西川善司の大画面☆マニア
第190回
4K REGZAは広色域+ハイダイナミックレンジで完成形に。東芝「58Z9X」
(2014/6/5 10:00)
4K元年と言われた2013年は、各社から4Kテレビが発売されたが、今年、2014年は各社から、さらなる4K熟成モデルが続々と登場している。今回取り上げるのは東芝の4K REGZA「Z9X」だ。REGZAの「Z」型番モデルは最上位機シリーズで、2013年モデルから4Kモデルには末尾に「X」型番を付けていることから、今回紹介する「Z9X」は4K REGZAの最上位モデルという位置づけになるだ。
Z9Xシリーズは、50/58/65/84インチの4モデルがラインナップされているが、今回評価したのは58インチの「58Z9X」だ。実売価格は43万円前後。
設置性チェック~驚愕の"狭額"縁設計
設置スペースの関係で、今回の評価では筆者私物のREGZA 55ZG2(2011年発売の55型。ディスプレイ部寸法:130.4×78.5cm)の前に置いたが、58型の58Z9Xの方が画面サイズが大きいにもかかわらず、外形寸法は58Z9Xの方(ディスプレイ部寸法130.2×76.9cm)が小さい。
これは、ボディの狭額縁化が進んだためだ。つまり、いま数年前の55インチが置けているスペースには58インチが置けるということ。買い換えの際には、こうした数インチの画面サイズアップを検討するといいだろう。
かなりの狭額縁デザインの58Z9Xだが、実際に額縁の幅を実測してみたところ上下左右の全てが約14mmであった。下辺は電源スイッチパネルの部分だけ盛り下がっているので、この部分も入れると下辺は約26mmになる。それでも十分に狭い。また、額縁部分はつや消し塗装になっており、周囲の情景や天井照明の映り込みも押さえられている。
スタンド部を取り付けた外形寸法は130.2×30.4×81.4cmm(幅×奥行き×高さ)。ディスプレイ部の厚みは7.1cm。55ZG2と比較するとスタンドの背が低く、ディスプレイ部がかなり設置平面に近い。距離にして約4.5cmで、BDビデオソフトのパッケージが4つ入る程度の隙間しかない。重心を低くするためなのか、このZ9Xのように近年のテレビ製品は他社製も同様に低背スタンドが主流となっている。
重量はスタンド込みで約21kg。重さ的には一人で運べないこともないレベルだが、画面サイズが大きく、筆者の場合、"持つ"という行為自体が難しかったので二人で運搬する方がいいだろう。
スピーカーユニット自体は先代Z8Xモデルで採用された3.0cm×9.6cmの角形フルレンジユニットをそのまま継承している。Z8X開発時に新採用したというこの「ラビリンス型バスレフボックス」構造ユニットはパワー感のある低音出力が売りで、実際、ウーファユニット無しにもかかわらず、楽曲等を鳴らしたときのバスドラムの音も力強かった。
スピーカーユニットはディスプレイ部の左右下部に下向きに実装された、いわゆるインビジブル型デザインだが、ハイハットやシンバルのような高音の輪郭もそれなりにはっきりしていることに気がつく。これは設置平面に打ち付けた反射音の特性を低音から高音までの周波数特性をフラットに補正する「レグザサウンドイコライザープロ」による効果だと思われる。
定位感も良好。出音は下向きに出力されているにもかかわらずちゃんと画面中央付近から聞こえてくれていた。ただ、実際にフラット特性な聴感が得られるのはある程度音量を上げてからと感じた。なお、Z9Xではサウンド周りの設計をリファインしたことで最大出力もZ8Xに対して向上した。58インチで比較すると58Z8Xが出力20W(10W+10W)だったのに対して58Z9Xは出力30W(15W+15W)に向上している。音量を大きめにできる視聴環境であるのであれば、58Z9Xはやや大きめの音で楽しんだほうがいいかもしれない。
定格消費電力は407W、年間消費電力量は217kWh/年。これはこの画面サイズの液晶テレビとしてはかなり大きい。本機のバックライトシステムが、多量のLEDを液晶パネルの背面に配した直下型LEDバックライトシステムを採用したためと思われる。
接続性チェック~HDCP 2.2&HDMI 2.0対応。2,560×1,440/60Hz入力にも対応
接続端子は正面向かって左側側面と左側背面に配置。HDMI入力端子は全部で4系統あり、その全てがHDMI 2.0相当の4K/60Hz入力に対応する。
