイズする必要があるのか、運用ルールを変える必要があるのかなど、共通認識を深めるためのものだという。

 当初、昨年後半は日本ではワーナーホームビデオが、UltraVioletの日本での立ち上げへと積極的に突き進んでいたのだが、今年になってややトーンダウン。先日、ワーナーホームビデオのジェネラルマネージャ・福田太一氏に話を振ってみると「日本と米国ではパッケージソフトのビジネススタイルも売上げ規模も違う。洋画の販売スタイルだけでなく、日本独自のコンテンツも含めて考える必要がある。UltraVioletをそのまま持ってくるのではなく、日本向けにアレンジしたり、CFFなどの仕様についても見直しが必要になるかも知れない」と話した。

 日本でのブルーレイディスクの販売状況を考えると、コアなアニメファンが映像ソフトに対してたくさん投資している現状がある。またキャラクターや作者にファンがついていることも多いため、(そのまま使えるかどうかは別にしても)UltraVioletよりはDSAAのやりかたの方が、日本の事情には合っているのではないだろうか。

 昨年は“物理メディアの購入”から、“映像を見る権利を得る”へと、映像ビジネスの考え方を変えるターニングポイントがあった。しかし今年は、そこから一歩先に進んで、投資に対する見返りを示しながら、顧客との関係をいかに強化するか? へと、力点が移り変わっている。

 筆者が知る限り、アニメ中心のコンテンツオーナーを含め、UltraVioletやDSAAのような仕組みには強い興味と、実施に対してのモチベーションを強く持っている企業が多い。“やっと”というべきだろうが、今年は日本における映像ビジネスの枠組みが大きく変化する年となりそうだ。

(2012年 2月 24日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]