M-Audio「ProFire 610」の強化ポイントを検証

~UIや音質などを前モデル「FireWire 410」と比較 ~


 最近、FireWire(=IEEE 1394)の存在感がずいぶんと薄くなったように思う。撤退とまで行かないものの、これまでFireWireの旗振り役として牽引してきたAppleが、MacBookなどMacの主流機種からFireWireを省略したことの影響はやはり大きい。

ProFire 610

 気がつくと、i.LINKと呼ばれたデジタルビデオ用の端子もあまり見かけなくなったし、iPodのFireWire接続ケーブルもバンドルされなくなった。外付けHDDなどストレージ用のインターフェイスとして使われるケースもほとんどなくなってきているのが実情だろう。そんな中、唯一しっかり残っているのがオーディオインターフェイスの世界だ。「今後、USB 2.0へ移行していかなくては……」という声はレコーディング機材の業界内で聞こえはするものの、現状はやはりFireWireがメインである。

 そんな中、初期の大ヒット製品であったM-AudioのFireWire 410が新世代の後継機、ProFire 610へと世代交代している。もっとも発売は昨年末なので、もうかなりの時間が経過しているが、改めてProFire 610がどんなもので、前機種であるFireWire 410とどう違うかを比較してみよう。



■ 本体はやや小型化。24bit/192kHz録音に対応

 ProFire 610は実売価格5万円程度と手ごろなオーディオインターフェイス。1Uのハーフラックサイズながら6IN/10OUTを装備し、最高で24bit/192kHzでのレコーディング、再生に対応する強力なデバイスだ。ほかの小型のFireWireオーディオインターフェイスと同様、6ピンのFireWireケーブルでの接続であればPC側から電源供給することができるため、モバイル環境での利用もしやすいというのも大きなポイントとなっている。

 ここで前機種であるFireWire 410とProFire 610を並べてみると、同じハーフラックサイズに見えながらも、横幅が2cmほど小さくなっているのが分かる。具体的にはFireWire 410が235×174×44mm(幅×奥行き×高さ)であったのが216×180×46mm(同)となっているのだ。これによってFireWire 410にあった端子が2つほど減っている。それはS/PDIFオプティカルの入力と出力。

 それ以外は、配置は異なるもののほとんど同じで、フロントにはマイク用のXLRとギターなどを接続するTSを兼ねるコンボジャックが2つ、それにヘッドフォン出力が独立して2系統ある。またリアにはアナログのライン入力が2つとライン出力が8つ、またS/PDIFコアキシャルが入出力、そしてMIDIの入出力が用意されている。このように端子を比べると、双方とも同じようだが、実はここにもいろいろな違いがある。

左がFireWire 410、右がProFire 610ProFire 610(上)とFireWire 410(下)背面端子部。上がProFire 610、下がFireWire 410

 まず大きいのがリアのライン入力。FireWire 410にはここに、「1、2」と番号が振られているのに対し、ProFire 610には「3、4」と振られている。そう、FireWire 410の場合は、フロントの入力との切り替えとなっていたのに対し、ProFire 610はフロントの入力とは独立した別系統の入力となっているのだ。その結果4IN/10OUTではなく6IN/10OUTとなり、型番も410から610となっているわけだ。さらにこのリアのアナログ入出力、FireWire 410ではアンバランスのTSフォンであったのに対し、ProFire 610ではバランス接続のTRSフォンへと変更になっているため、ここでも大きく仕様が向上している。

 また、仕様面でも24bit/192kHzへ対応したという性能向上がある。FireWire 410でも再生のみ1chと2chで24bit/192kHzが利用できたが、ProFire 610では再生、録音ともに24bit/192kHz対応している。もっともFireWireの転送レートの制限上、24bit/192kHz動作時は6IN/10OUTのすべてを使うことはできない。そのほか、こうしたオーディオスペックの変更に伴い、DACやADCも変更になっている。ともに従来と同様AKMのチップが採用されているが、DACのほうはAK4358VQ、ADCは2chのAK5386VTが2つ採用されているようだ。また、今回は評価項目に入れていないが、Octaneプリアンプというものが2基搭載されている。これは最近のM-Audioのオーディオインターフェイスの多くに採用されているマイク用プリアンプであり、M-Audioによれば「低ノイズで卓越したヘッドルームを実現しクリーンで透明感のあるサウンドが提供される」とのこと。さらにDSPミキサーを内蔵していることで、柔軟なルーティングでのミキシングが可能となっている。



■ コントロールパネルを一新

コントロールパネル画面

 さて、実際にドライバをインストールしてWindows Vista上で使ってみて驚いたのが、そのミキサー機能などを司るコントロールパネルが大きく変わったことだ。従来もタブ切り替えで、ミキサーが表示されたが、使い方の概念が大きく変わっている。

 FireWire 410がどうなっていたかはここでは割愛するが、ProFire 610ではアナログ出力1/2ch、3/4ch、5/6ch、7/8ch、デジタル出力用と2chずつ計5つのタブがあり、それぞれの出力にどの信号をミックスして送るかが設定できるようになっている。6chある入力をそのままモニタすることが可能になっているとともに、ソフトウェア側からみた1ch~10chのそれぞれをどうミックスするかが設定できる。


