第381回:ALESISのオーディオI/F「MasterControl」を試す
~ DAWフィジカルコントローラやCRマネージャー機能も ~
「MasterControl」 |
ALESISからFireWireオーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラ(コントロール・サーフェイス)兼コントロール・ルーム・マネジャーという製品が8月下旬に発売される。
「MasterControl」というこの製品、CubaseやLogic、SONARといったDAWと組み合わせることで、大きな威力を発揮するハードウェアで、標準価格は124,950円。どんな機能、性能を持つ機材か試してみた。
■ FireWire機材の“NEXT CLASSIC(次世代の定番)”
MasterControlは、ALESISが“NEXT CLASSIC(次世代の定番)”というキャッチコピーで、発売されるFireWire機器。
ご存知のとおり、ALESISはかつてS-VHSのテープを8Trのデジタルオーディオのレコーディングメディアとして活用するADATで世界のレコーディングスタジオにデジタル革命をもたらしたメーカー。最近でこそ、iPodをハンディータイプのリニアPCMレコーダに変身させる、Alesis ProTrackといったアイテムも出しているが、メインはデジタルレコーディング機材だ。
フィジカルコントローラとしては、「非常に薄い」印象 |
これまでもioシリーズというコンパクトなFireWireオーディオインターフェイスを発売してきたが、今回のMasterControlは設置面積で486×368mm(幅×奥行き)とそれなりのスペースを要する。高さはカタログ上95mmと書かれているが、実際に計ってみるとパネル面の一番厚い部分で約60mm、ノブの一番高い部分を計っても約75mmと、モータードライブに対応したフェーダーを搭載したこの手のフィジカルコントローラとしては、非常に薄い印象だ。ちなみに、ACアダプタを除いた重量は3.5kgとなっている。
コントロール・ルーム・マネジャー機能というのを別にすると、FireWire対応のオーディオインターフェイス兼フィジカルコントローラという製品は、これまでもいくつか存在している。
M-AudioのProjectMix I/Oとサイズを比較 |
著名なところではM-AudioのProjectMix I/Oや、TASCAMのFW-1082だろう。ちょうど、手元にProjectMix I/Oがるので、並べてみたところ、これより一回り小さい。
また、価格的にはProjectMix I/Oがオープン、FW-1082が標準価格で102,900円。実売価格で比較してみるとProjectMix I/Oが150,000円前後、FW-1082が78,000円前後に対して、MasterControlが100,000円前後という関係である。
■ 入出力はリアパネルに集約
リアパネルの端子類 |
では、具体的な機能についてみていこう。まずオーディオインターフェイスとしての機能だが、スペック的には24bit/44.1kHz~24bit/192kHzまでに対応しており、アナログの入出力は8in/6out、デジタル出力はないが、デジタル入力は最大で18chまで利用可能となっている。ヘッドホン端子やMIDI入出力、電源端子を含め、すべてがリアパネルに集約されている。
アナログ入力のうち2chは+48Vのファンタム電源に対応したコンボジャックとなっており、XLRとTRSフォンの入力が可能で、ゲインの調整ノブが搭載されている。
また、ここにはそれぞれインサート端子も備わっている。残りの6つはラインレベル入力のTRSフォンだ。アナログ出力はTRSフォンが6つ。モノラル6系統としても使えるし、A、B、Cのステレオ3系統としての利用、さらには5.1ch出力用などにも利用可能になっている。
アナログ入力のうち2chは+48Vのファンタム電源に対応したコンボジャック | 残りの6つはラインレベル入力のTRSフォン |
一方のデジタル入力はALESISっぽさが出ている部分。同軸デジタル端子が1つと光デジタル端子が2つあり、同軸デジタルはS/PDIF、光デジタルの1つはadatとなっている。さらに、もうひとつの光デジタルはS/PDIFとadatの選択が可能となっており、adatとした場合、1つのポートで最大8chのやりとりができるため、合計18chというわけだ。
adatの標準規格では44.1kHzか48kHzで8chという仕様だが、S/MUXという拡張仕様に対応しており、チャンネル数は半分に減るものの96kHzにも対応できるようになっているのだ。
デジタル入力。光デジタルの1つはadat | もう1つの光デジタル端子はS/PDIFとadatの選択が可能 |
