買っとけ! Blu-ray/DVD

 

[BD]「千と千尋の神隠し Blu-ray」

赤くない! BD版画質をチェック。豪華な料理や湯婆婆の皺もDVDとは別次元

 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。

 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

いよいよ千と千尋がBDに

千と千尋の神隠し
Blu-ray
(C)2001 二馬力・GNDHDDTM
価格:
7,344円
発売日:
2014年7月16日
品番:
VWBS-1530
収録時間:
本編約124分+特典
映像フォーマット:
MPEG-4 AVC/MGVC
画面サイズ:
16:9
音声:
(1)日本語(リニアPCM 2.0)
(2)日本語(DTS-HD MasterAudio 6.1ch)
(3)英語(ドルビーデジタル5.1ch)
ほか
発売・販売元:
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

 7月16日にいよいよBlu-rayが発売された、宮崎駿監督のアニメ「千と千尋の神隠し」。「千と千尋の神隠し」のパッケージソフトと言えば、2002年に発売されたDVD版において、“本編の色味が赤っぽいのではないか?”という事が話題になった事を覚えている人も多いだろう。今回のBDではどうなっているのか、気になるところ。

 作品の内容については、DVD版発売日当時の「買っとけ」で書いているので、今回はBlu-ray版の画質と音質についてチェックしてみたい。

 なお、先程7月16日にBD版が発売されたと書いたが、これに先立ち、7月2日にBD-BOX「宮崎駿監督作品集」が発売されており、この中にも、BD版の「千と千尋」が含まれている。既に宮崎アニメのBDを何枚か持っているという人であれば重複になってしまうが、まだ持っていないという場合はBD-BOXで一気に揃えるというのも良いだろう。

 なお、「千と千尋の神隠し」、「風立ちぬ」といった新しいBDだけでなく、「ルパン三世カリオストロの城」や「崖の上のポニョ」など、既に単品BDが発売されている作品もBOXには含まれている。BOX収録用に新たにエンコードし直されているほか、すべての作品が最大36bitの高階調映像を実現するパナソニックのマスターグレードビデオコーディング(MGVC)対応となっている。ジャケットも、キャラクター達のシルエットを使ったシンプルなものではなく、劇場公開時のキーアートを使ったものになるなど、BOXならではの要素もあり、マニアには見逃せないBOXになっている。

宮崎駿監督作品集 Blu-ray BOX
(C)Nibariki 原作:モンキー・パンチ(C)TMS (C)1984 二馬力・GH ※制作/トップクラフト (C)1986 二馬力・G (C)1989 角野栄子・二馬力・GN (C)1992 二馬力・GNN (C)1997 二馬力・GND (C)2001 二馬力・GNDDTM (C)2004 二馬力・GNDDDT (C)2008 二馬力・GNDHDDT (C)2013 二馬力・GNDHDDTK

赤くない!

 いきなり結論から言ってしまうと、BD版「千と千尋の神隠し」は“赤くない”。DVD版はかなり赤みが強く、冒頭に表示される「千と千尋の神隠し」というタイトルの文字まで赤みがかっており、全体的にノスタルジックな印象を受ける。

 DVD発売当初の「買っとけ」で、この色味についてメーカー側に確認したところ、「劇場のDLPシネマで使用されたデータを流用するのではなく、DVDのために新たに色合いなどを調整した」と返答があり、その後、色味については「スタジオジブリの色彩設計の方や撮影監督が承諾されたもの」という公式見解も発表された。

 個人的に、監督がOKを出したものに異論を挟むつもりはないが、赤みを抑えた劇場で見たような映像が楽しみたいと、DVD版を再生する時はプロジェクタやプレーヤー側で色を調整して再生。DVDに特典として収録されている予告編や、米国版DVDの赤みがかっていない映像を見ながら、モヤモヤした気持ちを抱いていたのも事実だ。

 そんな経緯があるため、BD版の再生時は「今回も赤いのかなぁ」とドキドキしながらプレーヤーに挿入。タイトルのフォントが白く表示され、ホッと胸をなでおろした。

 ご存知の通り、文句ばかり言う“ぶちゃむくれ”少女の千尋が、八百万の神々が集まる湯屋に迷い込んでしまう物語。タイトル文字が“赤くない”と書くと、鮮烈な真っ白で表示されるように思えるが、千尋が迷い込む不思議な世界は、浮世離れした、フワッとしたとらえどころのない印象であり、画質も質感重視の柔らかなトーン。いわゆるデジタル製作アニメっぽい、ドギツさは無い。映画らしい落ち着いた画が、BD版では楽しめる。

 今回、DVD版とBD版を交互に見比べながらプロジェクタや液晶テレビで再生したが、色味はさておき、冒頭からあまりの情報量の違いに唖然となった。千尋が迷い込んだ街は、看板建築の建物が並んでいる。木造の質素な店舗の前面に、まるで看板のように豪華な装飾をほどこす、“カキワリ”のような建物だが、映画のセットのような雰囲気でもある。正面から見れば、賑やかな色彩と豪華な装飾なのに、裏側は寂しく、オマケに街には誰もいない。なんとも不気味な場所だ。

 DVDを見てからBDを再生すると、建物に使われている木材の木目や、モルタル、銅板などの素材の質感の違いまでわかり、不気味さが際立ち、その場にいるような不安感がより強くなる。製作の際に参考にされたという、小金井公園 にある「江戸東京たてもの園」にも聖地巡礼した事があるが、一見華やかなのに、視点をちょっと変えるだけで不安定な印象を受けた。あのゾワゾワした感覚が、BD版を鑑賞しているとよみがえってくる。

 自分の世界に帰れなくなったと悟った千尋が、建物の隅でうずくまるシーン。ハクが助けに来てくれるが、暗闇でうずくまる千尋のディテールが、DVDでは潰れて、白くボワッと光る丸いものに見える。BDではキチンと手足や、どんな姿勢でしゃがんでいるのかがわかる。増水した川の向こうに、蜃気楼のように見える明かりも、暗部の情報量が増えた事で、空間の奥行きや“対岸の遠さ”が感じられるようになり、千尋の「もう帰れない」という絶望がBDではより強く伝わってくる。

 この世界で生き残り、豚の姿になってしまった両親を助け、元の世界に戻る。そのために、仕事をこなし、自ら考えて行動する、自立した少女に成長していく千。第1の試練とも言える、湯婆婆との対峙シーンも、DVDとBDの違いが良く出ている。

 湯婆婆の部屋があるフロアは、豪華な作りで、DVDで鑑賞していると「高そうな壺やカーテンだなぁ」程度にしか感じないが、BD版では、ドアの前の階段の大理石の透き通る美しさ、ドアノブの豪華な装飾と、木で出来たドアの質感の違いなど、大量の情報が目に飛び込んで圧倒される。豪華絢爛な旧家を見学すると、単に「綺麗な部屋だな」とは思わず、年季を重ねた大量のオブジェクトが発する妖艶な気配に気圧され、胸がつかえるが、あの感覚に似ている。湯婆婆に会う前に、萎縮してしまう千尋の心細さに、BDではより強く共感できる。湯婆婆の顔も、皺の描写が細かく、DVDよりも怖さ倍増だ。

 細かな描写という面では、“食べ物”も見逃せない。湯屋では神様に振る舞う豪華な食事が度々登場するが、BD版では画面にチラッと映る大皿の上に、どんな料理が乗っているのか、それこそ“刺し身が何切れ乗っているのか”まで数えられてしまう。あれは大根だから、煮物を作っているのかな? など、観ていると妙に腹が減ってくる。

 豪華な料理が登場するシーンは、ほとんどが宴会のシーンや、宴会の会場に従業員達が料理を運ぶシーンであるため、画面内を大量のキャラクター達が動きまわる。DVD版では、その動きにデータレートが割かれてしまい、手にした料理のディテールは潰れ気味で、境界も曖昧になり、ゴチャゴチャした画になってしまう。

 しかし、BD版は「どいてどいて!」と画面を横切る男が何を運んでいるのか、砂金を振りまくカオナシに、もっと砂金をくれとねだり、詰めかける従業員達がどんな料理を掲げ、どんな服装をしているのかもクッキリ視認できる。カオナシが食い散らかす料理の欠片、床に放り出される皿の絵柄など、動きが激しいシーンでも解像されており、安心して観ていられると共に、「こんな細かいところまで描き込んでいたのか」とコマ送りしながら驚いてしまう。

 空想や作り物の世界にリアルさを与えるためには、登場するオブジェクトのディテールをとことん細かくしたり、世界観の設定に厚みを持たせる事などがテクニックとして用いられる。特撮で使われる街のミニチュアが、画面に映らならない部分も手を抜かずに作られ、実在感をアップさせるという話があるが、アニメにおいてもそれは同じだろう。

 後半に登場する、水の上を走る海原電鉄など、映像が本当に美しい作品だが、こうした細かなディテールの積み重ねが生み出す“映画内への引き込み力”が強烈な作品であると、BD版で再認識する。DVDと頻繁に切り替えようと思っていたのに、ついついBD版をそのまま見続けてしまう。飽きるほど何度も観ているはずなのにだ。

音にも注目

 音声も強化されており、日本語はリニアPCM 2.0chステレオと、DTS-HD MasterAudio 6.1chで収録。英語音声なども収めている。

 基本的に静かなトーンで進む作品ではあるが、久石譲による情感豊かなBGMの中低域の音圧が、BDのDTS-HD MasterAudioではグッと強くなり、感動に拍車をかけてくれる。効果音では、特に低域の沈み込みと分解能が向上。釜爺が働くボイラー室の「ゴーゴー」という低い音の“凄み”が増している。

 特に巨体をばたつかせながら不満を表現する湯婆婆の子供、坊には驚かされる。湯婆婆と千尋が対峙している時に、癇癪を起こしてドアを蹴破るが、その「ドーン!!」という音が非常に低く、トランジェント良くハイスピードだ。DVD版を観て「大きな低音が来る」とわかっているはずなのに、BD版の「ドーン!!」はパワーと鋭さが段違いであるため、その都度、ビクッと震えてしまう。

BD版で改めて凄さがわかる

 特典映像は、ジブリではお馴染みの絵コンテ映像のPinP(子画面表示)や、アフレコ台本、予告編だ。付属の冊子には劇場用ポスターのイラストも収録されている。

 DVD版で色味が気になっていた人は、安心して鑑賞できるというだけでもBD版に価値があるが、それだけでなく、BD版では情報量の増加に驚く。一通り鑑賞した後の脱力感も、BD版の方が重い。映像と音のクオリティが高いことで、ガッツリ心を掴まれる効果を改めて実感できた。「DVDやテレビで何度も観たからBDはいらないかな」という人も、一度観ると考えが変わるだろう。

 以前は千尋の境遇への共感や、成長する姿を軸に観ていたが、BD版で改めて鑑賞すると、世界観の不思議さと美しさ、空気感に注意が向く。そして、何故かハクやリンがより魅力的に見える。恐らく、千尋が迷い込んだ世界そのものの情報量が増えた事で、彼女の孤独感や恐怖感、戸惑いがより強く視聴者に伝わり、そんな世界で手を差し伸べてくれる2人が、グッと頼もしく、カッコ良く見えるのだろう。コレクションとしてだけでなく、作品の新たな魅力に気づかせてくれるBDだ。

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(山崎健太郎)