第369回:DAWやDJ機器の展示会「IMSTA FESTA」をレポート

~「Melodyne」の新バージョンやUSBキーボードなど ~


「IMSTA FESTA」会場

 4月25日、26日の2日間、東京オペラシティにあるアップルジャパンのセミナールームでDTM関連の展示会「IMSTA FESTA」が開催された。昨年の同時期に開催された第1回に続く、2回目となった今回は、出展者数や来場者数も倍近くになった。

 会場で新製品なども、いろいろ見つけることができた。



■ IMSTAとは?

 IMSTAとはInternational Music Software Trade Associationの略で、世界中の音楽ソフトウェア業界で作った非営利団体。音楽制作ソフトウェアの違法コピーを減らすことを目的に、エンドユーザーへの教育啓発活動を行なっており、その日本支部であるIMSTA JAPANが一昨年に始動したことをきっかけに開催されたのがIMSTA FESTAだ。

 もともとは違法コピー撲滅を目指す団体ではあるが、集まっているのは音楽制作ソフトの開発会社やディストリビュータ。せっかくできた業界団体なので、自分たち自ら運営するイベントを開こうと毎年1回の開催を目指しているのだ。

 実際にはIMSTA FESTAは、1月に米国で開催されるNAMM SHOWと、3月にドイツで開催されるMUSIC MESSEで発表された話題のホットプロダクトを日本でお披露目する場と位置付けられている。そのため、各社の新製品などがいろいろ触れられる貴重な場となっており、DTM・デジタルレコーディング関連の多くのメーカー、ディストリビュータが参加している。

 参加企業は、アップルジャパン、アビッドテクノロジー(Digidesign、M-Audio)、クリプトン・フューチャー・メディア、ディリゲント、イーフロンティア、エレクトリ、ハイ・レゾリューション、フックアップ、インターネット、コルグ、メディアインテグレーション、エムアイセブンジャパン、ミューズテクス、プロオーディオ・ジャパン、ティアック、ベスタックスがブースを出展するとともに、セミナーを開催。そのほかにもマイスペース・ジャパンや各ユーザーグループなどがセミナーを行なっている。

 展示もDAWを中心にしたメイン会場と、デジタルDJにフォーカスした会場である「CLUB IMSTA」の2会場に分かれていた。その結果、2日間での来場者数は約600人と昨年の倍。小規模ながら、かなり充実した内容となっていた。

DAWを中心にしたメイン会場デジタルDJにフォーカスした会場「CLUB IMSTA」

■ DNA機能を搭載するCelemony「Melodyne」の新バージョン

「Melodyne」新バージョンに関するセミナー

 さて、今回のIMSTA FESTAでの目玉はフックアップが展示するとともにセミナーを行なったCelemonyの「Melodyne」の新バージョンだ。

 Celemonyでは2008年初頭にDNA(Direct Note Access)という機能に関しての発表を行なっている。これはポリフォニックのオーディオを解析して音程、タイミング、フォルマント、音量などを割り出すというもので、次期バージョンではそのDNA機能がMelodyneに搭載されるというのだ。

 もともとMelodyneはボーカルなどモノフォニックのオーディオを解析し、MIDIのピアノロールのように表示させ、エディットができるソフトとして2001年に登場し、普及してきたソフトだ。

 現在は似た機能を搭載したソフトも各社から出てきているが、どれもモノフォニックの解析に留まっており、ポリフォニックは不可能ともいわれてきた。しかし、それが実現できるというから興味津々。当初昨年秋にはリリースされるとされていたが、やはり開発に時間がかかっているようで、なかなか実物を見ることができなかったのだ。


α版の操作画面

 そんな期待の中、今回フックアップが公開したのはα版。3日前に届いたばかりというこのソフト、残念ながら肝心の解析機能は搭載されていなかったのだが、解析後どのような画面で操作できるのかを見ることができた。

 見た目は従来どおりで、同じ時系列に複数のノートが乗っているのが分かる。デモではギターを解析したものが表示されていたが、アルペジオでもストロークでもしっかりと解析されるという。

