藤本健のDigital Audio Laboratory

第602回:USB 3.0でオーディオインターフェイスはどう変わる? RME「MADIface XT」を試す

第602回:USB 3.0でオーディオインターフェイスはどう変わる? RME「MADIface XT」を試す

 USB 3.0の規格が制定されたのが2008年11月。実際、PCに搭載され始めたのは2010年ごろだったと思うが、USB 3.0対応のオーディオインターフェイスというのはなかなか登場してこなかった。しかし、昨年ドイツのRMEが初のUSB 3.0オーディオインターフェイス「MADIface XT」(直販価格296,230円/税込)を発売。今年の年末にはズーム(ZOOM)もUAC-2という製品を発売する予定で、ようやく注目が集まってきた。そこで、既に発売されているRMEのMADIface XTを借りてみたので、USB 3.0になると何が変わるのかなど、チェックしてみた。

MADIface XT

最大196ch入力/198ch出力が可能に

 USB 1.1が登場したときには、USBに対応したOS、Windows 98の発売と同時にローランドがUSB 1.1対応のオーディオインターフェイスUA-100を発表し、USB 2.0が登場したときも、早々にローランドがUA-2000を発売するなど、当初はUSBオーディオのテクノロジーにおいてローランドが世界のトップを走っていたが、最近はあまり大きな動きはなくなってしまい、USB 3.0に対しても今までのところ、ローランドからはまったく動きはない。その間、ドイツのRMEが着実に力をつけてきたという印象があるが、USB 3.0において先手を打ったのはRMEだった。RMEが2013年4月ドイツで行なわれた展示会、Musikmesseで発表し、国内でも昨年に発売されたMADIfaceは、従来のRME製品であるFirefaceシリーズとはちょっと趣向の異なる製品となっている。

日本では2013年末に発売された

 まずMADIface XTのスペックを見ると、最大でなんと196chの入力と198chの出力を同時に行なえる性能を持ったオーディオインターフェイスなのだ。これま大規模な入出力ができる機材として32IN/32OUTといったものはあったが、まさに桁違いな製品となっている。しかも、製品のサイズ的にはハーフラックとなっており、到底196とか198もの端子が装備されているはずもないのだが、どうなっているのだろうか?

 その大きな入出力のカギを握るのがMADIだ。MADIとはMultichannel Audio Digital Interfaceの略でAESが定めたデジタルオーディオ伝送の規格。1本のオプティカルまたはコアキシャルのケーブルを通じて、最大64chものオーディオ信号を伝送できるようになっているのだ。1本のケーブルでは1方向での伝送となり、双方向の場合は2本が必要だが、いずれにせよアナログケーブルでの接続と比較して、非常に効率的でかつ高音質な伝送ができるのが特徴だ。もっとも、多チャンネルをまとめて伝送するのはMADIに限らない。Ethernetケーブルを用いて双方向で48kHz/24bitを512ch伝送可能なオーストラリアのAudinate社が開発したDante、同じくEthernetケーブルで96kHz/24bitを40ch伝送できるローランドのDigital Snakeなどいくつかの規格があるが、MADIはAESが定めた規格であるのがポイント。またオプティカルケーブルの場合、最大で2,000m、コアキシャルケーブルでも最大で100mと長距離伝送することができるため、スタジオやホールなどでのオーディオ伝送に使うことができるようになっているのだ。

 RMEでは、早くからMADIに取り組んでおり、この連載でも8年前、2006年のInter BEEの記事で取り上げている。実際、RMEではMADI関連の製品をこれまで数多く手掛けている。たとえばマイク入力に対し、マイクプリを通した上でMADIへと伝送するOctaMic XTC、ADATと変換ができるADAT Converter、4系統のD-Sub端子と変換するためのAES3 Converterなどなど。もちろん、細かくはいろいろな技術が入っていると思われるが、考え方はいたって簡単。ADATではオプティカルケーブルで48kHz/24bitの信号8本分を1つのケーブルで伝送することができたが、伝送するための伝送速度を上げることによって、より多くのチャンネルを同時に送ることが可能になり、MADIではADATの8倍の速度を実現しているというわけなのだ。

 したがって、MADIで伝送できるのは48kHz/24bitなら64chだが、96kHz/24bitなら32ch、192kHz/24bitなら16chとなるのは計算上もぴったり合う。

 そのMADIに対応させたオーディオインターフェイスがMADIface XTというわけなのだ。

多チャンネル以外にメリットはある?