背面側にHDMI 1/2、側面側にHDMI 3/4があり、全てのHDMI端子がDeep Color、x.v.Color、HDMI CECに対応する。なお、HDMI 1だけがARC(オーディオリターンチャネル)対応、HDMI 3だけがHDCP 2.2対応、MHL対応となっている。6月より4K放送の試験放送が始まったが、4K放送ではHDCP 2.2が用いられるため、HDCP 2.2準拠の4KチューナーをHDMI 3に接続する必要がある。
REGZAは、PC入力対応にも力を入れているが、Z9Xでもそのコンセプトは継承され、幾つかの新機能が搭載されている。
PCとの接続にはHDMI端子を利用することになるが、その際、3,840×2,160ドットの4K/60Hz表示だけでなく、2,560×1,440ドットの60Hz表示にも対応したのだ。これは実は昨年、筆者が東芝側にリクエストした機能である。
PCゲームは4K対応化が進んでいるが、そのPCに搭載されているGPU性能によっては3,840×2,160ドット解像度ではフレームレートが上がらない場合がある。「フルHDよりは高解像度でプレイしたいが、4K解像度で快適にプレイするのが難しい」と言ったときに活用したくなるのが16:9アスペクトでフルHDよりも縦横1.333倍高解像度な、2,560×1,440ドットモードだ。
フルHDは約200万画素、4Kは約800万画素なわけだが、2,560×1,440ドットは約370万画素なので4K解像度レンダリングよりは大分GPU負荷は少なくて済み、それでいてフルHDよりはかなりの高解像度映像になる、ここ最近のミドルアッパークラスのGPUには相性のいい解像度なのだ。
筆者自身がPCゲームファンなので東芝にリクエストした機能なのだが、通常のWindowsデスクトップ画面を2,560×1,440ドット表示しても使いやすい。Web画面などを表示した際にも、フルHDよりも高精細で広領域の表示が行なえつつ、表示が細かくなりすぎないのだ。
84インチモデルともなれば4Kデスクトップ表示を行なっても「細かすぎる」という実感はないかも知れないが、58インチクラスだと視距離1~2メートル以上ではややそう感じる。この2,560×1,440ドットモードは、50インチや58インチといった画面サイズのモデルでは大きさと高解像感が丁度いいバランスとなり、視距離1~2メートルでWindows画面がとても使いやすい。
ちなみに筆者のテスト環境にあるNVIDIA GeForce GTX780TiはHDMI2.0未対応なため3,840×2,160ドットでは30Hz出力にしか対応出来なかったのだが、2,560×1,440ドットでは60Hz表示が行なえた。
さて、PCやゲーム機との接続で問題となるHDMI階調レベルの設定は「機能設定」メニューの「外部入力設定」-「RGBレンジ設定」から行なう。最近は「オート」モードが賢いのでそれほどお世話になる機会も減ったが、いざというときに設定できるというのは心強い。
PCやゲーム機との接続で問題となるもう一つの要素「オーバースキャン」と「アンダースキャン」の切り替えはZ9Xでも設定はできるのだが、以前のモデルと比べると、設定メニューが深い階層に追いやられてしまった。[サブメニュー]を開き、[その他の操作」-「画面サイズ切換」-「フル」から「オーバースキャン」と「ジャストスキャン」(アンダースキャン)の選択で切り換えることになる。
アナログビデオ入力はコンポジットビデオ入力端子の1系統のみ。このビデオ入力端子とともにアナログ音声入力も備えているが、これはHDMI 2用の音声入力端子としても排他利用が可能となっている。音声関連でいえば、AVアンプやサウンドバー製品との接続に用いる光デジタル音声出力端子が背面に、ヘッドフォン端子が側面に実装されている。
USB端子が背面に3基、側面に1基あるが、それぞれ用途が細かく分かれている。背面側のUSB-A、USB-Bは、USB 3.0端子で、タイムシフトマシン録画用HDDを接続するためのもので、USB-Cは衛星放送用タイムシフト録画機能であるタイムシフトプラス1用、あるいは通常録画用ハードディスク接続用となる。側面側USB端子はUSBキーボード、デジカメ、USBメモリなどのその他のUSB機器を接続するためのもの。HDDは市販の東芝社外製品も利用出来るが、今回の評価では背面に合体させられる東芝純正品の「THD-450T1A(4.5TB)」が搭載されていた。
この他、SDカードスロット、LAN端子、3D立体視用のトランスミッタ接続端子がある。