■ 5.1chサラウンドにも対応するオーディオI/F
ドライバをインストール |
このオーディオインターフェイス機能を試すため、普段使っているPCにドライバをインストールするとともに、FireWireポートに接続してみたのだが、どうにも音が出ない。
確かにドライバはMasterControlを認識していることは確認できるのだが、PCから音を鳴らすことができないのだ。最新のドライバをインストールしたり、HDDをフォーマットしなおしてWindowsをインストールしなおすなど、3時間以上格闘していたが、何をやってもダメ。ただ、いろいろやっているうちにレコーディングだけは可能になった。
ここでふと思い当たったのがFireWireインターフェイスの相性。以前別の環境で似た状況を経験したことがあり、もしかしてと思ったのだ。試しに、普段使っていない1世代前のマシンで試したところ、あっさりと動いてしまった。ちなみに2台ともShuttleのベアボーンで、動かなかったのはSH45H7というマシン、動いたのはSD32G2というマシンだった。
ALESISの英語サイトに行くと、FireWireドライバのインストールに関するトラブルシューティングのPDFがあり、これを見ると推奨のFireWireインターフェイスが書かれている。必ずしもその推奨のインターフェイスである必要はないと思うが、ほかのFireWireオーディオインターフェイスと比較すると相性問題が多いのかもしれない。
実際動き出すと、あとはなかなか快適。ドライバ上で、44.1kHz~192kHzのサンプリングレート変更ができるほか、クロックソースはインターナルのほか、S/PDIF、adatなどから選択可能となっている。
また、バッファサイズの変更もでき、一番小さい224に設定したところ、44.1kHz動作時のCubase上での表示は入力レイテンシーが7.324msec、出力レイテンシーが11.587msecという結果になった。
ただ、サンプリングレートなどこれらドライバの設定を変更すると、システムがやや不安定になることが多く、一度マシンを再起動するのが無難という状況だった。まだドライバがこなれていないという印象だ。
一方、ドライバの設定画面にはWDMに関する項目が用意されているのはちょっとユニークな点だ。WDMのページを開くと、シンプルな画面が表示されるだけだが、ここにSpeaker Setupという項目がある。
クロックソースはインターナルのほか、S/PDIF、adatなどから選択できる | バッファサイズの変更も可能 | WDMのページを開くと、Speaker Setupという項目が表示 |
これはWindowsのコントロールパネル設定してあるスピーカー構成が反映されており、通常はStereoという表記がされるが、5.1chにすれば5.1 Homeと表示される。そして、その右にあるSet WDM Channel Mapsというボタンをクリックすると、どのWDMのどのチャンネルをMasterControlのどのチャンネルに割り振るかのマッピングが入出力ともにできるようになっているのだ。サラウンドを駆使したいという人にとっては、なかなか便利なツールといえそうだ。
コントロールパネルのスピーカー構成を反映。5.1chにすれば5.1 Homeと表示される |
WDMのどのチャンネルをMasterControlのどのチャンネルに割り振るか設定できる |
■ オーディオI/Fとしての音質をチェック
では、アナログチャンネルの入出力の音質はどの程度のものなのだろうか? いつものようにRMAA Proを使って試してみた。ここでは出力はA、B、Cあるステレオ出力のうちのA(1chと2ch)、入力はTRSフォン端子の5ch、6chで行なった。
この入力、1ch、2chはコンボジャックでプリアンプも搭載されていることから、これを避けて3ch、4chに接続した。しかし、試してみると3chと4ch間に微妙な入力レベル差があり、同じ信号を入れても-1.1dBと-2.3dBといった違いが出て解消できない。
そこで、これを5ch、6chに変更したところ、そうした問題はなかったので、個体の品質ということのようだ。88.2kHzと176.4kHzは省略したが各サンプリングレートで試した結果が以下のとおりだ。各テストとも周波数特性はいいが、整数倍の高調波が出ていてTHDがいまひとつという結果になっているようだった。
44.1kHz | 48kHz | 96kHz | 192kHz |
■ 多くのDAWで即利用可能なフィジカルコントローラ
100mmフェーダーを合計9本搭載 |