 ギターに限らずピアノなどでも和音がしっかり解析できるようだが、倍音が多い音色だと現状解析は難しいらしい。また、もともとはボーカル解析・エディットソフトとして登場したMelodyneだが、ポリフォニックにおいて、ボーカルによるコーラス・ハーモニーは倍音が非常に多く複雑な音色のため苦手のようだ。

 同様にドラムトラックも音程がないため、不向きであったり、ディストーションやフィルターがかかったサウンドなども苦手とのこと。

 用途としては、やはり音楽制作時にエディット用として使うもののようで、CDからリッピングしたサウンドをそのまま解析して譜面化するといったことまではできない模様。あくまでもレコーディングした音を後でちょっといじるのに使うことを目的にするソフトのようだ。

 気になるのはリリース時期と価格だが、まずは現在のユーザー向けにパブリックβが5月末~6月に登場し、実際の発売は夏以降となる。ラインナップとしてはシングルトラックのスタンドアロンとプラグイン機能がセットとなった「Melodyne Editor」が5万円程度でリリースされる。2008年3月以降にプラグインを購入したユーザーであれば無償アップデートが行なわれる予定。また、旧プラグインからのアップデートも2万円以内になる見込み。

 さらに、シリーズ最上位グレードの「Melodyne Studio Bundle」も同時期にリリースされる模様。これはDNA機能搭載のMelodyneと非搭載のStudio V3をバンドルしたもので、価格的には10万円程度になるようだ。

 ここで1点気になったのがReWireへの対応。何かとトラブルも多いReWireだが、Celemonyでは「ReWireは使えない」と判断したようで、次期バージョンからはReWire機能を非搭載にするという。今のところ、他社でそうした判断をしたという話は聞いていないが、今後同様な対応を行なうメーカーが出てくると、ReWireの位置づけも怪しくなってくるかもしれない。


■ USBキーボードなども出展

M-Audioの「Axiom Pro 49」

 今回結構目立っていたのがUSB接続のキーボード。ユニークだったのがM-Audioの「Axiom Pro 49」。これは「HyperControlテクノロジー」という新技術を搭載した49鍵のキーボードで液晶パネルと65系統のコントローラを搭載したもの。

 Pro Tools、Cubase、Logic Pro、Reasonの4つに対応しており、それらと接続すると、コントローラ部分が有機的に動作するようになっているのだ。プラグインやミキサーなどの画面をマウスで選択すると、それに合う形でコントローラが自動的にアサインされる。

液晶パネルにパラメータを表示

 そして液晶パネルには、どのパラメータを動かしているのかが表示されるようになっている。フェーダー類はやや重めなのだが、Axiom側の現在位置とともに、マウスで設定したDAW側の位置がどこなのかが液晶パネルに表示され、双方が一致してから、情報がDAW側に伝わるようになっているため、いわゆるパラメータ・ジャンプを防ぐことができるようになっている。

 このAxiom Pro 49はすでに発売済みで実売価格が55,800円前後。25鍵の「Axiom Pro 25」と61鍵の「Axiom Pro 61」もゴールデンウィーク中からゴールデンウィーク明けにはリリースされる見込みで、それぞれ店頭予想価格は46,800円、65,800円前後となっている。

 同様の高機能USB-MIDIキーボードをリリースしたのがエムアイセブンジャパン。こちらは6月中旬予定/オープン価格で発売するNovationの「SL MkII」シリーズをお披露目。

Novationの「SL MkII」シリーズ

 これは「ReMOTE SL」の後継となる製品で、25鍵モデルの「25 SL MkII」(店頭予想価格55,000円前後)、49鍵の「49 SL MkII」(同65,000円前後)、61鍵盤の「61 SL MkII」(同80,000円前後)、そしてキーボードなしの「ZeRO SL MkII」(同55,000円前後)のそれぞれが登場する。

 X/Yタッチパッドに加え、ボリューム/サスティンペダル入力を装備するほか、これらの機能をあらゆるパラメータにアサインできる。また搭載されているエンコーダとノブ、スライダーはすべてタッチセンス機能をもっており、端子に触るだけで、LCDディスプレイに現在何のパラメータが割り当てられているかが表示されるのが大きな特徴となっている。

