第524回:iPhone 5 Lightningアダプタ接続の音質をテスト
~本当にアナログ出力できる? サンプル信号で4Sと比較 ~
発売後3日で世界の出荷台数が500万台を突破し、今でも予約しないとなかなか入手できないという人気を誇るiPhone 5。しかし、地図の問題やDockコネクタが30ピンのものからLightningコネクタと呼ばれる8ピンものに変更になるなど、ユーザーからの不満の声も聞かれる。
このうちLightningについては先日、Appleから発売されたLightning-30pinアダプタを利用することで解決される、と言われているが本当なのだろうか? 実際にオーディオ出力はでるのか、音質的に問題はないのか、S/PDIFについても出力可能なのか……、気になることがいろいろあるので試してみた。
iPhone 5 | Lightning-30pinアダプタ |
■ Lightning-30pinアダプタ経由で本当にアナログ出力が可能なのか
iPhone 4Sを購入してから、まだ1年で償却しきっていないな……という思いはありつつも、iPhone 5は個人的に魅力に感じる点、気になる点などいろいろあったため、Softbankからauへ乗り換える形で購入した。発売初日はちょっとしたトラブルで入手できなかったが、翌日には手に入れ、今も毎日持ち歩いて使っている。普段、利用する上で地図以外は非常に満足しているし、これまでモバイルルーターを持っていなかっただけに、テザリング機能はとても便利に感じている。
ただ、発表会で実物を目にして以来、気がかりであったのがLightningコネクタだ。2003年にiPodで採用されて以来ずっと使われてきた30pinのDockコネクタが、新しい8pinのLightningコネクタに変わったことで、トラブルは起きないのか、という点である。
筆者の普段の利用から考えると、これまで予備がいっぱいあるDock-USBケーブルが使えないため、付属のLightning-USBケーブルを使わないと、充電すらできないというのがとにかく不便。まだサードパーティー製の安いケーブルが出ていないので、予備を用意するなら1,880円もする純正を買わなくてはならないので、今のところ我慢している状況だ。ただ、これまでのDockコネクタと比較して、抜き差しがしやすいのは、ちょっと嬉しいところ。また裏表関係なく挿せるというのも便利だ。また8ピンとはいうが、よく見てみると、表に8ピン、裏に8ピンあるから表裏ひっくり返しても抜き差しできるわけで、実際の接点は16ピンあるのだ。
Lightningコネクタと付属ケーブル | 表裏を気にせず接続できる |
この8ピンの信号が何であるかの仕様は公開されていないが、Appleは、フルデジタルと言っている。30ピンも正式に公開されていたわけではないが、ネットの情報などを見ると、オーディオ出力、ビデオ出力といったアナログ信号線、USBおよびFireWireのデジタル信号線、そして3.3V、5V、12Vなどの電源用の線、そしてグランドともいわれている。これが8ピンに集約されたのだとすれば、おそらくFireWireは廃止されているので、USBと電源用の線と考えるのが妥当と思われるが、もしかしたら新たな専用信号線ができているのかもしれない。
さて、ここからが本題。Lightningコネクタになったことで、従来の機器すべてが使えなくなるのは、さすがにマズイということで、Appleからは従来のDockコネクタへ変換するためのLightning-30pinアダプタなるものがオプションとして用意されたのだ。コンパクトなタイプと、20cmのケーブルタイプの2種類があるが、いずれもiPhone 5発売当初は発売されず、10月予定となっていたが、筆者の手元にも予約していたコンパクトタイプのものが10月10日に届いた。これを使って、オーディオ関連をいろいろと試してみた。
まず一番気になっていたアナログライン出力に本当に対応しているのか、という点。iPhone 5発表の当初、「Lightningコネクタがフルデジタルなのだから、アダプタで30ピンDockコネクタに変換してもアナログ出力が出るはずがない」と思い込んでいたが、その後Appleから「アナログオーディオの出力も可能」という公式アナウンスが出ていた。Appleがそういうのだから、間違いはないのだろうが、本当に可能なのか試してみた。ここで使ったのはとってもシンプルなケーブル。30ピンのDockコネクタからアナログのライン出力を取り出すだけのためのものだ。早速、試してみたところ、確かに従来と同様にアナログオーディオをここから出力することができた。
