プレイバック2014

USB 3.0対Thunderbolt? オーディオインターフェイス新潮流 by 藤本健

 1998年、Windows 98のリリースと同時に発表されたローランドのUA-100。これが世界初のUSBオーディオインターフェイスだったのだが、それから16年が経過した今、USBがオーディオインターフェイスのデファクトスタンダードとなっている。USB 1.1からUSB 2.0へ、USB Audio Class 1からUSB Audio Class 2へなど、ある程度の進化はあるものの、進化の速いコンピュータの世界でこれだけ長期的に使われている規格というのも、すごいなと思う次第だ。

ローランドによる世界最初のUSBオーディオインターフェイス「UA-100」

 そんなオーディオインターフェイスの世界で、2014年は一つの変化の年だったと思う。それはThunderboltオーディオインターフェイスが各社から登場してきたからだ。Universal Audio、Lynx Studio Technology、MOTUそしてZOOMといったメーカーが続々とThunderbolt製品を発表、発売した。具体的にはUniversal AudioのApollo twin、Lynx Studio TechnologyのAurora、Hilo、MOTUの828x、ズーム(ZOOM)のTAC-2、TAC-2Rなどである。

Thunderboltを採用したズーム「TAC-2」

 ご存じの通り、PCの新世代インターフェイスとしては普及が進んできているUSB 3.0と、このThunderboltがあり、その2つが競い合っているように見えなくもない。言ってみればUSB 2.0から進化したUSB 3.0と、FireWire(IEEE 1394)から進化した(ように見える)Thunderbolt、Thunderbolt2だ。もっとも、両規格ともIntelが策定の中心的な役割をしていることからも分かる通り、正面対決しているわけではなく、用途によって使い分けるように考えられているわけだが、ユーザー的には2つの競合規格のようにも見えてしまうところ。そして今後オーディオインターフェイスはどう進化していくのかが注目されていた中、Thunderbolt陣営(!?)が一歩リードした形になっているわけだ。

RME「MADIface XT」はUSB 3.0搭載

 もっともUSB 3.0対応製品もRMEがMADIface XTを発売しているほか、近いうちにズームもUAC-2という製品を発売すると発表しているが、数の上ではThunderboltのほうが目立っている感じ。実際、筆者も「安い」という理由もあってZOOMのTAC-2を購入して現在愛用しているが、今後、ThunderboltやUSB 3.0を使ったオーディオインターフェイスが主流になっていくのか……といわれると、そうでもなさそうというのが今感じているところだ。

 最大の理由は、USB 2.0からThunderbolt、USB 3.0に切り替える必要性。そもそもオーディオインターフェイスの進化で求められるのは、音質の向上とチャンネル数の増加、それにレイテンシーの短縮という3点だと思う。音質においてアナログ性能はいったん置いておくと、サンプリングレートとビット分解能を向上させることだが、通常192kHz/24bitもあれば十分すぎるだろう。

 一方、入出力チャンネル数としては2IN/2OUTで十分という人が大半であり、多くても8IN/8OUTもあればプロミュージシャンであっても小規模スタジオなら十分なはず。もちろん、業務用においては一部で100ch以上必要というケースもいるが、それはオーディオインターフェイスユーザー全体の中のごく僅かだろう。では192kHz/24bitを、8IN/8OUTで入出力するという場合、実は転送レート的にはUSB 2.0で事足りてしまう。となると、そもそも新世代インターフェイスなど必要ないもののようにも見えてしまう。

TAC-2のThunderbolt端子

 とはいえ、より現実的な音質の向上を考えると、転送速度はより速いほうが余裕があって安定しそうな気もするし、3点目のレイテンシーという面では転送速度が速いもののほうがメリットも大きそうに想像できる。こうした点は期待できそうではあるが、現行の各社Thunderbolt製品で、劇的な進化が成し遂げられているかというと、そうでもないのが実情。

 一方、本筋ではないかもしれないが、USBのバスパワーと比較してThunderboltではより大きなバスパワー供給ができるのも、オーディオインターフェイスの世界では歓迎されるポイントでもある。それなりの消費電力が必要なオーディオ機器だから、バスパワー駆動させようと思ったとき、その余裕があったほうがいいし、多くの電力が使えれば、アナログ回路に力を入れることも可能になるため、結果として音質が向上する可能性も高いわけだ。もちろん別途ACアダプタなどを利用して電源供給すればいいだけの話ではあるが、少しでもコンパクトにしたいモバイルユーザーにとってThunderboltの期待が高いのも事実なのだ。

 2015年、こうしたThunderboltオーディオインターフェイスは、他社からも登場してくるのか、USB 3.0オーディオインターフェイスの巻き返しはあるのか、そして音質やレイテンシーが劇的に向上する製品などが登場するのかなどを注目していきたい。

Amazonで購入




藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto