第165回:6畳部屋で100インチライフはいかが?

~約7万円の超短焦点シアター機 ソニー「VPL-BW120S」~



VPL-BW120S

 本連載では久々となる入門機を取り上げる。入門機というと「価格が安い」ということだけが取り沙汰されることが多いが、今回紹介するソニーの「VPL-BW120S」は、ちょっと違う。

 実売価格が7~8万円弱とリーズナブルなのはもちろんのこと、超短焦点光学系を備え、1.3mで100型投写できるのだ。プロジェクタライフに「入門」するためのVPL-BW120Sの実力を見ていきたい。



■ 設置性チェック~投射距離1.34mで100インチ投射が可能

 VPL-BW120Sは、もともとデータプロジェクタのVPL-SW125をベースとしており、本体筐体、内蔵される映像コアにいたるまでがハードウェア的には共通仕様となっている。

ポータブルプロジェクタほど小さくはないが、据え置き前提のホームシアター機と比較するとだいぶコンパクトだ。そして軽い

 データプロジェクタといえば、無骨なデザインと相場は決まっているのだが、ベースモデルのVPL-SW125がそれなりに角を落としたおしゃれな出で立ちをしていたので、リビングルームに入ってきてもそれほどの違和感はない。外形寸法は313×349×160mm(幅×奥行き×高さ)と、フットプリント的にはA4ファイルサイズのノートPCと同程度かそれよりも小さいくらい。重さも3.7kgしかなく、スペックを考えるとコンパクトで軽量といえる。

 表示デバイスはソニー製の透過型液晶で、0.59型/1,280×800ドット。本体には出力2Wのスピーカーも内蔵。ホームシアタープロジェクタでも、DVD一体型の入門機などではスピーカー内蔵機は珍しくないが、VPL-BW120Sの場合はモノラル出力であるため、ホームユースでは臨時用かモニター/試験用がメインの使い方になるだろう。

 ただ、音量を上げても音割れもなくパワー感もあるので、割り切れば結構使える。ステレオスピーカーになっていれば、ゲーム用途では結構使えたかも知れない。ここはベースモデルのデータ仕様から飛び出して、ステレオ化して欲しかった。

正面向かって右側面のスリットはスピーカーの開口部だ正面向かって左側にはスリット無し。スピーカーはモノラルなのだ

 この製品の最大の特長と言えば、その超短焦点性能にある。100インチ(16:9)の投射に必要な投射距離はわずか1.34m。投射距離約1.0mでも80インチ(16:9)の大画面が得られるのだ。

 ただ、コスト的には割り切った作りになっているので、投射レンズはズームなし、レンズシフトなしとなっていて、設置自由度はそれほど高くはない。

ズーム無し、レンズシフト無し。フォーカスは手動式

 投射映像は光軸に対して極端に上方向に打ち上げられる仰角になっている。具体的には、例えば投射距離1.34mでの100インチ投射時には光軸に対して約30cmも上側に映像の下辺が来る。

 ユーザーが座った状態で視線がスクリーンの中央付近に来るような設置スタイルでは、現実的には床置きか、あるいは背の低い台においての設置となるだろう。

 本体の底面の前部にはネジ式の高さ調整脚部が左右にあり、底面後部には引き出し式の脚部が実装されている。引き出し式の脚部は全収納した状態で床に置くと上向き投射になってしまう。かといって全て引き出すとやや下向きの投射角になる。光軸を水平にするのは意外と難しい。

ネジ式の高さ調整機構付き脚部裏面。金色のネジ穴が天吊り金具用。前部2つの脚部の距離は約16.5cm。ここから後部の脚部までの距離は約23cm程度
後部脚部を全収納した状態。後部の脚はある程度引き出さないと上に映像が打ち上げられてしまうので注意

 台形補正(Vキーストーン)は、この投射仰角に応じて自動設定が行なわれるが(デフォルト)、この台形補正はデジタル画像変形によるものなので描画に利用される有効画素数が減ってしまうため、画質を優先させたい場合には利用しないほうがいい。メニューの「Vキーストーン」設定を「手動」と設定することで、この自動台形補正機能はキャンセル出来る。画質優先で設置したい場合は、台形補正を使わない状態で4辺が直交するようにプロジェクタの向きや角度を決めていきたいものだ。

