西川善司の大画面☆マニア
第181回:CEATEC 2013に見た次世代映像。4K最新技術の現在
第181回:CEATEC 2013に見た次世代映像。4K最新技術の現在
4K相当クアトロン プロ詳細や4K有機EL、プロ用REGZA
(2013/10/4 14:37)
フルHDパネルで高品位4K表示が行えるクアトロン プロ・パネルの秘密
シャープブースにおける映像ネタの展示は、昨年発表されて一大センセーションを巻き起こした「IGZO」技術、そして新しい4原色パネルクアトロンにまつわる4K関連技術を中心にした展示を行なっていた。
シャープは、独自のRGB+Y(赤緑青+黄)の4原色パネル「クアトロン(QUATTRON)」を、世界でただ1社だけ実用化に成功しているメーカーだ。
4原色パネルは1画素あたりが、RGB+Yの4つのサブピクセルからなり、同一解像度の液晶パネル同士で比較すればクアトロンの方が、33%ほどサブピクセル数が多い計算になる。
今回のCEATECで、シャープはこのクアトロンパネルの33%多いサブピクセルを多色方面への利用だけでなく、高解像度方面へ応用する「クアトロン プロ」技術を発表した。ブース内ではこのクアトロン プロの技術展示および、採用製品の試作モデルの展示を行なっていた。
クアトロン プロとは、液晶パネル自体は、これまでのクアトロンと変わらない。変わったのは、RGB+Yのサブピクセルからなる画素の駆動アルゴリズムに新モードが加わったという部分だ。
どんな新モードかというと、それは従来のフルHD解像度のクアトロンパネルで高品位な4K映像(3,840×2,160ドット)の疑似表示を行なってしまうモードだ。アプローチは違うが、こうした高いコストパフォーマンスで4K表示に対応した製品としては、JVCケンウッドのD-ILAプロジェクタ製品がある。D-ILAプロジェクタでは、フルHD解像度のD-ILAパネルを時分割で半ずらしさせて表示させることで疑似4K表示を行なっていたが、クアトロン プロでは、これとは異なるアプローチで疑似4K表示を行なう。順を追って解説しよう。
まず、「新開発のクアトロン プロ!」とはいっても、実は液晶パネル自体は従来のクアトロンと同等の液晶パネルを用いる。ここはコストメリットとして効いてくる部分である。
クアトロンはマルチドメイン型のVA液晶パネルだが、その1画素あたりの構造はRGBYのサブピクセルが縦に2段積み上がったような配置になっているのは周知の通り。
4K解像度を表示するためには、フルHD解像度のパネルに対して縦横二倍の画素表示を行う必要があるわけだが、縦解像度に関しては二段に積み上がったサブピクセルを個別に利用すれば良さそう…ということはすぐに分かる。
実際、クアトロン プロの動作を解説する模式図ではそう図解されているが、実際の動作はそれよりもやや複雑である。
実際には、現状のクアトロンパネルでは、図解されているように、上段サブピクセルと下段サブピクセルは個別に駆動することはできない。将来的に疑似4K表示に特化したTFT駆動回路を形成させれば可能になるだろうが、現状のクアトロン プロでは液晶パネル自体は従来クアトロンと同じなのだ。
というわけで、上段サブピクセル群と下段サブピクセル群は個別駆動できないので、サブフィールドの考え方を導入する。
つまり、上段サブピクセル群と下段サブピクセル群からなる1画素を2回に分けて駆動させ、その2回の駆動画素を連続して見たときに上下のサブピクセル群が個別に駆動したと同じように見えるような画素表示を行なうのだ。
例えばだが、上段サブピクセルのRGBYをRGBY=10:10:10:10として光らせ、下段サブピクセルはRGBY=20:20:20:20と光らせたいとする。
一回目の駆動で上段がRGBY=10:0:10:0、下段がRGBY=10:10:10:10と駆動させるとする。続いて2回目の駆動では上段RGBY=0:10:0:10、下段RGBY=10:10:10:10と駆動する。するとこの2回の駆動を連続してみると上段RGBY=10:10:10:10、下段RGBY=20:20:20:20で発光したように見える。
勘のいい方は気がついたことだろうか? 。そう、このクアトロン プロ技術は、シャープの液晶パネルの特徴である広視野角性能確保のために用いられてきたマルチドメイン駆動を、解像度向上に転用応用したモノなのである。
