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第472回:64bit Mac OS X LionでDTM機器/ソフトを動作検証

〜多くのDAWソフトなどが移行可能。一部に制限も 〜


 

Mac OS X 10.7、通称Lion

 7月20日にリリースされたMacの新OS、Mac OS X 10.7、通称Lion。64bit OSとしての機能面、性能面に注目が集まる一方で、アップルが展開するソフトのダウンロード販売サービス、App Storeで2,600円という低価格で販売されたというのも大きな話題となった。またLionと同時にそれをプリインストールした新MacBook Air、新Mac miniも発売され、非常に低価格な設定になっていた点も注目された。

 そうした中、今回焦点にあててみたのは、DTM分野において各DAWやオーディオインターフェイスは使えるのか、という点。実際使えるものなのか、いろいろと試してみた。



■ 新Mac miniでLionを使ってみる

 Windowsは以前から32bit版と64bit版と2ラインナップが存在し、Windows 7では1つのパッケージに両方が入っていて、ユーザーがどちらをインストールするかが選べるようになっている。最近は64bit版を選ぶユーザーがかなりの比率となっているようだが、DTMの世界に限っていえば、まだまだ32bit版を使っている人が大半のようだ。

 安定性や実績という面で32bit版を使っている人が多いほか、64bit対応のDAWを使うとReWireが使えなかったり、プラグインがうまく動作しないといった問題から敬遠する人もいるようだ。もっとも、64bit版Windows 7上に32bit版のDAWをインストールして使う限りは、あまり問題はないことがハッキリしてきたため、徐々に64bit環境への移行が進みだしている段階だ。

 一方のMacは前バージョンであるMac OS X 10.6 Snow Leopardで64bit化がなされたが、Windowsのように32bit版、64bit版に分かれているわけではなかった。実際、従来のアプリケーションは基本的にどれでも動くので、とくに32bitであるとか64bitであるといった意識をする必要はなかったが、あまりにもスムーズな移行であったため、やや狐につままれたような気分でいた。

 そこに登場したLion、完全64bit化がなされるということで、登場するまでさまざまな噂も出回っていた。つまり、「32bitを完全に切り捨てるため、既存のアプリケーションやドライバがまったく動かなくなるのではないか」といったものだ。海外からは、開発者向けのバージョンがリリースされた段階で、各DAWの動作状況の情報が入ってきていたが、「大半が動かない」といった内容であったため、やや戦々恐々とした雰囲気だった。

 そこで実際どうなのかを試してみようと思ったのだが、やはり現在使っているSnow LeopardをLionにアップグレードしてしまうのは結構なリスクを伴う。筆者は前モデルのMac miniを持っているのだが、DTMマシンとしてそこそこ使うため、その環境が壊れてしまうといろいろと問題が生じる。

 その一方で、今回発売されたMac miniは安いモデルが52,800円と手ごろ。これなら1台買っても損はないだろうと、Lion環境用に発売翌日に量販店で購入してきたのだ。5%のポイントが付くから実質5万円。Core i5(2.3GHz)のSandy Bridge対応のマシン(HDDは500GB)がこの値段なのだから、悪くない。しかも、非常に小さく、現行PCの中でもっとも静音といえるもので、Windows用のPCとして見てもなかなかいいコストパフォーマンスだ。

 メモリ容量が2GBというのは物足りないが、アップル純正でメモリを増強すると非常に高くなってしまうので、別途購入することにした。実際ネットショップで8GBのメモリを送料込み4,780円で入手できたので、これに差し替えて使ってみた。

今回発売されたMac miniは安いモデルが52,800円 Core i5(2.3GHz)のSandy Bridge対応のマシン(HDDは500GB)で、非常に小さい 別途購入した8GBのメモリに差し替えて使ってみた

 OSのせいなのか、マシン速度のせいなのかは分からないが、起動もグッと速くなり、なかなか快適。パッと見では、宣伝されているほどドラスティックな違いは感じないが、確かにiPad風なランチャー機能であるLaunchpadを備えたり、Windowsのものとはちょっと異なるタスク切り替え機能Mission Controlを搭載するなど多少の違いはあるようだ。ただ、マウスで操作するMac miniの場合、あまりLaunchpadのありがたみは感じられず、ほとんど使っていないのだが……。

iPad風なランチャー機能、Launchpad タスク切り替え機能、Mission Control


■ 各社オーディオI/Fなどがそのまま利用可能。新ドライバも公開

 まず気になるのはオーディオやMIDIまわり、そしてオーディオインターフェイスが使えるか、DAWが使えるかといったあたりだ。最初に試してみたのは、標準でインストールされているGarageBand。これを起動して使ってみたが、当然問題なく動作するし、これまでのものと違いもまったくないようだ。ドライバ不要で接続可能なKORGのミニ鍵盤、nanoKeyを接続したらすぐに使えたし、同じくMacの場合、ドライバ不要で使えるRolandのFireWireオーディオインターフェイス、FA-101も問題なく鳴らすことができた。

 ここでRolandのサイトのLion対応情報を確認してみると、7月21日には主要オーディオインターフェイス、MIDIインターフェイスのドライバが公開されて対応。さらに8月2日にはドライバ類が追加されて多くの製品が使えるようになっている。試しに、USBオーディオインターフェイスであるOCTA-CAPTUREのドライバをインストールして接続してみたところ、しっかりと使うことができた。

 システム環境設定のサウンドのところを見てみると、従来どおり。またMac標準のユーティリティ、Audio MIDI設定の画面を開いてみると、やはりこれも従来のものとまったく同じであり、普通に使うことができる。Lionになったとはいえ、あまり変わった感じがしない、というのが正直なところだ。

GarageBandは問題なく動作し以前の環境との違いも全くないようだ RolandのOCTA-CAPTUREのドライバをインストールして接続してみる OCTA-CAPTUREのドライバはしっかりと使うことができた
システム環境設定のサウンドのところは従来どおり Mac標準のユーティリティ、Audio MIDI設定の画面を開いてみる Audio MIDI設定もこれまでどおり使うことができる

 ここで、まだ対応がアナウンスされていないSteinbergのオーディオインターフェイス、MR816csxのドライバ「TOOLS FOR MR V1.7」をダウンロードして、インストールしてみた。すると、何のアラートもなくインストールが完了し、しっかり認識されている。試しに音を出すと、普通に出るし、録音もできる。あまり使い込んでないが、ほぼ問題なさそうなのだ。

 さらに先日扱ったPreSonousの真空管搭載のオーディオインターフェイス、STUDIOFIRE TUBEについても、SnowLeopard対応のドライバをインストールして使ってみた。こちらもLion正式対応はしていないが、とりあえず使えそうに見える。ただ、そのいろいろな環境で試してみると、FIRESTUDIO TUBEはマルチポートでの再生がうまくいかないなど、不具合もあり、動作も不安定だった。この機材を返却した後ではあったが、Lion対応のパブリックベータが発表されているので、これを使えばこうした問題も解決しそうだ。

SteinbergのMR816csxのドライバ「TOOLS FOR MR V1.7」は、ほぼ問題なし PreSonousのSTUDIOFIRE TUBEのドライバは不具合があり、動作は不安定


■ Cubase 6やLogicも64bit版で快適に動作。ReWireは非サポート

 次にDAWについてもいろいろと試してみた。まずCubase 6をインストールしようとしたのだが、最初に困ったのはこのMac miniにDVDドライブが搭載されていないこと。安くなった分、光学ドライブが省略されてしまったのだ。普段それほど使わないので構わないと思っていたが、最初にインストールするときにはやっぱりないと不便。ただ、LAN経由で簡単にインストールできたので、大きな問題にはならなかった。普通は別のMacと接続して行なうのだろうが、今回はWindowsでISOファイル化したものを、ネットワーク越しに開いて試してみたところ、とても高速にインストールできて、なかなか便利だった。

 そのCubase 6を起動させると、最初にアラートが表示されてストップする。「PowerPCアプリケーションは現在サポートされていないため、アプリケーションVSTBridgeAppを開けません。」とあるのだ。そう、ここがLionで制限された大きなポイント。つまりSnow LeopardまではRosettaというエミュレータシステムが入っていて、PowerPCのコードで書かれた古いプログラムも普通に動かすことができたが、Lionになってそれが廃止されたのだ。

 Cubase 6の場合、古いVSTプラグインも使えるようにVSTBridgeAppというシステムが入っているのだが、これが動かないというわけだ。とりあえず、OKをクリックすると、Cubase 6がフリーズしてしまう。ちょっと嫌な予感がしたが、強制終了後、再度Cubase 6を起動させると、あとはまったく問題なく動くようになった。先ほどの起動画面を見て気づいたのは、このCubase 6が32bit版であるということ。Windowsの場合、Cubase 6のインストール時に64bit版をインストールするか、32bit版をインストールするか、と聞かれるが、そうした表示はなくインストールされた結果が32bit版だったというわけだ。

 ただ、よく調べてみると、MacではSnowLeopard当時から32bit版と64bit版は、アプリケーションの設定で切り替えられるようになっているとのこと。Cubase 6のアイコンを選択して、「情報を見る」でプロパティを開くと、確かに「32ビットモードで開く」にチェックが入っている。このチェックをはずして起動すると64bit版のCubaseが起動するのだ。

Cubase 6を起動させると、最初にアラートが表示されてストップする 強制終了後、再度Cubase 6を起動させると、あとはまったく問題なく動くようになった SnowLeopardをアプリケーションの設定で切り替えると64bit版のCubaseが起動する

 ここまでで分かったのは、LionはPowerPCのサポートをしなくなったため、古いアプリケーションを起動させることはできないが、アプリケーション自体は32bitコードのものも64bitコードのものも開くことができる。当初言われていた「32bitが切り捨てられる」という噂はデマだったわけだ。初期バージョンの6.00でも問題なく使えたが、Steinbergはその後6.03というLion正式対応のアップデータを出したので、それを使ってみたところ、快適に動作してくれる。

 また、64bit版の場合、そもそもVSTBrigeAppもサポートされていないため、32bit版でのようなトラブルもない代わりに、32bit版のVSTプラグインも使えないというデメリットもあるようだ。一方、Windowsでよく問題になっているのがReWireだ。間もなくPropellerheadが64bit版のシステムを出すため、そこで使えるようにはなりそうだが、現時点においては64bitアプリケーションとして動かす限りReWireは非サポートとなる。これはMacのLionにおいても同じようで、32bit版として起動するとReWireクライアントが見えるが、64bit版として起動すると見えなくなってしまう。

 

32bit版として起動するとReWireクライアントが見える 64bit版として起動すると見えなくなる

 Cubase 6のほかにも各種DAWをインストールして試してみた。まずは本家アップルのLogicから。以前にもレポートしたとおり、膨大な枚数のDVDメディアで構成されているが、インストールするだけでも一苦労。これをLAN上のDVDドライブなどを使っていると面倒そうだったので、ときどきWindowsのノートPC用に使っているUSBのDVDドライブを引っ張り出してMac miniと接続してみた。すると問題なく使うことができ、Logicのインストールも完了。Logicも「32ビットモード」、「64ビットモード」の選択ができるようになっており、64bit版として快適に使うことができた。

WindowsノートPCで使用しているUSBのDVDドライブでLogicをインストール Logicも「32ビットモード」、「64ビットモード」の選択ができる 64bit版として快適に使えた


■ Pro Toolsはバージョン8なら動作

 Mac用のDAWとして一番気になっていたのはAvid TechnologyのPro Tools 9。これについては、Avid Technologyも現在動作しない旨を発表しているほか、ネット上でも動かないという情報が上がっていたが、もしかしたら……ということもあるので試してみた。

 インストール自体はスムーズに行なえたのだが、起動してみると、エラーメッセージが出る。海外の情報もいろいろと調べてみたが、これはどうにも動かないようだ。やはりMacで長い歴史を持つDAWであるだけに、PowerPCのコードをたくさん引きずっているということなのだろうか、そうなるとLion対応までにはかなり時間がかかるのか……。

 そんなことを考えながら、さらに海外の掲示板を見ていたら、「動いた」という情報があった。が、よく読んでみるとPro Tools 9ではなくPro Tools 8 M-Powered。確かにLion上で起動している画面もあったので、こちらを試してみることにした。ただ、手元にM-Poweredはないので、Pro Tools LE 8をインストール。最新版にアップデートして起動してみると……、なんとあっさり動いてしまったのだ。第2世代のMbox miniとの組み合わせだが、再生も録音も問題なくできる。

 細かく見ていくと、何か問題があるのかもしれないが、とりあえず普通に使えてしまう。ということはPro Tools 9もPowerPCのコードを引きずっていて動かないというのではなく、単に安全のため、OSチェックをしてから起動させる仕組みになっていて、Lionがはじかれているだけのようだ。もちろん断言はできないが、これなら正式対応版がリリースされるのも時間の問題ではないだろうか……。

Avid TechnologyのPro Tools 9のインストールはスムーズ しかしPro Tools 9を起動してみると、エラーになってしまう
Pro Tools LE 8をインストール あっさり動いてしまった

 次に試してみたのがMOTUのDigital Performerだ。すでにMOTUではLion対応のDigital Performer 7.24をリリースしているので、これをインストールすることにした。ただ手元にあるのが7.22というバージョンなので、これをインストール後、7.24にアップデートすることにしたのだが、ここでちょっと手間取った。というのは、Digital Perfomerは初回起動時に認証コードが必要となり、コードを入力するとオリジナルのCD-ROMであるかを確認するために光学ドライブにアクセスにいく。この際、光学ドライブとの相性が原因なのか、なかなかうまくいかずにちょっと時間がかかってしまったのだ。

 その後、販売代理店であるハイ・リゾリューションのサポートを得ながら試した結果、成功。その後は何のトラブルもなく使うことができた。このインストールの件はLionとは直接関係のない話であるが、現在MOTUとハイ・リゾリューションで原因究明中とのことだ。

 さらにAbleton Liveも試した。こちらは手元にパッケージがないので、Abletonのサイトから30日間無償トライアルというものをダウンロード。Live 8.2.2というバージョンで、Lionには正式対応していないのだが、こちらもとりあえず何の問題もなく使うことができた。

 ただ、実際にはいくつか問題もあるようで、現在アップデート版が準備中という段階。サポート情報を見ると、すでに8.2.5b1というLion対応版のベータ版があり、これをダウンロードはしてみたが、こちらは正規ユーザー向けとなっており、アクティベートしないと使えないため断念したが、Liveに関してはあまり心配はなさそうだ。

 なお、Max for Live に関して、JAVAを使用するオブジェクトを含むデバイスを使用した場合にLiveごとクラッシュする問題が確認されているとのこと。これは、LionにJAVAが標準でインストールされなくなったために生じる問題で、JAVAをOSにインストールすれば問題無く動くようだ。

MOTUのDigital Performer 7.22を、7.24にアップデートすると起動に成功 AbletonのLive 8.2.2トライアルバージョンも、とりあえず何の問題もなく使えた


■ 個人使用レベルなら移行もアリ

 プラグイン類については、あまりテストしていないが、これらも古いPowerPC時代のものを除けば、たいてい動くようだ。先日のYAMAHA&Steinberg EXPO 2011に出展していた各プラグインベンダーにも聞いてみたところ、各社とも「とりあえず問題なく動いているが、まだ検証中であり正式対応は表明していない」という回答だった。

 当初は大半のソフト、ハードが使えないのでは……と危惧していたLionだが、正直いって拍子抜けするほど普通に使うことができてしまった。もちろん、細かい問題はあるだろうから、業務で使っているプロユーザーは当面は様子見ということになるだろう。ここから先は各メーカーが細かく検証すると同時に、ユーザーが使ってみて、実際に問題がないかをみんなで確認していくという段階のようだ。

 Mac OS Xが出ても、Mac OS 9を使い続ける人が多かったのと同じようにSnow Leopardを使い続ける人が大勢になるのではとも思っていたが、あっさりLionへの移行が進んでいくような気がする。


(2011年 8月 8日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]