 もう少し具体的にいうとMADIface XTには3系統のMADIの入出力が装備されている。リアパネルを見ると分かる通り、MADI 1とMADI 2の入出力がオプティカル、MADI 3の入出力がコアキシャルとして装備されている。そのほかに、リアにはXLRのアナログ出力が2つ、MIDI-AESと書かれたDIN端子経由でのAES/EBUデジタルオーディオ1系統(ステレオ)がある。またフロントにはライン/マイク入力の双方に対応したコンボジャックが2つとヘッドフォン出力が用意されている。このヘッドフォン出力も独立したアナログ出力となっているので、64ch×3=192chの入出力に加えて計196 IN/198 OUTという計算になるのだ。

背面
フロントのライン/マイク入力コンボジャックとヘッドフォン出力
RMEプロダクト マネージャーのMax Holtmann氏

 この数はすごいけれど、一般のDTMユーザーなどMADIに無縁な人にとっては必要のない機能という気もする。実際、チャンネル数が増えること以外に、USB 3.0による恩恵というのは何かあるのだろうか? この点について、昨年RMEが国内でMADIface XTの発表を行なった際、RMEプロダクト マネージャーのMax Holtmann氏に聞いてみたところ「基本的に何もありません。音質面についてはこれまでのFirefaceシリーズで培ったSteadyClockなどの技術をそのまま採用しているし、レイテンシーの面でもUSB 2.0の場合と変わりません。唯一、多チャンネル伝送のための伝送速度という面でUSB 2.0では足りないためにUSB 3.0を使っているのです」と話していた。

 ここで、単純な計算を行なってみよう。48kHz/24bitを伝送するのに必要な通信速度がどのくらいかを計算すると、下のようになる。

 48k×24=1152kbps

 もし10ch同時に伝送するとなれば、その10倍である11520kbps、約12Mbpsとなる。ちなみに、USB 1.1の伝送速度は12Mbpsだから、ほぼこれに匹敵し、USB 2.0なら480Mbpsもあるので、余裕すぎるほど。たとえば、MADIの1系統分にある64chで計算してみると、下のようになり、USB 2.0でも余裕。

 1152×64=73.7Mbps

 また往復となると、単純に倍にすればいいというものではないと思うが、それでも、やはり下の計算のようにUSB 2.0でもまったく問題のないレベルであり、USB 2.0のキャパシティの半分も使っていない計算となる。

 73.7M×2=147.4Mbps

 とはいえ、3系統のMADIの入出力を行なうとなると、さすがに足りなくなるのでUSB 3.0を採用したというわけだ。

 ここでさっそくWindows 8.1を入れたマシンのUSB 3.0端子にMADIface XTを接続してみることにした。が、いきなり問題発生。事前にWindowsのドライバをインストールしたところまではよかったが、今回の貸出機にはUSB 3.0ケーブルがなかったので、USB 3.0接続ができなかった。なお、販売中のMADIface XTにはUSB 3.0ケーブルが付属しているので、このようなことにはならないはずだ。

 考えてみれば、だいぶ以前からUSB 3.0搭載のPCを何世代にも渡って使ってきたが、USB 3.0対応のデバイスなどあまり使ったことがなく、ケーブルを持っていなかった。PCのコネクタを見ると、中が青いからUSB 3.0であることはわかるが、USB 2.0との上位互換となっているので、結局USB 2.0デバイスとの接続にしか使っていない。その中で唯一意識的に使っているのが、USB 3.0対応のUSBメモリ。大容量のデータのやり取りをする際、速いから、最近はこれを買っているが、USBメモリの場合、直接接続するためにケーブルが不要であり、ケーブルを持つ必要がなかった。そういえば、昨年購入したタッチパネル式のディスプレイがUSB 3.0接続ではあったが、ずっと接続しっぱなしであるため、持っていること自体をすっかり忘れていたので、近所のPCショップに買いに行ったのだ。今では100円ショップで売っているUSB 2.0ケーブルと違い、1mで1,800円とちょっと高価。「USB 2.0ケーブルで代用できないのか? 」などと思ってしまったがパッケージを開けて、ケーブルの先端を見て、改めてUSB 1.1や2.0のコネクタとは形状が違うことを思い出した次第。このケーブルでPCとMADIface XTを接続してみたところ、問題なく認識された。

USB 3.0ケーブルを購入した
USB 3.0端子部

 ここでWindowsのサウンドの再生、録音を見ると、なるほどズラリとポートが並んでいる。ここにMADI機器があるわけではないので実際に音を出すことはできないが、Windowsのシステム上はMADI(17-24)、MADI(25-32)など8chが束になっているため、1系統のMADIで16IN/16OUT、3系統で48IN/48OUT、アナログなどを含めると52IN/54OUTとなるようだ。

接続してWindowsから見るとポートがたくさん並ぶ

 ここでCubaseを起動して、MADIface XTのASIOを設定してみた上で、入出力ポートをチェックしてみた。すると48kHzの動作周波数においては、確かに196 IN/198 OUTあることが確認でき、何チャンネルかをパラで出力してみたところ、特に問題なく動くことも確認できた。MADIface XTもFirefaceシリーズと同様、Total Mix FXというミキサーコンソールでコントロールできるようになっている。そこでCubaseから見てMADIのチャンネルに見えるところに出力した上で、Total Mix FXのパッチングでヘッドフォンやアナログメイン出力から出してやると、確かにしっかり音が出ることも確認できた。

48kHz時は、確かに196 IN/198 OUTだった
Total Mix FXでコントロール可能

あえてUSB 2.0接続するとどうなる?

 ここでちょっと試してみたのが、USBのケーブルを先ほど購入したUSB 3.0のものからUSB 2.0のものに変更するとどうなるのか、ということ。きっとこれでは認識しないのだろう……と思って試してみたところ、あっさり動いて、音も鳴らすことができたのでビックリ。ところがよく見てみると、ケーブルが違うとPCからのMADIface XTの見え方が違うのだ。まずWindowsのサウンドで見てみるとMADI 1しか見えず、MADI 2、MADI 3が見当たらない。また先ほどは「RME MADIface XT USB 3.0」と書かれていたのに、今度は「RME MADIface XT USB 2.0」となっており、認識のされ方が違うようなのだ。同様にCubaseから確認してもMADI64までしかなく、USB 3.0接続のときは見えていたMADI 65~MADI 192がなくなっている。USB 2.0とUSB 3.0の違いをハッキリした形で確認できる仕様になっているわけだ。

USB 2.0接続にすると、MADI 2、MADI 3が見当たらない
USB 3.0接続のときは見えていたMADI 65~MADI 192が表示されなくなっていた

 もっとも、MADI機器を持っていない現時点で使えるのはアナログ入出力とAES/EBUだけなので、USB 3.0ケーブルで接続してもUSB 2.0ケーブルで接続しても結果は同じだったわけだが……。とはいえ、レイテンシーに違いがあるのではないか…と、チェックしてみることにした。まず、44.1kHz/24bitのプロジェクト設定において、USB 3.0接続、USB 2.0接続ともバッファサイズを一番小さい64sampleに設定。この状態でCubaseのデバイス設定画面における理論値としてレイテンシーを見てみると、入力レイテシー、出力レイテンシーともピッタリ一致。ほかのサンプリングレートでも同様だ。

バッファサイズは一番小さい64sampleに設定
USB 3.0接続時
USB 2.0接続時

 そこで、いつも使っている実質レイテンシー測定ツールであるCentranceのASIO Latincy Test Utilityを使って調べてみた結果が、以下の通り。USB 3.0でもUSB 2.0でも完全に同じなのだ。多くのオーディオインターフェイスでは、特に設定を変えなくても、測定するたびに小数点第2位は結構揺れて変化するものだが、どちらの接続でも完全にドンピシャ。その意味では非常に安定したデバイスであるともいえそうだ。

【USB 3.0接続】

128 samples/44.1kHz
64 samples/44.1kHz
64 samples/48kHz
128 samples/96kHz
256 samples/192kHz

【USB 2.0接続】

128 samples/44.1kHz
64 samples/44.1kHz
64 samples/48kHz
128 samples/96kHz
256 samples/192kHz

 では、MADIface XT搭載のアナログ入出力の音質はどんなものなのだろうか? これを測定してみようと、いつも使っているRMAA Proを動かしてみたのだが、なぜかプログラムがハングアップしてしまい、測定することができなかった。ただ、ヘッドフォンおよびアナログ端子の出力をスピーカーで確認する限り、Firafaceシリーズと非常に近いキレイな音だった。

USBの左側に「PCI Exp.」という端子

 ところで、MADIface XTのリアパネルのUSB端子の左側には見慣れない端子があるが、これは何なのだろうか? 見るとPCI Exp.とあるが、これってPCI Expressということなのか? 最近、PC雑誌に書く機会もあまりなくなり、PCのハードウェアに関して、ずいぶん疎くなっていることを実感してしまったが、調べてみるとこれはPCI Expressの外付け端子。PCI Expressは内蔵のものだとばかり思い込んでいたが、外付け可能なPCも出ており、MADIface XTのこの端子を使えば、USB 2.0、USB 3.0端子を使うことなく接続できるようなのだ。マニュアルを見ると、WindowsでもMacでも、PCI Expressの外付けを利用した接続が可能と記述されており、しかもPCI Express接続すればClockのピッチを±5%の範囲内で調整できるなど、USB接続ではできない機能もサポートされるとある。

ThunderboltをPCI Express外付け用のコネクタに変換する変換器

 しかし、残念ながら筆者の持っているPCには外付け用のPCI Expressno端子などない。が、ThunderboltをPCI Express外付け用のコネクタに変換する周辺機器というものがあるらしいのだ。そして、シンタックス・ジャパンから送られてきた機材には、この変換器がThunderboltケーブルとともに入っていた。最初、これが何かわからず放置していたのだが、型番を見てみるとmatrox社のT/ADPという機材であることが判明。まずは愛用しているインテルの超小型PC、NUCのThunderbolt端子に接続してみたが、まったく反応せず。

 おかしいと思って調べてみると、T/ADPはMac専用のようなので、Macに接続してみることにした。実は、筆者が使っているのはMac mini。現行の最新機種ではあるけれど、2年前から新機種が出ていないためUSB 3.0端子が搭載されていない。そのため、USB 3.0での接続はできないが、Thunderbolt端子はあるので、ここに先ほどの変換器を使ってMADIface XTを接続してみた。当初、Mac用のUSB 3.0ドライバをインストールして接続したのだが、どうも反応しない。が、こちらもマニュアルを読んでみると、HDSPe MADI FX/MADIface XTというPCI Express用のドライバを入れる必要があるとのこと。まあ、接続インターフェイスが違えばドライバも変わるのは当たり前。ということで、USBドライバを削除したのち、こちらのドライバを入れてみるとあっさりと認識し、Total Mix FXなどもしっかり使うことができた。残念ながら、Macでは前述のレイテンシー測定ツールを動かすこととできないので、測定については見送る。ただ、前出のRMEのMax Holtmann氏によれば、「レイテンシーに関してはUSB 2.0で十分なパフォーマンスを得ることができるので、ThunderboltやPCI Express接続によって向上するものではない」とのことなので、大きな差はなさそうだ。

MacのThunderbolt端子を、変換器経由でMADIface XTに接続
HDSPe MADI FX/MADIface XTというPCI Express用のドライバを入れると認識し、Total Mix FXなども使えた

 以上、USB 3.0接続のMADIface XTについてみてみたが、いかがだっただろうか。操作性などについて触れなかったが、前面の液晶ディスプレイとその隣にある2つのロータリーエンコーダを用いて、入力レベルや出力レベル、またエフェクト設定などもできるようになっている。基本的には、Total Mix FXで操作できるが、本体だけでもかなりわかりやすく操作ができるのだ。ちなみにMADIface XTは、スタンドアロンでも利用することができ、この場合、2/4チャンネルのAD/DAコンバータとして利用したり、2チャンネルのマイクプリアンプ、また194チャンネルのモニタリングミキサーなどとして活用できるようだ。

前面の液晶ディスプレイとその隣にある2つのロータリーエンコーダで、入出力レベルやエフェクトなどを設定できる
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MADIface XT

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto