第387回:オリンパスの新リニアPCMレコーダ「LS-11」

~ 高感度マイク/低域強化で音質向上。オーディオI/Fにも ~


LS-11

 オリンパスから「LS-10」の後継機となる「LS-11」が、9月11日に発売された。

 形状/サイズ的にはLS-10とまったく同じながらシルバーボディとなったLS-11には、さまざまな点で改良がされているという。発売前に製品をお借りできたたので、その音質や使い勝手などについてチェックした。



■ スタミナを備えた「LS-11」

 既報のとおり、LS-11は内蔵メモリを8GBとし、前機種のLS-10の2GBより大幅に容量を増やすとともに、実売価格を50,000円程度に下げたマイナーチェンジ機種。左右に開く形のマイクの形状、背面にスピーカーを2つ備えている点など、基本的な特徴はLS-10と変わらない。

本体上部にステレオマイク搭載スピーカーも内蔵

 とはいえ、プレスリリースによると単にメモリ容量を増やしただけでなく、低音域の周波数特性の強化を図って音質向上を実現させたり、低消費電力化を図り、ニッケル水素充電池の使用で22.5時間の録音が可能という。

 LS-10が12時間持つということでも、さすがICレコーダメーカーと感心していたが、その約2倍を実現しているということになる。単3電池2本でのこれだけのレコーディングができるというのはすごい。

 実際の使い勝手などはどうなのだろうか? さっそく届いたLS-11を見てみると、確かに色が変わった程度で、見た目上の違いはなさそうだ。とはいえ、LS-10が発売されてから1年半たった今でも、リニアPCMレコーダとしてコンパクトなボディであることは間違いない。

単3ニッケル水素電池2本で約22.5時間の録音が可能iPod touchとサイズを比較

■ レベルメーターは改善。高感度マイクを搭載

レベルメーターの動作が向上

 さっそく電源を入れ、録音してみてすぐに気づいたのがレベルメーターの動作の向上だ。以前、LS-10を使った際、非常に気になったのがレベルメーターの反応の遅さだった。

 レコーディングにおいて、レベルメーターは生命線ともいえる重要なもの。クリップしない範囲でいかにレベルを大きくとるかが高音質に録音するためのカギとなるが、それを実現するためにレベルメーターのチェックは欠かせない。LS-10ではそこがネックとなっていた。しかし、LS-11ではまったく問題なくなり、いわゆるレコーディング機材と比較しても遜色ないレベルになっている。

 8GBの内蔵メモリがあるので、通常はこれで十分だとは思うが、LS-11では32GBまでのSD/SDHCカードが使える。今回は基本的にSDカードを使ってテストをした。

 いつものように、近所へ持ち出しセミの鳴き声を録音してみた。夏も終わりとはいえ、どうしても小鳥の鳴き声よりも虫の鳴き声のほうが音量的に大きい。一般的に野外で録音する音は小さな音量であるため、どの機材でもマイク感度を高い設定にする。

 LS-11でもMIC SENCEというスイッチがLOWとHIGHで選択できるため、HIGHに設定。また、機材の性能のチェックであるためLOW CUTもOFFに設定しておいた。またメニュー設定において、リミッタも切っておいた。

SD/SDHCカードが使えるMIC SENCE/LOW CUTスイッチを搭載

 モニター用のヘッドフォンレベルは大きめに、入力ゲインも大きめに設定して状態で外に持ち出したとたんに、ものすごく大きなセミの鳴き声に驚いた。「目の前にセミがいるのか?」と思ったが、ヘッドフォンを耳からはずすと、遠くで鳴いているという状況。ヘッドフォンレベルが大きすぎたというのもあるが、かなりの高感度マイクであることがわかる。

 本来、製品にはウィンドスクリーンが付属しているが、今回お借りできたのが、本体のみだったため、ウィンドスクリーンを使用せずにテスト。やはりマイク感度が高いだけに、穏やかな日ではあったが、弱い風が吹くいてもノイズを拾ってしまう。

 そんな中で、あまり風が吹かないタイミングに録音した音をぜひ聴いてみてほしい。ちょっと大きめなレベルで再生すると、まるで目の前に並ぶ2匹のセミの間にマイクを持ってきたかのような音だが、セミの姿が見えていたわけではない。林の中で録音しているが、おそらくセミとの距離はそれぞれ10m近くは離れていただろう。この2匹の位置感覚から見ても、ステレオ感、立体感というのはとてもにしっかりしている。

 

録音サンプル
セミなどの鳴き声を収録semi.wav(17.1MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 一方、バックにさまざまな環境音が入っていることにも気づくはずだ。最初に聴こえるのは電車の走る音だが、これは録音した場所から500m程度離れた音を拾っている。その後、飛行機の音も入っているが、録音時はそれほど気にならなかったので、やや遠かったのかもしれない。とくにLOW CUTをしていなかったが、重低音のノイズが入ってくるという感じではない。

 いずれにせよ、風に吹かれさえしなければ、その場の音を非常にリアルに捉えることができる。ある意味、実際に聴く音よりも、よりリアルさを感じるほどだ。ちなみに、ここでの録音はリニアPCMの24bit/96kHzで行なっている。

 ファイル形式などはLS-10と同じようで、リニアPCM、MP3、WMAのそれぞれに設定することができ、リニアPCMでは最高24bit/96kHz、MP3では最高320kbps、WMAでは最高160kbpsが設定できる。

