第386回:ヤマハのSteinberg製新オーディオI/F「CI2」

~ 新DAW「Cubase Essential 5」も発表会で披露 ~


 9月2日、ヤマハが記者発表会を開催し、Steinbergのソフトウェア、ハードウェア製品の新製品を披露した。

 今回発表されたのはUSBオーディオインターフェイスの「CI2」、DAWの「Cubase Essential 5」、そしてピアノ音源「THE GRAND 3」の3製品と、CI2などにバンドルされるDAWの「Cubase AI 5」。CI2に関しては、実物を借りることもできたので、どんな製品なのか紹介していこう。

ヤマハの新製品発表会の様子

■ プラグインを強化した「Cubase Essential 5」

Cubase Essential 5

 SteinbergのDAW「Cubase 5」および「Cubase Studio 5」が3月に発売されてから半年。Cubase 5の新ラインナップとして「Cubase Essential 5」が発売されるとともに、新たなハードウェア、ソフトウェアが発表された。

 まずは、Cubase Essential 5だが、これはCubase Essential 4の後継で、Cubase Studio 5の下に位置づけられるCubase 5シリーズのエントリーモデル。WindowsおよびMacのハイブリッドという仕様で9月18日よりオープンプライスで発売され、店頭予想価格は24,800円前後。

 またアカデミック版も用意されており、こちらは19,800円前後。前バージョンより若干安くなったが、Cubase Essential 4で用意されていたCubase AIやCubase LEからのアップグレード版はなくなっている。

ドラスティックな変化はないが、色々と機能の追加がされている

 DAW自体が成熟期に入っていることもあり、Cubase 4からCubase 5へのドラスティックな変化はなかったが、Cubase Essenntial 4から5へという点では、いろいろと機能が追加されている。

 目立つ新機能としては、やはりプラグインの強化だ。まずはCubase 5になって追加されたプラグインであるピッチ補正機能のPitch Correctが搭載された。これは従来よりヤマハがVSTプラグインとして販売してきたPitch FixをCubase用に最適化したものであり、ボーカルなどのピッチの揺れを簡単に補正できるのが特徴だ。

 Cubase 5で追加されたMIDIプラグインのBeat DesignerもCubase Essential 5に搭載された。これは、ドラムマシン風の画面で、リズムパートを視覚的に編集、構築できるもの。これによって効率よくリズムパートが入力できるようになっている。

ピッチ補正機能の「Pitch Correct」MIDIプラグイン「Beat Designer」

 また、以前からあったVSTインストゥルメントではあるが、Cubase Esseial 5になって搭載されたのがアナログシンセのPrologue。ポリフォニック減算式ソフトシンセで、図太いシンセベース音などが作り出せるのが特徴となっている。

 さらにプレイバックサンプラのHALionONEの音色セットが240種類追加されたり、VST3対応のオートパンが搭載されるなど、見た目にもわかりやすい機能強化であり、お買い得感もある。

 そのほかにもMIDIループへの対応やMIDIオートーメーションの改良、MIDIエフェクトのデザインが一身されているほか、サンプルエディタが改良されたり、マウスや文字入力のキーボードで演奏を可能にするバーチャルMIDIキーボードを備えるなど、さまざまな点で強化されている。

アナログシンセ「Prologue」を搭載バーチャルMIDIキーボードも備える

■ ピアノ音源「THE GRAND 3」

ピアノ音源「THE GRAND 3」

 同じく9月18日にリリースされるソフトウェアが、ピアノ音源のTHE GRAND 3(オープンプライス/実売予想価格39,800円)。

 これはTHE GRAND、THE GRAND 2に続く第3世代のピアノ音源で、88鍵の全鍵サンプリングを行なうとともに、ベロシティー=打鍵の強さによって最大20段階のサンプリングが行なわれている。同じサンプリング系の人気ピアノ音源であるSynthogyのIvoryを強く意識しているようで、ベロシティーの段階がIvoryの2倍あることを強調していた。

 気になるサンプリング元の音源は5種類。まずはYAMAHAの現行のグランドピアノで、定価3,255,000円の「C7」、Steinway(スタンウェイ)の「Model D」、Bosendorfer(ベーゼンドルファー)の「290 Imperial」、Nordiska(ノルディスカ)の「アップライト」、そしてYAMAHAのエレクトリックグランド「CP80」。

ヤマハのC7NordiskaのアップライトヤマハのCP80

 これらのサンプリングには、すぐ近くで拾うマイクと、アンビエント系など合わせて12本のマイクで行なっている。CP80を除く4モデルにおいては、楽器そのものの響きを捉えるCloseポジションと演奏者ポジションのPlayerの2通りのマイクポジションを選択することができ、それぞれでかなりニュアンスの異なるサウンドとなる。そのため実質9種類のピアノ音色を備えているといってもいいだろう。

 このサンプリング音色の選択は非常にビジュアライズされており、表示されるピアノの絵を選んで行なうようになっている。

12本のマイクでサンプリングピアノの絵から選択

コンボリューションリバーブを搭載

 もうひとつ特筆すべきポイントはTHE GRAND 3の内部にコンボリューションリバーブを搭載していること。コンボリューションリバーブとは、実際のホールなどで反響音をサンプリングしたインパルス応答と呼ばれるデータを利用して反響効果を得る空間エミュレーション型のリバーブのこと。

 Cubase 5にはヤマハのSREV1という50万円のハードウェア・コンボリューションリバーブを元にしてソフトウェア化したものが搭載されていたが、それと同等のものが、THE GRAND 3本体内に搭載されたのだ。このインパルス応答に加えて、通常のアルゴリズムリバーブも搭載しており、総計で60種類強のプリセットが用意されている。DAW側の機能に頼らず、THE GRAND 3本体だけで音作りが可能になっているのだ。

 このTHE GRAND 3はWindows、MacそれぞれのVSTプラグインとして機能するのはもちろん、MacのAudioUnits、さらにはReWire、そしてスタンドアロンでも動作するようになっている。


■ ギター向けオーディオI/F「CI2」

CI2

 そして、もうひとつ発表されたのが、昨年リリースされたオーディオインターフェイスのMR816csx/MR816X、コントロールサーフェイスのCC121に続くSteibergブランド第3弾となるハードウェア、CI2(シー・アイ・ツー)だ。

 CI2の発売までにはちょっと時間がかかるようで、10月26日が予定されている。価格はオープンだが、店頭予想価格が24,800円程度という比較的安価なオーディオインターフェイス。弁当箱サイズで、2IN/2OUTというシンプルな仕様。主にギタリストの使用を想定した設計になっている。

 しかし、トップパネル右側にはオーディオインターフェイスとしてはちょっと見慣れないノブやボタンがある上に、フットスイッチにも対応しているという変わった機材。これはどんなものなのだろうか?

 WindowsPC/Macとの接続はUSB 1.1で行なう制限上、サンプリングレートは44.1kHzと48kHzに対応で、量子化ビット数は16bit/24bitから選択できるようになっている。入力はXLRとTRSの両方が使えるコンボジャックが2つあり、INPUT 1側はHi-Zボタンを押すことによりエレキギターなどと直結可能となる。

2IN/2OUTというシンプルな仕様。主にギタリストの使用を想定する右側にはノブやボタンを搭載INPUT 1にはHi-Zボタンを装備。エレキギターなどと直結可能

 またPHANTOMボタンを押すことで、+48Vのファンタム電源がINPUT 1、INPUT 2の双方に供給されるため、2本のコンデンサマイクを同時に扱えるようになっている。トップパネルには5つのツマミが並んでいるが、上に並ぶ2つはINPUT 1、INPUT 2のゲイン調整で、下の3つは左からマスターボリューム、ヘッドフォンボリューム、入力側とPCからの出力側をどのバランスでミックスするかを決めるツマミとなっている。

 この部分に関しては、特に難しいものはひとつもなく、接続すれば迷うことなく利用できるはずだ。このCI2のドライバ、Windows版においてはMME/WDMとASIO、Mac版はCoreAudio(ASIO)に対応しているので、どのアプリケーションでも利用可能。

 では、右側のノブなどは何に使うものなのだろうか? その答はバンドルソフトをインストールすることでわかる。

Cubase AI 5がバンドル

 まずCI2にバンドルされているのは、Cubase 5シリーズのバンドル版ソフト「Cubase AI 5」だ。ご存知の方も多いと思うが、バンドル版のCubaseにはヤマハ/Steinberg製品にバンドルされるCubase AIとTASCAMやZOOMなどグループ外企業へのOEM版であるCubase LEの2ラインナップがある。

 これまではCubase AI 4とCubase LE 4ともにCubase 4シリーズのものだったが、CI2バンドルのものが初のCubase AI 5となる。今後CI2以外の製品のバンドルソフトも順次にCubase AI 5へ置き換わっていくとのことだが、いつからということはアナウンスされていないし、Cubase AI 4からCubase AI 5への交換やアップグレードサービスというものはない。

 そのCubase AI 5の詳細なスペックに関しては割愛するが前述のCubase Essential 5の下に位置づけられるものであり、オーディオトラック数やプラグインのバンドル数、同時に使えるプラグイン数などに制限がある。


■ 「Extention」で機能を拡張

 一方、CI2とCubase AI 5で活用する場合、ドライバのほかにExtentionと呼ばれるソフトをインストールすることで、機能がいろいろと拡張され、右側のノブなどが使えるようになる。

 ExtentionはCI2以外にもSteinberg製品ではMR816csxやCC121、ヤマハ製品ではMIDIキーボードのKXシリーズやデジタルミキシングスタジオn12/n8などにも用意されており、それぞれの機能を連携するためのシステムをインストールすることができる。

 CI2用のExtentionをインストールして、即恩恵に預かることができるのが、ドライバの設定。まったく何の設定をしていない状態でCubase AI 5を起動すると、ダイアログが表示され、「Yamaha Steinberg USB ASIOを選択しますか?」と聞いてくる。

 ここでOKとすると、自動的にドライバが設定されるとともに、VSTコネクションの設定も行なってくれる。

ドライバ設定。「Yamaha Steinberg USB ASIOを選択しますか?」と聞いてくるOKとすると、自動的にドライバが設定される。VSTコネクションの設定も行なってくれる
「プロジェクトアシスタント」画面

 さらに、Cubaseが起動するとプロジェクトアシスタントなる画面が現れる。見慣れない画面だが、これが非常に便利なのだ。

 上部には「最近使用したプロジェクト」、「レコーディング」、「スコア作成」、「プロダクション」、「マスタリング」、「その他」というタブが並んでいる。このタブはカテゴリーを表すもので、選択すると、テンプレートがズラリと並ぶ。まあ、テンプレートは以前から存在していたが、CI2ですぐ使えるものが数多く揃っているのとともに、カテゴリーごとに分かれているのは非常に便利。

 たとえば、レコーディングには「Distortion Guitar + Vocal」というものを選んでみると、自動的にプロジェクトが作成されるとともに、クリーンギター用のオーディオトラックとボーカル用のトラックが設定される。

 ここにはアンプシミュレーターやダイナミクス、コーラスといったエフェクトが設定されているため、即レコーディングへと入れるのだ。ちなみにこのアンプシミュレーターはギターアンプっぽいデザインが変更になり、使いやすくなっている。

 同様にプロダクションで「Electro Production」を選択すると、テクノ系楽曲のテンプレートが読み込まれる。ここにはインストゥルメントトラックであるトラック1にはテクノキットを読み込まれており、8小節分のドラムパートが構成されている。繰り返しボタンを押してから再生ボタンを押せばループして再生されるし、必要に応じてコピーして伸ばしていってもいいだろう。

 トラック2に移ると、ここはシンセベース。MIDIキーボードを弾くと、すぐにベースが鳴る。そのほかもパッドやリードシンセなどのインストゥルメントトラックがあるほか、一番下にはボーカル用のオーディオトラックがあるので、マイクを接続すれば、即レコーディングできるというわけだ。

「Distortion Guitar + Vocal」を選ぶと自動的にプロジェクトが生成プロダクションで「Electro Production」を選択するとテクノ系楽曲のテンプレが読み込まれる

■ ノブやボタンでの操作

 ノブの方はどうなっているのだろうか? これはAIノブと呼ばれるもので、以前紹介したCC121のそれと同様のものだ。現在画面上でマウスがある位置にあるノブやフェーダー、スイッチなどを、AIノブを回すことで動かせる。

 したがって、マウスでクリックしたり、ドラッグする操作はいらず、シンセのパラメータなどノブ型表示のパラメータも、非常にスムーズに調整できる。右手にマウス、左手にAIノブとすることで、効率のいい操作ができそうだ。

 一方、AIノブの斜め下にはボタンがある。実はこのボタンも大きな役割を担っている。これを押すと「インタラクティブレコーディング」という見慣れない画面が現れる。この状態でボタンを押すごとに、緑の位置が右へ1つずつ回っていくとともに、そこに設定されているコマンドが実行されていく。ボタン操作ひとつだけで一連の操作ができてしまい、作業効率/わかりやすさという面では画期的だ。

 もちろん5項目もいらないという場合は減らすこともできるし、6つにまで増やすこともできる。さらにそれぞれに割り振られているコマンドは自由に変更できるので、自分のワークフローに合わせて構築してみるといいだろう。

「インタラクティブレコーディング」画面登録コマンドを減らすことや、6つまで増やすこともできる

 ただ、ボタンを押すのは便利だが、両手がふさがるギタリストにとってはちょっと扱いづらい。そこで登場するのがフットスイッチというわけだ。リアにあるフットスイッチ端子にフットスイッチを接続すれば、フットスイッチが先ほどのボタンと同じ役割を果たし、操作ができる。

 なお、プロジェクトアシスタントは現在のところCubase AI 5のみが対応して いる機能だが、インタラクティブレコーディング機能はCubase 5シリーズにExtentionをインストールすることで使えるようになる。


■ CI2の音質をチェック

 最後に、いつものようにCI2の音質チェックをRMAA Proで行なってみた。24bit/44.1kHzと24bit/48kHzのそれぞれの場合の結果だ。

44.1kHz48kHz

 やや周波数特性において高域が弱いという結果が出たが、主にギターレコーディング用と考えれば、まずまずの性能といえるだろう。25,000円でコントロールサーフェイス機能付きのオーディオインターフェイスとDAWであるCubase AI 5とのセットが購入できるできるコストパフォーマンスは非常に高いと思う。


(2009年 9月 7日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]