 このSL MkIIはNovationが開発したAutomap3ソフトウェアにより、各社のDAWやプラグインとスムーズに連携できる。具体的にはProTools、Cubase、Logic、DigitalPerformer、Live、SONAR、Reasonなどに対応している。

ティアックのリニアPCMレコーダ「DR-100」

 ハードウェア関連ではティアックがリニアPCMレコーダ「DRシリーズ」の新機種で、最上位機種にあたる「DR-100」を展示。これは先日発売され、実売価格が45,000円前後というものだが、まもなく行なわれるファームウェアのアップデートによって96kHzまで対応する模様。

 形状はDR-1やDR-07と比較すると一回り大きいが、マイクが3系統利用できるのが大きな特徴。具体的には指向性のあるフロントのマイクと、リアにある無指向性のマイク、さらには、ファンタム電源にも対応したステレオのXLR型マイク端子も利用できる。

 そのほかライン入力も備えているため、さまざまなソースの録音が可能だ。電源は専用のリチウムイオン電池のほかに単3電池×2にも対応し、動作させながらの電池交換も可能としている。このDR-100は5月中旬にレビュー記事を掲載する予定だ。

“ラジカセ”のようなレコーダ「BB-1000CD

 さらに、ティアックではラジカセのような大きさのレコーダ「BB-1000CD」も展示。こちらもDR-100と同時に出荷が始まっており、実売価格は60,000円前後となっている。

 アンプ・スピーカーも内蔵しており、ラジカセ感覚で使えるのが大きな特徴で、周囲360度の音を録音可能なマイクを4つ内蔵。また録音メディアはSD/SDHCおよびCD-R/RWに対応、CD-SD間の相互ダビング機能なども搭載している。



■ ソフトウェア関連

ハイ・レゾリューションの「Ableton Live 8」

 ソフトウェア関連もいろいろと登場した。まずはハイ・レゾリューションが展示していた「Ableton Live 8」。毎度のことながら、見かけは昔のバージョンからほとんど変わっていないが、機能や操作性は着実に進化してきている。

 特筆すべき点としては、まずオーディオエンジン部分の強化があげられる。オーディオファイルを読み込むと、その内容がリアルタイムの解析され、スライスされたような形でトランジェントマーカーが付加される。これを使ってタイムストレッチを行なうため、非常に高音質な処理ができる。

 また必要に応じて、トランジェントマーカーを使ったワープ処理をして、ノリを変えたり、そこからグルーヴを抽出できるほか、リアルタイムにグルーヴパターンを貼り付けて、クォンタイズをかけるといったことが可能になっている。

 さらに、これまでやや弱いイメージのあったマスタリング系のエフェクトも強化された。WAVESのL1風なマキシマイザや、使い勝手のいいマルチバンドコンプが搭載されるなど、地味ながらさまざまな機能が強化されている。

プロオーディオ・ジャパンの「APC40

 Live関連ではプロオーディオ・ジャパンがLiveに特化したコントローラ・サーフェイス「APC40」をリリース。Liveのセッションビュー画面のユーザーインターフェイスをそのままハードウェア化した感じのもので、パッドを押すと、ボタンの状態に合わせて色がついて光るため、画面を見なくても操作できるのが特徴。

 専用デバイスだけに特殊なマッピングなどを行なうことなく利用できる。5月末の発売予定。オープンプライスだが、店頭予想価格は4~5万円になる模様だ。

ミューズテクスのMOTU用ソフト「BPM」

 ミューズテクスでは先月、実売価格40,000円前後でリリースしたMOTUのドラムマシンソフト「BPM(Beat Production Machine)」を展示。これは大容量リズム音源、オーディオループ&MIDIパターン集、マルチサンプル音源を融合したソフトで、MacおよびWindowsの環境でAU、RTAS、VST、MASのプラグインとスタンドアロンとして起動する。

 見た目は'80年代のドラムマシン風のユーザーインターフェイスで、操作が行なえるが、機能的にはドラムマシンだけに留まらず、サンプラー、ループシーケンサ、ドラムシンセサイザ、マルチサンプル音源、ミックス、エフェクト、ソングアレンジなど多彩な機能を装備。

