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冒頭からケルトロック爆音。アイルランド産ホラー「FRÉWAKA」は救われないけど音がステキな映画
2026年2月6日 08:00
ホラーといえば夏……と思いきや、2026年冬も大盛況である。ここ最近も「鬼胎(クィテ) 黒い修道女」「夜勤事件」「トゥギャザー」などなど、洋邦問わず気になる作品たちが映画好きのタイムラインを賑わしていることだろう。
そんな中、本記事では、2月6日より日本公開がスタートしたアイルランド発のフォークホラー「FRÉWAKA/フレワカ」をご紹介したい。
米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で、実に96%(2025年11月時点)の高評価を獲得した注目作だ。監督・脚本を務めたのは、新進気鋭のアイルランド女性作家、アシュリン・クラーク。アイルランドという国が持つ歴史の暗部と、ケルト神話や民間伝承に宿る“土着の畏れ”的なものを融合させ、現代ホラーの感覚で表現している。
実際に本編を観てみると、“淡く美しい画面の中で起こる民話的な恐怖体験”に巻き込まれる感じは、「ミッドサマー」や「LAMB/ラム」なんかを想起させる現代的フォークホラーっぽい色合いで心地よい。
ジャンプスケアや残酷描写は基本なく、精神にジワジワ浸透してくるタイプの恐怖だ。もちろんフォークホラーらしい救われなさもバッチリで、鑑賞後はイイ感じにどんよりする。
同じ“ケルト由来の因習村系”という文脈で語るなら、「ミッドサマー」の源流としても言及される名作カルト「ウィッカーマン」との対比も面白いだろう。
「ウィッカーマン」がケルト異教の島という“架空の閉ざされた共同体”を舞台にしたのに対し、「FRÉWAKA」は現代のアイルランド社会に根付いた、ケルト神話由来の“見えない存在”を描いている。
なお、ステマにならぬよう先に明示しておくと、筆者は本作の日本公開にあたり宣伝PR制作に関わっている立場である。つまりはちょっとした宣伝も兼ねて、本記事で見どころなどをアピールさせていただきたいというお話だ。
精神的に来るホラーとか、神話や因習が絡む土着の恐怖が好きな人はハマると思うし……。何より音楽が良いのでぜひよろしくお願いします。
あらすじ:閉ざされた村に残る、女性たちに受け継がれてきた痛みの記憶
まずは、あらすじから。物語は、人里離れたアイルランドの村で起きたひとつの失踪事件から始まる。50年前の婚礼の夜、花嫁が忽然と姿を消したのだ。
その半世紀後、主人公の訪問看護師シューは、老婆ペグの介護をするためその村を訪れた。老婆の家には蹄鉄が掲げられた赤い扉があり、どこからともなく歌声が響いてくる。藁の被り物をした男たちが現れる奇妙な祝祭、そして老婆が口にする「ヤツらに気をつけなさい」という忠告──。
やがてシューは、この土地に埋もれていた古い記憶と、女性たちの間で受け継がれてきた犠牲の歴史に触れていくことになる。
失われし言語の響きと、爆音のケルティッシュ・プログレ
さて、本作の語りどころは本当に多いのだが、せっかくなのでAV Watchでは“音”について2つのポイントから言及したい。
ひとつは、登場人物たちが話す“言語の響き”である。というのも本作、実は本編がアイルランド語で紡がれた初の長編ホラーでもあるのだ。どこか神秘的な響きを持つ「FRÉWAKA」というタイトルも、現地の言葉<fréamhacha(フレーヴァハ)=“根”>に由来している。
これは、クラーク監督が父親からアイルランド語で教育を受けた背景があるのだが、話者が少なくなり“失われし言語”となりつつあるゲールの言葉には、英語圏のホラーとはまた異なる恐怖の響きが宿っていて、本作の奇異性を高めている。
そしてもうひとつは、恐怖演出としてちょくちょくケルト音楽のサウンドが使われていること。ご存知の通り、ホラー映画の音響は恐怖を煽る重要要素であり、本作でも低域のランブルや高域の不協和音がしっかり不穏さを高めてくれている。
さらにそこに、現地の打楽器であるバウロンやキリキリしたフィドル(バイオリン)なんかの音が挿入されていることで、フォークホラーらしい“土着感”が盛り盛りなのである。
