第426回:MOTUのモバイルUSBオーディオインターフェイスを試す

~4IN/2OUT「MicroBook」。頑丈なアルミ筐体で音質も良好 ~


MicroBook

 DAWメーカーでありオーディオインターフェイスメーカーでもあるMark of the Unicorn(以下MOTU)から、コンパクトなUSBオーディオインターフェイス、MicroBookが発売された。

 4IN/2OUTという仕様で、直販価格は32,000円というこの機材、どんな機能、性能を持ているのか試した。



■ 低価格になったMOTU製品に、小型モデルが登場

 MOTUは多くの方もご存知のとおり、Mac用のDAWであるDigital Performerのメーカーであり、PerformerというMIDIシーケンサ時代を含めれば20年以上の歴史を持つアメリカの老舗メーカー。DAWであるDigital Performerになったころから高性能なオーディオインターフェイスも次々と製品化するようになり、数多くのプロが使っている。

 国内での販売においてもMOTUは長い歴史を持っており、古くはカメオインタラクティブなどが扱っていたが、ここ10年以上はミューズテクスが日本総輸入代理店としてMOTU製品を扱ってきた。しかし、今年の3月に代理店がそのミューズテクスからハイ・リゾリューションに変更になった。ハイ・リゾリューションはAbleton Liveを扱う代理店としてよく知られているが、ほかにもソフトウェアではサンプリング音源メーカーであるEASTWEST、ソフトシンセメーカーであるU&I Software、ハードウェアではキーボードメーカーとして著名なNovation、DJ用コンソールで知られるALLEN & HEATHなど数々の機材を扱っている。そこに、今年からMOTUも追加されたのだ。

 消費者側にとってうれしいのは、代理店の変更によってMOTU製品の価格が大幅に下がったこと。全製品一律にというわけではないが、Digital Performer 7は従来74,800円前後だったのが57,800円前後といった具合に、世の中の相場にあった設定になり、従来のような割高感があまりなくなった。

 そんな中、MOTUから比較的ローエンド向けの小型のオーディオインターフェイスが発売された。MicroBookという4IN/2OUTの製品がそれだ。メーカーがいう「ポケットサイズ」という表現にはやや無理があるようにも思えるが(VAIO Type Pもポケットに入れての宣伝だったので、それよりは断然小さいが)、厚めの文庫本サイズを一回り小さくしたといったところだろうか。iPhone 3GSと比較すると、かなり大きいこともわかる。

文庫本とサイズ比較iPhone 3GSと比較

 本体はアルミボディーの結構ガッチリとした構造。全体重をかけて靴で踏んだとしてもびくともしない感じのボディーだ。小型のオーディオインターフェイスはいろいろあるけれど、プラスティック製がほとんどで、過酷なステージでの使用には耐えそうにないものが多いが、これなら安心して使えそうだ。もちろん、USBからの電源供給で動くため、ノートPCのバッテリーさえ問題なければ、手軽に扱うことができる。

 フロントにはTRSフォンのマイク入力とHi-Z対応のギター入力、それにステレオミニ端子によるヘッドフォン出力が用意されている。マイクはXLRのキャノンを使いたいという人も多いはず。そんな人のために、TRS-XLR変換アダプタが付属している。これを使えば、キャノン接続も可能になるわけだ。

フロントにはマイク入力とHi-Z対応のギター入力、ヘッドフォン出力TRS-XLR変換アダプタも付属するTRS-XLR変換アダプタ装着時

 一方、リアには右からTRSフォンのメイン出力のLとR、ステレオミニ端子によるラインアウト、TRSフォンのラインインのLとR、それと切り替えとなるステレオミニ端子によるラインイン、そしてコアキシャルのS/PDIF出力、USB端子という順に並んでいる。こうやって見ると、結構多くの入出力端子が用意されているわけだがオーディオインターフェイスの入出力信号としてみると4IN/2OUTとなっている。



■ モバイル用途を主眼にした入出力仕様

Macでは同梱のDAW「Audio Desk」が利用できる

 実際にPCと接続してみよう。今回は主にWindowsを使って試したが、Macの場合はDAWソフト「Audio Desk」がバンドルされている。Macの場合もWindowsの場合もCueMix FXというコントローラソフトを利用できるのが、他社のオーディオインターフェイスと大きく違う点だ。

 以前に紹介したUltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2に搭載されているものと基本的には同様なものだが、オーディオインターフェイス内に搭載されているDSPをコントロールすることで、各チャンネルごとにEQやダイナミクスを利用することが可能になる。もちろんハードウェアのDSPだからPC側のCPUに負荷がかかることはない。また、各入出力のパッチングやミキシング、またファンタム電源のON/OFFやPADのON/OFFといった設定もここで行なっていく。


ラインをステレオとして扱えば3入力として表示

 INPUTS、MIXES、OUTPUTSという3つのタブがあるが、INPUTSでは外部からの入力信号をコントロールする。先ほども紹介した通り、入力はマイク、ギター、ステレオのライン。ラインをステレオとして扱えば3入力として見えるが、モノラルにすれば4入力のように表示される。この入力それぞれに対し独立して、EQを設定したり、ダイナミクスの設定をすることができる。

 EQはパラメータを見るとわかるとおり、5バンドのパラメトリックEQで、そのうち2つはハイシェルフ、ローシェルフとしても利用できる。さらに、それとは別にハイパスフィルタ、ローパスフィルタも搭載されているので、計7バンドとなる。ハイ・リゾリューションのWebページを見ると「英国製アナログコンソールのEQを継承した7バンドのパラメトリックEQ」とあるが、確かにSonnox EQ(Sony Oxford)っぽいEQではある。


モノラルでは4入力のように表示EQ設定ダイナミクス設定

 次にMIXESタブを見てみよう。ここは出力する信号をミックスして決めるセクションだ。画面左からマイク、ギター、ライン入力、PC出力となっているので、これらのバランスをとる。不要な信号はノイズ防止のためにMUTEボタンを押して消しておくのが無難だ。これを見てもわかるように、出力に対して入力をそのままスルーさせることも可能だ。これによって、いわゆるダイレクトモニタリングも可能になるわけだ。

 さらにOUTPUTSタブではメイン出力、ライン出力、ヘッドフォン出力に何を出すかの設定も可能。PCから見たオーディオインターフェイスとしては確かに4IN/2OUTではあるが、メイン出力はPCからのオーディオ出力、ヘッドフォンにはギター入力をそのまま出力、ライン出力にはライン入力から来たものだけを出力……といった設定もできる。そして、各出力に対してEQやダイナミクスの設定も可能。こうしたことから、やはりステージ上でモニターミックスするための機材としても使えそうだ。

MIXESタブでは、出力する信号をミックスして決めるOUTPUTSタブでの出力信号設定

 オーディオインターフェイスとしてはPC側からどのように見えるかというと、 まずはMMEドライバとして見えているが、当然ASIOドライバも持っている。Cubaseで確認してみると、確かに4IN/2OUTのオーディオインターフェイスとして認識されているようだ。実は、Cubaseを使うまで気づかなかったのだが、MicroBookのサンプリングレートは44.1kHzと48kHzの2つに限定されており、96kHzや192kHzは使えない。その点からも、このオーディオインターフェイスは高音質でのレコーディング用というよりも、モバイルでの活用を主眼とした機材といえそうだ。

MMEドライバとして見えるCubaseでは4IN/2OUTのオーディオインターフェイスとして認識

 Cubaseのオーディオインターフェイス設定画面でコントロールパネルボタンを押すと、CueMix FXが起動する。メニューからSETUPを選択すると設定画面が現れ、ここでバッファの設定変更もできるようになっている。一番小さい2msを設定してみると、Cubaseの画面では、44.1kHzでの動作時に入力のレイテンシーが2.177msec、出力レイテンシーが8.526msecと表示された。

バッファの設定変更44.1kHz動作時は入力レイテンシーが2.177msecだった

 この4つある入力は、何もマイク、ギター、ライン入力という順番で固定されているわけではない。順番を変更できるとともに、出力信号をそのまま入力したり、先ほどのMIXESで設定した信号を入力に割り振るといったこともできるようになっている。さらに、ダイナミクス=コンプレッサをその前に入れるか、その後に入れるかといった設定もできるようになっている。

入力端子の信号割り当て画面コンプレッサなどの設定


■ コンパクトながら音質も良好

 そのほか、UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2のときにも紹介した入力信号のアナライザ機能も装備している。具体的にはFFTアナライザ、オシロスコープ、X-Yプロット、位相アナライザのそれぞれだ。これらもX軸、Y軸にどの信号を割り当てるかの設定が可能となっている。

FFTアナライザオシロスコープX-Yプロット位相アナライザ

 でも、そのDSPってどんなものが入っているのだろうか? ちょっと気になったのでケースを開けてみた。よく見ると、それらしいチップが3つ固まっている。型番を見ると中央にあるのがCIRRUS LOGICのCS47048C-CQZ、その右がTexas InstrumentsのTUSB3200AC、そして上のソケットに入っているのがMicrochipの24LC512だ。

 調べてみると、DSPがCIRRUS LOGICのチップであり、150MIPSの処理速度を持つミックスド・シグナルDSPと呼ばれるものようだ。メーカーの付記には「小型で費用効果の高い超高性能PCMプロセッサです。ミニシステム、DVDレシーバ、スピーカーバー、カー・オーディオ、DTV向けのコーデックが統合されています」とあり、これでEQやダイナミックレンジなどの処理をしているようだ。データシートを見る限りDSPとしては192kHzのサンプリングレートまで扱えるようになっているので、あえて仕様を44.1kHz、48kHzに留めているようだ。

ケース内部CIRRUS LOGIC「CS47048C-CQZ」などのDSPチップが搭載されている

 一方、TIのチップはUSBのコントローラ。先日ラトックシステムの岡村社長にインタビューした際に登場したチップである。一方、24LC512はDSPでもオペアンプでもなく、EPROMだった。ここにDSPをコントロールするためのプログラムが入っているのかもしれない。MOTUの上位機種もこうしたチップ構成になっているのかは定かではないが、システム構成の概要が見えてくる。

 なお、iPadにCamera Connection Kitを経由して接続できるかも試してみたが、残念ながらまったく反応はなかった。

 では、実際の音質はどうなのだろうか? いつものようにRMAA Proを使ってループ接続した上でテストしてみた。結果は以下のとおりで、まずまずといったところ。ただ、ループさせて戻ってきた信号のレベルが出力した信号より3dB程度低くなり、プリアンプなどでの増幅手段もないので、そのままテストした結果がこれだ。やはり、UltraLite-mk3 HYBRID FW-USB2との違いは単にチャンネル数の差というだけでなく、音質面でも差があるということのようだ。いずれにせよ、コンパクトで頑丈で音質的にも悪くない。モバイル用のオーディオインターフェイスの選択肢として考えてみてもよさそうに思う。


24bit/44kHz24bit/48kHz

(2010年 8月 2日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]