1つ残念なのは、3D立体視が完全オプションになってしまったことだ。最近は、Bluetoothオーディオ対応などのために、テレビ本体側にBluetooth機能を搭載するメーカー/機種が増えており、Bluetoothベースの3D立体視対応が主流になりつつある。REGZAはBluetoothに関してはあまり前向きではなく、なおかつ3D立体視対応に関してもそれほど積極的ではないため、こうした判断になったようだ。
たしかに3D立体視の放送番組は殆ど無いが、ブルーレイの映画に関してはラインナップが充実してきているので、せめて他社と横並びのBluetoothベースの3Dメガネ別売程度の対応までは立ち戻って欲しい。
操作性チェック~リモコンのデザインを一新。電子番組表が4Kフォント対応で高精細に
リモコンはデザインがついに2014年モデルのREGZAからデザインが変更された。
チャンネル切換用の数字キー、音量上下操作ボタン、地デジ/BS/CSといった放送種別ボタンなどのテレビとしての基本操作系に関しては従来のリモコンから大きな変更はないが、それ以外はかなり大胆な変更がなされている。
例えば、以前はスライド式の蓋下に[録画][字幕][番組説明][音声切換][2画面][設定]といったボタンが存在したが、新リモコンでは、このスライド式の蓋を廃してしまった。[2画面]や[設定]といったボタンは前面に移動させられたが、それ以外のボタンは廃止され[サブメニュー]ボタンを押して開かれるメニュー階層下に追いやられてしまった。筆者は比較的[番組説明]と[字幕]の使用頻度が高かったので少々残念な変更と感じている。
それ以外に、突発的な録画開始が行なえる[録画]ボタンも廃止された。その他の再生制御ボタンは健在なだけに、初心者ユーザーは戸惑うかも知れない。「タイムシフトマシンで(ほぼ)全チャンネル録画がなされているから不要」という判断だと思うが、衛星放送などは、チャンネルザッピングでたまたま見かけた番組を録画したくなることがある。もちろん、番組表を開き、その録画対象番組をポイントして[決定]ボタンを押して録画操作を選べば録画は行なえる。ただ、年配のユーザーなどがそうした操作系を見つけ出せるかどうか心配だったりもする。
全体として、新デザインリモコンは東芝のアイデンティティとも言えるタイムシフトマシン関連の操作ボタンを充実化させている。
タイムシフト録画したコンテンツを電子番組表風に表示してくれる[タイムシフト]ボタン、ザッピングで見始めた番組を最初から見ることが出来る[始めにジャンプ]ボタン、ユーザーの好みの番組を自動的にオススメしてくれる[ざんまいプレイ]ボタン、検索ワードに関連したシーンをリストアップしてくれる[シーン検索]ボタンなどなど、これまでメニュー階層下にあったり、あるいは分散して存在していたタイムシフトマシン関連操作系を分かりやすく集約して配置して使いやすくしたことは高く評価したい。
その他、筆者が使っていて個人的に気が付いた点としては、先代までのレグザリモコンの特徴でもあった「二重の十字キー」の各ボタンの配置が変わったこと。
レグザのリモコンはカーソルを1ステップずつ動かす方向ボタンと複数ステップ動かす方向ボタンが四方向に立ち並んでいるのだが、以前までのモデルのリモコンではこの1ステップボタンと複数ステップボタンが若干離されて配置されていた。なので、ブラインドタッチ操作したときにも誤操作をしにくかったのだが、新リモコンは隣接しているのでミスタッチをしやすいのだ。番組表内をカーソル移動してスクロールさせていると、ミスタッチで一気にジャンプしてしまうことが多々あった。親指が大きい男性だと特にこうしたミスタッチを起こしやすいかも知れない。ここもリファインを望みたいところ。
アスペクトモード(画面サイズ)の変更が、なかなか厄介で、新設された[サブメニュー]ボタンを押してサブメニューを開き「その他の操作」メニュー階層から選ぶ必要がある。以前までのモデルではクイックメニューの最上階層にあったので、Z9Xではやや変更操作が面倒になった。レグザの場合、アスペクトモード(画面サイズ)設定メニューは、ドットバイドットモードの設定、オーバースキャン、アンダースキャン(ジャストスキャン)の選択、各種ゲームモード向けのスケーリング設定などを司っているので、ゲームモニターやPCモニター的に使っているユーザーは変更頻度が高い。ここもリファインを望みたいポイントだ。
電子番組表は、筆者も感心してしまったほどの改良がなされている。電子番組表が4K解像度を活かした高精細表示モードを備えたのだ。
