藤本健のDigital Audio Laboratory
第692回 Windows 10がついに「USB Audio Class 2.0」対応へ? ドライバ無しでハイレゾ再生
Windows 10がついに「USB Audio Class 2.0」対応へ? ドライバ無しでハイレゾ再生
2016年9月5日 12:38
音楽やオーディオ関連の機能において、WindowsがMacに負けている機能がいくつかある。その一つとして、これまでも何度も指摘してきたのが「USB Audio Class 2.0」への対応だ。世の中の流れ的に、当然対応していなくてはならないものなので、Windows 8になるとき、Windows 10になるときに対応するのでは……と期待しながらも、毎回、裏切られてきた。でも、いよいよWindowsも対応することになるようだ。8月31日にリリースされたWindows Insider Previewで、USB Audio Class 2.0対応のドライバが搭載されたので、実際に使えるのか検証してみた。
USBオーディオの標準規格「USB Audio Class 2.0」
DAWを動かしてしまえばWindowsもMacも基本的な違いはなく、機能的にも性能的にも同じように使える。しかし、DAWのようなソフトを使わず、OS標準の機能で比較すると、特にオーディオ関係の機能においてWindowsはMacに劣るところがいくつかある。特に気になるのが、「オーディオエンジン(旧称カーネルミキサー)を通すことによる音質劣化」、それから「USB Audio Class 2.0に対応していないこと」だった。
「オーディオエンジンの問題はMMEドライバを用いず、WASAPIを使うことで解決はする」とマイクロソフトは主張しているが、「だったらWindows Media PlayerやGrooveミュージックなどWindows標準のプレーヤーをWASAPI対応すべき!」と思う。ドライバ周りを開発する部門と、アプリケーション周りを開発する部門が違うためなのか、一向に進展がないのが現状だ。もう一方のUSB Audio Class 2.0対応については、ついに標準対応が見えてきたのだ。
USB Audio Class 2.0について、ここで改めて説明しておこう。USBデバイスには、USBクラスコンプライアントと呼ばれる機器がある。つまり、USB標準の規格に則った仕様で、接続すればドライバなど不要ですぐに使えるものを意味する機器だ。USBオーディオ機器の場合、そのUSBクラスが2種類存在している。USB Audio Class 1.0とUSB Audio Class 2.0というものであり、前者はUSB 1.1を使った接続をする仕様であるため、再生時には最高で96kHz/24bitのステレオまで対応するものとなっていた。それに対し、後者のUSB Audio Class 2.0はUSB 2.0での接続となるため、192kHz/24bitでの再生や、ハイレゾでのマルチチャンネル再生も可能にするのだ。そして最近のUSB DACやUSBオーディオインターフェイスで、USBクラスコンプライアントな製品のほとんどはUSB Audio Class 2.0対応となっている。
Mac OS XやiOS、さらにはAndroidでもこのUSB Audio Class 2.0に標準で対応しているため、これらのデバイスを接続すればすぐに使える。それに対しWindowsだけはUSB Audio Class 1.0対応止まりとなっていて、USB Audio Class 2.0対応のデバイスをUSB接続しても認識されない状態であり、時代遅れな仕様だった。そのため、各デバイスメーカーともWindows用にドライバを開発し、添付しなければいけなかった。もしWindowsが標準でUSB Audio Class 2.0対応となれば、状況は大きく変わる可能性があるわけだ。
開発者向けのWindowsにUSB AUdio Class 2.0ドライバがついに搭載
そんな中、今回登場した開発者向けの一足早いWindowsのバージョンであるInsider Previewの「Build 14915」(PC版およびMobile版)にUSB Audio Class 2.0対応ドライバが搭載されたというのだ。PC Watch記事によると、Microsoft Communityという公式掲示板において、ユーザーが発見したという書き込みに対し、Microsoftのオーディオのプログラムマネージャーを務めるBala Sivakumar氏が事実を認める形となったのだとか。
でも、それが日本語環境でもしっかり動くものなのか、やはり試してみないことには分からない。筆者も以前、Windows 10のベータ版を使ったことはあったけれど、Windows 10環境に移してから、Inseider Previewを試したことはない。どうすればいいのか、PC Watch編集部にも問い合わせつつ操作していった結果、アップデートするのに丸一日かかったが、Windows 10 Insider Previw Build 14915というバージョンを入手することができた。
筆者が行なった手順を簡単に説明すると、これまで使っていたWindows 10のバージョンが昨年末リリースのTH2だったので、Ubuntu(Linux)などがサポートされたという新バージョンのAnniversary Updateへ、まずはアップデート。その後、Windowsの設定にある「更新とセキュリティ」において「開発者向け」の設定を「開発者モード」に変更するとともに「Windows Insider Program」において「Insider Previewビルドの受け取り」で「開始する」ボタンをクリック。Microsoftアカウントにログインした上で、Insiderのレベルを「ファースト」に引き上げれば手続きは完了。
もちろん、正式リリース前のOSを使うのだからトラブルが生じる可能性があるのは承知の上だ。
ただ、すぐにアップデートはされず、半日から1日程度の待機が必要とのこと。数時間待ってもまったく何の変化もなく、操作を行っていたのが土曜日だったので、「休日に対応してくれるのだろうか?」「アメリカ本社側は平日だから大丈夫?」などと不安に思っていたが、PCをつけっぱなしにしていたところ、半日経過して、ようやく更新プログラムがやってきた。再起動して10~20分ほどでシステムを切り替えることができたのだ。
起動してみると、画面右下に、Insider Previewである表示がされている。またバージョン情報を確認しても、確かにInsider Previewに切り替ったことが確認できる。では、本当にUSB Audio Class 2.0対応デバイスが使えるのか、試してみた。
Windowsに直結するだけでDACが動作!
まず接続してみたのはTEACのUSB DAC「UD-301」。これまではTEACが配布するドライバをインストールしないと使うことができなかったのだが……。USBケーブルで接続してみると、エラーなく認識された模様だ。デバイスマネジャーを見てみると、確かに「USB Audio 2.0」という表示で認識されている。さらにサウンドの再生を見てみると、「USB Audio 2.0」とあるので、これを既定値に設定。この状態で、Windows 10標準プレーヤーであるGrooveミュージックを起動して96kHz/24bitのFLACを再生してみたところ、バッチリ鳴ってくれた。
本当にWindowsがUSB Audio Class 2.0対応となったようだ。ここで、デバイスをRATOCのポータブルDAC「REX-KEB03」に接続しなおしてみた。やはりこちらもまったく同じように認識して使うことができた。まだWindows 10の通常アップデータでは入手できなが、おそらく数カ月以内には普通に使えるようになるだろう。
ただし、WindowsのOS標準環境だけで快適にハイレゾ再生するという面では、いくつかの問題もある。まずは、前述のオーディオエンジンの問題。今のGrooveミュージックの再生では、MMEドライバを使っているため、せっかくのハイレゾ音源であっても音質が劣化してしまうという問題がある(Mac+iTunesでもいろいろ問題があるので、Windowsだけがダメというわけではないが)。個人的にはASIO対応してくれると嬉しいのだが、Steinbergの規格にMicrosoftが乗ってくるとは思えないし、そもそもASIO対抗みたいな形でWASAPIを出してきたのだから、この「USB Audio 2.0」というドライバもWASAPIには対応しているはず。
というわけで実際に使えるのかどうか、foober2000をインストールするとともに、ASIOとWASAPIのコンポーネントも組み込んだ上で、どう扱えるのか試してみた。結論からいうと、予想通り、ASIOには非対応だが、WASAPIとしては使うことができた。foober2000でWASAPIのドライバを設定する際、「WASAPI(event)」と「WASAPI(push)」という2種類が現れる。通常、どちらでも同じように使えるが、なぜか「WASAPI(push)」を選んだ場合、うまく再生することができなかった。クロック供給などの手法に何か違いがあるのかもしれない。
録音は非対応? 実際に試した
さて、もう一つ大きな問題があったのがオーディオインターフェイスへの対応だ。前述のMicrosoftのオーディオのプログラムマネージャー、Bala Sivakumar氏による発言を見ると現時点では再生のみのサポートで、録音は非対応とあったので、これがどういう挙動を示すのだろうか……と思っていた。そこでいくつかのデバイスで試してみたのだ。
まずは、先日記事にしたTASCAMのiXRを接続してみたところ、デバイスマネージャーではUSB Audio 2.0のところにアラートが表示されるとともに、TASCAM iXRという表記もある。ここで、サウンドのほうを見ると、USB Audio 2.0もTASCAM iXRもなく、どうやらうまく動いていないようなのだ。やはり、録音側がサポートされていないと、入出力を持つオーディオインターフェイスを認識することができない、ということなのだろう。では、TASCAM iXRという認識はどういうことなんだろう……と疑問に思ったわけだが、後から気づいた。これは、オーディオではなく、MIDI。iXRにはMIDI入出力が搭載されており、これはUSBクラスコンプライアントなので、もともと認識していたものだったのだ。
続いてPreSonusの「AudioBox 44VSL」という4IN/4OUTの機材を接続してみたが、やはりアラートが出てしまい、ドライバとしてうまく認識してくれない。結局、USB DACは使えるけれど、オーディオインターフェイスはダメというのことなのだろうか……。
さらにダメ元で試してみたのがSteinbergの「UR22mkII」。普通なら、ドライバが入っていない状態で接続するとUR22mkII上の白色LEDが点滅し、エラー状態を示すのだが、これが点灯した。
おや? と思って、デバイスマネジャーを見ると、今度はアラートがなく、ちゃんと接続されていて、見てみると2つのデバイスが認識されているように見える。さらにサウンドを見ると、再生の一覧にしっかりと「USB Audio 2.0」とある。そこでこれを選んで、Grooveミュージックで再生してみたところ、UR22mkIIから音を出すことができた。
でも、録音非サポートなのに、なんでアラートが出なかったのだろうか……と思ってサウンドの「録音」タブを確認してみたところ、なんと、こちらにもUSB Audio 2.0と表示されているではないか。そして録音アプリを使ってみたところ、しっかりと録音もすることができた。どうやら、Bala Sivakumar氏がいう「現時点で録音は非対応」というのは、全デバイスでの対応ができていないという意味であって、その機能をオフにしているというわけではないようだ。ほかにも使えるオーディオインターフェイスが存在する可能性はありそうだ。
今回登場したのは、Microsoftとして初のUSB Audio Class 2.0対応ドライバ。まだ完璧というものではないのだろう。ただ、Mac OS XもiOSもAndroidも、USB Audio Class 2.0は入出力ともに対応しているので、ぜひ正式に対応し、全てのWindowsユーザーが使えるようにしてもらいたいところだ。
そして、やはりGrooveミュージックやWindows Media PlayerもWASAPI対応していただきたい。ともあれ、USB Audio Class 2.0対応が見えてきたことで、Windowsのオーディオ環境がいよいよ改善していきそう。今後のMicrosoftの動きに期待したい。