[BD]「セックス・アンド・ザ・シティ2 [ザ・ムービー]」

「ユニクロ」でブランド知識終了の男が紹介
ハッピーエンドの“その先”は?


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ これは1つの革命です


セックス・アンド・ザ・シティ2
[ザ・ムービー]
ブルーレイ&DVDセット
価格:4,980円
発売日:2010年10月27日
品番:BWBAN-8632
収録時間:約146分(本編)+特典
映像フォーマット:VC-1
ディスク:片面2層本編BD×1枚、本編DVD×1枚
画面サイズ:16:9(ビスタ) 1080p
音声:(1)英語
      (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (3)日本語
      (ドルビーデジタル5.1ch)
発売/販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 個人的に気になる作品ばかりを取り上げている「買っとけ」だが、アニメや洋画のアクションばかリではなく、たまには畑違いな作品も紹介しないとバランスがとれない。どうせやるなら思い切り未知の世界を体験してみるのも一興だろう。

 だからと言って「思いつくファッション・ブランドは?」と聞かれて8分考察した後「……ユニクロ?」と答える男が「セックス・アンド・ザ・シティ2  [ザ・ムービー]」を紹介するのもどうかと思う。しかし、既に発売前にメーカーから借りたディスクが目の前にあるので腹をくくらねばなるまい。

 ちなみにアンケートなどでわかるAV Watch読者の中心層は20代後半~30代の男性で、「女性読者? なにそれ都市伝説?」と言うほど女性は少ない。そんな読者層に向けて、プロジェクタとAVアンプの排熱が暑くて、10月だというのにパンツ一丁でホームシアターであぐらをかく男が、こんなオシャレ映画を紹介しようというのだから、これはもう1つの革命と言っていいだろう。

 ウダウダ言っていても仕方がないので、ザックリ映画を説明したい。「セックス・アンド・ザ・シティ」は頭文字をとって「SATC」と略すそうだが、もともとは'98年から米国で放送されたテレビドラマシリーズ。、ニューヨークに住む30代独身女性4人を主人公に、彼女たちの友情や恋愛、仕事などを描いた作品。女性の本音を赤裸々に描いた内容が共感を呼び、世界的な大ヒットを記録。シーズン6まで作られ、続いて映画化。今回が劇場版第2弾というわけだ。

 内容だけでなく、主人公たちのライフスタイルやファッションにも注目が集まり、作品に登場した服やアクセサリ、靴などが人気になるなど、作品の枠に収まらない人気をみせており、そういった要素では数多ある海外ドラマの中でも“別格”な位置にある作品のようだ。

 鑑賞前に基礎知識だけは身に付けようといろいろ読み漁っていたが、ふと思い立って映画のBlu-rayを再生した。というのも、ドラマ化された映画の特典には、たいてい“これまでの総集編”が収められているからだ。案の定、「SATCノスタルジア シリーズを振り返る」というコンテンツを発見。再生すると、脚本・監督・製作のマイケル・パトリック・キングと、アンソニー・マランティーノ役のマリオ・カントーネが“しな”を作って登場した。お2人ともゲイだそうで、キャッキャウフフと言いながらこれまでのシリーズに登場した“イイ男”達を紹介。あまりのハードルの高さに膝から落ちそうになったので、静かに再生停止。本編映像に切り替えた。もはや“習うより慣れろ”である。



■ あれ? 意外と面白い……

 主人公のキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)は、自身や友人の恋愛、セックスなどをコラムとして連載している人気のコラムニスト。2年前に波乱の末に結ばれたミスター・ビッグ(クリス・ノース)と、平和な結婚生活を送っている。

 彼女には3人の親友がいる。PR会社社長のサマンサ(キム・キャトラル)は、良い男を見ると我慢ができない“肉食系”で、自ら選んだ独身生活を謳歌中。保守的な思考回路のお嬢様・シャーロット(クリスティン・デイビス)は、優しい夫と可愛い子供に囲まれ理想の家庭を持ち、弁護士のミランダ(シンシア・ニクソン)は、キャリアと家庭の両立に励んでいた。

 友人の結婚式で、久しぶりに顔をそろえた4人。しかし、それぞの幸せな毎日には、小さなほころびが生まれはじめていた。キャリーは結婚記念日に、旦那に愛の言葉を彫ったロレックスのビンテージ腕時計をプレゼントするが、夫からの贈り物は、液晶テレビというロマンティックのかけらもない代物。恋人時代のようなキラメキが薄れ、倦怠期の夫婦のような雰囲気が漂っているのに恐怖している。

 シャーロットは激務の子育てにキレ気味。さらにベビーシッターが巨乳&ノーブラの若い子で、夫が彼女と浮気しないか心配中。弁護士のミランダは、有能な彼女を快く思わない新しい上司と衝突中。そんな折、サマンサがアラブの大富豪と知り合いになり、4人で超リッチな中東への旅に出かけることに……。

 端的に言えば、“仲良し4人組がそれぞれの悩みを持ちながらアブダビへ旅立ち、自身やパートナーとの関係を見つめなおす”という内容だ。こう説明すると起伏が少なく、つまらなそうに聞こえるが、なかなかどうして、これが意外と面白い。

 まず、前述のように登場人物達のキャラが立っており、それぞれの立場でしっかり考え、行動している事がわかる“脚本の良さ”が挙げられる。理知的だが脆い面もあるコラムニスト、家庭が大事だが仕事も愛するキャリアウーマン、少女の夢を実現させたような箱入り娘が、それゆえ理想と現実のギャップに悩む母など、それぞれに性格や思考回路が違うため、観客は自分に近い誰かの悩みに感情移入できるようになっている。

 また、彼女たち3人がいざという時に頼るのが、自由奔放に独身生活を謳歌する、ある意味“男前”な性格のサマンサというのも実にリアルだ。そんなサマンサは、その豪快さゆえ様々なトラブルを巻き起こす。約146分と長めの映画だが、彼女が物語を引っ掻き回してくれるので、ダレずに鑑賞できる。

 映像面も豪華だ。アブダビ旅行は空港で新車のマイバッハ(超高級車)が“1人1台”お出迎えし、宮殿のようなホテルにご案内。部屋ではハンサムな執事まで1人ずつ割り当てられるという、まさにお姫様気分。豪華な食事にスパ、地元の市場でショッピング、夜はナイトクラブで大騒ぎと、女性が喜びそうな旅行そのもので、紀行作品としても楽しめる。人家の見当たらない東北の秘境駅で、熊に怯えながらおにぎりを咥えてローカル線を待つ私の旅行と大違いだ。登場人物達の靴から帽子までとらえるために、ワイド寄りのアングルが多いのもこの映画ならでは。カットのたびに変わっているのではと思うほど頻繁に衣装がチェンジされ、観ていて飽きない。そのファッションをチョイスした理由を考察するのも、映画の1つの楽しみなのだろう。

 当然だが、女性の視点をメインにした演出も新鮮だ。例えばキャリーが夫との結婚生活に自信を無くすくだり。恋人時代や新婚の頃のようなロマンティックな雰囲気が消えかけている事に危機感を感じる彼女は、夫が外食をめんどうくさがり、テレビを見る事が多くなること、結婚記念日のプレゼントがロマンの無い液晶テレビだった事などに不安をつのらせる。そして2日間、執筆への専念で夫と距離を置いたことで、再会時にロマンティックな雰囲気が復活する事を発見。……こうした些細な、だが重要な心の変化が丁寧に描かれる。

 夫の視点から見れば、疲れて帰宅してソファに寝転がってテレビを見ただけで怒られ、よかれと思ってプレゼントしたテレビで不機嫌になり、彼女がうれしそうだったので「それじゃあ今後も、毎週2日間の別居してみようか?」と提案したら「私とずっと一緒にいたないってこと!?」とキレられるという理不尽な言動にも見えてしまう。男からすると「じゃあどおすりゃいんだ」状態だが、女性側の視点が多く描かれることで、彼女達が“大切にして欲しいポイント”が時間や感覚によっても変化する、とても細かくてデリケートなものである事がよくわかる。

 女性としては、その心の機微も含めて、包括的に“私を大切にして欲しい”と言うことなのだが、女性への配慮をプラス or マイナスだけで考えてしまう男とのすれ違いが生じ、もどかしくて面白い。結婚すれば幸せになれると思うのは間違いで、幸せな結婚生活には男女双方のたゆまぬ配慮と忍耐が必要になる事を、丁寧に表現している。そして、4人の珍道中を観ながら、それを踏まえても“一緒にいる事の意味”も考えさせてくれる。笑いながらも少し考えさせられる、深い内容になっている。



■ 衣装多すぎじゃね?

 輪郭や細部は甘めで、グレインもそれなりに見える。破綻は少ないが、画質は全体的に中程度といった印象。画質が重要な作品とも言えないが、せっかくの服やアクセサリを細部まで鑑賞するならBDの解像度が必要だろう。フォーマットはVC-1で、ビットレートは20Mbps程度を中心に推移する。音質は高域寄りで抜けが良く、アリシア・キーズの楽曲も都会的でこの作品には良くマッチする。冒頭などはプロモーションビデオのような洗練さで、スムーズに映画の世界に入っていける。 

豊富な特典を収めるセックス・アンド・ザ・シティ2 [ザ・ムービー] ブルーレイ&DVD コレクターズ・エディション【初回限定生産】
 ソフトはBD+DVDのセット版を2種類用意するという、ちょっと変わった構成。「ブルーレイ&DVDセット」(BWBAN-8632/4,980円)は本編BDと特典DVDのセット。「ブルーレイ&DVD  コレクターズ・エディション」(BWBAN-8633/5,980円)は、それに加えて特典DVDもセットにしている。また、単品版DVDも用意されている。

 面白いのは、コレクターズ・エディションに封入されるBD/DVDの両方に豊富な特典を収めている事。通常のセットとDVD単品版には一部(偉大なる80年代:5分)しか収録されない。今回はコレクターズ・エディションの特典を紹介する。内容は、「SATC2」の舞台裏、「SATC」流ウェディング(約8分)、「SATC」ノスタルジア:シリーズを振り返る、「SATC2」を彩るアリシア・キーズの音楽(約7分)など。前述のマイケル・パトリック・キング(脚本・監督・製作)によるコメンタリも収録する。

 特典の注目はやはり「ファッショントーク」だろう。衣装を担当するのはパトリシア・フィールド。テレビシリーズから衣装を手がける女性で、そのセンスが評価されて「プラダを着た悪魔」でも衣装を担当しているという。

 それにしても流石に衣装の量が半端ではない。体育館のような空間に文字通り何百着も用意されており、パトリシアはスタッフの様々な意見を集約しつつ、衣装を決めていく。ジュエリーを置いた部屋だけで2部屋あるというから眩暈がしてくる。

 パトリシアにはシーンにマッチする衣装の明確なイメージが存在し、新旧ブランド、無名有名自作も問わず、様々な衣装を柔軟に組み合わせ、そのイメージに近づけていく。流石はプロ。「何故その服を着るのかが重要。衣装には物語がなくてはいけない」という彼女の言葉に思わず唸ってしまった。だって“物語”とか考えて服着たことないし。彼女のおかげで「ユニクロ」と「しまむら」に続く新しいブランド単語として“ホルストン”を覚えた。街でこのブランドを見かけたら「SATCでキャリーが着てたやつだよね?」とか言えば、私もファッションに敏感な男に見えるだろうか。聞かなかった事にしてください。


■ ハッピーエンドのその後に

 映画の魅力は他人の人生を疑似体験できる事にある。覚えていない自分自身の誕生の瞬間と、立ち会えない自分自身の死。人間はその狭間で生きているので常に不安を感じ、“始まり”と“終わり”が存在する物語に惹かれる……というようなセリフが押井守の昔のアニメにあったが、この映画は言うなれば恋愛映画の“終わり”である結婚の、その先に続く日々を主題にしている。恋愛を描いた作品は無数に存在するが、それを“踏まえて”その先にチャレンジする作品は少なく、それゆえに新鮮味と説得力がある。直視し難い現実に対する精神的処方箋として存在する日本の萌えアニメでは、まずお目にかかれない境地だ。

 多くの映画で恋愛期間がメインになるのは、それが人生の中でもとびきりロマンティックで、キラめくように幸せな瞬間だからだろう。だが、人間は老いるものだし、魅力的だろうがなかろうが、ロマンティックであろうがなかろうが、死なない以上人生は続いていく。だったらそんな日常を、少しでもどうにかしていくしかない。そんな当たり前だが、“夢の映画”ではあまり描かれない事を気持よく“ぶっちゃけ”ているのが鮮烈で、小気味良い作品だ。おそらくその“ぶっちゃけ”が、「SATC」というシリーズがここまで人気を集めた根幹であり、本作でも失われていない魅力なのだろうと想像した。



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(2010年10月18日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]