藤本健のDigital Audio Laboratory

第564回

Web上の音楽を可視化する「Songrium」とは?

産総研が“曲との出会いを支援する”サービスの仕組み

Songriumのトップ画面

 昨年、産業技術総合研究所(以下、産総研)からインターネット上の楽曲の中身を自動解析する音楽鑑賞システム「Songle(ソングル)」が一般公開された。そのSongleを開発したチームが新たに音楽視聴支援サービス「Songrium(ソングリウム)」というものを開発し、2013年8月27日にその発表会をつくば市にある産総研で行なうとともに、Songriumのサービスを一般公開の形でスタートした。

 これはニコニコ動画、YouTube上にある膨大な音楽コンテンツを利用した、「新しい音楽との出会い」を支援するための、画期的で非常に便利なサービス。開発を行なったのは、産総研で情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループの濱崎雅弘氏がプロジェクトリーダー、そのバックに首席研究員でメディアインタラクション研究グループ長の後藤真孝氏、主任研究員の中野倫靖氏と本連載においてもお馴染みの方々。さらに、エンジニアの石田啓介氏も参加している。毎度、驚くシステムを見せてくれるこのチームが新たに生み出したSongrium、今回はどんな世界を見せてくれるのか、紹介していこう。

発表会の様子
情報技術研究部門 メディアインタラクション研究グループの濱崎雅弘氏
首席研究員 メディアインタラクション研究グループ長の後藤真孝氏

音楽コンテンツの関係性を可視化

 新しい音楽とどのように出会うかというのは、音楽を楽しむ上で非常に重要なポイントだ。同じアーティストが作った曲、ある楽曲の演奏に参加していた人が作った曲……など、いろいろな探し方をしている人は多いと思うが、自分の好みの曲、聴いてみたい曲に出会うというのは、なかなか難しい。そうした出会いを技術によって手助けしよう、というのがSongriumの基本的な考え方だ。たとえば、ある曲をアレンジしてできた派生関係にある曲、音が似ている曲、あるアーティストをリスペクトしている人が影響を受けて作った曲、ある曲を聴いているとなんとなく次に聴きたいと感じる曲……と、音楽と音楽の間には、なんらかの関係性がある。その関係性を視覚的に示し、実際の曲の再生へ繋げていこうというユニークなシステムなのだ。

オリジナル作品と派生作品の例

 そのSongriumで現在扱っているのは、ニコニコ動画に投稿されているボーカロイド関連の曲とYouTubeに公式として投稿されている曲の大きく2通り。曲数にすると非常に膨大で、ボーカロイド曲は8月31日現在、一次動画(オリジナル曲)が103,192曲、派生動画が551,830曲、またYouTubeは一次動画が11,127件、派生動画が109,105件となっている(YouTubeは現在、インタビュー動画など音楽以外も混ざりこんでしまっているため、曲数ではなく件数という表示になっている)。音楽すべてに広げてしまうと、あまりにも膨大になるため、まずは関係性が示しやすいところからスタートしたとのことだ。

 たとえばニコニコ動画に公開されているオリジナル楽曲と派生作品を例に示すと、その曲を自分で楽器を使って演奏した動画「弾いてみた」、その曲に合わせて踊る「踊ってみた」、またCGを付けるなどした「PV作ってみた」といった派生作品がいろいろと存在する。

 実際、ニコニコ動画を普段からよく見ている人なら「○○の踊ってみた作品はいろいろあった」、「□□さんによる△△の歌ってみたはすごく上手だった」、「MMDで作られた◇◇のPVはよかった」……といろいろな関係性が頭をよぎる人は多いと思うが、実際にある曲から派生した曲がどのくらいあるのか、その中で一番ヒットしたものはどれなのか…というと分からないというのが実際のところだろう。

 Songriumにはさまざまな機能があるが、こうした関係性を視覚的にハッキリと見せてくれるものの一つが「惑星ビュー」。ちょうど恒星の回りを惑星がグルグルと回っているように見えるが、中心にあるのがオリジナル曲で、回っている惑星が派生曲。その惑星をよく見ると大きいもの、小さいもの、またいろいろな色があるが、それぞれ意味がある。まず緑がアレンジ・演奏してみた、青が歌ってみた、黄色がPV、赤が踊ってみた、ピンクがMMDなどとなっている。そして、大きいほど、数多く再生されていることを示し、中心に近いほどオリジナルができて早い時期に制作されたことが分かる仕組みとなっている。惑星の色の感じから、「歌ってみた」で人気の曲か、「踊ってみた」で人気の曲なのかといった情報も見えてくる。

惑星ビュー
惑星の色で、「歌ってみた」で人気の曲か、「踊ってみた」で人気の曲なのかも分かる

 そして、その大小の円で示される惑星を選択すれば、即、その曲を再生できるようになっている。といっても、Songrium がこの膨大な曲自体を持っているわけではない。Songriumが持っているのは関係性を示すデータだけであり、曲自体はあくまでもニコニコ動画や、YouTube 上にあり、それをこの画面内で再生しているだけなのだ。また、毎日数多く投稿される曲を自動的に調査し、Songrium のデータベースに組み込んでいるとのことだ。

 この派生関係については、別の表示画面も用意されている。派生星図では、惑星ビューを ベースに、どのくらいの数の派生曲があるかを表示させるもの、それを時系列で並べた派生ヒストリー、派生曲のタグを表示させるタグクラウド、派生曲を一覧表示させる派生リストなどだ。

惑星ビューをベースに、派生曲の数を表示したところ
派生ヒストリー
派生曲のタグを表示させるタグクラウド
一覧表示する派生リスト

 上記のような派生曲については、ニコニコ動画上のタグ情報を元にして、ある程度割り出すことができる。しかしSongrium にはニコニコ動画自体にはない、曲と曲の関係性を示すための矢印タグというものが存在する。あるオリジナル曲と別のオリジナル曲の関係性を示すタグで、ユーザーがみんなでタグ付けしていくというもの。「同じ作者の次回作」、「アンサーソング(創作の背景にある関係を示す)」、「次に聴いてみたい曲」、「こちらも好きかも」……など。そうした関係性から別の曲へと辿っていくことができるのだ。また、矢印タグだけをハッキリと表示させる画面も用意されている。

ユーザーの付けたタグを元に、関係する他の曲を探すことも可能
矢印タグだけをハッキリと表示させる画面も

曲調が似たものを「音楽星図」で探す

 先ほどの「惑星ビュー」に対し、各オリジナル曲を恒星に見立て、全体を俯瞰して見えるようにするのが「音楽星図」だ。これは曲調が似ている曲が近くなるように自動配置したもので、曲調の類似関係に基づく楽曲の探索ができるようになっている。似た雰囲気の曲同士が近くになるように配置されており、人気のある曲ほど手前に大きく表示されるようになっている。右上は激しい雰囲気で、左下は静かな雰囲気という形になっている。縮尺は画面左にある+/-などを用いて変更でき、ズームしたりドラッグしたりして自由に楽曲間を飛びまわることが可能だ。

音楽星図
拡大縮小、ズームなども可能

 「音楽星図」で1つ曲を選ぶと、その曲を中心とした惑星ビューに画面遷移するようになっている。YouTube版においても、この類似関係の縦軸、横軸の関係性は同様になっているとのこと。後藤氏によれば、「ニコニコ動画版の音楽星図上のこの付近の曲調が好きだと思っている人が、YouTube版の音楽星図上の同じ付近を聴くと、近い雰囲気の曲に出会える可能性があるかもしれない」とのこと。現時点において、ニコニコ動画版、YouTube版は直接的には関係のない別サービスとなっているが、音楽星図をうまく利用すれば、関係性も得られるというわけだ。

 こうした曲調とは別に、歌声が男声らしいか、女声らしいかを自動推定する「歌声分析」機能も非常にユニークな機能の一つだ。赤と青の丸が数多くあるが、上の赤が強いほうが女声らしい歌声、下の青が強いほうが男声らしい歌声ということになり、やはり面積が多い丸のほうが、より再生回数が多いということを示している。

YouTube版
「歌声分析」機能も搭載

 ところで、このSongriumから楽曲を再生する際、画面下に、オレンジや青のグラフのようなものが表示されている。実は、これは昨年、産総研が発表した音楽の構造を可視化し、能動的に音楽鑑賞をできるようにしたSongleによるもの。Songleによってサビ部分をすぐに聴いたり、曲全体の構成が簡単に把握できるようになっている。つまり、SongriumとSongleは密接に連携しているのだ。

再生画面
再生画面下の表示で、曲の構成などを把握できる

 今回の本題ではないが、このSongleのほうもSongriumの発表日に大きな進化をしている。Songleはこれまではインターネット上にあるMP3楽曲のみに対応していた。具体的にはピアプロやSoundCloud上の楽曲を中心に、従来は約6,000曲程度しか登録されていなかったが、8月27日より、ニコニコ動画およびYouTube楽曲に対応し、全60万曲も登録されているのだ。Songleの基本的な機能については今回は割愛するが、今回のバージョンアップにおいて、ダブって投稿されている曲や、同じ曲がそのまま使われている派生作品は関連付けがされ、例えばユーザーがそのうち一つのサビの位置を訂正するだけで、すべてに反映されるといった機能も搭載されている。

「バブルプレーヤー」で、好みの曲をまとめて再生。ブラウザ拡張機能も

 さて、Songriumのもう一つのユニークな機能が「バブルプレーヤー」というもの。これは指定期間に投稿された楽曲を1つのムービーのようにまとめて視聴できるようにしたもので、動画が投稿された様子をアニメーション表示するとともに、条件を満たした動画のサビ再生がされていくようになっている。たとえば、「2010年〜2011年に作られた曲で10万〜20万再生された曲」といった条件を設定すると、それにマッチした曲を選び出し、検索結果をムービーのようにまとめてもらえるというものだ。大ヒット曲だけでなく、小ヒット曲だけを改めて発掘するといった使い方も可能なのだ。

 このように、さまざまな革新的な機能を持ったSongriumだが、ほかにも便利な使い方がいろいろと用意されている。まずはスマートフォンに対応したインターフェイスを装備しているということ。iPhoneやAndroidのブラウザ機能でSongriumサイトにアクセスすると、スマートフォンに最適化された画面が登場し、ここでSongriumを利用することができる。ただ、画面が小さいだけに、表示は簡素化されており、機能的にもPC版と比較すると劣る面はあるが、それでも非常に扱いやすくなっているのだ。

バブルプレーヤー
バブルプレーヤーの説明
スマートフォン画面
Songrium Extension利用時の画面

 もうひとつが、Songrium Extension=ブラウザ拡張機能だ。現時点ではGoogle Chromeのみとのことだが、Songrium Extensionをインストールしておくと、ニコニコ動画、YouTubeを表示させると、動画画面下にSongleによるサビ出し機能が表示されるとともに、その右側には関連動画の数などが表示される。そして、「歌ってみた」や「踊ってみた」などをクリックすれば、そのままSongriumへと飛ぶようになっているのだ。画面上は完全にニコニコ動画、YouTubeに統合されて見えるが、もちろんニコニコ動画側やYouTube側がSongriumなどに対応したのではなく、あくまでもこのブラウザ拡張機能によって実現しているのだが、サビ出し機能が付くだけでもかなり便利に使うことができる。ぜひ、これは試してみるべき機能だろう。

 Songriumの発表以来、TwitterやFacebook上でも話題になっており、すでに使ってみたという人も少なくないと思うが、まだ使っていない人にも、一度この便利さ、楽しさを体験して欲しい。機能を紹介するプロモーションビデオもあるので、まずはそれを見てみるのもいいだろう。今後、さらにSongriumがカバーするカテゴリー、楽曲が増えてくれるとともに、ブラウザ上以外での利用など、応用範囲が広がってくれることにも期待したい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto