藤本健のDigital Audio Laboratory

第703回

隠れた実力派PCMレコーダ? Marantz Professionalの「PMD561」を試す

 Marantz Professionalというブランドをご存知だろうか? 現在はinMusicグループの一つとなっている同ブランドから、リニアPCMレコーダの新製品「PMD561」というモデルが発売された。実売価格で46,800円前後(税込)とのことだが、実際どんなものなのか試したので紹介しよう。

PMD561

プロ向け、玄人好みのスペックが充実

 オーディオ機器メーカーや楽器機材メーカーの再編が激しさを増しているが、inMusicはその中心的存在のひとつ。

 Marantz Professionalのルーツは、もちろん米国の高級オーディオメーカーであるマランツにある。そしてマランツ自体はさまざまな変遷を経て、現在日本のディーアンドエムホールディングスの中のブランドとして存在しているが、一方で、Marantz ProfessionalというブランドはDENON Professionalブランドとともに、2014年にアメリカのinMusicに売却されている。そのため、現在はinMusicのブランドのひとつとなっていて、ロゴの“marantz”部分は一緒だけれど、ディーアンドエムホールディングスのMarantzブランドとは直接の関係がなくなっている。

 現在inMusicが持つブランドとしてはM-Audio、AKAI Professional、Alesis、Numark、Air、ALTO、SONiVOX、MixMeister、DENON DJそしてMarantz Professional、DENON Professionalと、本当に数多くあり、驚く人も少なくないはず。その中でMarantz Professionalというブランドは、国内ではあまり認知度は高くなかったとは思うが、アメリカ国内やイギリスなどでは業務用機材として比較的広く知られた存在のようだ。そのMarantz Professionalブランドの製品として海外放送局などで数多く使われていたというのがPMD661mkIIという機材。撮影現場などでもよく使われているとのことだが、筆者はまったくその存在を知らなかったので検索してみると、確かに海外の情報が膨大にヒットする。その海外人気機種の後継機となるPMD561が発売され、国内でも発売されることになったのだ。

海外の人気機種の後継となる

 国内の発売元であるinMusic Japanによれば、PMD561は、従来機種PMD661mkIIの使い勝手をそのまま踏襲しているとのことだが、元となるPMD661mkIIを知らなければ比較しようがない。というわけで、ここではあくまでも新機種としてとらえた上で見ていこう。

 リニアPCMレコーダは、非常にコンパクトなものと、XLR接続のマイク端子も装備した比較的大きなものに二分できるが、このPMD561は後者。たとえば、ローランドのR-26と並べてみると、比較的近いサイズであることが分かるだろう。もっとも重さ的には電池抜きで約353gなので、大きさの割に軽い印象がある。単3電池×4で駆動するほか、付属のACアダプタで動作させることも可能になっている。

左がPMD561、右がローランドのR-26
単3電池4本で動作

 スペックを見ると、サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzの3種類、16bit/24bitのWAVの2種類のほか32~320kbpsのMP3というオーソドックスなもの。比較的口径が大きそうなステレオマイクが内蔵されているほか、ステレオのスピーカーも搭載されている。またデータはSDカードに保存されるというものであり、とさほど目新しいところはない。では、なぜこれが放送局などで用いられるのだろうか? と不思議にも思うところだが、入出力を見てみるとちょっと分かる気がしてくる。

録音設定画面
ステレオマイクを内蔵
SDカードに記録

 まず、ファンタム電源対応のXLRのマイク入力が2つ搭載されていて、これがバランスのライン入力としても使えるのが1点目。ヘッドフォン出力がミニ端子ではなく標準端子であるのも玄人ウケしそうなところではある。

XLRのマイク入力は、バランスのライン入力としても使える
ヘッドフォン出力は標準ジャック

 さらにライン出力を装備しているのと同時に、S/PDIFコアキシャル(同軸)のデジタル入力を持っているのもウケそうなところ。また、ステレオミニでのライン入力も別途装備している。そしてレコーディングレベル調整が、左右別々にできるが、LとRが同心円状で調整できるようになっており、またロータリーエンコーダーではなく、アナログボリュームなのも玄人受けしそうだ。

