西川善司の大画面☆マニア
第201回
HDRや極薄液晶、8Kなど、CESで見た最新大画面事情
LCOSプロジェクタ、液晶レンズ型裸眼3D、可変フレームレート
(2015/1/16 09:30)
「復元」や「推測」じゃない「リアルなHDR」に向けた取り組み
既に、次世代ブルーレイ規格「ULTRA HD BLU-RAY」(UHD BLU-RAY)の仕様を解説した記事でも触れたが、2015年は、映像規格に「ハイダイナミックレンジ(HDR)」「広色域」の採用が本格化していく流れが強まっており、各社ブースでは、このテーマに関連した展示が目立っていた。
ソニーブースでは、新型4K映像エンジンプロセッサの「X1」を搭載した未発売の2015年モデル、BRAVIA X900C(日本型番では"0"が1つ多いX9000Cとなる見込み、以下同)シリーズが展示されていたが、このX1プロセッサ搭載モデルは、基本的にはUHD BLU-RAY再生時に出力されるHDR、広色域対応映像の表示に対応するとのことであった。
実際、ソニーブース内のHDR表示のデモで用いられていたのは、最上位の直下型バックライトを採用したX940C改造機であった。
パナソニックもUHD BLU-RAYデモや、暗室ブース内に展示されていたHDR、広色域対応映像の表示には、直下型バックライト採用機の未発売のVIERA CX850を用いていた。
直下型バックライトシステムでは、液晶パネルに表示させる映像の明暗分布に連動して、その背面にあるLEDバックライトの光らせ方に強弱を与えて、自発光ディスプレイパネルに近いメリハリの効いたコントラスト表現を行なえる。これを「エリア駆動」または「ローカルディミング」というが、1フレーム内で最大1万:1にもなるコントラスト比を有するHDR映像フレームを表示するには、この仕組みが最適なのは誰にでも想像できることだろう。
それでは、HDR映像コンテンツの表示には必ず直下型バックライトシステム採用モデルが必要になるのだろうか。
この辺りをパナソニックやソニーのエンジニアにうかがったところ「HDR映像を最上質に表示するためには直下型バックライトシステムが最適なのは間違いない」とするものの「HDR表示=直下型バックライトシステム採用必須」という括りにはしないと述べていた。
実際、ソニーのBRAVIAでも、X940Cの下モデルに相当するエッジ型バックライト採用機のX930Cでも広色域対応はもちろん、HDR表示にも対応できるとのことであった。
最近では、エッジ型バックライトシステム採用機でも、短冊状の導光板の分割数に依存した大ざっぱなものにはなるが、エリア駆動に対応したものも多い。映像フレーム内の平均輝度値やピーク輝度値に応じて、バックライトのピーク輝度を適宜変更するだけでもかなり品質の高いHDR表示がエッジ型バックライトシステムでも実現できるだろうとのことであった。
シャープも同様の立場だが、シャープは光漏れの少ないUV2A液晶パネルの製造を軌道に乗せてからのここ数年は、直下型バックライトシステムを採用しても、エリア駆動の採用は見送ってきた経緯がある。しかし、今回のシャープのCESブースにおられたエンジニアによれば、UHD BLU-RAYが仕掛けるHDR映像の表示に際しては、エリア駆動対応型の直下型バックライトシステムを復活させる意志を固めたそうである。
これは、シャープのAQUOSファンにとっては朗報だろう。
CES2015に見た最新プロジェクタ事情
近年、100型以上の大画面液晶テレビが数多く展示されるようになってきたが、価格的には200万円近く、未だ大画面を効率よくホームシアター/リビングに持ってくるにはプロジェクタが一番コストパフォーマンス的に優秀なのは間違いない。
ただ、台数が売れる商品ジャンルでもなく、意外に買い換え頻度も高くないため、最近では新製品ニュースの数も少なくなっている。CESでも同様で、プロジェクタの新製品展示との遭遇率は年々低下傾向にあって筆者は寂しい思いをしている。
そんな中においても、今回のCESで幾つかのプロジェクタ新製品に遭遇したので、ここで紹介していきたいと思う。
まずは、ソニーの4K(4,096×2,160ドット)解像度のLCOS(反射型液晶)パネルを採用したSXRDプロジェクタの「VPL-VW350ES」だ。
これは、2014年9月のドイツIFAで発表された「VPL-VW300ES」の北米モデル。IFAで発表されたものから型番が「+50」されているが仕様に変更はないとのこと。北米では1月内より1万ドルで発売開始予定とことだが、日本での発売スケジュールは告知されていない。
基本スペック的には、日本でも発売されている「VPL-VW500ES」のコストダウンモデルで、4,096×2,160ドット解像度のVPL-VW500ES同一解像度のSXRDパネルを採用しつつも、動的絞り機構を省略し、輝度性能もVPL-VW500ESの1700ルーメンから1500ルーメンに押さえられている。ただし、電動レンズシフト機構などは継承され、広色域「トリルミナス」技術対応、倍速駆動「モーションフロー」対応、超解像処理「リアリティクリエーション」にも対応する。HDMI 2.0対応、HDCP2.2対応も謳われているが、UHD BLU-RAYに採用されたHDR信号や広色域信号には対応していない。日本モデルが遅れて登場するならば、是非、そのあたりへの対応も配慮して欲しいものだが果たして……。
ソニーはこの他、型番未定の超短焦点LCOSプロジェクタ試作機を実動展示していた。こちらは、ズームレンズなどを搭載しない固定焦点タイプで本体に密着設置させた壁やデスクに対して50型相当の映像を投射するもの。
映像パネルはLCOS(反射型液晶)パネルだが、SXRDパネルであることの明言は避けられた。というのも、この超短焦点小型プロジェクタの映像パネル解像度は1,366×768ドットの720p相当どまりなのだ。フルHD解像度未満にはSXRDブランドを与えないという社内規定のブランディングルールがあるため、SXRDといえないらしい。
輝度性能は最近の製品にしては低めの100ルーメン。なお、光源ユニットにはRGBレーザー光源を採用しているとのこと。
「ホームユースを考えると100ルーメンは少し暗すぎるのでは?」という筆者の意見に対しては「最終製品ではもう少し明るくなるかも」とのコメントが。ただ、「ホームシアター向けの高画質プロジェクタ」というよりは「気軽に大画面を持ち運ぶ」ことに価値を見出した製品のため、絶対的な高輝度性能の追求はしていないとのことであった。
本体は生活防水処理がなされ、スピーカーをも搭載しているため、浴室で愉しんだり、ベッドルームで愉しんだりすることも想定されているらしい。これまでのプロジェクタの在り方を覆すような、なんとも楽しげな製品である。
価格は未定だが、2015年内の発売を目標にしているとのこと。
プロジェクタ関連では、この他、LGがユニークな小型プロジェクタ製品「PF1500」を展示していた。
前出のソニーのものと同様に、PF1500も「ポータブルプロジェクタ」というカテゴリで展示されていたが、こちらも実質的には「家庭内ポータブル」を想定したプロジェクタ製品になる。
解像度は1,920×1,080ドットのフルHDで、映像パネルはTI製のDMDチップ。すなわち、PF1500は、単板式のDLPプロジェクタということになる。
光源にはRGBの3原色LEDを採用するが、その輝度出力は1400ルーメン。LEDプロジェクタというと暗いイメージがあったがこれを払拭する高輝度性能だ。ここ最近、家庭照明用や自動車向けヘッドライト用の高輝度LEDの開発が活発化した恩恵もあって、そうした高輝度LED技術がプロジェクタ製品にも応用される傾向が出てきたのだ。
光源寿命は、従来のプロジェクタに採用されてきた超高圧水銀ランプの約10倍の3万時間が謳われている。今後、据え置き型のプロジェクタにもLED光源が採用される未来も近いのかもしれない。
このPF1500は、家庭内ポータブルテレビ的に使えるようにとテレビチューナも搭載。
無線LAN機能を搭載し、Miracastにも対応する。なのでスマートフォンの映像を無線でPF1500に飛ばして再生することも行なえるのだ。DLNAクライアントとしても機能し、メディアサーバー上の映像コンテンツの再生にも対応する。もちろんBluetoothにも対応。
北米での想定価格は1,000ドル前後。北米では今年2月からの発売が予定されている。
「フローティングスタイル」と呼ばれる極薄型テレビデザインを支える技術とは?
今回のCESではシャープが極薄型液晶テレビとして画面サイズ70型、厚さ0.5インチ(1.3cm)の「Super Slim 4K AQUOS」を発表した。画面サイズは70型で、解像度は4Kの3,840×2,160ドット。モデル名は不明だが、2015年内の製品化が進められている。
同時にソニーも極薄型4K液晶テレビとして最薄部4.9mmのBRAVIA「X900C」の65型を展示していた。こちらも解像度は3,840×2,160ドットで、映像プロセッサの「X1」を搭載した2015年発売予定モデルとなる。
どちらも、「ディスプレイ部は最新のスマートフォンよりも薄い」というのをウリにしており、有機ELテレビ並の薄さを液晶で実現できたことに、来場者はもちろん、業界関係者までを広く驚かせた。
このような極薄型液晶テレビはどのような技術的ブレークスルーがあって実現できたのだろうか。
これにはコーニング(Corning)の技術が大きく関わっているという。コーニング社は、スマートフォンからテレビの画面に採用されている頑丈な「ゴリラガラス(Gorilla Glass)」のブランドで有名な光学部材メーカーである。
シャープ、ソニー、両社の極薄型液晶テレビには、そのコーニング社が開発した新素材「アイリスガラス」(Iris Glass)が採用されており、これがこの極薄型構造の根幹部材となっていると言うのだ。
これまでも薄型液晶テレビを構成する場合には、画面端(エッジ)に配置したバックライトから導光板(LGP:Light Guide Plate)を通じて光を導いて画面全体に照射させていた。
この導光板は、従来は樹脂製(プラスチック製)のものを採用するのが一般的であったが、樹脂製のものは素材として強度的に弱いという弱点があった。このことから、テレビ製品として構成する場合にはボディ側(フレーム側)で強度を稼ぐしかなく、すなわち、ボディ形状として、ある程度の厚みを持たせることが避けられなかった。
また、樹脂製の導光板は高湿度環境になると熱膨する特性があり、ある程度この膨張に配慮したボディ設計も必要になる。
展示会等の試作機モデル公開時には、これまでも有機EL顔負けの極薄液晶テレビが展示されたことがあったが、実際の製品で最薄部10mm未満をなかなか実現できなかったのはそうした背景があったからなのだ。
今回、コーニングが開発した「アイリスガラス」とは「極薄型のガラス製の導光板」になる。
ゴリラガラスの技術を応用して開発されたアイリスガラス導光板は樹脂製の導光板よりも薄いわずか厚さ2mmを実現しつつも、標準的な樹脂製の導光板の36倍も硬質なのだ。つまり、ボディ剛性出しにアイリスガラス自体の硬質が貢献するような筐体デザインが可能になったのだ。
さらに、膨張率は樹脂製に比べて90%も低いため、膨張率をほぼ無視してのボディ設計が行なえるという。
光透過率についても、樹脂製のものとほぼ同等性能を実現しているという。
シャープ製の方は、表示面側にガラスを配置しているが、ソニー製の方はガラスを配置していない。この差もあってソニー製の方が最薄部が薄くなっている。
ソニーのX900Cでは表示面側にはガラスを配置せず、液晶パネル自身を表示面側に露呈させ、これをそのまま外枠部とツライチ性を保ったままボディフレームに貼り合わせる、エッジコーティング製法を採用した。
実際に表示映像を見てみるとソニー側のものは、映像が表示界面に浮いて見えるような見え方をする。同様な見え方をするソニー製の液晶テレビの液晶パネルに「オプティコントラストパネル」技術というものがあったが、今回はアプローチこそ違うが見え方はそれとよく似ている。
なお、2社ともに、白色LEDバックライトは画面の下辺側に設置したエッジ型バックライトシステムを採用しているとのことだ。
CESに見る8K事情~今のところは技術展示や業務用提案が中心
今回のCESでは、8K(7,680×4,320ドット)の120fps(120Hz)伝送までをサポートするsuperMHLの実動デモが行なわれたことは既報の通り。
UHD BLU-RAYの規格化によって4Kコンテンツの普及に現実味が増しているが、一方で8Kも実用化にむけての準備も着々と進められている実感もある。
ただ、業界的には、4K市場が立ち上がりそうな今のタイミングで「間髪あけずにすぐに8Kが来る」というメッセージを訴えることにはやや抵抗があるようで、8K関連の展示は「技術デモ」という位置づけか、あるいは業務用途、プロフェッショナル用途を主体とした、いわゆるBtoB色を強めた展示に終始していたように見受けられる。
シャープブースでは120Hz駆動の85型の8K(7,680×4,320ドット)解像度の液晶テレビの試作機を実動デモ。再生映像はNHKが撮影した8K動画コンテンツが中心であった。
この試作機に採用されている液晶パネルの各ピクセルは色深度12ビットの駆動に対応し、バックライトシステムも、青色LEDに緑蛍光体とマゼンタ蛍光体を組み合わせた研究開発段階のものを使用したとのこと。その効果もあって、現時点としては最高レベルのBT.2020の色空間カバー率85%を達成しているとのことであった。
同様にLGブースでも、98型の8K(7,680×4,320ドット)解像度の液晶テレビの試作機を展示。ただし、再生コンテンツは静止画のスライドショーが主体であった。
液晶パネルはIPS型液晶パネルで、2015年モデルのLG製液晶テレビに採用されることとなった量子ドット技術「ColorPrime:NANO SPECTRUM」によって広色域再現性をアピールしていた。
サムスンブースでは、今回のCESでは最大画面サイズの110型の8K(7,680×4,320ドット)解像度の液晶テレビの試作機を展示。
しかもユニークなことに、8K/2D表示と4K相当の裸眼3D立体視表示のデモを交互に行なうものとなっていた。映像は2D,3D共にオリジナルのもので、なかなかの見応え。
液晶パネルは、量子ドット技術が適用された広色域再現対応パネル。これに動的液晶レンズを組み合わせることで、2D表示と裸眼3D立体視状態を瞬間的に切り換えられる仕組みを実現。裸眼3D立体視は、40視点に対応し、見映えとしてはフルHD解像度相当の3D映像として見える。二重像やポッピングは意外に少なく、3D品質も良好であった。
パナソニックブースでの8K関連展示は、大画面なものではなく、あえて55型サイズを採用していたのが特徴的。展示内容の詳細については以前の記事を参照して欲しいが、55型という、近くで見ても一望できるサイズ感でありながら、圧倒的な高解像度表現が実現できるディスプレイ装置が何に活用できるか……というのを来場者に提案して見せるような展示内容であった。
液晶パネルはパナソニック液晶ディスプレイが試作製造したIPS PRO液晶パネルで、DCI-P3やAdobe RGBといった色空間カバー率100%を誇る。輝度値は400cd/m2。公称コントラストは1,500:1。最大表示フレームレートは120Hz。
グラスレスREGZA 55X3が大幅に進化して業務用に再登場?
今年のCESの東芝ブースは、テレビ関連の製品展示はなく、ライフスタイル提案型家電やネット家電、ヘルスケア関連製品などの展示が中心となっていた。
ただ、唯一、テレビの展示っぽいものがあったので「これは何だろう?」と近づいて見てみると、なんと2011年末に発売された東芝REGZA「55X3」ではないか。
55X3といえば、民生向けとしては3,840×2,160ドットの液晶パネルを採用した世界初の4Kテレビである。しかし、当時はその4K解像度を、2D映像表示のためではなく、むしろ裸眼3D立体視のために応用するという、とてもユニークな立ち位置の4Kテレビとして異彩を放っていた。
この頃の東芝は3D立体視にとても力を入れていたメーカーだったのだが、2013年頃から急に3D立体視に対してトーンダウンし、2014年にはついに3Dに対応しないテレビ製品も発売するなどして現在に至っている。
なので、今回の東芝ブースでの55X3との遭遇は、なにか懐かしい顔に再会するような感覚で心癒やされたのだが、担当者によれば、「これは55X3ではない」という。
外観は55X3そのままだし、ブースで行なわれていたデモも裸眼3D立体視なので、どこがどう違うのか分からなかったのだが、担当者によれば、現在はこの新生55X3(のようなもの)は、業務用ディスプレイ新製品として訴求されているのだという。いわゆるBtoBマーケット製品で、訴求対象は主に医療業界とのこと。実際に、ブースでのデモも、医療用のボリュメトリックデータをボリュームレンダリングして回転表示させる内容であった。
映像表示品質は非常に高く、55X3の時よりも品質も上がっているような感じすらする。
実は、この55X3改とも言うべき裸眼3Dディスプレイは、裸眼3D立体視を実現させる仕組みが55X3から変更されているのだ。
55X3では、映像表示用の液晶パネルの上に、アクティブ偏光シートと、レンチキュラーレンズシートを貼り合わせていた。55X3では、アクティブ偏光シートを制御することでレンチキュラーレンズの効果をオン/オフして、2D表示と裸眼3D立体視の表示モードを切り換えていたのだが、2D表示時に、レンチキュラーレンズによる鱗状のギラツキ感が感じられてしまっていた。
一方、今回の裸眼3Dディスプレイでは、映像表示用の液晶パネルの上に、もう一枚、光路屈折制御用の液晶パネルをもう一枚重ね合わせた新構造を採用している。この光路屈折用の液晶パネルは、画素の1つ1つが、いわば入射光を液晶分子の並びで特定方向に屈折させることが可能な「液晶レンズ」になっているのだ。この液晶レンズは、特に「Gradient Index」(GRIN:屈折率分布)レンズと呼ばれる技術で、電極設計と液晶分子の駆動法により、自在な光路制御を行なえるものになる。
今回の裸眼3Dディスプレイに採用された液晶GRINレンズは東芝自身が独自開発したもので、映像パネル中の任意の領域だけを裸眼3D立体視にしたり、2D表示にしたりを動的かつ混在できるという。あるいは、ディスプレイを回転させて横置き、縦置き、いずれの状態でも裸眼3D立体視が可能なのだとか。
また、映像表示用の液晶パネルの前にレンチキュラーレンズが存在しないため、2D表示時でも鱗状のギラツキ感はない。すなわち、2D映像表示品質は55X3よりも高くなっているのだ。
この技術を採用したグラスレスREGZAの新モデルを是非出して欲しいのだが……3D立体視テレビに消極的な姿勢となってしまった東芝に出す要望としては「望み薄」なのだろうか。期待したいものだ。
可変フレームレートを美しく表示する「FreeSync」に積極対応する韓国メーカー
2015年の今年は、映像規格において「HDR表現への対応」「広色域への対応」という二大革命が起きようとしているのだが、未だ1つ重要なテーマの標準化が先送りにされている。それは「毎秒60コマ(60fps/60Hz)基準の表示メカニズムからの脱却」と、「可変表示フレームレートへの柔軟な対応策」である。
現在の映像表示メカニズムはブラウン管時代から引きずってきた60Hz(欧州は50Hz)の定期的な表示レート基準がベースになっている。もちろん、映画等の24Hz、30Hzへの対応はなされたが、基本的には、固定フレームレートへの表示対応に留まっている。これを実現してこれなかったのは、映像送出側と映像表示側(≒ディスプレイ機器)でネゴシエーションしながら表示する仕組みの規格化を行なってこなかったからだ。事の発端は、アナログ時代の映像伝送が、基本、映像送出側から映像表示側への一方通行のまま規格化され、これをベースに進化させられたからだ。
実写映像はともかく、CG(PC画面含む)、アニメ、図版などは止め絵が多く、これを表示側でホールドさせる仕組みを実装するだけでも映像データ伝送量を削減できるし、コマ数の多い時には高フレームレート、少ないときには低フレームレートで表示できればデータ伝送効率はさらに向上する。
現在主流の固定フレームレート表示前提の表示メカニズムを採用するディスプレイ機器に対し、可変フレームレートの映像を送出するれば「テアリング」(英記Tearing。「ティア」は「涙」、「テア」が「破れる」。よってテアリングが正しい読み)や、「カク付き」(英記Stuttering)といった現象が発生する。
テアリングは、ディスプレイ機器側が、固定フレームレートで表示中なのに、その表示タイミングを無視して次の映像がディスプレイ機器側に送出されてくることで表示映像が分断されるように表示されてしまう現象だ。
カク付きは、ディスプレイ機器側が、固定フレームレートで表示したいのに、次の表示映像フレームがやってこないことで、現在表示中の映像フレームを引き続き表示することになって起きる現象だ。表示更新タイミングが不定期となって動画としてカク付いて見えてしまうのだ。
これらの現象はディスプレイ側の60Hz固定表示フレームメカニズムをやめて、映像送出側の都合に合わせた柔軟な映像表示メカニズムに切り換えれば解決できる。
この解決に向けて、GPUメーカーのNVIDIAとAMDがそれぞれ独自の解決技術を提案しており、NVIDIAのものが「G-SYNC」、AMDのものが「FreeSync」となる。
この2つは、ハードウェアレベルでの技術的実装様式は微妙に異なるが、解決方策の基本的な考え方としては両者に相違はない。また、両者共にDisplayPort端子向けの規格となっていることも共通だ。
今回のCESでは、サムスンとLGがG-SYNCではなく、FreeSyncに積極対応してゆく姿勢をアピール。特にサムスンは「2015年モデルの4Kディスプレイ製品でDisplayPort端子を実装したものは全てFreeSyncに対応する」と宣言。
世界市場シェア最大手の打ち出した方針に業界が震撼することとなった。
LGブースでは、横長アスペクト比21:9の34型、2,560×1,080ドットのFreeSync対応モニタ「34UM67」を展示。
「34UM67」は、ゲームユーザー向けに配慮した低遅延モードを搭載しているのも特徴で、公称値で遅延を9.5ms(60Hz時0.57フレーム)にまで抑え込んでいる。LGの液晶ディスプレイとしてはこの値は最速レベルとのこと。価格、発売時期共に未定。
サムスンブースでは28型のUE590と27型のUE850の16:9の4K(3,840×2,160ドット)解像度のFreeSync対応の2機種を展示。
UE590はTN型液晶採用モデルの4Kモニタとしては入門機に相当するモデルで、輝度は370cd/m2。コントラスト比1,000:1。DisplayPortの他、HDMI 2.0端子も装備。価格は未定だが、28型のUE590と同スペック、FreeSync未対応の前モデル28型のUD590が700ドルだったのでこれに準じた価格になると思われる。北米での発売時期は2015年春。画面サイズは24型(正確には23.6型)もラインナップされる予定だ。
UE850は、黒の締まりに優れたVA型液晶パネルを採用した上位機モデルで、その他のスペックはUE590と大差はない。価格は未定。北米での発売時期は2015年春。画面サイズは24型(正確には23.6型)、32型(正確には31.5型)もラインナップされる。
ライバルのNVIDIAのG-SYNC対応製品は、台湾系メーカーのBenQやAcerなどが対応製品を積極的にリリースしており、図らずも、韓国勢(FreeSync陣営)、台湾勢(G-SYNC陣営)といった図式ができあがりつつある。
液晶テレビにも4Kモデルに対してはDisplayPort搭載に積極的なパナソニックは、この「G-SYNC対FreeSync」の戦いにおいてどちらに付くのかが注目されるところである。