アナログ出力1/2chの設定

アナログ出力3/4chの設定

デジタル出力用の設定

各モードの設定画面

 この使い勝手については、評価が分かれるところだろう。これまでのM-Audio製品に慣れてきた人からすると、やや違和感を感じるだろうが、個人的には、この新たなGUIのほうが、より直感的に理解しやすく、だんぜん使いやすくなったように感じる。ある意味、マニアックさが減ったという面はあるかもしれないが、分かりやすさは向上している。

 一方、各モードの設定タブを見ると、いろいろな機能が搭載されていることが見えてくる。順に見ていこう。まず一番上のHOSTED MODEはごく一般的なオーディオインターフェイスの設定で、SYNC SOURCEはクロックの供給源を内部にするか外部、つまりS/PDIFにするかを設定するもの。SAMPLE RATEはサンプリングレートで、44.1kHz~192kHzまでの間を設定できるようになっている。またBUFFER SIZEは文字どおり、バッファサイズであり、64~4,096の間で設定できる。ちなみに、Cubaseで96kHzでの動作時で64に設定すると、入力、出力それぞれのレイテンシーは1.448msecと表示された。


サンプリングレートの設定

バッファサイズの設定

Cubaseで96kHz動作時にバッファを64に設定すると、入出力それぞれのレイテンシーは1.448msecだった

 次の行のMIXERS ACTIVE AT SAMPLE RATES ABOVE 96kHzという項目だが、これはSAMPLE RATEを44.1kHz~96kHzの間にしているとグレーアウトされる。しかし、176.4kHzか192kHzに設定するとアクティブになり、MIXER1、MIXER2のそれぞれに出力先のポートが選択できるようになっている。これがまさに24bit/192kHzをFireWireで動かす際の限界というところで、同時に2ch×2=4ch分の出力しかできないため、その出力先を決めるわけだ。なお、右側にはMASTER VOLUME KNOBという項目があり、4箇所にチェックが入れられるようになっている。これは、フロントパネル一番右のボリュームノブで、どのアナログ出力をコントロールできるようにするかを決めるところ。デフォルトではすべてにチェックが入っているので、ノブをいじると音量が変わるが、チェックをはずすと音量が固定される。

サンプリングレートを176.4/192kHzに設定すると、MIXER1/MIXER2のそれぞれに出力先のポートを選択できるMASTER VOLUME KNOBでは、フロントパネル一番右のボリュームノブでどのアナログ出力をコントロールできるようにするかを設定できる

 そして一番下の行、STANDALONE MODEとはまさにスタンドアロンで動作させるモードであり、PCと接続せずに動かす際の設定だ。ProFire 610の大きな特徴となっているのが、スタンドアロンで動作することであり、この場合、最高24bit/192kHzに対応するA/D、D/Aコンバータであり、かつプリアンプとして使うことができるのだ。もちろんACアダプタを使っての電源供給が必要となるが、フロントのコンボジャックへの信号がそのままリアのアナログ出力1/2およびS/PDIF出力へルーティングされる。反対にリアのS/PDIF入力に入った信号はアナログ出力の3/4にルーティングされるようになっている。この際のクロック供給とサンプリングレートを設定するのがここであり、ここで設定した情報がProFire 610内部に記憶され、次回スタンドアロンで動作させたときに有効になるのだ。



■ 音質も向上

 ここでFireWire 410とProFire 610でCDをリッピングしたWAVファイルを再生して、聴いてみたところ、確かに新世代製品であるProFire 610のほうが、より分解能が高く聴こえる。とくにWAVとMP3の違いなどがハッキリと認識できる。その違いは、データ的に出るものだろうか?いつものようにRMAA Pro 6を使ってテストした。

 なお、以前FireWire 410を取り上げた際、RMAAを使っておらず、RMAA Proもリリースされていなかったため、今回改めてFireWire 410とProFire 610のそれぞれをRMAA Pro 6でテストしたので、ご覧いただきたい。ASIOドライバを使ってテストしてみたのだが、24bit/192kHzがどうもうまく動作してくれなかった。RMAA Pro 6に限らず、ほかのアプリケーションを使っていても、192kHzに設定すると動作が不安定になるため、まだ何か問題があるのかもしれない。結果的には双方24bit/96kHzまでの結果とはなったが、それぞれの違いを見ていただきたい。この結果からは劇的な向上とまではいえないものの、44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれのサンプリングレートにおいて、ProFire 610がFireWire 410と比較して性能が向上しているしていることが分かる。

 何を重要視するかによっても多少異なるとは思うが、多くの人にとってFireWire 410からリプレースするメリットは十分にあり、これからFireWireオーディオ・インターフェイスを入手するという人にとっても十分お勧めできる機材だ。

 

【RMAAテスト結果】ProFire 610

44.1kHz

48kHz

96kHz



【RMAAテスト結果】FireWire 410

44.1kHz時

48kHz

96kHz




(2009年 5月 11日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]