30ピンのDockコネクタからアナログのライン出力を取り出す手持ちのケーブルを使った | アナログオーディオをここから出力できた |
ということは、このLightning-30pinアダプタというのは、単に配線を引き回しているだけではなく、ここにDACなどのチップが搭載されていることになる。まあ、iPhone 5付属のLightning-USBケーブルさえも認証チップが搭載されているという話なので、2,800円のアダプタにDACチップが搭載されていても不思議はない。
また、8ピンの信号線のデジタル信号がUSBだけだとしたら、単にDACだけでなくUSBのオーディオデコーダチップも搭載されているということになるわけで、小さいくせに、かなりすごいことをやっていることになる。ちまたには、様々なUSB-DACが存在し、値段も音質もそれぞれだが、Lightning-30pinアダプタは、最小のUSB-DACといえるのかもしれない。
でも、そうだとしたら、やはり気になるのはその音質だ。PCオーディオブームで、どのUSB-DACの音質がいいのかと複数の雑誌が登場してくるくらいの時代なのだから、今後こうした雑誌などでもLightning-30pinアダプタの音質評価などが出てくるのだろう。ここで直感的に思うのは、「こんなちっぽけなアダプタに搭載されているUSB-DACなんだから、音質はきっと劣るはず」ということ。またそれと同時に「Apple純正のLightning-30pinアダプタより高音質なアダプタ」といったものが多くのサードパーティーから登場して、市場が活性化するのでは……といったことも想像できる。
WAVのサンプル信号を、iPhone 5とiPhone 4Sのそれぞれで再生させた音をPCにキャプチャして分析した |
ただ筆者自身、オーディオ評論家の方々のように音質を言葉で表現するのは上手ではないし、そもそも音を聴き分ける能力に長けているわけでもない。実際、ちょっと音を確認してみたところ、想像していたほど音は悪くないし、正直なところiPhone 4Sでのライン出力との差がよく分からないほどだった。
そこでデータで見るとどうなのか、実験してみることにした。その実験方法として考えたのは、サンプル信号をWAVで作成しておき、それをiPhone 5とiPhone 4Sのそれぞれで再生させた上で、その再生音をPCにキャプチャして分析するというものだ。
■ ライン/ヘッドフォン出力の音質を比較
ローランドのOCTA-CAPTUREでPCに取り込んだ |
もう少し、具体的にその実験方法を紹介しよう。まず用意するのは1kHzのサイン波、ピンクノイズ、20Hz~22kHzのスイープ信号の3種類で、いずれも16bit/44.1kHzのステレオのWAVファイルとして用意した。そして、これらをiTunesを経由して、iPhone 5とiPhone 4Sに転送。そして、これら3つのファイルをiOSの「ミュージック」機能で再生させ、それを前出の30ピンDockからアナログオーディオ出力を取り出すケーブルを経由し、ローランドのオーディオインターフェイス、OCTA-CAPTUREで取り込むのだ。その際も44.1kHzのサンプリングレートで行なったが、量子化ビット数は24bitに設定しておいた。このようにして取り込んだWAVファイルをefu氏のフリーウェア、WaveSpectraで分析し、表示させてみるというものである。
なお、せっかくなのでライン出力だけでなく、iPhone 5、iPhone 4Sそれぞれのヘッドフォン出力についても同様の分析を行なってみた。このヘッドフォン出力の音量レベルをどう設定するべきかちょっと悩んだが、最大音量に対して95%程度にしておいた。というのも、100%の最大にして音が歪んでしまったらマズイと思ったからだ。耳で聴く限り、最大でも歪むという感覚はないが、念のためだ。
また、オーディオインターフェイスを通じての入力レベルを確認すると、95%程度でライン出力とほぼ同じレベルになるので、ちょうどいいと考えたのだ。というわけで、iPhone 5、iPhone 4Sのライン出力とヘッドフォン出力のそれぞれ、計4パターンで3通りの実験を行なったのだ。なお、ここで使ったiPhone 4SのOSはiOS5.1でiOS6へのアップデートは行なっていない。
まず、1kHzのサイン波の結果を見てみよう。残念ながらというか、幸いにしてというか、4つともほとんど変わらない。USB-DACやオーディオインターフェイスで同様の実験を行なうとかなりの差が出るので、音質に差があると結構ハッキリと違いが現れるものなのだが、これがAppleクオリティーということなのだろうか。
iPhone 4Sのイヤフォン出力 | iPhone 4Sのライン出力 |
iPhone 5のイヤフォン出力 | iPhone 5のライン出力(Lightning-30pinアダプタ経由) |
続いてピンクノイズを鳴らした結果の最大値を横軸(周波数)をリニアにして表示させた結果だ。こちらも4つともほぼ同様。21.5kHzあたりまでほぼフラットとなっているのだ。
iPhone 4Sのイヤフォン出力 | iPhone 4Sのライン出力 |
iPhone 5のイヤフォン出力 | iPhone 5のライン出力(Lightning-30pinアダプタ経由) |
さらにサイン波のスイープ信号の結果を見ても、大きな差はない。ただ、このグラフにおいては何箇所か凹んでいる部分があるのがやや気になるところ。これについては、録音した音を聴いてみたところ、ブチッという音の途切れがあることが確認できた。ただし、iPhoneでの再生時にはそうしたノイズは一切無かった。一方でOCTA-CAPTURE側で不具合があったとも考えにくいし、実際波形を見ても、ノイズらしきものは見当たらない。となると、サンプリング周波数と、再生周波数の間でなんらかの干渉のようなものがあったのか、エイリアス現象のようなことが起こったのか……。この辺は細かく追求はできなかったが、いずれにせよiPhoneの問題ではなさそうだ。
iPhone 4Sのイヤフォン出力 | iPhone 4Sのライン出力 |
iPhone 5のイヤフォン出力 | iPhone 5のライン出力(Lightning-30pinアダプタ経由) |
以上の結果を見る限り、筆者の仮説はハズレ。Lightning-30pinアダプタ経由でも、iPhone 4Sで実現していたライン出力とほぼ同等の音質を実現していたということになる。オーディオ評論家の方々からは、また違った意見が出てくる可能性はあるが、筆者によるデータ的な捉え方では、違いはないというのが結論である。
■ Lightning経由のデジタル出力もテスト。CCKはサポートせず
ND-S1にLightning-30pinアダプタ経由でiPhone 5を接続 |
ところで、iPhoneでできるオーディオ出力は、アナログ出力ばかりではない。S/PDIFを用いた出力も可能だ。いくつかの機材があるが、それを最初に実現してくれたのがオンキヨーのND-S1だった。正確にはND-S1はiPod用で、iPhoneに対応したのは後継機のND-S10やND-S1000。ただ、正式対応ではないものの、筆者の手元にもND-S1ではiPhone 4Sでも利用することができたので、iPhone 5にLightning-30pinアダプタをつけた状態で接続して試してみた。
結果的には、これでバッチリ動作させることができた。ただ、写真を見ても分かるとおり、ちょっと不安定であり、下手に力をかけると、ボキッといってしまいそうで、かなり怖いのも事実。これはND-S1に限らず、この手のドック型機器はすべて同様。無理して古い機材に接続して使うよりも、Lightningコネクタ接続のドックが登場するのを待つのがよさそうではある。
そのほか、DTM機器でも一通り試してみた。MIDIインターフェイスであるLine 6のMIDI Mobilzer IIやYAMAHAのi-MX1、ギター用のオーディオ入力インターフェイスのLine 6 MobileIn、ステレオマイクであるTASCAM iM2……とLightning-30pinアダプタを介すことで一通り使うことができた。ただ、唯一TASCAMのiU2だけは認識させることができなかった。なぜiU2が認識しないのかの理由がハッキリしていないが、これについて現在のところTASCAMからの公式なアナウンスは出ていない。
最後に、Lightning-30pinアダプタの先にiPad Camera Connection Kitを接続して、USB機器が接続できないか試してみたが、こちらは「このアクセサリはiPhoneでは使用できません」というエラー表示。LightningコネクタにUSBの信号は来ているものの、汎用のUSBデバイスとして開放してくれる気配はないようだ。
iPad Camera Connection Kitを接続 | エラーとなってしまった |
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Lightning-30pinアダプタ |