 製品の性格上「使う前に出して、使い終わったらしまう」という使用スタイルが主流になるとは思うが、天吊り設置にも対応している。純正天吊り金具として設定されているのは、データプロジェクタのVPL-SW125と兼用の「FTB-S10」(42,000円)だ。

 光源ランプは出力210Wの超高圧水銀ランプ。交換ランプはベースモデルのデータプロジェクタのVPL-SW125と同一の「LMP-E211」(42,000円)。本体の実売価格が7~8万円前後であることを考えると、交換ランプの価格は少々高めという印象がある。消費電力は290W。ランプ出力スペックや輝度性能を考えれば、標準的だ。

天吊り金具「FTB-S10」交換ランプ「LMP-E211

 騒音レベルは公称29dB。ベースモデルがデータプロジェクタということもあってか、従来のソニーのホームシアター機と比較すると動作音はやや大きめだ。なお、ランプモードを「低」とすれば、幾分か動作音は静かになる。ただ、背面吸気、前面排気というエアフローであること、本体設置位置がスクリーンよりで、ユーザーが排気側に立たない位置関係にも助けられてるのか、29dBという数値よりだいぶ静かに感じる。

後面のからスリットから吸気正面のスリットから排気

■ 接続性チェック~HDMI端子を1系統装備。アナログビデオ入力にも一通り対応

接続端子部

 常設用途を想定していないデータプロジェクタがベースであるため、接続端子は各種類1系統というあっさりした設計。接続端子は後面(背面)に集約。HDMI端子はx.v.ColorやDeepColorには未対応。パネル解像度もフルHDには満たないので、480i/480p/720p/1080iまでの対応となる。HDMIから入力されたデジタル音声は前述したモノラルスピーカーからちゃんと出力される。

 アナログビデオ系は、S映像とコンポジットビデオ入力端子を備える。モノラルスピーカーで音を鳴らすためのアナログ音声入力端子(RCA)はS映像とコンポジット入力とで兼用になる。なお、本機のスピーカー出力はモノラルだが音声入力はステレオになっている(ミックス出力される)。


HDMI階調レベル設定はないが、オーバースキャンの有効化/無効化設定は「信号設定」メニューで行なえる

 D-Sub15ピン端子は、アナログRGB接続のほか、付属の変換ケーブルを用いたコンポーネントビデオ入力にも対応。このD-Sub15ピン端子専用の音声入力端子がステレオミニジャックで提供されている。

 右端にあるD-Sub9ピンはRS-232C端子のようだがサービス/メンテナンス用として一般には仕様公開されていない。

 幾つかの機器との接続テストを行なったところ、VPL-BW120SのHDMI階調は基本的には自動設定がなされるようだ。明示的なHDMI階調設定レベルの調整項目はなく、PlayStation 3(PS3)と接続したときには、HDMI階調レベルは16-235のリミテッド設定にしないと正しい階調が得られなかった。PS3、そしてPCとのHDMI接続時にはこの辺りの仕様について留意したい。



■ 操作性チェック~パラメータ調整は基本項目のみ

カード型リモコン

 付属リモコンはカード型の、名刺サイズよりは縦方向に長めのデザインのものが付属する。

 リモコン上には最低限のボタンしかない非常にシンプルな見た目をしているが、VPL-BW120S自体にそれほど高度な特殊機能が備わっていないので使い勝手はそれほど悪くはない。必要十分な使い心地だ。

 電源オンからHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は本体設定によってだいぶ変わる。「スタートアップイメージ=入」にしていると、光源ランプの輝度が安定するまで、ずっと「SONY」ロゴが表示されるため、HDMI映像が出るまでは約54秒待たされる。ここを「切」設定としていると、画面の明るさはだいぶ暗いものの約26秒でHDMI映像が現れた。ホームユースであればすぐに映像が見られる「スタートアップイメージ:切」設定の方が使い勝手はいいだろう。


基本操作は本体上面のスイッチでも行なえるスタートアップイメージ」設定は起動時間に影響する

 入力切換はリモコンの[INPUT]ボタンを押すことで、順送り式に切り替わる方式だ。切換所要時間はコンポーネントビデオ→HDMIが約4.0秒、HDMI→コンポジットビデオが約2.0秒。ややHDMIへの入力切換が遅いという印象だ。