従来のフルHDモデルもZ8Xまでの4K REGZAも、番組表表示は基本「7チャンネル×6時間」表示だった。ところが、新しいZ9Xでは高精細フォントの採用で、なんと最大で「9チャンネル×12時間」表示までを可能にしたのだ。もちろん「9チャンネル×12時間」表示状態は視距離2メートルでは58インチモデルでは高精細すぎて見にくいが、近づいて見ればその情報量に圧倒される。この「9チャンネル×12時間」表示モードには、それこそ「わざわざ近づいて見たくなる」ほどの良好な一望性があると感じる。
従来の「7チャンネル×6時間」表示モードも選択でき、その際は文字解像度が上がり、なおかつマス内に表示される文字量も増加するので、こちらはこちらで捨てがたいモードである。
なお、タイムシフト番組表も同様の4K解像度を活かした表示に改良されており、「6チャンネル×12時間」や「7チャンネル×12時間」(タイムシフトプラス1併用時)の表示に対応していた。
電源オンから地デジ放送の画面が出てくるまでの所要時間は約2.5秒。なかなかの早さ。地デジ放送のチャンネル切換所要時間も約2.5秒。一瞬画面がブラックアウトするのが気になるが、標準的な早さと言ったところか
HDMI-HDMIの入力切換所要時間は約3.5秒。これは先代モデルまでと比較すると若干遅くなっている。
アスペクトモード(画面サイズ)のバリエーションについてはZ8Xと同じ。詳細については本連載58Z8X編を参照して欲しいが、フルHD(1,920×1,080ドット)映像の1ピクセルを縦横2×2の4ピクセルで描画する「ネイティブ」モードや、4,096×2,160ドット映像入力時の特別なアスペクトモード2つもちゃんと搭載されている。1つは両端の128ドットをカットして3,840×2,160ドット化して表示する「4Kフル」、もう一つは4,096×2,160ドット画面のアスペクト比を維持したまま3,840×2,025ドットに圧縮表示する「4Kノーマル」だ。
画質チェック~ハイダイナミックレンジ復元+色域復元を新搭載
Z9Xシリーズは、最大画面サイズの84インチモデルがIPS液晶パネルを採用している以外は全てがVA液晶パネルとなっている。つまり、今回評価した58Z9XはVA液晶になる。
解像度は3,840×2,160ドットのフルHD(1,920×1,080ドット)4面分のリアル4K解像度となっている。
バックライトは白色LEDで、これを液晶パネルの背面に配した直下型バックライトLEDシステムを採用している。フルHDモデルのREGZA Z8が、55X3以来の直下型バックライトモデルと言うことで話題になったが、Z9XのバックライトシステムはこのZ8の基本設計を踏襲したものになっている。
白色LEDの個数については非公開だが、同画面サイズのZ8Xシリーズと比較してZ8Xシリーズでは増量されているとのこと。輝度に関しては最大700cd/m2を達成。一般的な液晶テレビは400cd/m2前後なので、Z9Xシリーズはそれらの1.75倍の明るさを出せる潜在能力を秘めていることになる。
実際に「おまかせ」「あざやか」といった画調モードで表示映像を見てみると、たしかにかなり明るいのが実感できる。それこそ筆者の場合、55ZG2の映像を見慣れていることもあって、体感として2倍近く明るいのではないかと思ったほど。もちろん、「映画」モードのように暗室での視聴に向けた画調モードもあるので、常に700cd/m2で輝き続けているわけではないのだが、日本の蛍光灯照明下の明るいリビングには相性が良い輝度性能であることは間違いない。
さて、白色LED自体もZ8に採用されていたものと同系の広色域タイプだそうだが、LEDの蛍光体の改善と液晶パネル側のカラーフィルターとの総合的なチューニングを進めた結果、DCI(デジタルシネマイニシアチブ)規格色域をほぼカバーできるほどに再現色域の拡大に成功したとしている。なお、左右両端に白色LED光源を配していたエッジ型バックライトシステム採用のZ8Xに対して、Z9Xは色域カバー率が約30%も向上しているという。4Kや8Kなどを想定した次世代映像規格の「ITU-R BT.2020」規格の広色域表現にも対応しているそうだが、現状、対応コンテンツはない。
