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[BD]「風の谷のナウシカ」

「公開当時の映像」に生まれ変わった!!
巨神兵も高精細。ナウシカは血行が良くなる


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ 「ポニョ」の次は「ナウシカ」



風の谷のナウシカ

(C)1984 二馬力・GH
※制作/トップクラフト
価格:7,140円
発売日:2010年7月14日
品番:VWBS-1110
収録時間:約116分(本編)
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:16:9(ビスタ)
音声:(1)日本語
      (リニアPCM 2.0ch ※モノラル)
    (2)英語(ドルビーデジタル2.0ch)
    (3)フランス語
      (ドルビーデジタル2.0ch)
    (4)ドイツ語(ドルビーデジタル2.0ch)
    (5)韓国語(ドルビーデジタル2.0ch)
    (6)広東語(ドルビーデジタル2.0ch)
    (7)北京語(ドルビーデジタル2.0ch)
発売・販売:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

 7月14日に発売されたBlu-ray版「風の谷のナウシカ」。ディズニーから発売される宮崎アニメのBDとしては、2009年12月の「崖の上のポニョ」に続く第2弾だ。第1弾が「ポニョ」だったので、新しい作品からBD化されるようなイメージがあったが、第2弾が宮崎アニメを代表する「ナウシカ」となり、喜んだ人も多いだろう。かくいう筆者もその1人だ。

 「ナウシカBD化」の経緯については、BD化発表時にジブリの鈴木プロデューサーからコメントが発表されているほか、5月に行なわれた完成披露発表会でも鈴木プロデューサーの話をレポートしているので、参照していただきたい。

 鈴木氏の話を要約すると、「ナウシカの公開当時の映像を、BDでもう一度観たいと考えたから」というのが理由のようだ。映画は上映にあたり、マスターネガから大量の上映用フィルムを焼く。そのため、100本以上焼いたナウシカの場合、公開時に最初に焼いたプリントからは、だいぶ色が変わり、キズなども増えたそうだ。そうしたものを修復し、上映当初の映像を再現しようというわけだ。

 この“公開当時の映像を再現”というコンセプトは、今回BDで非常に重要で、鑑賞前に理解していたいポイントだ。アニメ作品のBD化と聞くと、最新デジタル技術で、クリアでゴミひとつない高画質映像に生まれ変わるイメージがあるが、「ナウシカ」の場合は、“かつての映像の再現”に注力されたわけだ。

 発売日前日の13日に、新宿の量販店でBDを購入。在庫は豊富にあるようだが、「人気作なので品薄になるかもしれませんね」と店員さん。14日の夜にamazonを覗いたところ、まだ在庫は普通にあるようだ。標準価格は7,140円。通販では5,000円台だ。劇場用アニメのBDとしては珍しくない価格だが、アニメファン以外も購入するであろう、国民的作品のセルソフトとしては正直ちょっと高い。

 ケースは、青空にナウシカ+メーヴェの白いシルエットのみという、シンプルで思い切ったデザイン。インパクトが強く、個人的に嫌いではないが、どうせならポニョのBDの時からデザインを統一してくれたほうが嬉しかった。

 いざ再生しようとケースを開いたところ、ディスクがケースから外れて落っこちた。下が絨毯だったので良かったが、ケースを見ると、ディスク中央の穴にはめ込んで固定する突起が短く、ディスクをホールドする出っ張りも左下にしかないので、勢い良くケースを開くと、右上から抜けてしまうようだ。特典の復刻保存版ガイドブックのミニ本がケースの右側に収納されているので、ディスク側の厚みがとれないためのようだが、ちょっと改善して欲しいポイントだ。開ける時は注意して欲しい。

写真は7月の発表会でのもの。右がケースを開いたところ


■ ストーリーの感想は割愛します

 物語の舞台は、栄華を誇った産業文明が「火の七日間」と呼ばれる大戦争により崩壊、人間のほとんどが死滅して千年後の世界。大地には猛毒を放つ奇怪な植物が根を広げ、人間が吸い込めば肺が腐ってしまう「瘴気(しょうき)」に満ちた森を形成している。そこには巨大化した虫達が住み着いており、人々はその地帯を「腐海(ふかい)」と呼び、恐れ、わずかに残った大地でひっそりと暮らしていた。

 主人公のナウシカは、辺境の小国「風の谷」の姫君。人々が忌み嫌う虫と心を通わせ、腐海の植物すら愛でる少女だ。そんな風の谷に、ある日、軍事大国トルメキアの輸送船が墜落。火の七日間で人類を滅亡させた「巨神兵」という怪物が谷に残される。それをキッカケに、ナウシカは大国の思惑と戦乱の渦に巻き込まれていく……。

 「何回放送する気だ」と言いたくなるほどテレビで放送されているので、もはやあらすじ紹介は不要だろう。いつもならばこの後、「セリフを丸暗記しているほど観た」とか、「映画はほとんどの人が観ているのに、意外に原作漫画を読んでいない人が多い。いろいろ凄いのでとにかく読んでください」、「庵野秀明氏による巨神兵の“焼き払え!!”シーンを半年に一度見ないと肩が重くなる」などの病的な思い入れを嬉々として書き始めるところだが、実は2003年のDVD版発売時にあらかた書いているので、今回は割愛したい。

 いずれにせよ、小山のような巨大な蟲(王蟲)が這い回り、毒を放つ森が人間の生活圏を侵食。そんな中で、過去の文明遺産を掘り出しながら、滅びと背中合わせに必死に生きる人々という世界観に、何度観ても圧倒される。人間と自然の関わり合いや、そんな状況下でも繰り返される人間同士の争いなど、大きなテーマを描きつつ、空を滑るように飛ぶメーヴェの心地よさや、爽快なアクション、破滅的なほどの力を持つ巨神兵など、映像的な魅力で惹きつけるエンターテイメント要素も兼ね備えている。

 おそらくこれから先も繰り返し放送され、ソフトが購入され、昔の作品という感覚を持たずに子供達に観られていくことだろう。そういった意味でも、今回のBD化は意義深い事と言えそうだ。


■ DVD、地デジ、BDを比較視聴

 完成披露発表会の会場で、プラズマテレビで表示された映像で軽いインプレッションはお届けしたが、改めてBD版の画質を見てみよう。比較用としては、DVD版と、2月に日本テレビ系列「金曜ロードショー」で放送されたもののを録画したBD-R(以下、地デジ)を用意している。

 BDとそれ以外を比べると、まず最初に“絵の解像感”が違う。冒頭、滅びた村を行くユパ様や、腐海を散策するナウシカのシーンでは、背景美術に注目すると、BDは色を塗った筆のタッチまでわかるほど質感豊かに表示されており、腐海の植物の細かい造形がよくわかる。セル画で動くキャラクター達の主線もシャープで、DVD→地デジ→BDと表示していくと、BDで一気に情報量が増え、画面全体がクッキリと変化。視力が良くなったように感じる。可愛い歌声が記憶に残るナウシカの回想シーンでは、漫画版を彷彿とさせる斜線で影が描かれているが、BD版ではその一本一本が解像されており、感動的だ。

 全体的にグレインが強めで、背景の暗い部分やマントの単色部分に、ジラジラとしたノイズがうごめく。発表会のプラズマテレビで観た時や、今回プロジェクタで投写した時はそれほど気にならなかったのだが、液晶テレビやPCの液晶ディスプレイで表示すると、暗部が浮きぎみに表示される事もあり、ノイズが掘り起こされ、ザワザワとした動きがかなり気になる。

 テレビによって異なるが、暗部が沈まない液晶で表示する場合は、全体の輝度を控えめに設定したほうがいいだろう。冒頭の腐海のシーンで、背景の最も暗い部分が見えるか見えないか程度に落とすと、画面に立体感が出る。逆に輝度を上げ過ぎると“紙に描いた絵っぽさ”が強くなり、安っぽい映像になってしまうので注意したい。

 DVDや地デジではグレインはあまり無く、人によってはむしろこちらの方が「クリアで綺麗だ」と感じるだろう。だが、映画として観ると質感が足りず、ノッペリとした平面的な絵で、作品独特の雰囲気はBD版の方が優れている。


■ 血行が良くなったナウシカ

 色味もずいぶん変わった。DVDや地デジと比べると、BDの腐海は緑の発色が抑えられ、青味が強い。“腐海は深海をイメージして描かれた”という話だが、より神秘的な世界に感じられるようになった。色の純度が高く、水色や薄い赤、黄色など、明るい色が鮮烈になった。