次に、フィジカルコントローラ=コントロール・サーフェイス機能についても見てみよう。先ほども少し触れたとおり、MasterControlにはモータードライブを搭載した100mmのフェーダーが8本+マスター1本の計9本搭載されている。
動きは非常に滑らかで、使いやすい。またSELECT、RECORD、SOLO、MUTEという4つのボタンのほか、360度回転するノブが用意されており、パンやセンドレベルのコントロール用に利用可能となっている。
ジョイホイールも装備 |
またトランスポートセクションにはPLAY、REC、FFなどのボタンとともに、ジョイホイールが用意されており、スムーズな位置指定が可能。十字ボタンのほか、ズームボタン、スクラブボタンなどもあり、どのDAWでも快適な操作が可能だ。
こうしたフィジカルコントローラで問題になるのは、DAWと組み合わせてすぐに使えるかという点。確かに使えるけれど、DAWのラーニング機能などを用いて1つ1つ設定する、というのでは面倒で扱いづらい。その点、MasterControlは非常によくできている。
まず、これはMackieControl/MackieHUI互換という仕様であるため、多くのDAWで即利用することが可能だ。またそれぞれのDAWでより快適に利用できるように、ボタンやノブに機能を割り振ったプリセットが用意されており、MasterControl側でプリセットを切り替えておくことで、便利に使える。具体的にはCubase/NUENDOO、Ableton Live、SONAR、Logic Pro、Samplitude、Digital Performer、ProTools、Reason、Soundtrack Proと主要どころはすべてそろっている。
さらにとてもいいのが、各ボタンやノブに何の機能が割り振られているかが書かれたテンプレート・オーバレイが用意されていること。これをセットすることで、わかりやすくなる。また2行のモノクロLCDが搭載されており、現在動かしているパラメータが何か、使っているトラックの名称などを表示することも可能となっている。
なお、付属DVDにはCubase LE 4とAbleton Live 7LiteのAlesis Editonがバンドルされているため、まずはこれらを使用してみるのもいいだろう。
多くのDAWを利用するためのプリセットを用意 | 使用トラックの名称などをも表示 |
■ コントロール・ルームマネージャー機能も
最後に紹介するのが、コントロール・ルーム(CR)マネジャー機能だ。ちょっと聞きなれない用語だが、要するにレコーディングスタジオのコントロール・ルームにこれを置いて操作したり、モニター環境としてMasterControlをより有効に活用するための機能ということだ。
象徴的なのがトークバック機能だろう。コントロール・ルームからスタジオ側へ話しかけるための機能で、TALKBACKボタンを押すと、スピーカーからはモニター音が遮断され、コントロール・ルームからの声が行くようになる。
この声を拾うのはTALKBACKボタンのすぐ上にある小さなマイク。わざわざTALKBACK用にマイクを用意する必要もなくて便利だ。前述のとおり、MasterControlでは6chあるアナログ出力のうち1-2chがA、3-4chがB、5-6chがCとなっているが、どこにトークバックを返すかという設定も可能となっている。
TALKBACKボタン | どこにトークバックを返すかという設定も可能 |
A~CにPCからのどの信号をアサインするかの設定もできる |
一方、そのA~CにPCからのどの信号をアサインするかの設定も可能。つまりAに5-6ch、Bに1-2chというような出力設定をすることもできるし、A~Cのすべてに1-2chの設定をすることも可能なのだ。
また、A~Cそれぞれの出力のオン/オフスイッチというのもジョイホイールの上に用意されている。たとえば、A~Cのすべてに1-2chの出力を送るように設定しておき、A~Cそれぞれに別のタイプのモニタースピーカーを接続しておいたとしよう。この場合、ボタン操作で、モニタースピーカーを切り替えるこということが可能になるわけだ。
モニター用にはもちろんヘッドホンも利用することができ、2つの端子が用意されている。このヘッドホンも、どのチャンネル出力を送るかのアサインが可能であるため、とても自由度の高いモニター環境を構築できるのだ。
「DTM用途からレコーディングスタジオでの使用ができそう」 |
以上、ALESISのMasterControlについて見てきたがいかがだっただろうか? 個人的にはFireWireとの相性問題が気になったが、やや広めのデスクであれば、マウスやキーボード類とセットで置いても十分に設置できるサイズで、操作性は抜群。コントロール・ルーム・マネジャー機能も充実しているので、DTM用途からレコーディングスタジオでの使用まで幅広い利用ができそうだ。