 液晶パネルは正方画素の1,280×800ドットで、アスペクト比16:10となっているところから、アスペクトモードは、一般的なビデオプロジェクタ製品よりも多めに搭載されている。

モード名内容
ワイドズームアスペクト比4:3映像の疑似16:9化モード
ノーマルアスペクト比4:3映像のアスペクト比維持表示モード
フルアスペクト比16:9映像向けのモードで入力映像をパネル全域に表示
ズーム4:3映像にレターボックス記録された16:9映像を切り出してパネル全域に表示
フル1フルと同等。フル2以降が選択できるときに「フル」は「フル1」と扱われる
フル2アスペクト比を無視して1,280×800ドットの全域に映像を表示
フル31,280×760ドットの領域内にアスペクト比を維持しながら最大拡大表示。外周には黒帯の表示領域が出る

 アスペクトモードの切換所要時間は約2.0秒で、一般的な機種と比較すると遅め。

 ベースモデルがデータプロジェクタなので、調整可能な画調パラメータはそれほど多くはなく、調整可能なものも、調整範囲はそれほど広くはない。

 HDMI入力では「コントラスト」「明るさ」しか調整出来ず「色の濃さ」「色あい」「シャープネス」といった画調パラメータはアナログ入力映像に対してしか調整出来ない。

 色温度はケルビン(K)指定ではなく「高-中-低」の3段階の設定。ガンマモードは「グラフィックス」「テキスト」の2種類が選択できる。前者は一般的な映像向き、後者は明暗をはっきりさせたコントラスト重視なモードだ。実際に使ってみた感じでは、後者は「完全暗室にできない時用」のガンマカーブのようで、部屋が明るいときに利用すると映像に締まりが出て見やすくなった。

画質設定メニュー。プリセット画調モードはここで切り換える。リモコンに画調モード切替ボタンを付けて欲しかった画質調整メニュー。調整パラメータは最低限だ

 デジタルズーム機能も備えている。これは、画面上の任意の箇所を拡大表示できる機能で、リモコンには専用の拡大[+][-]ボタンまで用意されており、十字キーによって上下左右拡大箇所を移動させることもできる。ベースモデルがデータ用のVW120Sらしい機能だが、キー操作のたびに約2秒も画面がブラックアウトされ、待たされるので実用的ではない。

 それともう一つ。日本ではあまり使用する機会もないと思うが、480i映像信号が入力されたときに限り、クローズドキャプション(CC)方式の字幕をデコードして表示する機能を備えている。北米製のDVDソフトなどには、DVD規格のサブタイトル(字幕)には対応していなくても、CC字幕だけは記録されているものもあったりするので、そういった特殊なソフトの再生には役に立つ機能かも知れない。


■ 画質チェック~輝度優先画質。1,280×800ドットとどう付き合うか

透過型液晶パネルなので画素開口率は高くはない。色収差もそれなりにででいる

 VPL-BW120Sは、ソニーのホームシアター向けプロジェクタだが、液晶パネルは独自のSXRDではなく、ごく普通の透過型液晶パネルを採用している。ソニー製のパネルとのことだが、実際の投射画素を見た感じでは、開口率はSXRDのようなLCOS(反射型液晶パネル)と比較すると低めで、画素を区切る格子筋の幅は太めだ。

 解像度は1,280×800ドット。正方画素なので、パネル全域に映像を表示したときにはアスペクト比は16:10となる。1,280×800ドットは一部のノートPCなどで採用される解像度だが、ベースモデルがデータプロジェクタであるためこうなっているのだろう。720p(1,280×720ドット)相当の映像が入力されたときには、VPL-BW120Sでは上下に40ドットずつの未表示領域を設けての投射となる。

 1.34mで100インチという、超短焦点構造の光学系が使われているが、フォーカス感はそれほど悪くはない。画面中央でフォーカスを合わせれば、ほぼ全域でフォーカスが合ってくれる。そのおかげか、文字などの精細度の高い情報も見やすい。ただ、格子筋幅が大きいので、大画面投射時には多少の粒状感は感じられる。

 公称最大輝度は2,600ルーメン。これはホームシアター機としてはかなり明るい部類に入る。ランプモードが「高」設定であれば、蛍光灯照明下でも映像の内容はくっきりと見えてしまうほどに明るい。

