藤本健のDigital Audio Laboratory
第550回:ローランドのUSBオーディオ最上位機を試す
第550回:ローランドのUSBオーディオ最上位機を試す
16ch対応/音質も強化された「STUDIO-CAPTURE」
(2013/5/13 13:53)
3月末にローランドから発売されたUSBオーディオインターフェイス、STUDIO-CAPTURE。これは16 IN/10 OUTの入出力を装備する同社CAPTUREシリーズの最高峰のフラグシップモデルだ。実売価格は10万円程度とそれなりに高価ではあるが、単に入出力が多いだけではなく、搭載されているDSPもアナログ回路も強化され、より高音質、高性能なオーディオインターフェイスになっているとのこと。先日、このSTUDIO-CAPTUREを入手したので、実際に、どんな機材なのか使ってみた。
持ち運べる16chレコーディング対応機
いまやオーディオインターフェイスは数多くのメーカーから数多くの製品が出ており、目新しさ、機能的な差別化を図るのはなかなか難しくなってきている。そうした中、登場したSTUDIO-CAPTUREは、機能的にも性能的にも、そして見た目にもなかなかユニークな存在だ。
今回、最高峰として登場したSTUDIO-CAPTUREは、これまでの最上位機種であったOCTA-CAPTUREと並べてみるとわかるが、幅、奥行きはちょうどOCTA-CAPTUREと同じで高さが2倍。つまりOCTA-CAPTUREを2つ重ねた大きさとなっているわけだ。
オーディオインターフェイスとしてはちょっと珍しい形ではあるが、付属のラックマウント・アングルを左右に取り付けることで19インチラックに2Uサイズのモジュールとしてマウントできるようになっている。ラックマウント・アングルがない通常の状態なら2Uとはいえ、奥行き幅が小さめであり、意外とコンパクト。ローランドに聞いたところ、ノートPCとセットにしてリュックサックに入れられる大きさに設計してあるのだとか……。まさに持ち歩いて16chの大編成レコーディングを可能にするツールというわけなのだ。
スペック的にみると最大24bit/192kHz対応で、最大で16IN/10OUT。ただし192kHzで動作させる場合はUSBのバス転送速度の制限から8 IN/4 OUTとなる。これは、192kHzの設定にしたところでアラートも表示されるようになっている。
入出力端子についてみていくと、まずフロントの左側にはINPUT 1~4としてコンボジャックが並ぶ。このうちINPUT 1および2はギターを直接接続可能なHi-Z対応。Hi-ZにするかLo-Zにするかの設定は、本体にある液晶を用いて行なうか、PC側のコントロールパネル画面で行なう形となる。また、このコントロールパネルを見てもわかる通り、INPUT 1/2とINPUT 3~12の違いはHi-Zスイッチがあるか否かだけであり、それ以外は基本的に同じ。それぞれに+48Vのファンタム電源のオン/オフができるほか、LO-CUT、位相反転(PHASE)のスイッチがある。またコンプレッサを搭載しているが、これについては後述する。
またフロントの右側にはヘッドフォン出力が2つ用意されている。その左にあるノブで各々独立してレベル調整ができる。ただし、これは2つともメイン出力と同じMONITOR OUT 1-2に相当する信号が割り当てられている。
次にリアを見てみよう。まず入力は下の列にズラリと割り当てられているコンボジャックがそれに相当し、INPUT 5~12までの8つが並ぶ。これらについては前述のとおり、INPUT 3/4と同じ構成だ。さらにその左側にはTRSフォンの入力としてINPUT 13~16がある。つまり入力の16chすべてをアナログで入力することができ、そのうち12個がマイクプリアンプを搭載しているというわけだ。他社オーディオインターフェイスで数多くの入出力を装備したものはあるが、その多くはADATなどのデジタルマルチ入力端子となっているため、アナログ入力をするためには、別途A/Dコンバータなどが必要となるが、STUDIO-CAPTUREの場合は、直接16ch分のアナログ入力ができるというのが最大の特徴といってもいいものだ。
ちなみに、INPUT 15-16はCOAXIALのデジタル入力に切り替えることも可能。この切り替えは基本的にオートとなっておりデジタル入力があれば、そちらが優先される。ただし、アナログを優先したいという場合はドライバの設定画面で行なうことも可能だ。
このようにSTUDIO-CAPTUREには12個のマイクプリアンプが搭載されており、これがローランド自慢のVS-PREAMPというものなのだが、ちょっと紛らわしいのはOCTA-CAPTURE搭載のVS-PREAMPとは性能的に異なるという点。GAIN幅やヘッドルームなどSTUDIO-CAPTUREのほうがより余裕を持った設計になっており、いい音でのレコーディングができるとのことだ。具体的にOCTA-CAPTUREのVS PREAMPとの違いは右下写真の表の通り。
次に出力を見てみよう。これは上の列に並ぶもので、右上にあるのがメイン出力のOUTPUT 1/2。この写真を見てもわかる通り、XLRのキャノンジャック出力と、TRSフォンの標準ジャック出力の2つを備えている。ここにはMONITOR OUT LEVELというスイッチがあるがこれをオンにするとフロントのノブでレベル調整が可能になり、BYPASSにするとノブに影響されないオーディオ信号が出力できるようになる。
その左側にはTRSフォンのOUTPUT 3~8が並ぶ。そしてこれらとは別にCOAXIALでOUTPUT 9-10があり、さらにMIDIの入出力が1系統用意されているのだ。
フロントに16chのレベルメータを全て表示
さて、このSTUDIO-CAPTURE、使い勝手の面で大きな売りとなっているのが、OCTA-CAPTUREやQUAD-CAPTUREでも採用されているAUTO-SENS機能だ。これは入力レベルの設定を自動で行なえるというもので、やはり非常に便利。いわゆる入力レベルの自動調整とはまったく異なり、リハーサルとして入力を行なうと、そこにおける最大レベルを感知した上でそこが最大になるように入力のレベルを設定してくれるのだ。また、INPUT 1~16の接続されているすべてのチャンネルに対して同時に一気にAUTO-SENS機能を使うことができるので、多くの編成でのレコーディングであっても、非常に効率よくレベル設定ができるのはポイントだ。通常のレコーディングでは入力チャンネル1つずつ調整していく必要があるが、極端な話、一度リハーサルとして演奏したものをAUTO-SENSで調整すれば、すべてOKというわけである。
また、よくできていると思うのは、フロントに16ch分すべてのレベルメータが並んでいること。多くのオーディオインターフェイスの場合、レベルメーターがあっても、特定の2ch分程度であり、実際に適切に入力が来ているのかを確認するにはPC側で監視するしかない。やや派手な感じにはなるが、これならばオーディオインターフェイスだけで、全チャンネルの状態を見れるので、分かりやすい。また、各レベルメーターの下にはセレクトボタンがあり、これを押すと、そのチャンネルの設定を右側のLCDを見ながら調整できるようになっている。さらに、たとえば3chと8chのボタンを同時に押すと、3~8chの6チャンネル分が選択でき、そのすべてのファンタム電源をオンにするとか、入力レベルを調整できるというのも便利なところだ。
ここでもう一つ見ておきたいのが、INPUT 1~12のそれぞれに搭載されているコンプレッサだ。それぞれ独立したコンプレッサが搭載されており、これらも本体ディスプレイを見て設定できるが、これはPC側の画面で行なったほうが使いやすい。全チャンネル見渡しての設定もできるが、コンプレッサ専用のエディット画面を表示させれば、より大きな画面で見ることができるとともに、THRESHOLD、RATIO、GAINのパラメータに加え、ATTACK、RELEASE、KNEEのそれぞれのパラメータでより細かく設定ができるようになっている。なお、このコンプレッサはライン入力専用のINPUT 13~16には搭載されていない。
音質/レイテンシともにハイエンド機として十分な実力
もうひとつSTUDIO-CAPTUREにおいて重要になるのが、モニター出力としてどこに何を出すかというもの。デフォルトの設定では、OUTPUT 1/2のメイン出力はPCのDAWで出力するすべてのチャンネル、そしてSTUDIO-CAPTUREに入る全入力がミックスされる形で出てくるようになっている。それを決めるのがコントロールパネルのMONITOR Aのコンソール画面。これを見るとわかる通り、INPUT 1~16のすべてとDAW MONITOR 1~10がすべてミックスされるようになっているほか、センドエフェクトとしてリバーブも内蔵されている。このリバーブは掛け録り用ではなく、モニター出力用となっているので、レコーディングの際にボーカルに掛けてモニターに返せばPC側で設定したり負荷をかけることなく、リバーブが利用できるようになっている。このリバーブの設定もタイプを変更したり、時間を変更するといったことが可能だ。
またこのデフォルト設定においてOUTPUT 3~10については、基本的にDAW側の出力チャンネル3~10がそのまま行くようになっている。これを設定するのがPATCHBAY画面。これを変更することにより、そのルーティングを自由に行なえるわけだ。
さらに、MULTIPLE-MONITORをオンにすると、先ほどのミックスを4つ独立して作ることができ、それぞれのミックス結果を各出力チャンネルに振り分けることができる。ただしMONITOR B~Dのミックスにおいて前述のリバーブは利用できない。
以上が、STUDIO-CAPTUREの基本的な機能、使い方だ。シグナルフローの画面も用意されているので、これを見れば全体構成もわかるだろう。このように機能はいろいろあるが、デフォルトの設定ですぐに使えるし、実際に使ってみると複雑な感じはしないので、マニュアルなどなくても戸惑うことなく利用できそうだ。
では、最後にいつもの通り、RMAA PROを使っての音質チェック、そしてCENTRANCEのASIO Latency Test Utilityを用いてのレイテンシーの実測テストを行なった。まず、音質のほうは、44.1kHz~192kHzのそれぞれにおいて以下のとおり。いずれのサンプリングレートでもTHD+Noiseの結果のみ微妙に高調波が入っているようだが、それ以外は非常に好成績。192kHzにおいても周波数特性が非常にフラットになっているのも見逃せないポイントだろう。
一方、レイテンシーのテスト結果は以下のとおり。これを見ても、入力・出力の往復で3msec程度と非常に好成績。近い成績ものとしてはRMEのFireface UCXなどであり、ほぼ互角といっていい内容。ハイエンドのオーディオインターフェイスの選択肢として注目すべき存在といっていいだろう。
STUDIO-CAPTURE |
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