RCAのライン出力
同軸デジタル入力も
アナログボリュームを採用

 それからもう一つ、ほかのリニアPCMレコーダで見た記憶がないのが、本体の液晶ディスプレイとは別に設けられたLEDのレベルメーター。-60dB~0dbそしてOVERまで10段階で表示されるカラーのステレオメーターは、とっても視認性が高いのも事実。もちろん、常時表示されるのが嫌だというのであれば、LEDオフという設定にすれば消すことも可能だ。

LEDのレベルメーター

 各種設定はMENUボタンを押して表示された項目から行なう。すべて英語表記ではあるが、使い勝手はとってもシンプルなので、戸惑うことはないし、マニュアルなど見なくてもすぐに操作できた。ほかのリニアPCMレコーダとの違いとしては、ローカットだけでなくハイカットが用意されている。

メニュー画面
ローカットだけでなくハイカットにも対応

 また、サンプリングレートやビット解像度、ローカットなどの設定はプリセット単位で行ない、そのプリセットが3つ用意されているのがPMD561ならではの点。つまりPreset1に96kHz/24bitでローカットもハイカットもない設定をセットしておき、Preset2にはMP3-192kbpsでローカットをオン、オートレベルをオンなどとしておけば、その設定にすぐに切り替えられるわけだ。

プリセットを3つ登録できる

録音の音質チェック。柔らかめの音質

 96kHz/24bitで、入力レベルはマニュアル、ローカットもハイカットもない状態で屋外に持ち出し、鳥の鳴き声をレコーディングしてみた。普段よく録っている場所の隣が工事現場となっていて、騒音が酷かったために、1kmほど歩いたところにある神社で録ってみた。ちょっと入力音量が小さすぎたので、波形編集ソフトを用いたノーマライズ処理でかなり持ち上げているが、カラスやスズメ以外にも、周囲の細かな音までキレイに録れているのがわかるはずだ。ちょうど境内の掃除中で、砂利の上の枯れ葉を掃いている音が大きく入っているとともに、5mほど右にある手水舎で流れる水の音がリアルに感じられる。

元の音声
ノーマライズ処理を行なった

【録音サンプル】96kHz/24bit
野鳥の声 pmd561_bird.wav(20.26MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 実際に外で使ってみて感じたのは、持っていても重くは感じないということ。また特にウィンドスクリーンなどはないものの、構造のせいなのか、あまり風切り音が入らないということ。可能であればヘッドフォンジャックは、マイク側ではなく、XLR端子のある側にしてもらいたかったが、形が大きいからか、それほどは気にならなかった。

 そして、家に戻ってから、また設定などを確認した後に、いつものようにCDを再生した音を録ってみた。ここでは96kHz/24bitで録音した後に、波形編集ソフトでトリミングを行なうとともに、サンプリングレート、サンプリング分解能などをした上で、周波数分析にもかけているのだが、これを見たらなぜか上が切れていた。これはもしかして、設定をいじっている際に誤ってハイカットをオンにしてしまったのでは……と思い、確認したらローカットもオンとなっていて、本来の性能が出ていなかった。改めて、これらを解除した上で録音した。

最初に録音した時は、ハイカット/ローカットをONにしてしまっていた
ハイカット/ローカットをOFFにして再び録音した結果

【録音サンプル】CDプレーヤーからの再生音
44.1kHz/16bit pmd561_music1644.wav(6.92MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 聴いた感じは、やや柔らかい音という印象で、これまで扱ってきたレコーダの中では、前回とりあげたAK Recorderに近い音のようだ。このグラフを見ると、高域がなだらかに下がっていて、ハイカットはオフにしているけれど、やはりローパス系の回路が効いているようにも見える。それが音を柔らかく感じさせる要因の一つなのかもしれない。ただそれだけに、キンキンとしない自然な雰囲気に感じられるのはメリットともいえそうだ。

 なお、PMD561にはMini USB端子が搭載されているが、これをPCと接続すると、PCからはUSBマスストレージのデバイスとして、内蔵のSDカードが見えるようになっている。この場合はPCからのバスパワーで動作するのでバッテリーやACアダプタがなくても大丈夫。ただ、オーディオインターフェイスとしての機能やその他のUSB機能はない。

USBバスパワー動作も可能

 以上、Marantz ProfessionalのリニアPCMレコーダ、PMD561を見てきたがいかがだっただろうか? プロ向けの本格仕様のため、一般ユーザーが利用するとしたら、国内メーカーの他社製品と比較してやや高い感じはするが、使い勝手や入出力端子の面から見て業務用としてはなかなか良さそうだ。

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PMD561

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto