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iPhone 5のAV機能をチェックする
~音質は向上。カメラはソフト+ISPで改善~
iPhone 5 |
9月21日iPhone 5が発売される。今回は、OSのバージョンが「iOS6」になるだけでなく、ハードウエアの様々な部分でも、これまで以上に大きな変更が加えられている。本記事では、iPhone 5製品版を使い、特にAV関連機能の変化をチェックしてみた。
AV機能面については、OSの改善以上に、ハードウエアの変更が効いていると感じる。
■ 縦横比変更はAVにはプラス、問題は電子書籍?
iPhone 5の外観上の最大の変化は、ディスプレイが960×640ドット/縦横比3:2から、1,136×640ドット/縦横比16:9になったことだ。iOS機器では、これまで頑なに3:2もしくは4:3の縦横比が使われてきたが、今回初めて16:9に変更になる。サイズ的には横幅が維持されており、アプリの互換性問題はほとんど発生しない作りだ。サイズが変わったとはいえ、片手で持つには広すぎない。一方、縦方向が伸びたので、片手で持って親指を一番上に伸ばすのは、手が小さい人には少し辛いとも感じる。
左がiPhone 4S、右がiPhone 5のウェブ表示画面。表示量拡大の効果は大きい |
16:9非対応のアプリでは、上下もしくは左右に黒枠ができて、ちょっと小さく表示されるようになっている。この時、ボディが黒のモデルだと、ディスプレイの周囲から非対応アプリの「黒枠」までがシームレスに見えるように感じるので、より違和感が小さかった。アップルの話によれば、単純な16:9化はそう難しくない、とのことなので、UIに大幅な変更を加えなくても良いアプリの場合、すぐにアップデートが行なわれるだろう。
画面拡大のメリットは、まずはもちろん情報量の拡大だ。ウェブはもちろんだが、「ミュージック」アプリでの曲一覧時の情報量もかなり違う。iPhone 4Sでは、アルバムアートワークの上に各種操作画面が重なってしまっていたが、iPhone 5では重ならなくなっている。
左がiPhone 4Sの、右がiPhone 5のミュージックプレイヤー画面。UIがアルバムアートワークにかぶることがなくなった | ミュージックプレイヤーでの楽曲表示量に、画面の拡大は大きな効果がある |
情報量拡大と並び、縦横比の変更が大きく効いてくるのが「映像」だ。現在の映像は16:9が基本になっているが、3:2では上下が大きく余るか、左右をカットしなければならない。映画などの場合には、シネスコ(2.35:1)なども多く、16:9よりさらに縦が細くなり、3:2では余る部分が多くなりすぎる。そのため、それらの映像を楽しむ場合には、16:9の方が良い。
動画撮影機能は、iPhone 4Sでも5でも16:9/1,920×1,080ドットの映像が対象だが、4Sでは上下に黒枠がつくのに対し、5はきれいに全画面表示となる。当然これは映画などでも同様だ |
これらのことから、画面の拡大はおおむねプラスに働く。唯一違和感を感じるのは、電子書籍を読む時だろう。横書きの文字モノは問題ないが、縦書きだと多少縦が長く感じやすいし、マンガなどを中心に、紙のために作ったものを転用した場合には、縦横比の違いから余白ができ、少々もったいない。画面の小さなiPhoneではさほど問題とならないが、もしより画面の大きなiPadなどでも縦横比が変わることになれば、問題になるかもしれない。
■ 音質は4Sより改善、解像感アップ。周辺機器には「別売アダプタ」を
付属の新ヘッドフォン「EarPods」 |
AV向けの品質という点で、まず気になるのは「音質」だ。iPhone 5は、2つの意味で音質に変化が生まれている。
まずは、付属のヘッドホンマイクが「EarPods」に変わったことだ。こちらについては、詳しいレビューが別途用意されているため、そちらをご覧いただきたい。耳への収まりが良くなり、低音、中音域の出が大幅に改善している。完全に音漏れを求める人、耳栓的な遮音性を求める人にはお勧めしかねるが、低価格かつ標準添付のヘッドホンとしては、かなりレベルの高いものになっている、と感じる。
むしろ、筆者が注目したのは別の部分、すなわち標準での「アナログ出力」だ。ヘッドホン端子からの出力が、ずいぶんクリアになっている。高級から低価格まで、4種類ほどヘッドホンを付け替えてiPhone 4Sと5で聞き比べてみたが、4Sに比べ5の方が、かなりすっきりとした、より解像感の高い聴き心地になっている。音からヴェールが一枚とれたようだ、というとちょっと言い過ぎだろうか。おそらく、内部のアナログ出力回路が改良されたのだろう。
出力という意味では、外部拡張用の端子が「30ピンコネクタ」(通称Dockコネクタ)から、8ピンデジタル方式の新規開発「Lightning」に変更されたことも大きい。
Lightningは、30ピンコネクタと違い、音声・映像のアナログ出力が行なわれていない。完全なデジタル出力だ。コネクター形状の違いだけでなく、音声出力の互換性をとるためにも、別売の「Lightning-30ピンアダプタ」や「Lightning - 30ピンアダプタ (0.2 m)」を使う必要がある。これらのアダプタの内部には、デジタル音声のアナログ変換を行なう機構が入っているため、旧来の30ピンコネクタ経由でのアナログ出力も利用できる。詳しくは別記事をご参照いただきたい。ただし、今回はアダプターの試用が叶わなかったため、アダプター経由での音質などはわからなかった。
iPhone 5のLightning端子 | Ligntningケーブル | Lightning-30ピンアダプタ |
接続には、iPhone 5付属の「USB-Lightningケーブル」を使う。USBデバイスとして認識されるため、これまでのiPhoneと同じように認識されているわけだ |
ではデジタル(USBオーディオ)出力はどうだろう? また、カーオーディオなどとの連携はどうだろう?
こちらはそんなに問題はなさそうだ。USB系の出力はLightningでもそのまま生きているためだ。今回は、2012年モデルのBMW 3シリーズで試してみたが、iPhone 5付属の「USB-Lightningケーブル」で接続するだけで、音楽の再生から曲名・アルバム名・カバーアートの取得、曲送りなどの操作まで、まったく問題なく行なえた。
現状、「映像出力」の問題が残っているが、こちらについては、数カ月以内に「Lightning to VGAケーブル」「Lightning to HDMIケーブル」なども製品化の予定があるという。
BMW3シリーズ・2012年モデルの「iPod連携機能」を、iPhone 5で使ってみた。中の音楽はもちろん問題なく表示されるし、iPhoneも正常に認識される |
■ カラーバランス・ノイズ感が大幅改善、センサーだけに頼らぬ改良が光る
カメラはiPhone 5の改善点として、アップルも挙げる点の一つだ。
といっても、センサーなどが改善されているわけではない。機能・画質面の改善は、iPhone 5のSoCである「A6」に内蔵された、「イメージシグナルプロセッサ(ISP)」という機構と、ソフトウエアのコンビネーションで実現されている。
まずは画質を比較してみよう。比較対象に用意したのは、iPhone 4Sと、ソニー・モバイルの「Xperia GX SO-04D」だ。iPhone 4Sと5は、ソニー製の800万画素/裏面照射型CMOSセンサーを使っており、Xperia GXも、ソニー製の1,300画素/裏面照射型CMOSセンサーを使っている。発売時期も近いことだし、比較対象としては申し分ないと判断した。設定はすべて「オート」である。
センサーの解像度が違うので当然といえば当然だが、解像感はXperia GXがもっとも良い。だが発色とノイズ感の少なさ」では、iPhone 5も決して負けてはいない。Xperia GXに比べると、偽色・粒状感が少ない(少々NRを効かせすぎている、ともいえかも知れない)。それに比べるとiPhone 4Sは、発色・ホワイトバランスともに良くない。iPhone 5は、Xperia GXに比べスペックが大きく違うのに、これだけクオリティが上がっているのは十分評価すべき点だ。
iPhone 4S | iPhone 5 | Xperia GX |
実際の写真を見ると、スペックの高いXperia GXが解像感で優れるのは当然だが、発色・ノイズ感の少なさではiPhone 5も十分戦える。iPhone 4Sに比べ、明らかに忠実な色再現が行なわれている。
iPhone 4S | iPhone 5 | Xperia GX |
波や船体のディテールなどに注目。色再現性でiPhone 4Sが劣るのは同じだが、iPhone 5のディテール感の良さが光る。
iPhone 4S | iPhone 5 | Xperia GX |
上記3点は、暗い街頭で、フラッシュなどを焚かずに撮影。4Sは増感されすぎてかなり不自然な絵になり、ノイズも目立つが、5はディテールも色合いもはっきりした、いい写真に仕上がっている。
しかもスピードが速い。
iPhone 5のカメラアプリ起動速度は約1.2秒。Xperia GXが実測で同じくらい、iPhone 4Sが約1.6秒である。手動計測の誤差はあるとはいえ、iPhone 5が十分に速いのは間違いない。特にiPhone 4Sと比較した場合、HDR撮影の速度がかなり違う。iPhone 4Sでは約3.5秒かかったが、iPhone 5では約1.8秒。半分程度にまで短縮された。これだけ短くなれば、頻繁にHDR撮影をしても問題は小さい。
iPhone 5のパノラマ撮影画面。中央の枠からずれないように、プレビューを見ながらカメラを動かしていけば良い。水準線の維持にはモーションセンサーが使われる |
静止画撮影の機能という点で興味深いのが「パノラマ撮影」だ。iPhone 5では、標準でパノラマ撮影が可能になっている。アプリを使えばiPhone 4Sでもできたことだが、大きな違いは「操作性」だ。
iPhone 5のパノラマ撮影は、カメラをパノラマ化する方向に動かす、いわゆる「スイングパノラマ」に近い操作方法で行なうため、撮影がとても簡単だ。しかも、本家であるソニーのものより良い。画面全体に加え、パノラマ画像のプレビューも表示されるため、イメージをつかみやすい。縦方向のアングルのぶれや、カメラを動かすスピードについては、モーションセンサーを使って補正しているため、プレビューを出しながら処理できて、それがわかりやすさにつながっている。
パノラマ撮影できる範囲は約240度で、全体を撮ろうとするとかなり広い範囲が撮影できる。横方向には最大10,800ドットの画像になる。
ソニーの本家パノラマスイング機能は、Xperia GXにも同社のデジカメ(ここではクラスを考え、コンパクトデジカメのDSC-TX300Vを用意した)にもあるので、同じシーンで同じようにパノラマを撮影してみた。iPhone 5は範囲を広く撮影できるので、画面全体がゆがみやすい。無理にぎりぎりまで撮ろうとせず、少し手前で止めた方が見栄えは良い。この点は本職のデジカメにかなわないが、精細度・発色はiPhone 5もかなりいい。そして、撮影の容易さでは圧倒的にiPhone 5が優れている。
レンズの明るさなどのせいか、写真の発色・写りの良さではiPhone 5に軍配。ただし、全体の色調整の問題か、Xperia GXに比べると飛び気味でもある。iPhone 5は、240度をいっぱいに、広く撮るため、ちょっと不自然にも感じる。180度以内に抑えた方がいい。
iPhone 5 |
Xperia GX |
デジタルカメラ「DSC-TX300V」 |
また、iPhone 5では、フロントカメラのセンサーが大きく改善されている。これまではVGAクラス(30万画素)であったものが、720pクラス(120万画素)へと、大幅に性能向上し、名称も「FaceTime HDカメラ」になった。メインのバックカメラほどの性能はないが、それなりの画質向上は行なわれている。
iPhone 4Sのフロントカメラ | iPhone 5のフロントカメラ「FaceTime HD」 |
動画撮影はどうだろう? 画質の傾向は、静止画の時にかなり近い。「手ぶれ補正」には違いが見える。iPhone 4SとiPhone 5には、ソフトウエアによる動画手ぶれ補正機能がある。それがないXperia GXと4Sの間ではかなりの差があるのだが、5とではさらに違う。さすがに縦方向の大きなぶれはとれていないが、細かな横方向のぶれに違いが見える。ISPを使った処理の差だと考えると、非常に興味深い。
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静止画ほどではないが、4Sに比べると画質は良くなっている。特に、iPhone 5はディテールの精細感が高い。どれも同じAVCでの圧縮で、1,920×1,080ドットなのだが、Xperia GXは圧縮率が高めになっているからであるようだ。
手ぶれ補正についても検証。短い階段のある経路を、同じ速度で同じように歩いて撮影。iPhone 4Sと5は、動き出しなどの細かなぶれが消えている。特にiPhone 5では、イレギュラーな印象の「ぶれ」が減っている。
これら、写真や動画の機能については、A6の処理能力と、その中にあるISPに依るところが大きいと考えられる。そうなるとアップルは、他のスマートフォンとも違う画質向上のアプローチを採っていると考えていい。さらに加工・トリック撮影については、アプリの側(すなわちロジック)でいかようにもプラスしていける。高速化したA6の能力は、そこでも生かされるだろう。
ズーム性能や細かな設定の可否など、コンパクトデジカメにかなわない点は多々ある。だが、「さっと出して撮る」「そしてSNSやメールでシェアする」ところまで考えると、画質・操作性の両面で、iPhone 5はすでにコンパクトデジカメと十分戦える。他のスマートフォンと比較してもかなりのレベルであり、カメラ性能でiPhone 5を選ぶのは、決して間違いではなかろう。
(2012年 9月 19日)