 公称コントラストは4,000:1。動的アイリス機構は持たないので、ネイティブコントラスト値がこの値になる。LCOS機などと違って、暗部の沈み込みでコントラストを稼ぐのではなく、2,600ルーメンという高い輝度性能の方でコントラストを稼いでいるようで、暗室で見た時には黒浮きはでる。ランプモード「低」にすると幾分かは黒浮きが低減されるが、透過型液晶の宿命か、完全になくすことは出来ない。

ランプモード「低」ランプモード「高」。写真でも黒浮きの違いがよく分かる

 なお、一般的な透過型液晶機における黒浮きは、暗部が光漏れを起因としたグレー寄りになるのが一般的だが、VPL-BW120Sの場合はなぜかやや青に寄った黒浮きになる。ここは気になる人がいるかも知れない。

 「青寄りの黒浮き」といえば、もう一つ、VPL-BW120Sで留意すべき点がある。それは、VPL-BW120Sが採用する1,280×800ドットの液晶パネルに関連した特性だ。一般的な16:9のビデオソースは(冒頭でも触れたが)、VPL-BW120Sでは上下に40ドットずつ未表示領域を作っての表示となる。この際、この上下の黒帯がその青い黒浮きを生じるのだ。16:9スクリーンに投影する際にはこの上下の「青い黒帯」をスクリーン外にクリップアウトして投射した方がいい。

 画調モードによって傾向の増減はあるが、発色は全体的に水銀系ランプの特性を色濃く反映したものになる。具体的には、全体的に黄が強く乗った感じになり、緑が黄緑に寄り、赤が朱色に寄る。青は澄んだ明るい色調に。

 肌色にも黄味が乗るが、画調モード「スタンダード」「シネマ」では、その傾向が幾分か弱まる。映画やドラマなどはこの2つの画調モードがいいだろう。 

 黒の締まりは前述したようにあまりよくはないが、階調表現のリニアリティはさすがソニー、うまく調整されている。暗部にもできる限り色味を残そうという努力が見られる階調チューニングになっているが、暗部に行けば行くほど"青い黒浮き"が待っているため、暗い映像では暗部に青黒い霞が掛かったような見え方になる。

 画面全体が明るい映像、暗部をあまり含まない映像などと相性が良いという印象で、実際に「怪盗グルーの月泥棒」「カンフーパンダ2」などの明るめのCG映画を見てみたが、本機は明部に相当な輝度パワーがあるため、非常に立体感のある映像が得られていた。一方で、「ダークナイト」のような暗いトーンの映画は相性が悪い。夜景のビルのシーンではビルの窓の煌めきよりも、占有面積的に大きい漆黒の闇の方の黒浮きの方が気になってしまう。

 同様の理由で、アニメやゲーム映像との相性も基本的には良いのだが、暗いトーンのコンテンツでは、やはり黒浮きが気になる。逆に言えば、そこさえ妥協できれば、明るい部屋で使える分、活用範囲はとても広い機種だと思う。

 VPL-BW120Sをゲームプレイに使いたいという人も多いと思う。液晶方式ということで気になる残像感だが、奥に進む3DスクロールがメインのFPS(1人称シューティング)やTPS(3人称シューティング)、あるいはレーシングゲームのタイプならば残像らしい残像は知覚されない。縦や横に高速スクロールするタイプのゲームは、倍速駆動なしの液晶テレビや液晶モニタと同程度の残像具合だ。一般的なゲームプレイであれば支障はないと感じる。

 本連載では恒例となっている表示遅延も計測してみた。計測はいつもと同じで、「LCD Delay Checker」を用い、テレビとしては業界最速の表示遅延約0.2フレーム(約3ms)を誇る業界最速の東芝REGZA 「26ZP2」との相対遅延時間を240Hz(約4.17ms)による高速撮影で測定した(写真では左の画面が小さい方が26ZP2)。

 画調モード「スタンダード」「ゲーム」で測定してみたところ26ZP2に対する遅延は18msで、約1フレーム強の遅延が発生していることになる。これはプロジェクタ製品としてはかなり低遅延な部類だ。