なお、実は本編冒頭で早くも、象徴的な音楽演出があったりもする。今から50年前、1973年に起きた花嫁失踪事件を描くシーンで、当時活躍したアイルランドのケルティック・プログレバンド、Horslips(ホースリップス)の音楽が鳴り響いて幕を開けるのだ。
上の通り、この本編冒頭シーンは公式YouTubeでも公開されているので、ぜひご覧いただきたい。この雰囲気にビビッと来たら、好きだと思う。
Horslipsは、伝統のケルト音楽とプログレッシヴロックを融合させた音楽性で、今も高い評価を誇るグループ。作中で使用されているのは、1973年に彼らがリリースした楽曲「Dearg Doom」だ。
映画冒頭から爆音で響く70年代ケルティックプログレと、奇妙な結婚式の習俗……この時点で、「FRÉWAKA」がどの座標軸にある映画なのか、感覚的に理解する人も多い気がする。
例えるなら、日本の因習村ホラーで、人間椅子の音楽をBGMに採用しているような感じだろうか。伝統音楽という点では、民謡クルセイダーズを当てはめるのも良いかもしれない。いずれにせよ、そんな風に考えてみるとなかなか熱い。
アイルランドの歴史とかケルト神話とか多少知っておくとより良い
さて、色々語ってきたが、本作を観るにあたってひとつ注意点がある。この映画は、アイルランドの歴史的な背景情報を知らないと、面白さが半減してしまって大変もったいないのだ。
本編は、アイルランドという国が背負ってきた歴史的・信仰的なモチーフが散りばめられた不穏なシーンの連続なのだが、作中でその辺の解説が全くされないあたり、上に挙げた中では「LAMB/ラム」と近いものがある。
つまり、怪異の世界に生きる側の目線、元々そこに住む当事者の精神的惨劇が描かれるパターンの映画なのだ。「ミッドサマー」や「ウィッカーマン」のような、怪異の世界を訪れた異邦人の目線で体験するある種のエンタメ感や、わかりやすいオチはない。
クラーク監督の語るところから察するに、アイルランド現地の人たちが共通して抱く“土着の見えない何か”が映像化されているのだが、多くの日本人にとっては馴染みがないモチーフばかりなので、鑑賞後に「つまりどういうこと?」となりやすいだろう。
そこで最後に、「FRÉWAKA」の理解が深まるアイルランドの文化的キーワードについて、ネタバレしない程度にご紹介しておく。この辺を齧っておけば、より面白く鑑賞できて考察が進む……はず。
ストローボーイ
映画冒頭に登場する、一種異様な藁仮面の男たちは、アイルランドに実在した土着習俗「ストローボーイ」に由来する。かつてアイルランド農村部では、祝いの儀式として、藁仮面を被った男たち=ストローボーイが結婚式に押しかけて踊るという奇妙な風習があった。
ケルト神話
本作にはいくつかケルト神話をベースにしたモチーフが登場する。中でも不穏な存在として描かれるのが、ケルト神話由来の超自然的存在「イース・シー」の概念。妖精のようなものらしいが、クラーク監督によると「人間を憎んでいて、人間に不幸が訪れると喜ぶタイプの妖精」とのこと。
ヤギ
象徴的に描かれる動物「ヤギ」は、古代ケルトの狩猟神・冥府神「ケルヌンノス」や、雄ヤギを街の王として祭り上げる伝統行事「パック・フェア」を想起させる存在。本作では、ケルト時代から野生で生きる動物として、古代と現代をつなぐモチーフになっている。
マグダレン洗濯所
アイルランドの厳格なカトリック観の下で、非行少女や未婚の母などを強制収容する施設として実在した「マグダレン洗濯所」。罪を洗い流すことを名目に、収容女性に対する過酷な労働の強制や虐待が行なわれていた事実があり、アイルランドの歴史に暗い影を落とす。本作の登場人物のひとりが、かつてここに収容されていたと示唆されている。
そんなわけで「FRÉWAKA」は、アイルランドの人々の心に根付く“見えない何かへの畏れ”が強烈に立ち上がってくる映画だ。ぜひ皆さんも、劇場のリッチな音響で、ゲール語とケルト音楽の響きと共に侵食されていってほしい。
タイトル:FRÉWAKA/フレワカ
https://frewaka.jp/
監督・脚本:アシュリン・クラーク
キャスト:クレア・モネリー、ブリッド・ニー・ニーチテイン
2024年/アイルランド/103分/カラー/スコープ/5.1ch/日本語字幕:高橋 彩/映倫番号:G/60764
(c)Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.
配給:ショウゲート