 ナウシカなど、キャラクターの顔を見比べると、BD版は赤味が強い。宮崎アニメで赤味と言うと「千と千尋」のDVDが頭をよぎるが、それほどではなく、「血行が良くて鮮やかだな」程度のものだ。青や緑が赤味に引っ張られて不自然な色になるほどではない。赤味の感じ方も表示デバイスによって異なり、液晶テレビ/ディスプレイだと強めに感じるが、プロジェクタやプラズマ、CRTではあまり気にならない。液晶では、落ち着いた色調になるシネマモードなどと組み合わせると良さそうだが、人肌を重視するタイプのシネマモードは暖色系が強くなる場合があるので、その場合はユーザーカスタムなどで調整したい。

 赤味が強いのは人の顔だけかと思ったが、王蟲の抜け殻に光が当たって白くなった部分や、そもそもの冒頭『世界野生生物基金(WWF)推せん』と表示される白いパンダマークから若干赤い。だが、オープニングの「風の谷のナウシカ」という文字は白いので、白い部分が全て赤味がかっているわけでもない。それほど神経質になる事もないだろう。基本はプロジェクタで鑑賞していたが、本編再生中はまったく違和感を感じなかった。

 テレビ版の肌色は白っぽく、DVD版は若干黄色っぽく見えるシーンもある。どちらも全体的に色が抜けてしまったように薄く、淡白だ。赤味がどうのというより、BD版は“色が濃くなった”と感じる。公開当時の色が、実際にどんなものだったのかわからないが、「こんな感じだったのかも」と思わせる説得力がBD版にはある。

 注目はやはり、庵野秀明氏が手掛けた巨神兵の攻撃シーンだろう。半分腐って、肉が溶けていく様もBDだとクッキリ流れがわかり、気持ち悪さ1.5倍増しだ。思わずコマ送りしたのは地平線を埋め尽くす王蟲の群れが、クシャナ越しに見えるシーン。DVDでは黒い無数の突起に、赤い染みが付いているだけだが、BDだと攻撃色に染まった眼が、ちゃんと円に描かれていることがわかる。暗闇を走る王蟲の、ワキワキとした足の動きも、闇に埋もれてなんだかよくわからないDVDに比べ、BDでは関節の継ぎ目も確認できる。

 エンコードはMPEG-4 AVC、ビットレートは35Mbps以上が中心で、40Mbps台も珍しくない。圧縮に起因するノイズなどは見受けられず、安定している。映像が鮮明になった事で、逆にマスターのアラが目立つ事もある。冒頭、ユパ様を助けるために、ナウシカが信号弾を発射し、腐海を抜けてメーヴェまで戻り、飛び立つ一連のシーン。カットの中に、ガラスを一枚挟んだようにフォーカスが甘くなるものが含まれている。メーヴェに到着→飛び立つシーンが、途中で画質が変わるのでわかりやすい。テレビ版でも同じ変化はあるのだが、斜め線にジャギーが出て、全体の解像感が低いため、変化にあまり気づかない。BD版だとよくわかってしまう。こうした解像感の変化はその後も時折登場する。大きなゴミやキズは無いが、たまに飛行機や雲のセルに小さなゴミがくっついて一緒に空を移動している。撮影時に発生する画面の細かな“揺れ”もそのまま残されている。

 音声はリニアPCM 2.0chだがモノラルで、左右スピーカー用に同じ音を収録している。レンジはナローだが、ドルビーデジタル(48kHz/384kbps)で収録されていたDVDと比べるとBD版は向上しており、高域の伸びが自然。クシャナの張り上げた声や、オープニングのピアノの響きなどで違いがよくわかる。DVDは音楽の背後にサーッというホワイトノイズが聴こえる部分があるが、BD版では聴こえない。モノラル音声は映画としては寂しいが、最近のAV機器は豊富なサラウンドモードを備えているので、機能の“使いどころ”とも言えるだろう。


■ 庵野秀明大活躍の特典

 特典はヱヴァンゲリオンなどで知られ、ナウシカでは巨神兵シーンの原画を担当した庵野秀明氏と、片山一良氏(同演出助手担当)が作品を語るコメンタリを収録。DVD版と同じものなので、DVD版のレビュー記事を参照して欲しいが、アニメを知り尽くした2人の、情報量が多すぎるトークを聞きながら鑑賞すると、完全に別のコンテンツとして非常に楽しめる。コメンタリには監督と出演者が出たり、出演者のみが出たりと、いろいろなタイプがあるが、やはりアニメではスタッフによる“ぶっちゃけトーク”が一番面白い。

 ジブリのDVDではお馴染み、絵コンテ映像も収録。BDではPinP(子画面表示)で本編映像と比較再生でき、子画面本編サイズは大小選択可能。AR台本、劇場予告編5種類を収録しており、台本の表示から該当の本編シーンにジャンプする事もできる。一風変わっているのが、リモコンの決定ボタンを押すと表示されるポップアップメニュー(ポップアップメニューボタンでは出ない)。普通は本編に重なるように下部からせり上がるが、この作品ではパッケージイラストのような青い表示が画面全体を覆う。「本編映像に何かをかぶせたくない」というこだわりだそうだ。

 BDで追加された特典としては、鈴木プロデューサーのFMラジオ番組「ジブリ汗まみれ」で2009年12月に放送された、庵野氏がゲストの回を収録している。気心の知れた2人が、なぜかキュウリを食べながらゆるいトーンで会話するのだが、アナウンサーの仕切りなども無いので、ラジオ番組というより、喫茶店で話している隣の客に聞き耳をたてているような感覚。映像も無いのでシアタールームで大人しく座って聴くというより、本でも読みながら流しておく、ラジオ的な聴き方をしたほうがいいだろう。

 内容は鈴木氏による宮崎駿と高畑勲の比較や、トトロの秘話など、ジブリファンなら気になる要素が満載。庵野氏が語る「ポニョ」の感想や、ナウシカ当時の宮崎監督とのやりとりなども興味深い。ナウシカ完成後の、打ち上げの話は爆笑してしまった。

 封入特典は、'84年に作られた「『風の谷のナウシカ』GUIDE BOOK」の復刻保存版ミニ本。9×6.5cm/縦×横と小さく、文字も小さいのでページによって読みにくいが、作品の注目ポイントや、宮崎監督の一日を追ったルポ漫画、押井守や河森正治、藤子不二雄といった豪華なメンバーが語る宮崎駿など、密度が濃い一冊だ。


■ ナウシカは、まだ終わっていない

 「公開当時の映像を再現する」というコンセプトに忠実な画質であり、今までのDVDやテレビ放送では観ることができなかった「ナウシカ」が観られるBDとして、意義深い1枚だ。情報量が増加した事で、アラが目立つ部分もあるが、逆に当時の試行錯誤や努力が伺える、手作り感のある映像とも言え、デジタル制作のクリアなアニメには無い魅力が確かにある。

 一方で、ファンの勝手な願望として、こうした部分を全て修正し、クリアに生まれ変わった「ナウシカ」も観てみたいとも思う。宮崎監督の意向もあると思うが、ナウシカレベルの作品ならば、さらにお金をかけてレストアし、音声も7.1ch化などした別バージョンのBDも発売するくらいの思い切った展開をしても良いのではないかと思う。

 スタジオジブリと言えば、ちょうど今週末、7月17日から新作「借りぐらしのアリエッティ」が公開される。メアリー・ノートンの小説を原作に、宮崎・高畑コンビが40年前に企画した作品で、脚本に宮崎氏は参加しているが、監督は若手の米林宏昌が抜擢。後継者が話題になる事が多いジブリの今後を占う、重要な作品だ。

 後継者と言えば、特典の「ジブリ汗まみれ」の中で、庵野氏は「自分のアニメの師匠は宮崎駿と板野一郎」と語っており、庵野氏が当時、「ナウシカの続編をやりたい」と鈴木プロデューサーに訴えていたことや、「漫画版の7巻を(アニメで)やりたい」など、興味深い発言がある。今回のBD化は、鈴木プロデューサーの「『ナウシカ』は、まだ終わっていない」という印象的なコメントでスタートしたが、本当に終わらずに、いつの日か、漫画版のナウシカがテレビシリーズや劇場三部作などで映像化されないかと期待してしまう。作り手だけでなく、ファンにとっても「まだ終わっていない」作品であってほしい。



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(2010年7月15日)

[ AV Watch編集部 山崎健太郎 ]