本連載で取り上げたAQUOS UD1シリーズ編にて、「マルチ画素」の設定について解説したが、あの動作モードに、解像度向上のための特別な動作モードが追加された、と思ってもらえればいい。
逆に言うと、この疑似4K表示機能を活用すると広視野角のためのマルチドメイン駆動がキャンセルされるので、若干、視野角は狭まることになる。また、時分割で事実上の2ライン分の個別駆動を行なう事から、いうなれば手持ちの輝度予算を2ラインに振り分けて使って駆動することになるため、画面全体の表示輝度も若干低下する。ただ、もともと輝度性能に優れたクアトロンなので、視覚上の輝度低下は問題なし、とシャープ側は自信を見せている。
なお、実際のクアトロン プロ採用製品では、疑似4K表示の動作はユーザーの意志でオン/オフの設定が可能になるとのことで、有効設定にした際でも表示モードとして「輝度優先」「解像度優先」「バランスモード」の3設定が選べるとのことだ。
さて、縦解像度の倍化アルゴリズムについては分かった。では、横方向はどうやるのか。
これについては、もっと考え方は単純だ。
クアトロンのRGBYサブピクセルで、白を出すにはRGBの同時発光とBYの同時発光の組み合わせがある。
そこで4K映像信号の輝度分布に関しては、このRGBとBYの組み合わせで個別表現するように画素駆動を組み立てる。色分布に関しては、残念ながらこれまで通りRGB+Yで駆動しなければならず、黄色に関してはRGとYで個別に2画素駆動できるものの、R、G、Bの単色、およびそれらの組み合わせによってできる中間色に関してはフルHD解像度分以上の表現は行なえない。つまり、概念的な言い方をすると輝度分布は4K解像度で表現出来るが色分布はフルHD解像度+α程度ということになる。
実際に表示映像を見てみたが、最も効果が大きいと感じたのは、PC画面や図版などの映像だ。明暗差が激しいドット単位の表現などは、かなりリアル表示に近い高解像表示が行なえている。実写映像についても、輪郭部においては滑らかな斜め線の表現ができており、映像を近くで見た際にはその差を実感できる。
逆にドット単位の細かいカラーテクスチャ表現、色ディテール表現などについては、フルHD映像から大きく変わらないと感じる。ただ、疑似表示と言うことを考えれば、「疑似」という言葉が持つイメージ以上の効果は達成できていると思う。
シャープによれば、HDMI端子を通して入力出来るのは3,840×2,160ドットの30Hzまでで、60Hz入力には対応しない。上位機種となるリアル4KモデルのAQUOS UD1シリーズは、60Hz入力対応のアップデートが予定されているが、クアトロン プロに関しては4K“相当”表示という位置づけのため、4K/60Hz表示への対応は行なわないとのことだ。
縦解像度増強は時分割で実践される方式のため「フリッカーやカラーブレーキングは大丈夫なのか」と心配する人もいることだろう。これについては、筆者が見た限りでは問題なし。クアトロン プロの疑似4K表示は、サブフィールド的な表示方式とはいっても、ブラウン管的なインターレース的な1ライン飛ばしの表示ではなく、全面描画されるため、コーミングはあり得ないし、そもそもの対応の4K映像表示が30Hzまでなので、その問題は元来露呈しにくいのだ。とはいえ、シャープ関係者によれば、疑似4K表示においても1フレームは1/120秒内での描画が行なえているとのことだ。
クアトロン プロの採用AQUOSは、2013年内に発表があるとのことで期待は広がる。
4Kソースが実際に入れられ、4K気分をハイコストパフォーマンスに味わえるのは、このクアトロン プロだけになるので、一般ユーザーからの期待感は相当なものになるはずだ。
シャープIGZOの現在と未来
シャープブースにおける映像ネタの展示は、昨年発表されて一大センセーションを巻き起こした「IGZO」技術、そして新しい4原色パネルクアトロンにまつわる4K関連技術を中心にした展示を行なっていた。
IGZO技術の「IGZO」はIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)により構成される酸化物半導体で、そのIGZO結晶がC軸方向(3軸直交座標系における第3軸。Z軸)に層状に配置された構造となっているためC-Axis Aligned Crystal(CAAC)構造と呼ばれる。技術的な詳細解説は筆者が以前別の企画で行なっているのでそちらを参照頂きたいが、大前提として述べておく必要があるのが「IGZO技術は半導体の技術」だということだ。