最も身近な広色域コンテンツといえば、ソニーが発売している「Mastered in 4K」ブランドのx.v.Color収録されたブルーレイソフトや、パナソニックが提唱するMPEG-4 MVCの仕組みを応用して追加色情報を記録した「マスターグレード・ビデオ・コーディング(MGVC)」ブランドのブルーレイソフトがあるが、東芝によれば、Z9Xの広色域性能はそうしたソフトの再生にも威力を発揮できるとのことであった。
ただ、現状のブルーレイソフトの再生においても、今回の広色域性能は効果を発揮できるように映像エンジン「レグザエンジン CEVO 4K」がファインチューニングされたとしている。この新機能には「4K広色域復元」という機能名が与えられているのだが、筆者個人としては今回のZ9Xの強化された画質性能のなかでもかなりのホットトピックとなるものだと思っている。
実際に見慣れたテスト映像を見てみても、「ああ、広色域だなぁ」と感じるよりも「あ、リアルだな」と感じる。
上の写真は、色域復元を差が分かりやすい部分を切り出すように撮影してみたもの。写真でもその相対的な差は見て取れる。実際の表示はもう少し上品で、質感がリアルに見える。
これまで、RGB-LEDを採用したモデルなどは、その広色域性能ぶりをアピールするために、sRGB、BT.709といった従来の標準色域に圧縮、丸められた色表現を線形補間的な射影アルゴリズムで広色域にマッピングしていたため、みるからに「色が濃い」「彩度が高い」といった印象を見る者に与えていた。こうした画調は「濃い口のスープ」のようなもので、短時間見る分には「旨い」と感じられるが、映像鑑賞のような長時間映像を見続ける向きには刺激が強くて飽きが来やすい。
今回のZ9Xの広色域性能「4K広色域復元」にはそうした不自然さはなく、「色が濃い」「彩度が高い」というよりは「リアリティがある」という印象を持たせる。
この秘密について東芝に伺ったところ、東芝が最初に2008年のREGZA 7000型番で搭載した「超解像技術」を開発するにあたって行なったことを、「色復元」に対しても行なった、という。超解像技術の開発の時にも、失われた解像度情報を復元するために、現実世界を撮影したカメラがどのように無限大解像度の現実世界情景を有限解像度の映像にまとめるのかを研究したというが、今回は、DCI色域で撮影することができるカメラに対し、現実の情景を撮影した時にどういう色データに置き換わるのかを解析したというのだ。
さらに言えば、DCI色域の映像が、sRGB、BT.709といった現行の標準色域にどう圧縮されるのかをも解析したということである。sRGBやBT.709での色表現が、もともとはどのあたりの色だったのかを逆追跡することで、非線形な色域マップを構築したわけだ。
色域マップ(東芝では「広色域復元データベース」と呼称している)は、64軸の色座標からなり、各明度に応じた射影値テーブルを持った構成になっている。データベースとしてのエントリ数は6,144項目だとのことで、つまりは各明度に付き96エントリがあると推察できる。
最明部においては、単純な色域拡大を行なってしまうと、ハイライト部が自発光表現のように見えてしまうそうで、このデータベースはそうしたアーティファクト(エラー)の抑制にも繋がっているという。
実際の表示映像では人肌などは過度に赤味などは強化されておらず、透明感が増したように見える。
有彩色の植物や野菜、果物は超解像による高解像度とはまた違った色ディテールの顕在化などもあってリアルに見える。たしかに、赤や緑などの原色は、彩度が上がったようにも見えるが不自然さはない。不自然さを感じさせないのは、ただ、彩度が上がっているだけでなく、陰影やハイライト部分の色に不自然さがないためだろう。人肌もそうだし、植物も、金属加工物のような人工物もそうなのだが、ハイライト部分は鋭く見えながらも
その周辺の質感表現にも破綻がないこともリアルに見える要因かも知れない。
ちなみに、「微細テクスチャー復元」「輝き復元」「絵柄解析・再構成型超解像技術」といった機能はZ8Xからそのまま継承されているようだが、今回の「4K広色域復元」の搭載が、それらの効き方をもより洗練させたものにしているのかもしれない。
金属の質感や印刷顔料の色彩感もリアルに見える。ただし、上記のような写真では伝わらないのだが……
REGZA Z8で筆者も感動させられた「ハイダイナミックレンジ復元」は今回のZ9Xにも新搭載となった。
sRGBやBT.709といった現行標準の映像信号規格では色だけでなく、輝度も圧縮されている。現実世界では概算で「明」と「暗」のエネルギー格差は「1兆(10の12乗):1」と言われている。これを記録するためには120dBのダイナミックレンジの記録体系が必要になるが現在のRGBが各8ビット深度の映像信号では24dBしか記録できない。これでは困るので現実世界の120dBのダイナミックレンジを24dB記録体系に押し込む必要が出てくる。これはつまり単純計算で「10^12÷10^2.4」すなわち約40億分の1に圧縮して記録することになる。まぁ、人間の目やカメラも「絞り」機構などを使って現実世界を見ているので、120dBのダイナミックレンジを見ているわけではないため、実際にはここまで圧縮されているわけではないのだが、いずれにせよ、見ている映像はかなりダイナミックレンジが圧縮されてしまっていることはイメージできるはずだ。
Z9Xの「ハイダイナミックレンジ復元」では、映像信号中の一定以上の輝度(具体的には80IRE以上)を、700cd/m2の輝度パワーを用いて再現することで、現実世界の情景のダイナミックレンジを疑似的に再現する。
実際の映像では、同一フレーム内に明暗差が激しい表現が同居しているときなどに威力を感じる。特に分かりやすいのは室内や乗り物内のシーンで窓などから日中の屋外が見えているようなシーンだ。こうしたシーンの場合、主題は室内、車内の方なワケだが、垣間見える明るい屋外の情景が鋭い明るさで描写されていると、高いリアリティが感じられひいては臨場感も増す。ボケ味を利用した遠近表現においても、近景側の鋭いハイライト、あるいは遠景側の撮影レンズの絞り形状のボケ味が鋭く輝くのが感じられると、その空間の実景を窓枠から覗いているような錯覚にも陥る。
「ハイダイナミックレンジ復元」的なアプローチは、ソニーBRAVIAでも採用に至っており、今後、映像表現技術の流行となるかも知れない。
東芝によれば、この「ハイダイナミックレンジ復元」は「デジタル放送番組の方がうまくハマってくれる」とのことだ。また、「映画ブルーレイなどは過度にコントラストが強調されてしまうことがある」とも説明していた。これは、映画ブルーレイなどはsRGB、BT.709の表現系の中で、よく見える映像にポストプロダクションで調整がなされているため。映画ブルーレイでは、24dBのダイナミックレンジに圧縮して詰め込んでいるのではなく、24dBのダイナミックレンジ内でよく見えるように映像を最適化している(あるいは24dBの中で効果的に見えるように演出している)ので、これを勝手にダイナミックレンジ拡張してしまうと不自然に見えてしまうと言うわけだ。実際、「ダークナイト」などのブルーレイでは、見た目として明部の伸びが鋭くなりすぎてコントラスト感が強調され過ぎてしまうことがあった。
例外はあるが、たしかにカメラで撮影して編集しただけの、デジタル放送のテレビ番組映像などと組み合わせた方が、この機能はうまくハマる。
ちなみに、プリセット画調モードの「映画プロ」では「ハイダイナミックレンジ復元」はオフになるので、暗室で映画を楽しむ際にはこうしたモードを利用した方が良いかもしれない。
4Kテレビの根幹技術とも言える「2K→4K変換」を司る超解像技術については、Z9Xも安定のREGZA品質で不満はなし。デジタル放送系もブルーレイも違和感のない4K表現を実践してくれている。画面全体を均一に超解像化するのではなく、ピンぼけ箇所やグラデーションについては超解像処理を行なわないか控え目にして、高周波表現に対してのみ超解像処理を行なう「絵柄解析・再構成型超解像技術」は、視力が向上したかのような見え方を実現してくれる。映画コンテンツはもちろんだが、ゲームなどにおいても効果が高かったので積極活用したいところ。
デジタル放送系に関しては、輪郭部などに対しては適切なノイズフィルタでノイズ低減し、超解像処理適用外とする「デジタル放送ノイズエリア解析超解像技術」が新搭載となっている。これは、ノイズフィルタで低減した輪郭部のモスキートノイズを超解像処理で再び先鋭化してしまうアーティファクトに対する対処的な機能で、言って見れば映像エンジンのファインチューニングに相当するものだ。パッと見、正直その効果は微妙で分かりにくいのだが、視距離が近いユーザーには恩恵があるかもしれない。
REGZAは、最近ではテレビとしてだけでなく、筆者のようにモニター的に活用しているユーザーも増えている。東芝としてもそのあたりのユーザーからのニーズに応える製品開発をしてきており、前述の2,560×1,440ドット対応などはその最たる例なのだが、これ以外にもZ9Xではモニター的活用ユーザーのための新機能が搭載されている。
その1つが、プリセット画調モード「モニターD93」と「モニターD65」だ。
前者は色温度9300Kを設定したマスターモニター再現モード。PCディスプレイや日本の放送局のマスターモニターの表示特性を再現したもので、日本製のビデオコンテンツなどはこのモードとの相性がいい。後者は色温度6500Kのマスターモニター再現モードで、洋画映画コンテンツなどはこちらとの相性がいい。
それと、かなりマニアックな機能なのだが、1080p解像度の4:4:4クロマフォーマットの映像をHDMI入力したときに限り、「1080p画質モード」設定で「ピュアダイレクト」という設定が選べるようになった。これは、従来の映像エンジンの処理パイプラインで入力映像を10ビット深度でキャプチャしてから画質補正を行っていたものを、フル12ビット処理とするもの。このモードの時にはノイズ低減処理関連は全てオフになり超解像処理の一部(微細テクスチャー復元など)、倍速補間フレーム挿入もオフになる。このモードは、ノイズと無縁なベースバンド映像が入力された、と想定して画像処理を行なうモード……という認識でいい。効果としては、映像処理の際の演算精度が2ビット分、すなわち4倍高精度になるのだ。東芝の説明では「Mastered in 4K」「MGVC」規格のブルーレイなどの視聴の際に利用するといいとのことであった。
なお、全画調モードで「ピュアダイレクト」モードはデフォルトでは「オート」になっており、前出の「モニターD93」モードと「モニターD65」モードは10ビットのパイプラインとなるため、「ピュアダイレクト」モードは選べない。
「映画プロ」モードでは「ピュアダイレクト」が選べるので、実際の所、映画ブルーレイを高品位に楽しみたいという際には画調モードを「映画プロ」モードにした上で「ピュアダイレクト」モードを選ぶといい…ということになるだろうか。
補間フレーム挿入による残像低減技術はZ9Xシリーズでは新たに「スムーズダイレクトモーション480」という機能名に更新された。具体的には、動き検出精度を上げたそうで、従来は「補間すべき対象」の認識にある一定量のフレーム数が必要だったものを、その必要フレーム数を低減することに成功したのだという。番組の終了時に横スクロールで出てくる制作者クレジット表示において、最初の出始めが60fpsぽい表示なのに、数名の名前が出てきたところで突然補間が始まって120fps的なスムーズな表示になることが従来機ではあった。こうしたアーティファクトがZ9Xでは低減させられているのだ。
ただ、補間フレームの生成アルゴリズムには大きな進化はないようで、いつも行っている「ダークナイト」冒頭のビル群飛行シーンで相変わらず左奥のビルにピクセル振動が出てしまっていた。最近は競合機が補間フレーム品質を上げてきているので、ここはもう少しがんばって欲しいところだ。
ゲームモードについても触れておこう。
REGZAと言えば、国産テレビ製品では最も低遅延に力を入れてきたメーカーだ。昨年、最低遅延の称号はソニーのBRAVIA W650Aシリーズの0.1フレーム(60Hz時)に渡ったようだが、これはW650Aが倍速駆動なしモデルだからこそ実現した値だ。倍速駆動を搭載したテレビでは、補間フレーム生成を行なう都合上、1/120秒分(=60Hz時の0.5フレーム時間に相当)のフレームバッファリングが必要なため、原理的に0.5フレーム(60Hz時)の遅延が避けられない。
東芝としては「業界最速の低遅延」の称号が奪われたのが相当悔しかったのだろう、倍速駆動搭載モデルでの業界最速をZ9Xで目指したというのだ。
Z9Xでは、新「ゲームモード」に限り、映像処理パイプラインの前段をジャンプさせる仕組みを開発し、ほとんど理論値最短の0.5フレーム(60Hz時)遅延に近い0.6フレーム(60Hz時)を実現した。時間にして約10ms。
この最低遅延が実現出来るのは、入力映像が1080p、720p、4K、2,560×1,440ドットに限られ、「コンテンツモード」を「HDゲーム」ないしは「カラオケ」に設定する必要があるが、PS3、Xbox360、Wii UはもちろんPS4、Xbox One、PCなどのHDゲーム機と組み合わせる際にはそれほど厳しい条件でもない。
実際に格闘ゲームなどをプレイしてみたが、全く違和感はなし。というか、この0.6フレーム遅延は超解像処理ありでも実現されるのがすごい。