画調モード「スタンダード」での遅延測定画調モード「ゲーム」での遅延測定

 「スーパーストリートファイター・アーケードエディション」をプレイしてみたが、特に違和感もなく遊べる。飛び込み攻撃や中段攻撃の見極めのような状況においても、残像でワザが見えないと言うこともない。

■ プリセット画調モードのインプレッション

 いつものテスト画像に加えて、参考までに人物写真も合わせて示しておく。全体的に水銀系ランプの黄味が強く出ているが一部の画調モードではなんとか抑え込めているのが分かるはずだ。

 

【ダイナミック】

 最も輝度が明るい画調だ。肌色がもっとも黄色くなる。明部は飛び気味となり、明るい部屋以外での使用はあまり向いていない。

 

【スタンダード】

 暗部と明部の階調が破綻なく描かれる階調バランスに優れた画調モード。投射映像の情報量も多く万能性の高いモードだといえる。人肌の発色も、全モード中ではもっともよい。

【ゲーム】

 暗部階調を持ち上げ、明部階調も飛ばし気味な画調モード。輝度を最優先にしたもう一つのダイナミックモードという感じだ。黒浮きは強めだが、発色は「スタンダード」に近い調整で、色の破綻はダイナミックよりは少ない。

 

【リビング】

 色調は「ダイナミック」よりで、水銀ランプの特性が色濃くでるので人肌は黄色い。ただし、明部の階調はリニアに調整され、暗部も適度に沈み込められる。彩度はややたかめ。薄明かりの間接照明の環境下では相性がいい

 

【シネマ】

 暗部と明部の両方の階調をバランスよくチューニングした画調モード。人肌もVPL-BW120Sの中ではうまく調整されており、暗室での使用ならばこのモードだろう。スタンダードに並び、常用するのに適している。


■ おわりに~ゲーム用としてオススメ。映画鑑賞用途としては?

 投射距離が短いことの直接的な恩恵は「これまでプロジェクタの導入が難しかった小さめの部屋で大画面を実現できる」と言うことだが、それ以外にもこの短焦点性能は活かせる。それは、例えば任天堂WiiやXbox360のKINECT、PS3のPlaystation Moveのような、立って遊ぶ「モーション入力系ゲーム」と組み合わせることだ。

 プロジェクタは比較的低コストに100インチ前後の大画面が得られることは素晴らしいのだが、一般的なプロジェクタでは「スクリーン・ユーザー・プロジェクタ」という位置関係になり、スクリーンとプロジェクタ本体の間に人が立つと、投射映像を遮ってしまうことになる。そう、そのユーザー(人)の影がスクリーンに出てしまうのだ。一方、VPL-BW120Sは非常に短焦点なので「スクリーン-プロジェクタ-ユーザー」という位置関係で設置することができるので、そうした問題は起こらないのだ。

 圧倒的な輝度パワーで暗室に出来なくてもOK。表示遅延性能も優秀だし、しかも100インチが7万円台で実現出来るとあれば、ゲームモニターとしては上出来だろう。同じソニー製品のヘッドマウントディスプレイのHMZ-Tシリーズが「バーチャルな大画面」ならば「こちらはリアルな大画面」だ。VPL-BW120Sには「リアル」としてのアドバンテージがある。

 ただ、使い込んでいくと、幾つかの要望も思いつく。

 1つは、3D対応モデルのラインナップだ。PlayStation 3は3Dゲーミングを推進している立場もあるので、ゲームモニターとして訴求する場合、とくに3D対応は重要だと考える。

 2つ目は、映画鑑賞(ホームシアター)用として訴求するならば、シネマフィルタなどを適用してもう少し発色を整えるべきだという点。輝度優先の画質設計に不満はないし、黒浮きは我慢できるが、もう少し色が上品にならないと映画は辛い。

 3つ目は解像度。ゲームは過半数近いタイトルが720pなので、現状スペックでも大きな不満は出ないだろうが、映画のブルーレイソフトは1080pがほとんど。1080p対応の競合機が安価になってきていることを考えると、1080pモデルも設定すべきだと思う。

 いずれにせよ、VPL-BW120Sのような超短焦点プロジェクタは、久々にエキサイティングな商品で、評価していて楽しかった。一世代で終わらせず、次期モデル、上位モデルの登場にも強く期待したい。

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VPL-BW120S

(2012年 9月 25日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。