シャープが「IGZO液晶」というアピールを盛んに行なったことで液晶とセットにして認知されてしまっているが、実際には「微細化に有利」「優秀な低消費電力性能」「歩留まりが高い」といった3つの特長を持った多用途目的の新半導体技術だったりする。
とはいえ、シャープの現状のIGZO技術の適用先は液晶パネルが中心であるため、ブース内の展示は「IGZO技術を用いた液晶パネル」関連技術及び製品の展示が中心となっていた。
昨年は、「製品前の技術展示」が中心だったが、今年は、ブース内のそこかしこで、IGZO液晶の採用製品を見たり、触れたりすることができた。
PC関連では14インチで3,200×1,800ドットの262ppi相当の富士通のLIFEBOOK UHシリーズ、タブレット製品では10.1インチで2,560×1,600ドットの約300ppi相当の発表されたばかりのシャープ自身のMebius Pad、PC向けディスプレイ製品では業務用製品ながらも一般ユーザーからの問い合わせが殺到した32インチ、3,840×2,160ドットの約140ppiの「PN-K321」の後継であるタッチ入力対応モデル「PN-K322B」などが展示され、一部の製品については、実際に触れることができるようになっていた。
IGZO液晶は、現状、250ppi~300ppiくらいまでの高解像度パネルの生産が順調なようで、昨今の4Kテレビブームと連動して、来年以降、ノートPCやPC向けの液晶パネルが一気に高解像化していくような流れを感じさせてくれた。参考出品されていた15.6インチの3,840×2,160ドットの282ppi相当の4Kパネルなどは、まさに、そんな動向を象徴した試作パネルだったといえよう。
きっと来年のCEATECでは、その採用製品がブース内に展示されるに違いない。
さて、前述したようにIGZOは汎用の半導体技術なわけだが、それを証明する形で、IGZOベースのTFT回路を用いたMEMSディスプレイの展示を行なっていた。
MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの略で「超微細な電気メカ」を意味する。
今回、シャープが展示していたMEMSディスプレイは、1画素あたりが、このMEMSで個別駆動されるものになる。
動作原理を簡略化して解説するならば、光の透過制御を液晶素子でやるのが液晶パネルで、光の透過制御をMEMSでやるのがMEMSディスプレイということになる。最も普及しているMEMSディスプレイデバイスは、Texas Instruments社のDLPプロジェクションシステムのコアパーツであるDMD(Digital Micro-mirror Device)だろう。
さて、今回シャープが展示していたMEMSディスプレイは、DMS(Digital Micro Shutter)デバイス方式で、その名の通り、光を通すか通さないかを二値的に制御するものになる。
DMSの根幹技術は、Pixtronix社が開発したもので、同社は2012年にQualcommに買収された。遡ること2010年には日立製作所がPixtronixから技術供与を得て、今回のシャープと同一技術のMEMSディスプレイをCEATEC JAPAN 2010に発表していたが、そちらは開発中断されたという。
今回展示されていたMEMSディスプレイに用いられていたDMSの根幹動作原理は静電力だ。スプリングで支持されたシャッターと、シャッターの両側に配置された電極間に電圧を印加することで、シャッターと電極間に静電力を発生させ、この静電力による引力と斥力でシャッターを動作させている。この動作によって開口部を遮断、開放、と制御することで、光を「通す/通さない」の二値的な階調を作り出している。
バックライトは赤(R)LED、緑(G)LED、青(B)LED、白(W)LEDの4種で、それぞれを順送り式(シーケンシャル方式)に発光させ、各画素のフルカラー表現に必要な光量分だけDMSが開閉して光を透過させる。真っ黒はDMSが閉じたまま。最高輝度ならばDMSは開いたまま。その間の階調はDMSの開閉量を単位時間内で増減させるイメージだ。この制御を3原色RGB分+白色の分を行なってフルカラーを実践する。白LEDは、Web画面や電子書籍閲覧時など、白表現の利用頻度が高い映像でRGBのLEDを全て点灯させる頻度を下げたり輝度を稼ぐために組み込まれており、MEMSディスプレイに必ずしも白LEDが必要なわけではない。