なお、倍速駆動補間フレームありの時の表示遅延(「ゲームスムーズ」モード時)も約1.15フレーム(60Hz時。約19.2ms)と、実はかなりの低遅延な性能だ。一般的なテレビ製品やモニタ製品はこのくらいの値なので、それこそ倍速駆動補間フレームありでもアクションゲームをプレイ出来ることだろう。実際、格闘ゲームも「ゲームスムーズ」ならば結構遊べてしまう。
3D立体視ゲームプレイ時も約1.1フレーム(60Hz時。約18.3ms)の表示遅延に押さえられており、こちらもかなり優秀だ。
プリセット画調モードのインプレッション
最近のREGZAは「コンテンツモード」と「映像メニュー」(プリセット画調モード)の組み合わせで画調が変わる。全組み合わせのインプレッションは誌面の都合上難しいので、「コンテンツモード=オート」にして、各プリセット画調モード(映像メニュー)ごとのインプレッションを簡単に記しておく。
普段のリビングでのデジタル放送視聴においては、「おまかせ」で不満がない。新搭載の高画質化機能も一通り適宜応用されるし、直下型バックライトによる高輝度の醍醐味も体感しやすい。
「あざやか」は黒浮き傾向が強くなるがそれでも、階調再現性は「おまかせ」よりもよい。モード名も示すとおり、最も彩度の高い色あいが楽しめるので広色域性能を堪能するにはオススメかも知れない。
「標準」は、広色域性能もほどよく反映させつつも、派手さは押さえた画調で万能性が高いモードだ。ハイダイナミックレンジ復元はオフ設定。コントラスト感は強め。
「ライブプロ」は、暗部階調再現を重視した画調。色温度は高めだが、広色域表現は抑え気味。人肌表現は過度な強調もなく自然で落ち着いていて美しい。
「映画プロ」は、画質特性は標準に近いが、輝度は高め。明るい「標準」としても利用価値あり。
「ゲーム」は、画質特性は標準に近いが、輝度は高め。明るい「標準」としても利用価値あり
「モニターD93」は、PCモニターや日本の放送局のマスターモニターを再現した色温度9300K基準モード。Z9Xシリーズは従来機にはあった「PCモード」がなくなってしまったが、実質的にこのモードがそれ。
「モニターD65」は、映画制作スタジオのマスターモニターを再現した色温度6500K基準モード。もう一つの「映画プロ」として利用価値あり。
4K REGZA完成形? ハイダイナミックレンジと広色域が4Kに
Z9Xは、4K REGZAとしてひとまずの完成形に到達したという印象だ。
Z8Xの時点で4K REGZAとして不満のない画質性能に到達していたが、フルHD機のZ8に搭載した「ハイダイナミックレンジ復元」機能の評判が良すぎたため、REGZAのモデル階層構造において「なぜハイエンドモデルの4Kモデルに新鋭の新機能が搭載されていないのだ?」という矛盾を抱えることになってしまっていた。今回のZ9Xは、この矛盾を解消すると共に、「4K広色域復元」の新機能も搭載することで、「あらゆる角度から見てハイエンドモデル」の立ち位置に復活した。
そして、今回の評価において、画質面で最も感心したのは、その「4K広色域復元」だった。
RGB-LEDを採用したときのようなわざとらしさのない広色域性能で、古くさい例えでいうならばキセノンランプのプロジェクタの映像のような発色をしてくれている。液晶テレビっぽい色使いが好みでなかったプロジェクタ系ホームシアターファンも、このZ9Xの発色傾向ならば納得できるのではないだろうか。「映画プロ」「D65」モードあたりは映画鑑賞にはとても相性が良いと感じた。
2,560×1,440ドットモードも面白いし、テレビとしてはもちろん、Z9Xシリーズは高画質モニターとしても強くオススメできる。
店頭想定価格は84型の「84Z9X」が180万円、65型「65Z9X」が63万円前後、58型「58Z9X」が43万円前後、50型「50Z9X」が32万円前後となっている。84Z9Xは直下型バックライトではなくエッジバックライト採用で「4K広色域復元」には未対応だ。筆者としてはZ9Xを選ぶのであれば「4K広色域復元」対応モデルを選ぶべきだと思う。
なお、Z9Xシリーズの発表と同時に40インチの「40J9X」が発表されているが、40J9Xは基本画質性能をZ9Xと同じくし、タイムシフトマシン録画機能やバックライトのエリアコントロールが省略されたモデルだ。40J9Xは、4K REGZAで最小画面サイズモデルであり、よりモニターっぽい製品。注目度も高いのでいずれ本連載で取り上げる予定だ。
58Z9X |
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