第492回:MTR対応のオリンパスPCMレコーダ「LS-100」を試す
~楽器接続、オーディオI/F対応ハイエンド機の実力は? ~
LS-100 |
既報の通り、オリンパスイメージングが2月17日よりリニアPCMレコーダの新モデル「LS-100」を発売する。価格はオープンプライス、直販価格は44,800円で、同社LSシリーズの最高峰として位置づけられるものだ。
マルチトラックのレコーディングに対応し、XLRの外付けマイクも利用可能など、従来機種とは明らかに異なる路線で、サイズ的にも大きめの機材となっている。これを一足早く借りることができたので、その性能や使い勝手などを紹介しよう。
■ XLR/フォンのコンボ入力搭載。内蔵マイクは新設計
高性能なコンデンサマイクを内蔵し、24bit/96kHzでレコーディング可能なコンパクトなリニアPCMレコーダは各社から出揃い、すでに価格競争となっている。そんな中、各社とも新たな付加価値をつけた機材を模索しており、オリンパスもカメラ搭載のLS-20Mを昨年発売している。その一方、ZOOM、TASCAM、Rolandなど主要メーカーが打ち出してきているのがXLRやTSフォンに対応したマイクが接続可能な大き目のレコーダ。より高性能なマイクで本格的なレコーディングができるとともに、少し大きなバッテリーを搭載し、ある程度長時間の録音が可能という、プロ/セミプロ相手の機材だ。もっとも価格的には5万円以下であることを考えても、本気の業務用というわけではなさそうではあるが……。
そんな新ジャンルのリニアPCMレコーダが確立してきた中、オリンパスもここに参入してきたのだ。手元にLS-11がないので、比較はできないが、明らかに1回りから2回り大きい筐体。やや小さめな筆者の手のひらとピッタリ同サイズといった感じ。iPhoneや他社の小型リニアPCMレコーダーと並べてみると雰囲気は分かるだろう。また、先日紹介したRolandのR-26と並べてみるとだいぶ小さい感じではある。
LS-11よりも大きめの筐体 | iPhoneや他社の小型リニアPCMレコーダと並べてみる(左からR-05、DR-05、LS-100、iPhone 4S、POCKETRAK C24) | RolandのR-26よりは小さい |
内蔵マイクは新設計のもので、90度の角度に開いた指向性コンデンサマイク。マイク室内で発生してしまう余計な反射音(ノイズ)を、最小限に抑えるようにマイク室を新設計したとのことだ。メニュー設定によりマイクゲインはHI/MID/LOWの3段階で切り替えることが可能。HIにしておくと、かなりの高感度なので、非常に小さな音までクリアに拾うことができる。またLOWに設定すると、大音量もしっかりと捉えることが可能で、最大で140dB SPLの音まで録音できるとのことだ。
また内蔵マイクの反対側にはLS-100最大の特徴ともいえる外部入力端子が2つ並んでいる。見て分かるとおりXLRとTSフォン(アンバランス)に対応したコンボジャックとなっている。オリンパスのLS-100の製品紹介ページを見ると、エレキギターと直結した図が載ってはいるが、インピーダンスは10kΩとなっているため、基本的に直結はNGだ。まあ、壊れる心配はないが、本来のギターの音で録音することはできないので、要注意。ダイレクトボックス(DI)やエフェクト、アンプなどを経由して接続する必要がある。
90度角に開いた指向性コンデンサマイク | マイクゲインはHI/MID/LOWの3段階で切り替え可能 |
内蔵マイクの反対側にはXLRとTSフォン(アンバランス)対応のコンボジャック×2 | インピーダンスは10kΩとなっているため、エレキギターとの直結は基本的にNG |
一方、XLRを利用して外部マイクを接続する場合は、ファンタム電源の利用も可能。これは左側面のスイッチでLチャンネル、Rチャンネルそれぞれ独立してオン/オフの設定ができるようになっている。またファンタム電源の電圧は+48Vだけでなく+24Vにも対応できるようになっており、メニュー設定で選択できるようになっている。その左側面には、ほかにも電源スイッチ、モニタ用にも使えるヘッドフォンジャックとボリューム、プラグインパワーにも対応するステレオミニに対応したマイク入力、そしてオプションのリモコンを接続する端子、さらにはUSB端子がある。このUSB端子も用途が広いのだが、その点は後ほど説明しよう。
