[BD]「シャーロック・ホームズ」
新解釈の“武闘派ホームズ”。でも原作忠実!?
推理はさておき鉄拳制裁!!
■ 世界一有名な名探偵を、驚きのキャストで
シャーロック・ホームズ |
価格:3,980円 発売日:2010年7月21日 品番:BWBAY-27509 収録時間:約128分(本編) 映像フォーマット:VC-1 ディスク:片面2層BD×1枚、片面2層DVD×1枚 画面サイズ:1080p ビスタ 音声:(1)英語 (DTS-HD Master Audio 5.1ch) (2)日本語 (ドルビーデジタル5.1ch) 発売元・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ |
誰もが知ってる名探偵と言えば“シャーロック・ホームズ”だろう。勢いよく書き出したが、“名探偵”と入力した瞬間にGoogle IMEが“名探偵コナン”と変換候補を提示してきたので不安になる。もっとも、“江戸川コナン”という名前も、“江戸川乱歩”とホームズの作者“コナン・ドイル”を組み合わせたもの。“基本はホームズ”という事で話を進めたい。
記憶があやふやだが、ホームズの小説は小学生の頃に全部読んだはずだ。知的で落ち着きがあり、紳士的だが、どこか謎めいたホームズと、人柄が良い常識人で、オッチョコチョイな所もあるワトソンのコンビが、今風に言うと“キャラが立っていて”面白く、図書館で夢中で読んでいた記憶がある。
難事件への挑戦を、ワトソンの視点を通して読者が体験するという小説の形式も、読者がワトソンと同じように、ホームズの鋭い観察眼や知識量に驚く事ができ、楽しかった。「ホームズの許しが出たので、この事件の事を語ろう」とか、「依頼人が亡くなったので、もう語ってもいいだろう」などと、ホームズやワトソンが実在する人物であるかのような書き出しにも、好奇心をかきたてられたものだ。
今でもホームズが実在した人物として、研究を続けているシャーロキアン(ホームズの熱狂的なファン)がいたり、ベーカー街221Bに依頼の手紙が届くらしい。なんとも粋な話である。
そんな世界的なキャラクターなので、今まで映画やテレビドラマなど、映像化の例を上げれば枚挙にいとまがない。日本では犬のホームズが活躍するアニメもあったくらいだ。
だが、そうした映像化作品を思い返してみると、不思議なくらいホームズのイメージが共通している事に気付く。つまり、頭には鹿撃ち帽、インバネスコートを羽織り、虫眼鏡で犯行の痕跡をチェック。パイプをくゆらせながら推理する……というようなイメージだ。調べてみると、こうした出で立ちの描写は原作小説には無く、後の挿絵や、舞台や映画などで様々な役者が演じる間に、現在のような形になったようだ。
そんな“ホームズ像”が定着して久しい中、固定化したイメージを粉砕するようなハリウッド映画「シャーロック・ホームズ」がBlu-ray化される。なにせホームズ役が「アイアンマン」などで知られるロバート・ダウニー・Jr.、相棒のワトソンが「コールド マウンテン」や「アビエイター」のジュード・ロウというイケメンコンビ。さらに監督がガイ・リッチーという組み合わせ。「本当にホームズの映画を撮影するんですよね?」と思わず確認したくなるメンツである。
どんなBDになっているのか、発売は21日だが、一足早くお借りしたのでお伝えしたい。なお、ソフトはBD+DVDセットのみで、価格は3,980円だ。
■ 推理はされておき鉄拳制裁!!
舞台は1891年のロンドン。若い女性が次々と殺されるという事件が発生する。その手口は不気味な儀式を連想させるもので、ロンドン警視庁は解決の糸口さえ掴めない。だが、名探偵シャーロック・ホームズにかかれば朝飯前。親友のワトソンと共に、またたくまにホームズは犯人を捕まえる。
逮捕されたのは邪悪な黒魔術を使うブラックウッド卿。彼は巨大な闇の権力との繋がりをほのめかし、“自分は処刑されても復活する”と宣言した後、絞首刑に処される。そして、その言葉通り、墓から蘇ってしまう。大英帝国の支配をもくろみ、動き出すブラックウッド卿。パニックに陥るロンドン。だが、ホームズは久々の“骨のある事件”に胸を踊らせる。無二の親友ワトソン医師と共に、最高の頭脳が、最大の事件に立ち向かう……。
映画は、ホームズが被害者女性を追って敵のアジトに潜入する所からスタート。敵を発見したホームズは、敵の動きを一目見ただけでの特徴を把握。「頭が左に傾いている……つまり奴は耳が悪い。まずは耳を攻撃し、次は喉を潰して声を奪う」、「酒飲みは肝臓が弱いので下腹にパンチ」、「左足を引きずっているから膝を潰せば行動不能にできる……」など、“攻撃計画”が超スローモーション映像で展開。ホームズはその予定通りに技を繰り出し、流れるようなアクションで敵をボコボコにする。所要時間はわずか数秒だ。
冒頭から「お前は超能力装備の格闘ゲームキャラか」とツッコミたくなるほど武闘派なホームズに呆気にとられる。すると、今度はやたらとハンサムな盟友ワトソンも参戦。ホームズに負けじと悪の一味を叩きのめす。なんだか凄い映画が始まった。
確かに、現場に残った犯行の痕跡を見落とさず、集めた膨大な情報を基に推理を組み立てるのがホームズの能力だ。それを格闘技に応用すれば、“対峙した瞬間に結末が見える”事も可能になるので、強いに違いない。頭では納得はできるが、「ホームズか!?、これ?」という驚きのほうが先に立ってしまう。
だが、原作を思い出すとハッとする。前述のように“物静かな紳士”というイメージが作られているが、原作小説のホームズは必ずしもそうではない。ボクシングの腕前はプロ級だし、フェンシングやステッキ術も体得。さらには東洋武術のバリツも習っており、命の危険を感じるような窮地をアクションで切り抜けてもいる。そう考えると、これもある意味“原作に近いホームズなのでは?”と、思えてくる。
加えて、バトルが終わると、映画のホームズは一気にインドア派に戻る。というか戻りすぎて2週間部屋から出ない。ワトソンが踏み込み、カーテンを開け、無理矢理連れ出さないと外に出ない。ちょっとした引きこもりである。彼が家に閉じこもる理由は、情報取得・分析能力が高すぎるため、意図せずに他人の秘密を暴いてしまい、不必要に怖がらせたり、不快にさせたりしてしまう事が多いからだ。特定の分野に秀でた天才が、他の分野がからっきしダメというのはよくある事だが、ホームズはまさにその典型。映画では“手のかかる天才児”のように描かれており、ワトソン以外の人間とうまく付き合えない。
それゆえ、ホームズ自身は唯一無二の理解者であるワトソンを非常に大切に想っており、彼の結婚も素直に祝福できない。また、そんな気持ちを素直に彼に伝えることもできない。完璧なようで、隙だらけで不器用というホームズのキャラクターが、妙な言い方だが、映画を見ていると“可愛く”見えてくる。そして、「ホームズと一緒にいるとロクな事がない」とぼやきながらも、彼を助ける保護者・ワトソン。この2人の関係がとにかく面白く、男性ならば、“男の親友同士ってたまにこういう事あるよな”と共感するだろう。女性はイケメン2人の、バカバカしいが純粋な友情に何か惹かれるものを感じるはずだ。終盤に差し掛かる頃には、最初の違和感は消え去り、むしろこれまで作られた映画やドラマより、原作の2人の関係に近いのではないか? などと考えていた。
また、前述のようにアクションが派手で物語のテンポが良いため、観客を飽きさせない。展開がスピーディーなだけでなく、観客の予想よりも先をホームズが歩くので、中盤以降は思わぬ騙し、騙されの展開が続く。普通のハリウッドアクション映画は、映像は派手だが物語に深みが無く、頭を空っぽにして観るタイプが多いが、この作品は違う。“謎の黒幕っぽい人”が現れても、ホームズが「あんたの正体はアレだろ?」と、いきなり“ストーリーのネタばらし”を始めてしまうため、映画は“ネタばらし”のさらに先を行く。映像的にも、ストーリー的にも、鑑賞後の満腹感が高い1作だ。
■ このホームズが、実は原作に忠実!?
映像は暖色系の発色が強く、セピア色とまではいかないが、ノスタルジックな色調だ。そのため人肌が綺麗で、鍛え上げられたホームズの肉体に伝う汗が美しい。暗闇のシーンも多いが、暗部の情報量はそれほど多くなく、首筋の階調も早めに潰れがちになる。グレインは多めで、クリアな絵作りではない。ただ、暗雲や霧が立ち込めるロンドンの雰囲気や、ホームズという古典小説のイメージも含めて、少しざらついた映像の質感が、この作品にはピッタリマッチしていると感じる。
フォーマットはVC-1で、ビットレートは17Mbps~25Mbps程度で推移。大量の本や美術品が乱雑に置かれたホームズの部屋では、もう少し各オブジェクトのディテールがクッキリ見えて欲しいと感じる。だが、レンガ作りの家が多いロンドンの遠景はそれなりに解像されており、情報量が多い。窓枠も解像されているほか、黒っぽいコートを着たばかりの群集も、各コートの形状や質感の違いもいちおう判別できる。
映像に負けじとサウンドデザインは派手。時代が時代なので派手な爆発シーンなどは無いかな? と油断していたが、中盤以降はサブウーファは活躍するシーンも多く登場。部屋を揺するような低音と地鳴りのシーンもあるので、驚くだろう。
特典の目玉はインムービーエクスペリエンス機能。本編の再生と連動し、様々な特典映像が楽しめるもので、ナビゲーターとしてガイ・リッチー監督が登場。ニュース番組のように、本編映像をバックに、舞台裏を語ってくれる。
先程紹介した、“敵の弱点を見抜いて、格闘戦を優位に進める”スローモーション映像は“ホームズ・ビジョン”と呼ばれているそうで、1秒間に3,000コマを撮影できるデジタルのファントムカメラを使っているという。映画で使うのはめずらしいという事だが、確かに個性的な映像を生み出す事に成功している。
特典の最大の見所は、やはり“新しいホームズとワトソン像がどのように作られたか?”だろう。しかし、特典を見ていると、映画を作ったスタッフ達は“奇抜な新しいホームズを生み出した”とは考えていないようだ。ホームズの小説の大ファンだという監督は、「ホームズは一般的に“高慢な紳士”の典型と思われているが、それを原作に近づけ、本能的なキャラクターにしたのが今回のホームズだ」と語っている。ワトソンについても同様で、「アフガン戦争帰りの英雄が弱いわけがない」というのが論拠のようだ。彼は軍医だった気がするが、確かにホームズに負けない格闘能力があってもおかしくはないだろう。
ホームズをこよなく愛する、シャーロキアン達が登場するコンテンツもある。原作小説を“聖典”と語り、作品に関する知識は、映画スタッフも到底及ばないという。シャーロキアン達のパーティーなど、楽しそうな映像も登場するのだが、肝心の「今回の映画をシャーロキアン達はどう思っているのか?」という感想が無かったのがちょっと残念だった。
■ 今後が楽しみなシリーズの誕生
ハイスピードな展開、インパクトのある映像、予想の先を行くホームズの推理、そして皮肉と冗談を言い合いながら、敵の本懐へと突き進む武闘派なホームズとワトソン。今までの映像作品と比べ、どちらが原作に忠実かはさておき、映画として確かに面白い1本に仕上がっている。テンポや映像は現代的ながら、しっかりと“ホームズ”を感じさせるのは、製作陣が原作をきちんとリスペクトしている証拠だろう。
最初はこれまでのイメージと違いすぎるため、“なんじゃこりゃ”感はあるが、観ているとハマる独特の魅力がある。スローモーションの殴り合いなど、ちょっとグロテスクな場面もあるが、基本は幅広い年代の、男性も女性も楽しめる娯楽作だ。続編も噂されているとのことで、今後が楽しみだ。
●このBD DVDビデオについて |
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[AV Watch編集部山崎健太郎 ]