 さらにAKAIのMPD32などのパッドコントローラへプラグアンドプレイで対応したり、名機といわれたE-MUのSP1200エミュレーションモードを搭載するなど、非常にユニークなツールに仕上がっている。


■ ドラム音源や、Fender公認のギターアンプソフトなど

Submersible Musicの「KITCORE Deluxe」

 一方、宮地商会(M.I.D. Miyaji Import Division)もドラム音源であるSubmersible Musicの「KITCORE Deluxe」を展示。4月24日に12,600円で発売されたばかりの音源で、MacおよびWindows上のRTAS、VST、AUの各プラグイン環境で動作するもの。

 どちらかというとBPMが自らリズムパターンを作っていくツールであるのに対し、KITCOREは用意されているドラムライブラリを活用するツールとなっており、100以上のドラム・キットと、3,000以上のさまざまなスタイルのMIDIグルーヴが収録されている。

 KITCOREの画面上でリズムを検索し、プレビューした後、ドラッグ&ドロップでDAW上のトラックへ持っていくと、そのリズムパターンがMIDIのリージョンとして貼り付けられる。そしてDAWを演奏すると、KITCOREの音源が鳴るという仕組みになっており、DAW側でパターン編集なども可能となっているのだ。

KITCORE Deluxeの上位版「DRUMCORE 3」

 さらに、KITCORE Deluxeの上位版となる「DRUMCORE 3」もまもなくリリースということで参考展示されていた。こちらはKITCOREの機能に加え、オーディオデータでのドラムパターンライブラリも有しており、これを検索、プレビュー後、DAWのトラックへ持っていくと、DAWのテンポに合う形でタイムストレッチされて貼り付けられるというわけだ。

 ドラム音源に関しては、インターネットもドイツLinPlugの「RM V」を展示。すでにダウンロード版(17,640円)は1月に発売されていたが、4月よりパッケージ版もオープンプライス(実売価格26,775円前後)で発売された。

 こちらは、オーディオフォーマットに対応したドラムサンプラー、アナログスタイルのドラム・シンセサイザ、オーディオループエディタ/プレイヤーを一体化させたソフト。VSTとAUの両フォーマットに対応している。

 また同じLinPlugのプラグインとしてデュアルマトリックスシンセサイザの「Octopus」、オルガン音源の「Organ 3」、サックス音源の「SaxLab 2」なども展示していた。IMSTA FESTAはアップルが会場を提供していたこともあり、各社ともMacを使っての展示がほとんどとなっていたが、インターネットだけは、唯一Windowsのみでの展示していたのがちょっと面白かった。

LinPlugの「RM V」LinPlugのプラグイン「Octopus」

 

Multimediaの「AmpliTube Fender」

 そのほか、気になった製品としては、メディア・インテグレーションが展示を行なったIK Multimediaの「AmpliTube Fender」。その名称から想像できるとおりの製品で、同社のギターアンプシミュレータ、AmpliTubeシリーズの最新版で、Fenderアンプに特化したソフトウェアとなっている。

 いまやアンプシミュレータはAmpliTubeに限らず、各社からさまざまなものが出ており、Fenderアンプをシミュレートしたものも少なくない。しかし、その中でこれは唯一Fender公認のソフトウェアで、Fenderのアンプ、キャビネット、エフェクタなどを再現させたものとなっている。

 具体的には「'65 Twin Reverb」や「'65 Deluxe Reverb」など12種類のアンプ、「Champion 600」や「810 PRO」など12種類のキャビネット、さらに12種類のエフェクト、9種類のマイクなどをシミュレーションしたものを組み合わせて利用できるようになっているのだ。こちらは29,400円でまもなくの発売となる。

 以上、目についた製品だけを紹介してきたが、ほかにもさまざまな製品が展示され、来場者が気軽に触ることができるようになっていた。楽器フェスティバルなどと違い、DTM系に絞ったイベントだけに、なかなか貴重な場といえそうだ。

 大手メーカーのヤマハとローランドがいないのがちょっと寂しいところだったが、来年さらに大きなイベントになってくれることを期待したい。


(2009年 4月 27日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]