左側面のスイッチでLチャンネル、Rチャンネルを独立してのオン/オフ設定が可能 | ファンタム電源の電圧は+48Vと24Vに対応し、メニュー設定で選択可能 |
次に右側面には録音レベル調整用のボリュームが搭載されている。これは、ロータリーダイヤル式のものではなく、連続的に動くアナログ感覚のボリュームだから、録音しながら使っていてもカタカタという音をマイクが拾う心配もなく気持ちいい。また普通に動かすと、LとRは同じレベル設定となるが、それぞれが独立したボリュームになっているので、必要に応じてレベルを変更することが可能だ。
右側面のドアを開くと内蔵のリチウムイオンバッテリーとSD/SDHCカードのスロットとなっている。コンパクトなバッテリーではあるが、メーカー資料によれば、24bit/96kHzのリニアPCMのモードにおいて約9時間30分、24bit/44.1kHzなら約11時間30分もの録音ができるという。このスタミナはやはりICレコーダで培ったオリンパスの実力ともいえるポイントだ。このバッテリーの充電はUSB端子から行なえるようになっている。
またSD/SDHCカードの利用は可能だが、本体内部には4GBのフラッシュメモリも搭載されているため、SD/SDHCカードなしでも使うことができる仕様だ。
右側面には録音レベル調整用のボリュームを搭載 | 拡大してみたところ | 右側面の内蔵リチウムイオンバッテリーとSD/SDHCカードを格納するスロット |
■ 2chレコーダとして立体感のある録音も可能
とにかく新機能満載で登場したLS-100だが、まずはオーソドックスに2chのレコーダとして屋外に持ち出し、いつものように野鳥の鳴き声を録音してみた。このLS-100にはいくつかのモードがあるが、まずは「レコーダー」モードを選択。設定は24bit/96kHzでマイクゲインはHI。またローカットやコンプレッサ/リミッター設定もそれぞれオフで行なっている。この状態で録音メーターボタンを押せばレベルメーターが動き出す。
ヘッドフォンでモニターしながら5m程度離れた位置にいたヒヨドリの鳴き声をマイクを正面に向けて捉えたが、なかなかキレイに聴こえる。左チャンネル、右チャンネルそれぞれで、異なる作業音のようなものがかすかに聴こえるが、これはそれぞれ30~40m離れた家から聴こえてくるもの。鳥が飛びながら…というシチュエーションではないが、結構立体感があることが分かるだろう。
レコーダーモードを選択 | 24bit/96kHzでマイクゲインはHIの設定 |
ローカットやコンレッサ/リミッター設定もそれぞれオフ | 録音メーターボタンを押すとレベルメーターが動き出す |
当日はほとんど無風の晴天という天気だったこともあり、0~10までの目盛りで7程度までレベルを上げても風切り音が入ることはなかった。ただ、風に吹かれるとここまでのレベル設定にするのは難しそうだ。製品にキャリングケースは付属しているが、ウィンドスクリーンはなく、現時点ではオプションとしても用意されていないようだ。
キャリングケースに収納したところ | 外観 |
LS-11と近い形になった周波数分析グラフ |
次に室内に戻り、いつものようにCDの再生音を捉えてみた。こちらはそれなりに大きな音量であるため、マイクゲインはMIDに設定しての録音だ。聴いてみると、やはりオリンパスのLS-11と音の傾向は近く、とても素直に音を捉えているという印象。数多く出ているリニアPCMレコーダの音質として、トップレベルであるといって問題はないだろう。周波数分析をしたグラフで見てもLS-11と近い形となっている。
録音サンプル | |
ヒヨドリの鳴き声 | CDの再生音 |
LS-100_bird2496.wav | LS-100_music1644.wav |
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
このように単純に内蔵マイクで24bit/96kHzの録音をするだけであれば、LS-11と大きく変わらないし、LS-11なら現在の実売価格は3万円程度にまで下がってきているので、そのほうが安いし、コンパクトでよさそうだ。やはり気になるのは、新たに追加された機能であるが、こちらを一つずつ見ていくことにしよう。
■ MTR録音をテスト。PCレスのCD書き出しや、DAW編集が可能
マルチトラック録音に対応 |
まず1トラック目への録音は、RECボタンを2回押すだけなので、特に迷うことはなく、画面にはレベルメーターが表示され、録音されていく。録音された結果はWAVファイルとして記録されるのだが、トラックのオン/オフ(つまりミュート)やトラック音量、パンの設定もできるようになっている。これはマルチトラックレコーディングした後にミックス用にバランスをとるために用意されているものだ。
新しいプロジェクトを作成すると、MTR画面が現れる | RECボタンを2回押すと画面にレベルメーターが表示され、録音開始 | トラックのオン/オフ(ミュート)やトラック音量、パンの設定 |
ミュートするとトラックのインジケータが緑から赤になるのには違和感も |
ここでちょっと気になったのは、まずトラックをミュートするとトラックのインジケータが緑から赤になること。通常、レコーダで赤というとレコーディングReadyを示すものなので、これがミュートといわれると、ちょっと違和感がある。また、録音フォーマットはすべて16bit/44.1kHzとなるようだ。先ほどのレコーダ設定で24bit/96kHzとしていたので、そうなることを期待していたのだが、MTRの場合は容量を食うというのが理由なのだろうが、16bit/44.1kHz固定のようだった。
これに重ねて2トラック目を録音しようと思ったところで、つまずいた。ヘッドフォンでモニターしながらマイクから録音しようとしたのだが、うまくいかないのだ。Tr.2にカーソルを設定してRECボタンを押すと、Tr.2が録音Ready状態になる。ここでPLAYボタンを押すとTr.1が再生されるのだが、Tr.2はReadyのままで録音がスタートしない。おや? と思い、改めて録音Readyの状態で、今度はRECボタンを押すとTr.2の録音はスタートするものの、今度はTr.1が再生されない。どうも分からないのでマニュアルをチェックしてみると、まず再生をスタートさせてから、RECボタンを押すというのである。つまりREC、PLAY、RECと3回ボタンを押す。すると当然、頭から録音することはできないという妙な仕様だったのだ。
ちょっと納得はいかないものの、パンチイン操作とほぼ同じだし、パンチインだけができるMTRだと捉えればいいのかもしれない。またLS-100で再生させる限りは各トラックは同期する形となり、トラックごとにボリュームやパンを設定してバランスをとることもできる。また頭に少し余裕さえ持たせてあれば、実用上大きな問題にはならない。そして最終的には、「バウンス」というボタンを押すと、LS-100内で2chにミックスダウンすることができるという形になっているので、それなりに使えそうだ。
さらに、LS-100のUSB端子にCD-Rドライブを接続すると、このミックスダウンしたファイルを音楽CDとして書き込むことができるようになっている。手元にUSBドライブがなかったので実際に試しはしなかったが、これはなかなかユニークな発想で、これまでのリニアPCMレコーダーでそうした機能を搭載したものはなかったように思う。
「バウンス」ボタンを押すとLS-100内で2chにミックスダウンできる | USB端子にCD-Rドライブを接続すると、ミックスダウン済みのファイルを音楽CDとして書き込み可能 |
せっかくMTRで録音したのであれば、後でPCに持って行き、DAWで編集できるといい。ただ、頭が揃っていないし無理だろうな……と思っていたら、そんなことはなかった。1つのプロジェクトでレコーディングした各トラックのWAVファイルの素材は1つのフォルダにまとまっているので、フォルダごとPCにコピー。これをDAWに展開してみたところ、頭は揃っていたのだ。つまり、冒頭での録音はされていないが、空白で埋まっていたのである。LS-100にDAWはバンドルされていないが、16bit/44.1kHzのWAVファイルだから、CubaseでもSONARでも何でもOKということで、応用範囲は広そうだ。
■ 本体を高音質USBマイクとして利用可能。リサージュ測定も
設定メニューでUSBクラスをストレージからコンポジットに変更するとオーディオI/Fとして使用可能に |
USBに関連していうと、バッテリーの充電用、CDライティングのほかにも、PCと接続した際にはUSBマスストレージとしてアクセス可能となる。この際、内蔵のフラッシュとSD/SDHCは別ドライブとして扱われる。さらに、設定メニューでUSBクラスをストレージからコンポジットに変更すると、LS-100がオーディオインターフェイスとして使えるようになる。内蔵マイクを利用すればかなり高性能なUSBマイクという形になるわけだ。もっとも、ドライバをインストールしないで使うため、Windowsの場合はMMEドライバでの動作となる。
ところで楽器メーカー製リニアPCMレコーダーの多くが搭載しているメトロノーム機能、チューナー機能がLS-100にも搭載された。普通なら軽く試して、特に記載するほどの機能でもないのだが、楽器メーカーでないところが、この手の機能を搭載するとちょっと変わったものになるから面白い。
メトロノーム機能 | チューナー機能 |
メトロノーム機能は、他社のリニアPCMレコーダーと同様、メトロノーム単独で動作させることもできるし、設定をオンにすると、レコーディングする際のガイドとしても使うことができる。ただ、2chのリニアPCMレコーダー機能の場合は利用できるものの、MTRのガイドとしては使えないようだ。個人的にはMTRこそメトロノームが欲しかったのだが、そこはちょっと残念なところである。
MTRのガイドとしては使えないメトロノーム機能 | 設定オンでリニアPCMレコーディングする際のガイドとして使用可能 |
実際、メトロノームをデフォルトの設定のまま鳴らしてみると、アクセントがなく、「ポン、ポン、ポン、ポン……」と鳴るので、おや? と思った。メニューの詳細設定を見ると「パターン」という項目がある。これが拍子の設定をするものなのだが、これが1/1となっていたのだ。分からなくはないが、1/1という表示は楽器メーカーではなさそうだな、と。ほかにも、1/4というのがあったり……。ここでは4/4に設定して鳴らしてみると、ちゃんとアクセントが入るが音があまり好みではないので、「メトロノーム2」という設定に変更。「チーン、カ、カ、カ……」と昔ながらのメトロノーム風の音になるのだが、わざわざ古っぽい音を演出させるために振り子が動くノイズを乗せてくれている。個人的には聴き取りやすく音を鳴らしてくれればよかったのだが……。
メニューの詳細設定に「パターン」の項目 | 拍子の設定はデフォルト値で1/1 |
もうひとつ、LS-100には、他のリニアPCMレコーダではあまり見かけない「リサージュ測定機能」というものが搭載されている。これはマイクと音源の距離を位相差で自動測定するというもの。このグラフを見れば、左右のマイクで位相のズレがないか、逆相になっていたりしないかをチェックできるというものだ。私自身、まだ使いこなせていないが、これはうまく使うと強力な武器になってくれそうだ。
サージュ測定機能 | マイクと音源の距離を位相差で自動測定する |
以上、LS-100についてみてきたがいかがだろうか? MTR機能の使い勝手など、まだこなれていない部分はあるようだが、楽器メーカーの製品に果敢にチャレンジしていっていることは十分に感じられる。実際、楽器メーカーでも強力なMTR機能を装備したリニアPCMレコーダーは存在しないので、ファームウェアのアップデートといった方法で機能強化してくると、かなりいい製品に仕上がる可能性も十分にありそうだ。
レコーダとしての性能、内蔵マイクの性能が優れているので、楽器メーカーもうかうかしていると抜かれてしまうかもしれない。いずれにせよ、このようにしてメーカー間で競い合って機能が向上していくことはユーザーにとって嬉しいことである。