録音形式はリニアPCM、MP3、WMAから選択可能リニアPCMでは最高24bit/96kHzに対応
最高160kbpsのWMA録音もMP3は最高320kbpsに対応

 ちなみに、リニアPCMで16bit/44.1kHzに設定するか、MP3もしくはWMAに設定した場合のみ、指向性マイクというものの設定ができるようになっている。これもLS-10と同様の機能で、実際にマイクの向きを変えるといったものではなく、DiMAGICのDVM(DiMAGIC Virtual Microphone)技術を使ったエフェクトで、指向性を変化させるというもの。ZOOM、NARROW、STANDARD、OFF、WIDEという順に集音範囲が広がる感じを演出するようになっている。

 ただ、どうしても作り物っぽい音になるので、自然な音を録りたいのであれば、MP3で録音するにしてもOFFにしておくのがお勧めだ。なお、24bit/96kHzなどを選択している場合は、そもそも設定できないようになっている。

「指向性マイク」設定も可能24bit/96kHzでは指向性マイク設定できない

■ 音質をチェック

 では次に、音楽のレコーディングチェックだ。TINGARAに提供してもらっている曲、JupiterのCDをモニタースピーカーで再生し、その一部を24bit/96kHzで録音するという手法だ。いつもどおり、スピーカーから約50cmの距離にLS-11をセッティング。LS-11には三脚穴もあるので、三脚に固定した上でレコーディングしてみた。

イントロ部の波形を表示

 実際に音を録ってみて感じたのは、とにかくS/Nがいいこと。このレコーディングしている素材は、イントロがフェードアウトして終わり、ボーカルがスタートするところからの40秒なのだが、波形を拡大してみても、そのスタート部分はほぼ0dB近くまで下がったシーンとした状態になっていることがわかる。

 では、その音質はどうだろうか? WaveSpectraで解析した結果を以前、LS-10で行なったものと比較してみたが、見た目上大きく違いはない。が、その音を聴き比べてみると、結構大きな変化をしている。


録音サンプル:楽曲(Jupiter)

「LS-11」楽曲サンプル
music1.wav(7.1MB)

「LS-10」楽曲サンプル(参考)
music2.wav(7.7MB)

楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、いずれも24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 LS-10は高域が強調されたようなサウンドであったのに対し、LS-11のほうが全体的にバランスのとれたやわらかいサウンドになっている。パッと聴いた印象ではLS-10のほうがシャープな音にようにも感じられるが、決してLS-11の高域が削がれたわけではない。カタログなどでは、「低音域の周波数特性の強化を図った」とされているが、その結果、全体がよりフラットになったということのようだ。


■ ファイル分割など新機能を追加。オーディオI/Fにも

 ところで、LS-11には簡単な編集機能も追加された。それはファイルの分割で、PCへデータを転送せずに、LS-11を再生しながら、ここだというところで分割できるというもの。マーカーをつける機能もあるが、必要に応じて使い分けることができる。

ファイルの分割機能を追加。LS-11を再生しながら、任意の場所で分割できる
オーディオインターフェイスにもなる

 さらにLS-11には一つ、新たな機能が追加された。それはUSB Audio Classへの対応だ。要するにWindowsやMacにUSBで接続した際、ドライバをインストールせずにすぐにオーディオインターフェイスとして使えるという機能。予めLS-11のUSBの設定をストレージからオーディオに切り替えておくとオーディオインターフェイスとなるのだ。

 Windowsで試してみると、確かに認識されて、コントロールパネルのサウンドの項目において確認することができる。LS-11は録音専用のデバイスと認識され、再生用のデバイスとしては見えないようだ。つまり、LS-11がPCの外付けマイクとして使えるというわけだ。実際録音状態にすると、LS-11の録音ボタンの周りのLEDが赤く点灯し、動き出す。

 

Windowsで確認。デバイスとして認識されている実際録音状態にすると、LS-11の録音ボタンの周りのLEDが赤く点灯

 ただし、USB Audio Classの仕様に引っ張られるため、あくあでも16bit/44.1kHzのデバイスとしてしか使うことはできない。MMEドライバだから確かに24bit/96kHzだろうが、24bit/192kHzだろうが、どんな設定での録音も可能だが、入り口のところが16bit/44.1kHzに制限されてしまうため、より繊細な音、22.05kHzを超えるサウンドを捉えることはできない。

WaveSpectraで周波数特性を確認

 試しにWaveSpectraの録音デバイスとしてLS-11を設定して周波数特性を見てみたが、24kHz以上はしっかりした音としては出ていないようだった。もし、オリンパスがASIOドライバやWDMドライバ、またネイティブ対応のCoreAudioドライバを出してくれば、よりマイクとしての性能をアップすることはできるだろうが、楽器メーカーではないので、今後もそこまでは対応するのは難しいろう。

 ほかにもLS-11の新機能としてはリモコンの標準搭載、新アプリケーションソフト「Olympus Sonority Plus for Editors:MUSIC」のバンドルといったものがあるが、残念ながらこれらが間に合わなかったため、あくまで本体機能のみのチェックとなった。

 いま各社から発売されているリニアPCMレコーダは、高音質化競争が激しく、24bit/96kHz対応モデルでは、なかなか差が見えにくくなってきているが、今回のLS-11のサウンドは、横一線から一歩抜け出たように思う。


(2009年 9月 14日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]