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ソニー約2万円のIEM「IER-M500」はバンドメンバーにどう聴こえてる? スタジオで体験した

ソニーから発表されたインイヤーモニター「IER-M500」。ソニーはクリエイター向けの機種として、近年モニターヘッドフォン「MDR-MV1」や「MDR-M1」を投入、定番ヘッドフォンの「MDR-900ST」やマイクなども展開しているが、これらは全て“制作”向けの製品。今回のIER-M50は、ソニーでは初となるバンドなどの楽器演奏や、アイドルなどのライブパフォーマー向けの製品となっている。

そんなIER-M500をアーティスト達はどのような環境で使用するのか。今回、リハーサルスタジオで実際にバンドやアーティスト達が聴いている環境やその音を体験できたので、その様子をレポートする。

“スタジオ演奏時に合わせた音作り”が特徴

IER-M500についてざっくりおさらいすると、楽器演奏やライブパフォーマンス向けに特化したIEMで、激しい演奏やダンスをしているときに、耳から抜け落ちたり、汗が音導管に入って音が聴こえなくなる、といったトラブルを防止することに注力。

そのこだわりの1つがフィッティングサポーター。突起がなく、普段使い向けのXSサイズに加え、女性やアイドルに多い小耳の人に対応したSサイズ、M、L、XLの5種類の大きさで日本だけでなく、海外の人も含めたほぼ全ての人の耳に合うよう設計し、合ったサイズを見つけることで、激しく動いてもIEMが抜け落ちなくなる。

フィッティングサポーター。左からXS、S、M、L、XL
Sサイズは小耳の人でもしっかり装着できるよう、M、L、XLとは異なる形状
設計時には様々な人の耳型を使って試行錯誤したそう

さらに、ステージ上の大音量下でも自分のパートの返しや、リズムを取るためのクリック音が演者の耳にしっかり届くように、遮音性と音作りに徹底的にこだわっている。企画設計チームの中にも楽器経験者がおり、「学生の頃に欲しかった理想のIEMを作りました」と話していた。

遮音性に寄与する要素として、WF-1000XM6と同じノイズアイソレーションイヤーピースを採用しているのもポイント。イヤーピース自体の遮音性もそうだが、すでに普及していて、量販店などでもすぐに買えるイヤーピースを採用することで、予備の用意や、とっさの時に購入しやすくなっている。

汗対策として、完全密閉の筐体で外側からの汗の浸入を防いでいるほか、ノイズアイソレーションイヤーピースにフィルターが付いているため、内部からも音導管まで汗が浸入しにくくなっているほか、万が一汗が入ってしまっても、振るだけで簡単に汗が出せるように音導管を大きめに作っているとのことだ。

そして、音作りも少し特徴的だ。ステージ上で大きなスピーカーから音が鳴っている状態だと、いくら遮音性が高い構造とはいえ、どうしても外の音が聞こえてくる。とくに低域は身体に響いてもくるため、とくに耳に届きやすい。そのような状況下でも演者が聴きたい音を聴けるように、低域の要素が多めの音作りになっている。

なので、普通の環境下で音を聴いてみると、バランスの取れた“モニターっぽい音”から全体のバランスをそのまま低域側に寄せたような印象の音に聞こえる。立ち上がりは早く、スピード感があるのに、全体的にどっしりと重みのある音という感覚だ。通常のリスニング用途で使いたい場合は、一度しっかり試聴するのがオススメだ。

「演奏しやすい適度な音場と分離感が魅力」

今回は、ソニーミュージック所属のロックバンド「ミーマイナー」のメンバーがスタジオで実演。

ミーマイナーの4人。左から葵、さすけ、美咲、わたさん

ミーマイナーは、シンガーソングライターのVoGt.美咲(TikTok「雲グミ」)と、ボカロP“もの憂げ”名義で「必要ないんだね feat.9Lana」で100万再生を記録したBa.さすけを中心に、ギターのわたさん、ドラムの葵の4人で構成。5月にTVアニメ「ポンコツ風紀委員とスカート丈が不適切なJKの話」のアニメタイアップ曲「部屋とガラクタと私」でgr8!recordsよりメジャーデビューしている。

そんな、美咲さん、さすけさんの両名はこれまでのライブでIEMを使ったことが無かったという。一方でわたさん、葵さんは、IEMを使っての演奏も経験しているとのことだ。

筆者らメディア側は、ミーマイナーの演奏を生で聴いた後に、次はIER-M500を装着し、レシーバーを使って演奏している4人が聴いている音を実際に体験するという流れで行なわれた。

IER-M500とレシーバーで演奏中に4人が聴いている音をそれぞれチェック

IEMを付けずに生で聴くと、大型のスピーカーで大音量で音が再生されるため、ライブハウスで聴いているような、スピーカーからの出力で全身が揺れるような感覚だ。特に低域は、座っていると常時足下が揺れ続けるほど。確かにこの状況だと、イヤフォンを装着しても、低域の音が身体を伝って耳に届くなと実感する。

次にIER-M500を装着して、4人が演奏しながら聴いている音を順番に聴いていく。主にリズムを取るためのクリック音と、ボーカルの声、各パートの楽器の音が流れているのだが、それぞれの音のボリュームバランスや、再生されている音自体に違いがある。

外側の音は低域がメインで、楽器やボーカルの音はほんのりと聴こえる、という感じだ。かなりの大音量だったので、ここまで遮音されるのは意外だった。

そして、そんな環境下でIER-M50の音を聴くと、IEMながら程よい音場の広さとボーカルや楽器の音それぞれが分かれて耳に届く分離感をそのまま、低域に寄っている感じが完全になくなり、通常のモニターヘッドフォンで聴いているような音に感じられる。ベースの音も外から回り込んできている低域に埋もれずにしっかり耳に届くので、かなり演奏しやすいのではと思う。

4人にそれぞれが聴いている音について聴いてみると、美咲さんは自分のボーカルとギター、クリック音がメインに聞こえるように調整しているという。

さすけさんとわたさんの2人は、レコーディング時の環境に寄せているそうなのだが、そもそもレコーディング時の環境に違いがあった。さすけさんは、自分のベースの音とクリック音だけをピックアップしており、わたさんは、自分のギターの音をメインとしつつ、全ての楽器の音が聞こえる、曲の完成系に近い環境にしているとのことだ。

リズムの要であるドラムの葵さんは、クリック音が大きめで、その後ろにボーカルの声が入っているというバランス。ドラム自体の音は聴いておらず、実際に鳴っている音よりも、叩いている自分の身体の感覚を重視しているという。

IER-M500について、IEM装着したパフォーマンスが初めてだったという美咲さんは、クリック音を聴きながらの演奏のしやすさと、歌っていても抜け落ちない装着性、とくに高い声を出す歌でも歌いやすい点などが気に入っているという。

楽曲の作詞作曲編曲も担当するさすけさんは、作曲時に使ってるクリック音をそのまま聴けるため、演奏時も曲本来のグルーブに近づけられるのがメリットに感じたという。ライブハウスでモニターしづらい環境でも、遅延無くベースの音が耳に届いて、ミスを減らせそうだと話した。

これまでもIEMを装着しての演奏経験があるわたさんは、装着感が良く、外れないという安心感から、大きく動くパフォーマンスができると点を評価。とくに口を動かした際に、これまでのIEMでは耳に隙間ができて外の音がそのまま聞こえることがあったが、IER-M500ではそれが無かったという。

そして、音場感が演奏のしやすさに繋がっていると説明。わたさんがこれまで使ってきたIEMは、音が近く感じるものが多かったが、ほどよく広く、音はしっかり耳に届くというIER-M500の音場感がわたさんにとってちょうど良い距離感に感じられたと話す。「レコーディングモニターとしても使いたい」とのことだ。

同じくIEM経験のある葵さんも、これまではライブのドラム演奏時に耳から外れてしまうことが悩みだったという。小耳の人向けのSサイズのフィッティングサポーターがしっかりとハマり、「全然取れたりずれたりしなくて演奏しやすかった」と話す。

また、ドラムのハイハットオープンなどの高い音を鳴らすと、従来のIEMではクリック音が聞こえなくなってしまうことがあったが、IER-M500ではしっかりと聴こえているという。

演奏、ライブパフォーマンス特化のIEM

演奏中にIEMを使う理由は、大音量下で実際に演奏や歌唱をしようとすると、曲のリズムが掴めなくなってしまうことがあるため、それを防ぐ目的だ。遮音性の低いイヤフォンや、外音取り込みモードの状態で、うるさい場所で曲を聴いていると、知っている曲のはずなのにどの部分が流れているかわからない、という状況に近いと思う。

クリエイターに寄り添うことを重視しているソニーが、このジャンルのイヤフォンにこれまで参入していなかったことも意外ではあったが、後発として出て来た分、ヒアリングを重ねて、現場の課題に向き合った製品を投入してきた。

一方で、かなり楽器奏者、ライブパフォーマーの需要に特化した製品なので、通常のリスニング用途で使用する場合は、がっちりとハマるフィッティングサポーターを使うと痛みが出てしまったり、密閉感も強くやや不快に感じることもあるかもしれない、とのことなので、興味のある人は一度店頭で試してみてほしい。

野澤佳悟