デジタル(二値)的な光制御でフルカラー×階調表現を行なうという意味においては、前出のDLPの映像表現に近い。実際、表示映像をシャッター速度を上げてカメラで撮影すると、フルカラー表示がなされる前の映像が撮影されたり、あるいは表示映像を瞳を小刻みに振動させたり首を振りながら見るとDLPと同様な色割れ(カラーブレーキング)が知覚されることがある(個人差あり)。
このDMS方式のMEMSディスプレイの特徴として、シャープは「高い光の利用効率」、「優れた省電力性能」という2点をあげている。
光の利用効率が高いのはカラーフィルタを用いないでRGB-LEDの原色光をそのまま画素表示に用いるため。さらに、液晶と違い、1画素のフルカラー表現が並んだRGBの3つのサブピクセルによって行なわれるのではなく、1画素がそのままフルカラー発光できるのも、光の利用効率を押し上げる。いわばプロジェクタ的な画素表現になるということだ。なお、こうした一連の特徴の相乗効果もあって、最大で液晶パネルの10倍の光利用効率というから相当なものだ。
シャープによれば、このサブピクセル構造を用いない構造は、微細化にも有利だとしている。液晶では画素を1/2サイズにして解像度を2倍に上げようと思うと、RGBからなる3つのサブピクセルは1/6サイズに縮小しなければならない。DMS方式のMEMSディスプレイならば、そのまま1/2サイズの縮小で2倍の解像度が実現出来る。
そして、消費電力性能は、前述の光の高利用効率からもたらされる副次効果と、シャープのIGZO採用の相乗効果の産物だ。
また、多階調、あるいは多色表示を「あえて」あきらめることでこれを低消費電力に結びつけられることも特長としてアピールされている。
分かりやすく白黒の静止画の表示を考えると、この場合、白色LEDだけを点灯させ、黒表示にしたい画素だけをDMSによるシャッター開閉を閉じたままだけにすればいい。そう、シャッターの開閉頻度は極めて低くなりDMS駆動に掛かる消費電力は下がるのだ。シャッターの開閉頻度が下がるということは白色LEDの輝度をそこそこにしても明るい映像を表示出来ることになる。これも消費電力低下に繋がる。
カラー表示の場合もこの概念と同様で、フルカラーではなく、わざと16色とか256色表示に限定すればシャッターの開閉頻度を下げられる。シャッターの開閉頻度で多色、多階調表現をするのがDMS方式のMEMSディスプレイなのだから当たり前だ。つまり、先ほどの白黒の表示の事例と同じ理由で、DMS駆動消費電力は下げられ、バックライト輝度も下げられるので低消費電力へと結びつくのだ。
この他に、シャープは、液晶分子が理想通りの動きをしてくれなくなる極寒地でも問題なく駆動できる点などもMEMSディスプレイの利点としてあげている。
このMEMSディスプレイ、技術的にはテレビサイズの大型パネルへの開発も可能とのことだが、当面はモバイル機器向けの中小型サイズパネルの実用化にむけて研究開発が進められる見通しだ。今後の動向に注目したい。
東芝、次世代4K REGZAはDisplayPort搭載へ。Z8はx.v.Color対応
東芝ブースの映像関連展示でホットトピックとなっていたのは、未発表の4K REGZAの展示セクション。
現在、リアル4K表示に対応したモデルはREGZA Z8Xシリーズがリリースされているが、また別系統の4K REGZAが公開されたのだ。
まだ型番は非公開だが、仮称「レグザプロ」とも言うべき製品で、民生向け高画質モデルを謳う予定だという。
古くからの映像マニアに対しては、「ブラウン管時代にソニーが展開していたプロフィールプロ的な製品」といえば分かりやすいかも知れない。
マスターモニターに近い画質を実現し、多彩な接続性を実現する予定だそうだが「レグザブランドである以上はあくまでディスプレイではなくテレビ製品」(本村裕史氏)だとのこと。また、同氏は、パナソニックのVIERAに先を越された「DisplayPort搭載」にも意欲を見せていた。いうまでもなく4K/60Hzへの表示に対応し、同じくVIERAに先を越された4:4:4入力にも対応するようだ。
さて、このレグザプロ(仮)の表向きのターゲットはハイエンドユーザーとなるが、映像編集スタジオのモニターとしての業務用用途でも訴求していくという。ブースではPCゲームのデモも行なわれており、「ファイナルファンタジーXIV」を初めとして、最近、一気に身近になりつつある4K・PCゲームをプレイするためのゲーミングモニターとしてのアピールも行なわれていた。
既にゲームモニターとして高い評価を得ているREGZAとしては、4Kゲーミングにおいてもリーダーシップを取りたいという思惑が有るに違いない。その証拠に、PCゲームの間では既に一般化しつつある、2,560×1,440ドットのようなフルHD+αの解像度への対応も行われる予定だという。
今回展示されていた4K REGZAの画面サイズは50型と40型ったが、あくまでこれらは参考出品で、最終的にはより大きいサイズや、より小さいサイズの展開も考えているとのこと。
この他、東芝ブースでは、発表されたばかりの高画質フルHD REGZAのZ8シリーズとJ8シリーズを展示。
Z8/J8シリーズは、高画質フルHDの意味を込めて「PREMIUM 2K」というサブブランドが与えられており、近年のレグザでは久々のエリア駆動付きの直下型白色LEDバックライトシステムを採用している。
ブースに展示されていた47インチのカットモデルを見た限りではLED数は横13×縦7の総計91個だった。42インチや55インチモデルでのLED個数は不明。
液晶パネルはIPS。輝度スペックは一般的な液晶テレビの1.5倍に相当する700cd/m2を公称値とするが、実はポテンシャル的には最大1,250cd/m2の輝度性能を有しているという。蛍光灯照明下での視聴、明るい店頭での自己主張、そして3D映像を見る際などにおいて、この高輝度性能は圧倒的な武器となりそうだ。
また、REGZAとしては久々のx.v.Colorへの対応が行なわれているという点もZ8/J8の特徴として挙げておきたい。
ソニーブース~4K有機ELテレビを展示
ソニーブースにおける映像機器関連の展示としては、9月に発表された4K BRAVIAの下位モデル「X8500A」シリーズと、今年の1月にラスベガスで開催された2013 International CESにて公開された56インチの有機ELテレビが目玉となっていた。
X8500Aは、本連載でも取り上げたBRAVIA X9200Aシリーズの基本画質性能を維持しつつも、高音質スピーカーを省略するなどした4Kのバリエーションモデルとなる。
有機ELテレビについては、International CESの時点から公開された情報に変化はなく、「画面の大きさが56インチ」「解像度は3,840×2,160ドット」「有機ELの構造はスーパートップエミッション(STE)」という3点のみ
ソニーの4K有機ELディスプレイは、印刷技術と真空蒸着を組み合わせたハイブリッド型形成方式を採用しているといわれる。印刷技術で形成しても問題ないとされる赤色発光層と緑色発光層の形成に印刷技術を用い、印刷で形成すると発光効率や寿命の面で難がある青色については青色共通層として蒸着技術を用いて形成させると見られる。
有機EL画素を駆動するTFT回路の半導体はソニーと台湾AUOが共同開発した、インジウム・錫・亜鉛・酸化物半導体の「ITZO」とみられているが、この辺りの情報開示もなかった。ITZOは、可視光に対して透明な特性があり、電子移動度がシャープのIGZOの約3倍以上あるとされる。今後のさらなる情報公開に期待したいところだ。
パナソニックブース~新4K VIERAは台風の目となるか。新有機ELパネルは期待大
今年のパナソニックブースは、テーマを「4K」と絞り「4K WORLD」という分かりやすいテーマを掲げた展示を展開。
展示の中心は、9月に発表されたばかりの4K VIERA「TH-L65WT600」で、これに新採用された新技術の数々が各展示セクションにて紹介されていた。
特に今年のビエラから搭載された新世代フレーム補間機能は、独自開発の双方向再射影(Bi-Directional Reprojection)アルゴリズムを採用しており、その補間フレームの品質が高いことが注目されている。双方向再射影アルゴリズムでは、手前にある障害物に遮蔽されていたオブジェクトが突然、飛び出して出現するような、これまでの補間フレーム生成技術では対応できなかった状況に的確に対応できるのが特徴だ。
特に強く訴求されていたのが、テレビ製品としては業界初のDisplayPort1.2a採用、HDMI 2.0採用による3,840×2,160ドット(4K)の60Hz表示への対応と、4K映像の色情報をフル解像度で入力出来てそのまま表示できる「4:4:4」入力対応の部分だ。ここは、他社の4Kテレビ製品ではまだ未搭載の機能であり、現状では4K VIERAのオンリーワン性能の部分である。他社も年内に4K/60Hz入力および60Hz表示に関しては追って対応がなされるようだが、4:4:4入力に関しては4K VIERAだけの特権的機能となる。
この部分の性能アピールに関しては、来場者にPCゲームをプレイしてもらうことで訴求していた。
今夏サービスインしたばかりの今や説明不要の「ファイナルファンタジー14」と英国製レーシングゲーム「PROJECT CARS」が体験できるようになっていたが、ともに4Kの空間解像度だけでなく、時間方向になめらかな動きが感動的であった。
この他、業務用4K機器の展示セクションでは今年発売されたばかりの31インチ業務用4Kモニター「BT-4LH310」や、業務用4Kペンタブレット「タフブックUT-MB5」なども展示。
BT-4LH310は、映像制作現場で使用されることが想定されることからパネル解像度は3,840×2,160ドットではなく、DCI(デジタルシネマイニシアチブ)規格の4,096×2,160ドットを採用。60Hz入力・表示にも対応する。競合製品となるソニーのPVM-X300に対して大きなアドバンテージとして訴求されていたのは対応色域が業界初のDCI(P3)カバー率96%を達成しているところ。
パナソニックブースの最大の注目株は、ブース中央のシアター内で公開されていた新型有機ELパネル。
こちらは今年のInternational CESで見せていたものとは異なり、完全な新作パネルとなっている。
画面サイズ55インチ(正確には54.6インチ)。解像度は3,840×2,160ドット。アスペクト比16:9。公開スペックはこれだけだ。
CESで見せていたものは56インチだったが、今回、公開されたのは55インチで、画面サイズも異なっている。ただし、「RGBオール印刷方式」を採用している点は変わらない。
RGBオール印刷方式とは、サブピクセルである各RGBの有機EL画素における有機EL材質を印刷で形成するもの。この方式は、一度、ドットピッチを決定して印刷ヘッドを開発してしまえば、このヘッドを共用して、画面サイズに依存しない生産が可能なのが特徴だ。例えば、大型サイズではこの印刷ヘッドで1枚の大型パネルに対してRGB有機EL材質を形成させ、中小型では同型印刷ヘッドで一度に複数枚のパネルに対してRGB有機EL材質を形成させるのだ。ソニーが採用する有機EL材質を蒸着させる方式とは異なり、真空環境や高温製造プロセスが不要なので生産工程がシンプルでコスト的に優位だとされる。
実際にシアターに並んで視聴して見たが、CESの時の画質は、発色に難があり、ソニーのものと比較すると画質的に見劣りしていたが、今回公開されたものは、全く別物となっていた。劇的に画質が改善されていたのだ。
黒の締まりは従来通り漆黒に近く、コントラスト感が鮮烈で素晴らしいのはいいとして、CES時のデモ機で気になった白が黄色に偏った発色や、色味の不正確な感じが劇的に改良されていたのだ。
特に驚嘆したのは、暗色の表現力の高さと暗部階調力の豊かさ。
有機ELは「自発光! 自発光!」ともてはやされるが、実は、「それだからこそ」の弱点がある。それは「"暗く"安定的に光らせるのが難しい」というところ。この弱点を気づかれないために有機ELのデモ映像は漆黒の空に浮かぶ星空とか、漆黒背景に明るいオブジェクトとか、そうしたコントラスト感アピール重視のものとなっている。語弊覚悟で言えば、有機ELは先天的に漆黒から暗色にリニアに立ち上がるような階調表現は意外に苦手なのだ。有機ELパネル採用のスマートフォンで暗い映像を表示したときにその描写力に「あれ?」と感じた人もいるかもしれない。
ところが、今回のパナソニックの有機ELでは、この辺りがうまくチューニングされている。焦げ茶色の馬の肌に乗る陰影、暗い灰色に浮かぶ象の肌のシワの陰影なども、かなりリアルに見えていた。
なお、シアター内にいた関係者によれば、今回公開された有機ELパネルも、ソニーとパナソニックの次世代有機ELパネル開発プロジェクトの産物として捉えてもらって構わないとのことであった。